Quatro XX ~スパイ未満のオレの胃はもう限界かもしれない~ 作:滑落車博士
プリンセスプリンシパル GAME OF MISSIONのキャラが出てきますが、
アプリ版の設定を網羅できていないため、半分以上オリキャラになります。
ステファニーさんに後ろから撃たれて死にたい。
・・・どの町にも光があり、闇がある。
ロンドンの光は煌びやかで眼が眩むほどであり、同時に、その背後にある闇は漆黒である。
「―――それでは、シャーロット王女からの祝電を代読させて頂きます」
大勢の人間が談笑し、音楽に耳を傾け、男女が手をとり舞踏を踊る。
そこは舞踏会の会場であった。アルビオン王国における、上流階級の社交の場。
普段の堅苦しい貴族階級のものより大衆的な集まりとなっていた。
「・・・『王国の技術力は世に比類なく、それを生みだす科学者もまた世界一の水準であることに疑いは無い。中でも、ロッジ卿が発明した『検波器』は、数年来における王国の無線技術を飛躍的に向上させる画期的な機器である。またロッジ卿は、エーテル研究における第一人者でもあり、当代においてこのような多方面に活躍する技術者を抱えていることはまさに王国の誉であり、アルビオンの栄光は王立科学協会の学術研究なくして成立しえないと信ずるものである。ボース氏によるクレスコグラフの改良、ストロージャー氏の磁気式交換機など、数多くの発明・改良が成し遂げられておりそれら全てを書き連ねるならば、紙面を幾枚費やせばよいものか』・・・」
明るい光を投げかけられた壇上で、朗々と王家からの電文を代読するのは、若い男である。
短く清潔感のある金髪。まだ頬に若干の少年らしさを残す、柔和な笑み。
特徴的なのは、声だ。
とりわけ大柄な体格では無いが、舞踏会の会場にあって隅々までよく通る声。
メリハリのついた抑揚。言祝ぐという式の趣旨に沿った声色の微妙な変化。
年齢からは不相応なほどに、完璧なスピーチの技術である。
会場のどこかで、こそこそと囁き声がする。
―――あれが、クロフォード伯爵だよ。
『あの』? 亡くなられた父君から伯爵位を継いで、昨年、正式に叙任されたという…。
―――まだお若いのに、ご立派なことだねぇ。
スピーチの際に、幽かなざわめきが出る辺りが、今回集められた人々の性質を表している。
正式な王室主催の舞踏会であり、正式に執り行われているとしても、
基本的に研究者という人種は、社交というモノに貴族ほどの関心が無い。
もちろん、貴族としての地位を持つ者や、社交に長けた研究者もいるのだが―――
―――スピーチに名が挙がるような高名な研究者ですら『体調不良により欠席』という者が数名居る始末だ。
こういった会合と科学者の噛み合わせが必ずしも良くないのは、古今東西において不変である。
科学者にとっては、面倒なパトロンのご意見伺いであり(舞踏会に嬉々として参加する科学者は稀である)、貴族にとっては、より上流階級の社交と比べると『一段落ちる』集まりなのである。
名目上の出資者である王家からも、継承権四位のシャーロット王女からの電文一枚しか寄こされていない…。それくらい規模の『舞踏会』である。
・・・なお、極秘の研究分野…ケイバーライト研究や軍事造船関連…は、この王立科学協会の参加者に数え上げられていない。
かつて王立科学協会に籍を置いていた者の多くは、名前だけを残したまま消えている。
それが軍主導の研究に従事していることを意味するのか、なんらかの事情で『消えた』のかは、
誰も知ることのない情報である。
本当の『
「―――以上。 シャーロット王女からの祝電を代読させて頂きました」
壇上で、クロフォード伯爵が読み終え、微笑む。
拍手と光を浴びながら、クロフォードは退席する。
・・・このスピーチの間に、裏で何が行われていたのかを、彼は知らない。
―――知らないのだ。
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アルビオンには、数多くのジョークがある。
