つい先日、蟲によって確認した聖杯戦争の終焉。それは俺が知るものと全く同じように衛宮切嗣によって聖杯が破壊される形で幕を閉じた。
その光景を思い出し、漏れそうになる笑いを抑えながらも俺は蟲蔵でアイリスフィールと対峙する。
「衛宮切嗣は貴様を裏切ったようだな」
「……当然でしょう。切嗣は聖杯を使って世界を救うのだもの。私なんかに構っている暇なんてないわ。……残念ね、間桐の老人。私を人質に、なんてことは意味がないわ」
その言葉を放つアイリスフィールは、見捨てられたと聞いた割には心が折れることはなく強い光をたたえた瞳でこちらに嫌悪の視線を向けている。つい先ほどまで蟲に犯されていて体の感覚は鋭敏なまま、白い肌には蟲の精液によって汚れていない場所がないほどだが、その状態で気丈にこちらを睨むその姿は生来の気質に裏打ちされたものだけではない。
きっと、彼女は『
「いいや、衛宮切嗣が願いを叶えることはない」
「……何ですって」
夫を馬鹿にされたからかアイリスフィールの顔に再度の怒りが浮かぶ。これまでに見たもののどれよりも怒りを見せている。
ただ、こちらにもそれを言い切れる理由が一つ。アイリスフィールを捕獲したのはキャスター討伐の翌日、つまりはランサーの消滅した翌日でもあり、俺が知る原作では本来ライダーに化けたバーサーカーに攫われた日付と同じはず。そこからの流れは細かなところまではわからないとは言え、そこから一日中彼女のことを蟲で犯していたのですでに原作における第四次聖杯戦争の終了の日程は迎えている。
そして、この世界でもアイリスフィールが世間的には死んでいるという事実があるし、できる限りそちらに沿うようにして進めたために、同じように衛宮切嗣がセイバーに宝具を使わせることで聖杯を破壊した。
「これが何かわかるか?」
「それって……! 嘘、なんで……」
見せたのは、回収して来た第四次の……つまりはアイリスフィールの肉体でもあった聖杯の破片。
彼女自身はそれを見たことがなかっただろうが、それでも『ユスティーツァの同型機』には魂の繋がりがあったらしいしわかるのはそこまでおかしなことではないだろう。
「貴様の今の体が魂だけ移したものだからに決まっているだろう」
だからここで、この聖杯の欠片が偽物だと断言することはさせない。間桐が作った聖杯の失敗作だとも言わせない。間桐ではこの程度の破片しか作れないと思わせてしまえば、彼女から希望を奪うことはできない。
「な、そんな、こと……」
「そうでもなければ、夫婦であるにもかかわらず貴様から破瓜の血が流れるわけがなかろうに」
それ以外にも、少し考えてみればよくわかる証拠。
まずは目覚めた直後、蟲に体を犯される前であったにもかかわらず起動しなかった魔術回路について。
彼女が実際に魔術回路を起動させようとしたのかどうかはわからないが、あの状況下から脱することができる可能性をわざわざ試さないはずがないだろうから、使っていたのだろう。
他にも、聖杯の器としてサーヴァントを吸収したことで体調が悪くなっているはずなのに彼女がサーヴァントを取り込む前と同じように喋ることができているという事実。
そういったところをちまちまと突きつけていけば、彼女も現実を受け入れざるを得ない。
すなわち、衛宮切嗣はアイリスフィール・フォン・アインツベルンを死んだものと見なしているために助けに来ることはない、ということを。
「ああ、それと」
監視用の蟲に取らせた衛宮邸の映像を壁に映す。そこには衛宮士郎と並んで座る甚平姿の切嗣の姿。彼女はそれを見ても何を言いたいのかわからないらしい。まあ、確かにそうだと思う。この状況だけならば確かに、衛宮切嗣が何をしているのかわからないだろう。
答えは、何もしていない、だ。
「え……?」
「貴様らの娘を助けに行こうとすらせず、ただ拾った息子と駄弁っておるだけよ」
迎えに行くという約束すらも破っている。
