Quatro XX ~スパイ未満のオレの胃はもう限界かもしれない~ 作:滑落車博士
Case:C Catch me if you killでステファニーさんに手を出していたらルート。
有り得たかもしれない結末のカタチ。
*18禁描写があります!
.
―――どこで選択肢を間違えたのだろうか。
背後から銃撃され、惨めにも床を這うレスター・リンジー=クロフォードは、失血で冷えていく思考で考える。答えは、分かり切っていた。最初から間違っていたのだ。
何に背後から撃たれたのかは理解している。
拳銃はコルト・ガバメント。.45弾を8発。全弾が胴体を貫通した。
誰に撃たれたのかも、理解っている。
ステファニー。彼が、この世で一番愛してしまった少女。
まさに、彼女はレスターにとっての
撃たれる覚悟はしていたが、まさか全弾を撃ち込んでくるとは思わなかった。
それが『実行できる』女だとは知っていた―――が、流石にその容赦の無さには苦笑する。
苦笑しようとして、口から血を吐いた。ごぼり、と聞いたこともない音が喉から鳴る。
「・・・、・・・。」
レスターは、もはや振り返ることすらできない。
だから、自分を拳銃で撃った『彼女』の
見えるのは、ただ己の体から流れている血と、それが床に零れていく光景だけだ。
死ぬ。
純然たる現実が、恐ろしい形相をして追いついてくる。
床を這おうとする腕が上がらない。足は鉛に置換されたかのように役立たずだ。
痛みを通り越して、胸に空いた風穴は命という熱量を垂れ流すだけになっている。凍えてしまいそうな悪寒が、絶え絶えの呼吸を乱していく。目を閉じればおそらく二度と目覚めぬと、冷たい理解だけが脳髄に染み通っていく。
「―――っ、は…ッ」
それでも、と。
レスターは文字通りの死力で、後ろを振り向く。
ステファニー。
彼女は、両手を前に突き出し、拳銃を保持していた。
理想的な
彼女は、良い女だった。嘘偽りなく、レスターは思う。
かつて王女であった少女への憧憬も、王女となった一人の少女への崇敬の念も・・・結局、たった一つの恋に破れてしまった。積み重ねてきた十年という歳月すら、彼女と触れ合う一瞬には燃え尽きた。二重スパイという使命を己に課していたレスターにとって、その触れ合いは毒薬のようだった。ステファニーという少女に触れたい。ステファニーという少女を、己の物にしてしまいたい―――そんな欲望が、積もるほどに大きくなっていったのだ。そして、その愛慕こそが、レスターを殺すことになった。
目線を上げれば、彼女の表情が見える。
それに、死にかけのレスターは安堵する。
・・・最後に見ている光景が、ただの血濡れた床ではなく、自分が愛した女の顔であるということに。致命傷を負ってなお、彼は微笑もうとした。微笑おうとして、失敗した。強張った顔はうまく動かず、喉からは、ひゅー、ひゅーと今際の息しか通らない。
それでも、
「す、ステファニー…。 」
伝えなければ、という感情は、失血死という回答に阻まれる。
現実は、御伽噺のようにできていない。台詞を言い終わらずとも、無残に死ぬのだ。
だから、ステファニーは物言わぬ亡骸となった男を、じっと眺めていた。
ーーーーーーーーーー
最初に抱いた夜。抱く前には、愛していなかった。
無論、ステファニーという少女の容姿に、全く思うところが無かったわけではない。
彼女が通う学園の中でも、その外見が指折りなのは確実だろう。教室で一番目立つ美女、ではない。だが、校内から見目麗しい淑女を指の数だけ集めたとしたら、その中には必ず入っているだろう。華やかさとは趣を異にする、どことなく落ち着いた可憐さだ。
彼女は、野に咲いた生命力あふれる向日葵ではない。硝子の温室で栽培される蘭でもない。例えるなら、高山を歩いているときに目に留まった菫のような美しさだ。目を惹き、傍まで歩み寄って手折りたい欲望に駆られるが、その実、菫が咲いているのは山道からは手の届かぬ断崖であるのだ。色や香りの尊きに手が届かぬのではなく、その在る場所こそが遠く感じさせる花。