有名なモノに、『アルビオンで最も美味しい食事は朝食である。三食が朝食なら言うことがないのに』・・・というジョークがある。
言うまでもなく、他国から見たアルビオンの食料事情を皮肉ったものである。
『アルビオンが仮に世界を支配しても、決して手を出せない場所がある。―――調理場だ』
『大規模空中艦隊が必要だったのは、あの島国から大陸へ美味しい食事を取りに行くため』
そんなジョークが囁かれ、それをまたアルビオン人も否定しない。
レスター・リンジー=クロフォードは思う。
ちゃんと美味しく作れば美味しいのだけれど、と。
蒸気機関を整備するには、専門の教育を受けた技術者が必要だ。
造船を行うには、造船のプロが。紡績工場を運営するには、経営のノウハウを持つ人間が。
つまるところ、この世の中は分業制である。
料理を作るには、料理を作るプロが必要なのだ。
目の前に置かれた卵料理は、まさにプロの腕が振るわれた一品だった。
「ああ・・・。ありがとう、ステファニー。今日も美味しそうなスクランブルエッグだね」
しっかりとしたフル・ブレックファスト。
トーストとベーコン、ソーセージは全てカリカリに焼き上げられ。
スクランブルエッグは柔らかく、フォートナム・アンド・メイソンで買ってきたベイクドビーンズは値段に見合う味がする。素晴らしい朝食である。
『新しく雇ったメイド』である『彼女』の料理の腕には、何の不足も無い。
好みの焼き加減をたった一度伝えただけだというのに、一週間のうちに最高の焼き加減で提供してくれる細やかな気遣いが、特に素晴らしい。
ロンドンで、腕の良い料理人を抱えるのは、それだけで大事なことである。
うっかり手放すと、次の代わりを探すのに苦労するからだ。
「・・・ステファニー、『学園の暮らし』はどうだい? もう慣れたのかな?」
「ええ、学園のみなさんも良くしてくださって、なんとかやっています」
ニコリ、と笑みを浮かべるのは、ステファニーと名乗る少女だ。
伝統と格式ある名門、クイーンズ・メイフェア校に通う学生の身でありながら、学費を稼ぐためにメイドとして時折働きに来てくれる少女。
父上…先代のクロフォード伯爵が死んでから、自分ひとりしか住んでいない広い屋敷を管理するために、時々、掃除や料理をしてもらっている。
―――それ以上の情報を、レスターは知らない。
知っているのは、ステファニーという少女には『秘密』があるということだ。
深入りすれば死ぬ秘密が。
「ご主人様は、お仕事ですね」
「うん。『新大陸』絡みの仕事でね。夜遅くまでは帰られないから、仕事を終えて帰るのであれば、じいやに一言かけてくれ」
「そうですね。最近は、『寮内は落ち着いてきました』から、寮でゆっくりしようと思います。
…そういえば『ベイカー街の辺りを歩きたいな』って友達が言っていたので、来週あたりに出かけるかもしれません」
「はは、そうか。いいなぁ、学生生活が懐かしい…。 知ってるかい?『人気探偵小説家のジョセフ・マーロウ氏は、ベイカー街に住んでいるらしい』 私も『彼』のファンでね。ひょっとしたら、ベイカー街を散歩しているときにすれ違うかもしれないね―――」
食事をしながら、軽いおしゃべりをする。
他愛のない、内容の無い会話だ。
レスターが朝食を食べている間、彼女は薄い笑顔を浮かべたまま、傍で控えている。
・・・食事が美味しいのは、良いことだ。
少なくとも、彼女の作る料理は美味しい。
だから、厨房も任せている。―――いつか、ステファニーが小さな瓶を食事の上に振りかける時の為に。その機会は、できるなら当分先であって欲しいものだけれど―――。
「さて。―――そろそろ出かける準備をしないとな。キンシーを呼んで、馬車の用意をさせてくれ。 一息ついたら、出るとしよう」
「かしこまりました―――ご主人様」
ステファニーが、メイド服の裾を摘まんで、一礼する。
・・・本当に、ただのメイドならば良かったのだけれど。
スパイを雇うというのは、思っていたよりも気分が疲れる。
