「ぎっ……あぁ……っ!」
私……アイリスフィール・フォン・アインツベルンが目を覚ましたのは、最悪の感覚に引きずられる形だった。
その感覚の出所を見れば、そこにはぬめぬめとした気持ちの悪い生き物が私の股に潜り込もうとしている姿が見える。
数えることすら億劫になるほどの量の蟲によって構成された、まさしく蟲風呂と言うべき場所に気がつけば入れられていた私の身体に、その蟲風呂を構成する蟲たちが我先にと襲いかかってきた。
瞬く間に周囲は蟲に取り囲まれ、三騎もの英霊を取り込んだためにすでに人間としての機能が死に始めているはずの私の肉体は、なぜかサーヴァントの魂を取り込むよりも前と同じように動きながらも、この状況を脱するために一番必要な魔術だけは発動せずに、一切の抵抗が許されずに貪られることになる。
男性器を模したのだと、かつて切嗣のそれを見たことがあったために理解できてしまったその蟲たち。それが、私の胎内に向けてうねうねと入り込んでくるのが敏感な肉体に伝わってくる。
ぶつり、と聞こえる筈がない音を感じて、それが私の処女膜が破れた音だと理解する。
ありえない。私の処女はすでに切嗣に捧げたはずだ。そうでなければイリヤが存在する理由にならない。
そうは思っても現実は変わらず、秘所からは初めてを経験した証である赤い液体が垂れてきている。
一歩遅れて、一切の準備がされていない私の膣内を蹂躙されたことによる激痛が襲いかかって来た。
いくらぬめぬめとした体液を表面に纏っていても、そもそも人体に対して入れるような大きさではない蟲が強引に入り込んで来たことによって発生した大きすぎる痛みに意識が朦朧とする。
痛い、それ以外の感情が湧き上がらない。中で暴れ狂うそれはいっそ感触としては冷たいと思われるが、切嗣のそれよりもはるかに大きなそれが、人間ではなく蟲であるためにできる挙動によって与えてくる股が裂けるような痛みがその冷たさを上書きする。
外見は陰茎に近いとは言え、甲殻も持たないただの蟲。アインツベルン、そこにあった蟲についての資料は間桐のものだけ。その間桐についての資料にあった蟲でいうならば、見た目は芋虫が一番近い。ならば外皮は柔らかいはずなのに、今はその全身を私を貫く凶器にして、聖杯の器ではない、アイリスフィールという女性としての尊厳を抉りに来ている。
「ひ……っ! むぐ……っ!」
我が物顔で私の中を突き進む蟲の感触に、そしてそれが私の弱いところを探り当てたのか快楽を感じてしまったという事実に悲鳴をあげようとした刹那、口を開けてしまったことが失策だったと悟る。私の口の中に同じ蟲が我先にとたくさん飛び込んで来たのだ。
口の中一杯に広がるぬめぬめした感触と、蟲たちの怖気が走るほどに生暖かな体温に吐き気を催すが、自分の体はこんな状況下でも生きたいと思っているのかその嘔吐感に身を任せられない。反射的にそれをこらえてしまう。
けれど蟲はそんなことに構うことなく、自分の仲間で圧迫されている私の口内を好き勝手に暴れまわる。歯の隅から隅へと粘液が塗りたくられ、舌は、その上を転がる蟲が分泌している液体から臭う形容しがたい何かによって麻痺していく。
一体いつまで犯されることになるのか、もうここにいては時間の感覚がおかしくなる。早く終わって欲しい。切嗣、助けに来て。聖杯戦争に参加する魔術師としての夫のことを思えばこそ、そこに愛情からではなくとも合理的な考えとしてきっと助けに来てくれると願いを抱いて、同時にこんな姿を見られたくないとも思う。
そんなことを思っていたからだろうか、気がつくのが遅れた。
「ん、んん……っ!?」
私のお尻の穴に、別の蟲がぐいぐいと身体を押し付けている事に。
何をされるか理解して血の気が引いたが、もう遅い。
蟲はそのまま私のお尻の穴に潜り込み、一瞬にしてその全身を埋めてしまった。
切嗣にすら許していない場所を犯されて絶望する私のことなんて一切考慮することもなく、蟲はその本能に従って私の尻穴を蹂躙する。
「んぅ、んんんんんん……っ!」
女性器と、口と、お尻。その全てを蟲という本来入れるべきではない存在に汚辱の限りを尽くされて蹂躙された私は、悲鳴すらあげられずに身体を痙攣させた。