それは、おそらく、彼女の表情に起因していただろう。常日頃から浮かべている、優しげな笑み。正面から見るといかにも自然な笑顔だが、様々な角度から観察すると理解できる、楽しさも嬉しさも感じられない笑顔。
その笑顔の裏を覗き込めば、恐ろしく裏腹な表情を垣間見ることになる。誰も信じていない瞳に射すくめられ、浮かべた笑みは形だけをなぞって空虚だ。
彼女は、スパイだ。
年齢を考えれば空恐ろしいほどに、『騙す』人間として完成されていた。
「―――私を抱いてください」
月明かりの下、彼女の呟いた言葉には、温かみの一つもなかった。
それが、媚びや誘惑であったなら、あるいは振り払って拒絶することもできたかもしれない。
だが、その言葉は蠱惑的な響きではあっても、甘さを全く感じさせなかった。
「馬鹿を言うな。そんなことをして、何になる。それで信じられるとでもいうのか」
「信じられないわ。ちっとも」
銃を持ったままの両腕で、ステファニーは背後から抱きしめてくる。
密着した姿勢。囁きや鼓動すら脳髄に響く。背中に柔らかな膨らみが押し当てられるが、逃れることすら許されない。
「信じられないから―――なおさら。貴方が裏切れないようにするの。
逃げられないように、
それは、切実な響きだった。
信じて欲しいなどという言葉は、彼女にとって戯言以下だ。
仮に裏切らないと誓ったとしても、そこには何の意味も無いと知っている。
だから、縛る。言葉で呪う。女の体で、鎖に繋ぐ。
「悪い話では、ないでしょ? どうせ貴方は二重スパイをするのだから、そこで得た役得だと思ってくれれば。
「無料より高い物はない、と言うだろう。それに、そんなことをしても意味はないだろう。ボクは、いずれ裏切る人間だ。だからこんな手段で身を売るなんて、馬鹿な真似はやめた方が良い」
彼女に抱きしめられながら、言葉を継ぐ。
裏切る相手だと承知で身を捧げるなど、レスターには意味のないことに思えた。
「ふふ」
顔も見えない背後で、ステファニーが笑う。
明るさの感じられない、昏い声だった。
「やっぱり、優しいんですね」
それは、軽蔑の響きにも似ていた。
「その優しさを、利用します。その同情を、利用します。
―――結局、貴方はスパイに向いていないんです」
彼女が、レスターの腰へ手を回す。
その手には、拳銃が握られたままだ。
銃口の先で、ズボンをなぞっていく。股内に触れた銃口から、金属の冷たい感触がゾクリとした鳥肌となって伝わる。戯れに撃鉄を落とせば、間違いなく太腿の血管が撃ち抜かれる位置だ。スパイスとして楽しむには、あまりにも実感の湧きすぎる恐怖。
だが、銃口が布地の上を滑り股座に狙いを定めると、彼女は、へぇと揶揄うように言った。
「それでも、ちゃんと興奮してくれるんですね」
ズボンの内側では、はちきれんばかりに男性器が固くなっていた。
命の危険と、少女に密着されているという背徳が、否が応にも己を昂らせている。
「よかった。これで無反応だったら、どうしようかと」
「キミはステキだよ…。だから、手を出してしまうのが怖くなる」
どれだけ自制しても、手玉に取られてしまいそうになる。
―――否。
今この瞬間にも、レスター・リンジー=クロフォードという個人は掌握されつつある。
銃身で、膨らんだ男根を刺激される。冷たい鉄で撫でられる感覚は、背を這うような快感だった。だが、それは絶頂にまで昇り詰めさせるものではなく、より強い刺激を求めさせる性質のものだ。触れられた部分が、もどかしさを覚えて震える。
「これでも、手を出さない
「―――対価が釣り合わないだろう。ボクは、キミに何も差し出せない。キミにとっては、自分の体を差し出しても何の利益もないんだぞ」
だから、どうか。
ここで止めて欲しい―――その言葉は、密着した彼女が不意に離れることで中断された。
「私、そんなに魅力がありませんか…?」
言葉尻に、急に媚態が入る。
艶めいた声、本能に訴えかける演技。
堪らず、振り返る。
ステファニーは、自分のメイド服に手をかけていた。服装が、軽く乱れる。