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「ゴールディング家は、随分と新大陸向けの輸出で儲けているようですな。いや実に素晴らしい」
広い会議室で、深い声が響き渡る。
決して大声ではない。深く低い、男性の声。
末席にて。紙にペンを揮いながら、レスターは思う。
自分も発声の技術に通じ、時と場合によって声を変化させられるが故に、思う。
いったいどのような人生を歩めば、こんな声が出せるようになるのだろうか―――。
会議室の上座に座るのは、一人の初老の男だ。
ノルマンディー公。
王族の一員であり、老齢の女王の代行として辣腕を振るう男。
事実上、実務における権力のトップは、彼である。
警察や軍事、経済に外交。かなりの分野の政治的判断が、彼に集約されている。
…といって過言ではない。
「しかし……欧州向けの輸出については、随分と落ち込んでいるようですなぁ…。
これについて説明を求めたいのですが、宜しいですかな…?」
ノルマンディー公が、目を細めて笑う。
ヒッ、と息を呑んで、貿易を担当する部門が縮み上がるのがわかる。
笑顔のノルマンディー公は怖い。
むしろ、いつもの厳しい表情の方がマシなのかな…とレスターは考えながらペンを走らせる。
レスターの仕事は、端的に言えば議事録の作成である。
クロフォード伯爵家は、代々王家に仕えている。
王家に仕えると言っても様々な役割があるが、クロフォード家は主に侍従や尚書といった『王族の身の周りの事務仕事』を補佐することを家業としている。祐筆として仕えた先祖がおり、印章の管理をしていた先祖もおり、近侍や侍女として仕えた者がいる。
レスターが、若いにも関わらず王家にお仕えできているのは、優秀だから―――では無い。
これまでの伯爵家としての忠勤を買われたから―――でも、無い。
語弊を恐れずにいえば、人間の数が足りないのである。
―――ロンドン革命。
十年前から今に至るまで、アルビオンを二つに分裂させた、そもそもの原因。
王ですら処刑されるという前代未聞の事態に、当時王宮に居た貴族の何割が無事であったか。
生き残った者は少なくないが、それ以上に多くの者が混乱の中で殺されている。
クロフォード伯爵家も、先代当主とその奥方…つまり、王家の傍仕えをしていたレスターの父と母…も、ロンドン革命の際に死んでいる。
・・・王政とは、貴族制とは、血縁に拠る血族の連綿たる繋がりを基本とする。
例えば、ロンドンの街から有力商人を連れてきて、いきなり死んだ貴族の後釜に据えるワケにはいかない。
(それを許せば、ロンドン革命の再来になる―――)
耳から入ってきた音声を、ペンに落とす。
万年筆を走らせ、速記で一言一句を残さずに議事録を走らせる。
手を動かしながら、考える。
死んだ人間の代わりを務めるのはその血族である、という価値観だ。
女王がもし不予となられても、次に王家を継ぐ正統な方が居る。
それこそが、王家というシステムの正しい挙動なのである。
貴族についても同様。一口に貴族と言っても様々な様態があるが、一代貴族以外は基本的に同じシステムで動いている。
土地や財産、あるいは職業。そういったものは個人に帰属するのではなく、家に帰属している。
貴族の子こそが貴族だ、という秩序である。
つまり、大勢の貴族が死んだ後で、王宮の執務を継続しようとした場合―――
『その仕事をやる上で適格な身分を持っている人間』が足りないのである。
今、議題に上っている貿易といった分野は、商人の協力を得ることができる。
科学研究や学術的な分野…これも必ずしも身分を伴わないから、在野の人間の登用で足りる。
しかし、『王宮内部に入って、細々とした仕事をする』というような、『大した仕事では無いが、出自の判らない在野の人間には任せられない』という微妙なポストの多くが、革命により空白になってしまったのである。
その点、クロフォード伯爵家は恵まれていた。
1 家督を継ぐ男子が生き残ったこと。
