※この作品はR-18です。

Quatro XX ~スパイ未満のオレの胃はもう限界かもしれない~   作:滑落車博士

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ノルマンディー公が倒せない。

ので、お見合いセッティングおじさんになってもらいました。




Case:C Can't be your painkiller

 午後の茶会(アフタヌーンティー)に相応しい、暖かな陽射しが窓から注いでいた。硝子越しに王宮の庭園を眺めながら、極上の茶を嗜む…。成程、庶民の思い描く優雅な宮廷生活とはこのようなイメージなのだろう、とレスターは頭の片隅で考えた。

 

 実態は、言葉尻一つで殺し合う騙し合いの舞台だ。

 適当な言葉を吐けば、どうなることやら判らない。

 

 

「しかし、学園への潜入といいますと…

 えー、どのように実施すれば宜しいので…?」

 

「偽装(カバー)はこちらで用意する。

 

 メイフェア校には大きな図書館がある。そこの人員が足りないという話は聞いている。

 男性教員にも、ちょうど『空き』が出ていた筈だ……『さる貴族の子女に手を出して、二人駆け落ちして居なくなった』という話でね。はは、君も気をつけてくれたまえ」

 

「は、はぁ…」

 

 それは、『消えた』のか『消された』のか。

 深く訊ねると恐ろしいので、レスターは追求するのを止めた。

 世の中には、知らない方がいい事が沢山ある。

 

 ノルマンディー公は表情を緩めると、片手を僅かに上げた。

 側に控えていた女性…褐色肌(ブルネット)の、どこか剣呑な雰囲気の女…が、ティーポットに湯を差した。こちらに目礼をして、また下がっていく。

 

「君は…今年で二十四だったね?」

 

「はっ。この春に、ちょうど二十四歳になりました」

 

「では、君も気をつけたほうがいい。

 

 学園に新しく赴任してきた男性が、実は爵位持ちだなどと知れれば、学生たちの噂の的となるだろう。若い子供の好奇心とは、我々大人からすれば驚くべきものだ…『玉の輿に乗ろう』などと、接近してくる娘も居るかもしれん。

 

 面倒事に巻き込まれぬようにな」

 

 色じかけ(ハニートラップ)に気をつけろ、と言う意味だろう。

 黙って頷く。『駆け落ちした』男性教員と女学生が居たというのならば、既に先例があったのだろう。

 

 ノルマンディー公は、不意に表情を緩めると、言葉を継いだ。

 

「だが、もう二十四か…。時が過ぎるのは早いものだ。

  そろそろ、身を固めてもよいのではないかね?」

 

「殿下…」

 

「相応の家格の娘を紹介しよう。

 クロフォード家も、屋敷に君一人というのでは寂しかろう。

 男児がいなくなった侯爵家や、まだ縁談のまとまっていない伯爵令嬢など、私のところには話も多く入ってくるものでね。

 

 ーーーどうかな?」

 

 ノルマンディー公は、笑顔で提案してくる。

 レスターが見たことのない種類の笑顔であった。

 

(一体、何を考えてらっしゃるのかーーー?)

 

 レスターは、動揺を隠しながら思考する。

 

 一番可能性が高そうなのは、自分に『首輪』をつけたい、というような思惑だろう。

 仮に思惑が無かったとて、嫁を他家から迎え入れ、屋敷の中に侍女や執事が大勢やってくる…という状況は、マズい。

 情報が漏れるのは、いつだって人間からである。

 

「殿下…。その、お気持ちは非常にありがたいのですが。私にも、少々思うところがございまして…」

 

「ほう…」

 

「…その、恥ずかしながら。私の身分からすれば不相応なほど、美しく高貴なるお方をお慕い申し上げているのです…。そのお方の名前は申し上げることはできません。……報われることは無いと頭では理解しております。ですが、この恋慕が夢破れるまでの間は、どうかお察しいただけませんか…?」

 

 苦しい、その場凌ぎ(アドリブ)の言い訳だ。

 だが、この場は言い逃れなくてはならない。

 