『聖杯を破壊した』という時点でアインツベルンから裏切り者と呼ばれているだろうし、それを裏切ることにまでは理由があるのだと納得ができたとしても『イリヤスフィールを迎えに行く』という約束を裏切られたことにまでは理解が及んでいないのか、それとも理解したくないのか。
まあ、それも仕方ないことだろう。『アインツベルンにとっての裏切り者』というのはそもそも『サーヴァント六騎で叶えられる願い』を叶えようとした時点ですでに最初からわかりきっていた。サーヴァント六騎の魔力による願いを叶えた時点で聖杯戦争が終了するのだから。その時点で七騎目が還るのとラグが発生してたどり着くことができるはずがない。
だが、『イリヤスフィールを迎えに行かない』というのはアインツベルンは関係ない、妻との約束に対する裏切りだ。だからこそ、心の底から彼を愛していたアイリスフィールはそれを認めることができない。
『迎えにいけない』ではなく、『迎えに行かない』のだから、約束を破るつもりはないのに約束を破ってしまった、ではなく、『最初から約束を破るつもりだった』ということになる。
実際のところはこれから先になんども迎えに行こうとするのだろうが、そんなことは今の彼女には関係ない。彼は迎えに行かない。たったそれだけが、今の彼女には事実として、映像として入っている。
「……っ! なに、これ……っ!」
愕然としていたアイリスフィールが、いきなりそのお腹を押さえ始める。
それに、何があったのかを察して笑う。笑いが地下室に響き、その笑いから俺が原因だとわかったアイリスフィールがこちらを苦悶の表情のまま睨んでくる。
「何、など考えるまでもないだろう。貴様がこの数日間されていたことを考えればな」
出産、以外にあり得るはずもない。
「っ!」
聞けば、彼女は青褪める。そして同時にその腹の奥で蟲が暴れ回るのか、さらに苦悶を深くした。
「……っ!!」
痛い。はち切れそうなくらいに、お腹が痛い。
そんな感覚が、アイリスフィールの全身を覆い尽くす。見目は普通と変わらないお腹の痛みが、そのまま脳へと届いていく。
夫がいて、娘がいて、確かに愛されている実感があって。その上で夫の理想のために殉じるつもりもあったのに。
それが、死ぬことすらも許されず、見知らぬ男どころか、人ですらないものに孕まされる未来にたどり着くことになるなんて、誰が予想しただろうか。
「こんな、こんなの……」
毎日、暇さえあれば常に蟲に犯されていた。
そんなことをされたくもないのに、気絶している間、そして間桐臓硯が良しとした時間以外は常に蟲の精液によって子宮を満たされることになった。
蟲の子供を孕んでしまっている。
彼女の中にいるのは、化け物だ。
普通の赤子ではなく、自分とは違う種族すらも孕ませることができる、魔蟲なのだ。
「あっ……!!」
どくんと、腹が跳ねた。
外部から見ても何もわからないが、それを内包している彼女にはわかる。
「動かっ、ない……で……!」
苦しいはずなのに、体はそれに快楽を得てしまっている。
腹のなかの蟲が暴れ回る感覚に、かつて娘を産んだ時の陣痛とはまるで違う快楽を覚えて、それを堪えるようにして叫んでいた彼女は、不意に絶頂という形でその快楽に順応した。
「ーーーっ!!」
出口を見つけたそれが、ずるりと子宮口を抉じ開ける。
貫かれた
「いや……あ、あ……あぁああ……っ!!」
ぷしゃぁっと愛液を吹きながら、アイリスフィールはその女性器から蟲を出産する。
無数に生まれ出でた蟲たちは両手の指では数え切れないほど。大量の蟲が彼女の胎から誕生していた。
「うっ……!」
だが、産んだというのに腹の疼きは収まらない。膨その下で蠢く何かも、その蠢きが生み出す快楽も、一向に収まらない。
「うそ……これで終わりじゃ、ないの……?」
そんな彼女の声に反応したかのように、子宮口が痛む。再度出現する、普通の出産で生まれる痛みとはまるで違う出産の快楽。それが産道を通して、アイリスフィールへと襲い掛かった。