2 家格が十分であり、任じられている仕事が内向きであったこと。
3 革命当時のレスターはまだ幼く、疑心暗鬼が広がる王宮内でも問題なく動かせたこと。
そういった複数の要因が重なることによって、『若くして伯爵位を継承した文官』という立ち位置に座れたのである。座らされてしまった、とも言う。
「―――では、新大陸利権への共和国の接近を慎重に『観察』するとしよう…。 これにて、本日の会議を終了する」
ノルマンディー公の凄みのある終了の声で、今日の会議は終了となった。
財務官僚などが疲れた顔をしているが、それもむべなるかな。
ノルマンディー公に笑顔で追及されれば、誰でも疲れる。
(―――『悪い人』ではないんだよなぁ…)
少なくとも、彼は国家の為に働いている人物である。
絶大な権力を動かしているのも、決して私心ではない。
敵対者にとっては恐ろしい存在だが、善良なる国民に対しては笑顔を見せることのできる人物だ。
レスターは、頭の片隅でぼんやり思いながら、速記で書いた紙を最後まで書き上げる。
もちろん後で清書して、しかるべき過程を踏んで議事録にするのだが、
会議が終わったので部屋を一端退出する必要があるのだ。
ガタリ、と音を立てて、席を立つ。
―――――
「クロフォード卿、元気にしているかね?」
「・・・!? で、殿下っ!?」
大部屋を退出するときに、突然声をかけられた。
し、心臓に悪い―――などとは表情に出さず、身を正して直立する。
見上げるように、長身のノルマンディー公に向き合う。
背の高い人だ。そして、有無を言わさぬ迫力がある。
身が竦む、とはまさしくこの事だろう。
目を細めた笑顔が、何よりも恐ろしい…というのは、此方に『疚しい部分』があるからだが。
「なに、楽にしてくれていい…。久しぶりに、君と話がしたくてね。
……午後のお茶でもいかがかな?」
「―――はっ! お供させて頂きます!」
嫌だ、と言えたら、どれだけ楽だろうか。
本音では、断りたい。
しかし断れば、追及されるだろう。それは避けたい。
―――そも、この『お誘い』が来た時点で
・・・落ち着け。表情筋を制御しろ。
視線の一つ、声帯の動きまで完璧に動かせ。
疑われても、『
白昼堂々、この場で暗殺される訳ではない―――少なくとも夕方までは生きていられるだろう。
「---、---」
・・・多分。
生きてはいられるだろう。
生きていられるといいな。
ああ、しかし、お茶か。
ステファニーも紅茶を淹れるのが上手だった。
ノルマンディー公が用意させるお茶も、美味しいに違いない。
美味しい紅茶は、良い物だ。・・・毒さえ入っていなければ。
レスターは、曖昧な笑顔を浮かべて歩き出した。
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「しかし、共和国にも困ったものだ…。手を変え、品を変え、我が国を脅かしている。
…そうは思わんかね」
「ーーーはっ。若輩の身ではありますが、殿下のご心労、お察しいたします」
勧められるがまま、紅茶を口にした。
とりあえず、一口飲んで死ぬ毒ではなかったようだ。
良い茶葉を使っているのであろう、芳醇な味わいが口に広がる。
王宮内の、とある一室。
そこは、ノルマンディー公が執務で使っている区画の一室であった。
レスターは思う。
もしかしたら、全て筒抜けで、もう明日の陽を拝むこともできないかもしれない、と。
本来なら、自分が呼ばれる場所でもないし、表向きに呼ばれる要件も無いからだ。
切り出された話題は、先ほどの『新大陸利権に対する共和国の動向』である。
アルビオン王国と、アルビオン共和国。
二つに分かたれた国家に対して、欧州諸国の対応は分かれている。
―――果たして、どちらにつくのが自国の利益となるのか。
それを見極めるために、全世界の視線がアルビオンに注がれていると言ってもいい。
・・・外交の世界とは、血も涙もない冷たい理屈で動く世界だ。
『自国の利益を獲得できるか、否か』という、その一点だけを全ての国が狙っているのだ。