膣内を蠢く蟲の感触は身の毛がよだつ程おぞましいし、お尻を埋め尽くす蟲の存在は私のお腹を圧迫して私を苦しめる。口の中を好き放題動いている蟲の所為で呼吸すら碌に行えず、意識を遠のかせる。けれど、お腹の異物感の所為で意識を失う事すら許されない。
ぞぶり、ぞぶり、と身体の奥を這い回る蟲の感触は、私から気絶という選択肢を奪っていた。
そして何よりも最悪なのが、その蟲たちの蠢きによって私の体が快楽を得てしまっているという事実。
どれだけ心の中で否定してもその事実に変わりはない。少しずつ肉体が順応して来たのか、それとも蟲たちが私の気持ちいいと感じるところを理解したのか。そのどちらにせよ切嗣の貞淑な妻という私の立場、切嗣の理解者という立場すらも自らの手で穢しているようで、涙が出てくる。
それぞれが思うがままに動いているために人間の行為にあるリズムなんてものは一切なく、けれどあの最悪のタイミングだけはなぜか一致していた。
訪れたその時に、私の股とお尻に突き刺さった蟲と口の中を蠢く蟲が同時にびくん、と痙攣する。
それが何かを私が理解する前に、全身をぶるぶると震わせた蟲の先端から生暖かい液体が噴き出した。
「んん……っ!? んぅーー……っ!!」
その液体はあっという間に私の穴という穴を埋め尽くして、どろっとした粘液が私の体内に注ぎ込まれる。
蟲に溺れる私は抵抗すら許されず、滾々と注がれるその汚液を受け入れるしかない。
そして、その液体がその蟲の精液であると気付き、私は蟲の子供を孕んでしまう自分を幻視した。
イリヤを孕んだあの時とはまるで違う絶望感に満ち溢れた、けれど全く同じ行為。
「……ぁ……」
子種を吐き出して満足した蟲が、私の口の中からずるりと這い出て行く。
同じように股やお尻から出て行く蟲の姿を眺めながら、私は先の見えない絶望によって意識を失う事を選択した。
けれど、私の身体を貪る蟲達は今精を放ったものだけではなく。
そして残りの蟲たちも私の状態なんてものを考慮しての容赦をするわけがない。
すぐさま別の蟲が私の穴を埋め尽くし、意識を失うことすらも許されず私は再び蟲風呂の中での凌辱を享受する他なかった。
その光景を眺める俺は、暗い喜悦が浮かんでくるのがわかった。
眺める、とは言っても実際のところ俺はその蟲蔵にいたわけではない。
つい先ほど、アイリスフィールを蟲蔵に運ぶまでの間に使っていた肉体を構成していた蟲たち、彼女の体表に射精したその蟲たちの視界を通して確認しただけのことであり、汚辱に塗れた聖女の体は未だ自らの瞳で捉えてはいない。蟲に犯させたことに後悔などあるはずもなく、先ほどまで己の肉体だったのだから俺自身の手で犯したといっても過言ではないだろう。むしろ充実した気分だった。
だが、いい気分になるよりも先に、やるべきことがあった。
「さて、と」
別の蟲たちを使って誰もが知る”間桐臓硯”を作り上げる。
それに、魂を移し終えた後の死骸でしかないアイリスフィールの肉体を冬木市公民館にまで運ばせた。
遠坂邸の監視をしていたので、すでに遠坂時臣が言峰綺礼によって殺されたのは見た。
”間桐臓硯”という老獪と思われている人物は”外道”という言葉がよく似合うし、そして何より原作と呼ばれるもので言峰綺礼に対して突きつけた事実は俺もすでに突きつけた。
できる限り第五次は開始時の条件は同じにしたいので、”衛宮切嗣は言峰綺礼の求めたのとはまるで違う人物だ”という現実を突きつけて二人の間で戦う理由を作らせることで、聖杯の泥にて衛宮切嗣を五年後に殺すために彼に渡す。
それが、俺のやらなければならないこと。
「……」
俺は本物の間桐臓硯の知識を持ってはいるが、言ってしまえばそれだけだ。
Fate/staynightの世界を知っているから、本来の間桐臓硯が知りようもない知識を知っているがそれ以上のことは何もない。
本物であればアサシンを媒介に真アサシンを召喚するような外法をパッと思いついてそこから色々と実行できるのだが、俺にはきっととっさにそこまで狡猾な策謀を張り巡らせることはできない。
勘違いしてはいけないことだが、間桐臓硯は『間桐桜が聖杯に覚醒する』という予想外の事件が起きたにもかかわらず、本来ならあと五十年後に実行する予定だった計画を現代でも起こせるようにしたのだ。
俺には、そんなことはできない。だから万全を期すのであれば、できる限り状況は俺が知っているものに近づけるべき。
俺がこれからするのは、そのための行動なのだ。