Quatro XX ~スパイ未満のオレの胃はもう限界かもしれない~ 作:滑落車博士
ので、お見合いセッティングおじさんになってもらいました。
実態は、言葉尻一つで殺し合う騙し合いの舞台だ。
適当な言葉を吐けば、どうなることやら判らない。
「しかし、学園への潜入といいますと…
えー、どのように実施すれば宜しいので…?」
「
メイフェア校には大きな図書館がある。そこの人員が足りないという話は聞いている。
男性教員にも、ちょうど『空き』が出ていた筈だ……『さる貴族の子女に手を出して、二人駆け落ちして居なくなった』という話でね。はは、君も気をつけてくれたまえ」
「は、はぁ…」
それは、『消えた』のか『消された』のか。
深く訊ねると恐ろしいので、レスターは追求するのを止めた。
世の中には、知らない方がいい事が沢山ある。
ノルマンディー公は表情を緩めると、片手を僅かに上げた。
側に控えていた女性…
「君は…今年で二十四だったね?」
「はっ。この春に、ちょうど二十四歳になりました」
「では、君も気をつけたほうがいい。
学園に新しく赴任してきた男性が、実は爵位持ちだなどと知れれば、学生たちの噂の的となるだろう。若い子供の好奇心とは、我々大人からすれば驚くべきものだ…『玉の輿に乗ろう』などと、接近してくる娘も居るかもしれん。
面倒事に巻き込まれぬようにな」
黙って頷く。『駆け落ちした』男性教員と女学生が居たというのならば、既に先例があったのだろう。
ノルマンディー公は、不意に表情を緩めると、言葉を継いだ。
「だが、もう二十四か…。時が過ぎるのは早いものだ。
そろそろ、身を固めてもよいのではないかね?」
「殿下…」
「相応の家格の娘を紹介しよう。
クロフォード家も、屋敷に君一人というのでは寂しかろう。
男児がいなくなった侯爵家や、まだ縁談のまとまっていない伯爵令嬢など、私のところには話も多く入ってくるものでね。
ーーーどうかな?」
ノルマンディー公は、笑顔で提案してくる。
レスターが見たことのない種類の笑顔であった。
(一体、何を考えてらっしゃるのかーーー?)
レスターは、動揺を隠しながら思考する。
一番可能性が高そうなのは、自分に『首輪』をつけたい、というような思惑だろう。
仮に思惑が無かったとて、嫁を他家から迎え入れ、屋敷の中に侍女や執事が大勢やってくる…という状況は、マズい。
情報が漏れるのは、いつだって人間からである。
「殿下…。その、お気持ちは非常にありがたいのですが。私にも、少々思うところがございまして…」
「ほう…」
「…その、恥ずかしながら。私の身分からすれば不相応なほど、美しく高貴なるお方をお慕い申し上げているのです…。そのお方の名前は申し上げることはできません。……報われることは無いと頭では理解しております。ですが、この恋慕が夢破れるまでの間は、どうかお察しいただけませんか…?」
苦しい、
だが、この場は言い逃れなくてはならない。
嘘を見破られる可能性は十二分にあるが、確信に至る可能性も大きくはないだろうーーー誰が、誰を好きなのかなど、誰も本当の意味で理解などできないのだからーーー。
何度か舞踏会に足を運び、「ひょっとしたらコイツは恋心を抱いているのかな?」と僅かでも思わせれば、後から誤魔化せる。
「ふむーーー」
ノルマンディー公が、眉を寄せる。
「それは、私にも言えないことかね?」
「殿下と、さる高貴なるお方のお立場を考えますれば、我が心の内に秘めたままとするのが最良かと…」
内心の冷や汗を、謝罪の表情で隠す。
追求されれば、誰の名を挙げれば良いだろうか。
脳内で、以前舞踏会で会った女性を思い浮かべる。
社交界で出会う女性は、みな着飾っていて、レスターの目から見て魅力的に映る。誰もが己を美しくする方法を心得ている。貴族と貴族の婚姻は必ずしも愛情で決定されるものではないが、魅力的な相手を求めるのも当然である。
ラグラン男爵のお孫さんは、自分より一回り下で器量も良さそうな女の子だった。僅かながら話した際の印象では、利発で聡明でもある…。…が、「さる高貴なる方」と表現した以上、より身分の高い方が適切になってしまう。
そうなると侯爵家か、伯爵家か…。
ここまで考え、不意にある女の子の姿を思い出す。
金糸の如き、艷やかな御髪。
お優しい表情。柔らかな声。
しかし、その裏側に秘められたる熱情は、身を灼き焦がしてしまう危うさを持つ。小柄なお姿からは想像もできぬほど、凛とした佇まい。ああ、その姿を見るたびに、どれほどーーー。
レスターは、己の思考を中断した。
その思考は不敬であるし、するべきでは無い。
その小さな少女の
役に立てぬ同情に、価値など無いのだから。
「ーーーっ、殿下とその方のお立場を慮ればこそ、御名をお伝えする事こそ我が不忠の極みとなってしまうのです。どうか、ご寛恕をいただきたく…」
貴方の姪である姫様を慕っております、とは言えない。
伯爵が片恋慕したところで、決して叶うことのない想いだ。
これ以上の追求もされまい。
話を蒸し返されることもない。
この感傷は恋でも愛でもないのだから、全て偽りでしかない嘘であるべきだ。
「! ーーー成る程」
頭を下げたレスターに、ノルマンディー公は今日聞いた中で一番の感情の動きを見せた。
「ーーー成る程。ならば、これ以上は聞くまい。
だが、クロフォード伯爵家のためにも、君は結婚せねばならないという事を忘れないでくれ給え。
私も、君のお父上に申し訳が立たなくなるからね」
「はっ! …お気遣い、痛み入ります」
ノルマンディー公は席を立ち、レスターも続く。
「しかし、よもや君がそのような懸想をしていると知っていれば、私もこのような話を向けはしなかったものを。
はは、子供だ子供だと思っている間に、いつの間にやら色気がついたようだなぁ?」
「殿下! お戯れはお止しくださいませ…!」
ノルマンディー公の揶揄う声色に、レスターは赤くなりながら否定する。
嘘で騙せているのか、本心を見抜かれているのかは判らないがーーー。
少なくとも、レスター・リンジー=クロフォードは恋を知らない。
今は、まだ。
先代のクロフォード伯爵が王家に縁深く
ノルマンディー公とも仲が良かったため、
好感度ボーナスで心配してもらっています。
今はまだそこまで疑われてないので主人公はチート。