他国でどれだけの血が流されようが、他国の王族が処刑されようが。
それが自国の権益に繋がるならば、どうだっていい。
外交とは、そういう論理で動いている。
「・・・この国が再び統一される時こそ、アルビオンが再び欧州の覇者となると信じております。
いまだ非才の身ではありますが、王家を側支えすることことが我が家の務め。
このペンを握る手を以って、王家をお助けできればと思っております…」
「まだ小さい子供だと思っていたが、随分と立派に育ったものだ。
十年とは早いものだな。お父上が今の言葉を聞けば、さぞ喜んだことだろう」
「はっ…。身に余るお褒めの言葉、ありがとうございます」
父母が無くなった後、レスターを今の地位につけたのは、他ならぬノルマンディー公である。
幼い頃は、何もわからずに翻弄されるだけの日々であったが…。
今になってわかる。
十年前から手を回されていたのだ、と。
「ーーーそれで、本題だが」
「! はいっ!」
ティーカップを置いて、ノルマンディー公の眼の色が変わる。
鷹のような眼。鉄色をした瞳が、こちらを射抜く。
レスターは、最後に一口、紅茶を口に含んで、飲み干した。
・・・毒が入っていないなら。死ぬとしたら、刺殺か、射殺か。
居住まいを正すレスターを見て、ノルマンディー公は笑みを浮かべ、事も無げに伝えた。
「君に、クイーンズ・メイフェア校への潜入任務を頼みたい」
・・・。
・・・、・・・。
「せ、潜入…!? ―――殿下。 それは、どういう…?」
「クイーンズ・メイフェア校にて『共和国スパイ』が活動している、という報告を受けている」
「す、スパイ、ですか…?」
驚愕と、冷や汗。
声が、自然と震える。
…いや、震えていい。『スパイ』と聞いて動揺しない人間は異常だ。
落ち着け。まだ自分は死んでない。生きている。
生きているなら、まだ喋れる。対応を考えられる。
「それは―――学園内に、共和国の手の者が居る、と?」
「信頼できる部下からの情報だとも。
……最も、このロンドンに共和国のスパイが入り込んでいない場所などない。
―――そう、王宮ですら」
ノルマンディー公の眼が、鋭さを増した。
レスターは、絶句しながら思う。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
あらゆる言葉を、こちらが勝手に疑心暗鬼に陥ってしまっているだけだ。
そういう言葉を、あえて使っているだけだ。
レスター・リンジー=クロフォードが疑われている訳ではない―――。
「しかし、私はただの文官です。殿下のお力になれるような、スパイ探し? といった任務は…」
「ああ、それは心配いらない。そういった荒事はすべて部下に任せればいい。
君に任せたいのは、メイフェア校に潜入してもらいーーー
何か怪しいと感じたことを報告して欲しいだけだ」
「―――クロフォード家は、尚書や祐筆といった役割を与えられておりました。
委員会や会議の書記をさせていただいているのも、そういった先祖の役割を継がせて頂いていたものと…。しかし、メイフェア校へ行くとなれば。先ほどの議事録作成のような業務も、こなすことができなくなってしまいます。
…殿下…なぜ、私に、そのようなお話を…?」
レスターの問いに、ノルマンディー公は深く頷いた。
「君は、まだ若い。若いというのは、年寄りから見れば、この上ない才能の一つだとも。
若いが故に、学園内で生徒たちに馴染んで活動できるという点が一つ。
若いうちに、様々な経験をし、これからも成長してもらいたいという点で二つ。
三つ目は―――君が信頼に足る貴族だからだとも」
ニコリ、と張り付いたノルマンディー公の笑顔は、読めない。
読めないが、判ることがある。
「そうーーークロフォード卿、君に『共和国スパイ』を割り出す手伝いをしてもらいたい。
頼めるかね?」
この
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