 嘘を見破られる可能性は十二分にあるが、確信に至る可能性も大きくはないだろうーーー誰が、誰を好きなのかなど、誰も本当の意味で理解などできないのだからーーー。

 何度か舞踏会に足を運び、「ひょっとしたらコイツは恋心を抱いているのかな?」と僅かでも思わせれば、後から誤魔化せる。

 

「ふむーーー」

 

 ノルマンディー公が、眉を寄せる。

 

「それは、私にも言えないことかね?」

 

「殿下と、さる高貴なるお方のお立場を考えますれば、我が心の内に秘めたままとするのが最良かと…」

 

 内心の冷や汗を、謝罪の表情で隠す。

 追求されれば、誰の名を挙げれば良いだろうか。

 

 脳内で、以前舞踏会で会った女性を思い浮かべる。

 社交界で出会う女性は、みな着飾っていて、レスターの目から見て魅力的に映る。誰もが己を美しくする方法を心得ている。貴族と貴族の婚姻は必ずしも愛情で決定されるものではないが、魅力的な相手を求めるのも当然である。

 

 ラグラン男爵のお孫さんは、自分より一回り下で器量も良さそうな女の子だった。僅かながら話した際の印象では、利発で聡明でもある…。…が、「さる高貴なる方」と表現した以上、より身分の高い方が適切になってしまう。

 そうなると侯爵家か、伯爵家か…。

 

 ここまで考え、不意にある女の子の姿を思い出す。

 

 金糸の如き、艷やかな御髪。

 お優しい表情。柔らかな声。

 しかし、その裏側に秘められたる熱情は、身を灼き焦がしてしまう危うさを持つ。小柄なお姿からは想像もできぬほど、凛とした佇まい。ああ、その姿を見るたびに、どれほどーーー。

 

 レスターは、己の思考を中断した。

 

 その思考は不敬であるし、するべきでは無い。

 その小さな少女の味(・)方(・)に(・)な(・)れ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)己が、していい思考では無い。

 役に立てぬ同情に、価値など無いのだから。

 

「ーーーっ、殿下とその方のお立場を慮ればこそ、御名をお伝えする事こそ我が不忠の極みとなってしまうのです。どうか、ご寛恕をいただきたく…」

 

 貴方の姪である姫様を慕っております、とは言えない。

 伯爵が片恋慕したところで、決して叶うことのない想いだ。

 だ(・)か(・)ら(・)、(・)嘘(・)に(・)す(・)る(・)に(・)は(・)最(・)適(・)だ(・)。

 これ以上の追求もされまい。

 話を蒸し返されることもない。

 この感傷は恋でも愛でもないのだから、全て偽りでしかない嘘であるべきだ。

 

「! ーーー成る程」

 

 頭を下げたレスターに、ノルマンディー公は今日聞いた中で一番の感情の動きを見せた。

 

「ーーー成る程。ならば、これ以上は聞くまい。

 

 だが、クロフォード伯爵家のためにも、君は結婚せねばならないという事を忘れないでくれ給え。

 私も、君のお父上に申し訳が立たなくなるからね」

 

「はっ! …お気遣い、痛み入ります」

 

 ノルマンディー公は席を立ち、レスターも続く。

 

「しかし、よもや君がそのような懸想をしていると知っていれば、私もこのような話を向けはしなかったものを。

 はは、子供だ子供だと思っている間に、いつの間にやら色気がついたようだなぁ?」

 

「殿下! お戯れはお止しくださいませ…!」

 

 ノルマンディー公の揶揄う声色に、レスターは赤くなりながら否定する。

 嘘で騙せているのか、本心を見抜かれているのかは判らないがーーー。

 

 

 少なくとも、レスター・リンジー=クロフォードは恋を知らない。

 

 今は、まだ。

 

 

 

 




先代のクロフォード伯爵が王家に縁深く
ノルマンディー公とも仲が良かったため、
好感度ボーナスで心配してもらっています。

今はまだそこまで疑われてないので主人公はチート。
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