両の手に握っていた拳銃は、床に置かれている。距離は6フィート。銃を拾って突き付けるには、あまりに遠い距離。なによりも、その煽情的な姿に目が奪われて、冷静な判断ができなくなる。交渉する余地が、話すための理性が、削られていく。
彼女は、身に着けているメイド服の上から、自分の肢体に手を這わせていた。左手で胸を、右手で、スカートの上から内股を。肌が露出している部分など皆無だというのに、恐ろしく艶めかしい。
その姿が、娼婦のようなら納得できた。男を喰い物にする姿をしていれば、理解できた。
けれど、ステファニーは少女の姿のままで、これまで見たこともないような婀娜っぽい笑みを形作っていた。今までメイドとして仕えていた服装で、食事を作ってくれた時の彼女のままで、男を誘惑しようと媚態を浮かべた。
それは演技だと理性が悲鳴を上げ、本能が構いやしないと歓声を上げる。
「―――止めよう。まだ、引き返せる。まだ―――」
「まだ、じゃないんです。もう、だめなんです」
身動き一つできないままに、退路が崩れ落ちていく感覚。
踏み外せば奈落と知ってるのに、目線の一つも制御できなくなる。
「二重スパイになるのなら、堕ちてください。
裏切るというのなら、踏み外してください。
―――もう、後戻りなんてできないんです」
その言葉だけは、きっと嘘ではなかった。
もはや真っ当に生きることなど望むべくもないという事実は、優しい嘘になってくれなかった。
一歩、近づく。此処に至るまで残してた最後の可能性を…
「・・・ごめん」
何故か、謝罪が口を吐いた。抱き寄せる。
両腕で抱きしめたステファニーは、驚くほど華奢だった。先ほどまで、あれほど丁々発止に軽口を交わしていた相手とは思えぬほどに、ただの年下の少女でしかなかった。
ーーーーーーーーーー
「ところで―――伯爵様は、女性を抱いたことは」
「無いよ。そんな機会は無くてね」
寝台まで、ステファニーを抱えて運んだ。彼女は軽い。膝の下に右腕を回し、左手で背中を支えるようにして持ち上げた。わぁ…とステファニーは妙に気の抜けたような声を出していたが。
…閨の作法に通じている訳でもないが、なにか不作法だっただろうか。そもそも、
ただ、優しくはしようと漠然と思い、そっと寝台に彼女の身体を横たえた。
「ずいぶんと紳士的なんですね、伯爵様は」
「揶揄うのは止してくれ。とても紳士的でいられなくなる。それに、その『伯爵様』と呼ぶのも」
「では、旦那様? それとも、ご主人様?」
メイド姿を見せつけるようにして、彼女が呼ばう。
その言葉の響きに、少しだけドキリとする。
「そう呼んだほうが、殿方は喜ぶと聞いたんですけど」
「どこの三流雑誌の情報だ…。そんなもの、別に」
「あら。では、どう呼べば?」
寝台の上で、ステファニーは目を細める。猫のように身を寄せて、擦り寄ってくる。
「レスターさん」
呼ばわう声は、それ自体が麻薬のようだ。
この瞬間を嘘偽りだと心に言い聞かせなければ、深みに沈んで戻れなくなる予感がする声。
同時に、この上なく男を漲らせる声だ。抗う心を、蕩かしていく。
「レスターさん、と呼びましょうか」
「では、ボクは」
「・・・ステフ、と。そう呼んでください」
それだけで、どこか距離が縮まったように思ってしまう。錯覚だ。
鼓動が聞こえる距離にいるというのに、互いの本心が何処にあるのかも判らず。
ただ、これから女を抱くのだという興奮だけがある。
「触れても、いいんですよ」
手を、優しく握られた。彼女の胸へと導かれる。
メイド服の上から触れた膨らみは、けっして大きいと表現されるものではなかったが、慎まやかながらも女性を感じさせるその双丘は指で触れるだけで柔らかな弾力を返してくる。
暖かくて、柔らかい。触れているのは服の上からだというのに、既に呼吸は荒くなり理性をジリジリと削られていく。
揉みしだけば、息遣いが荒くなる。まるで熱に浮かされるようだ。
「いやらしい女だと、軽蔑しますか…?」
呼気に熱を帯びながら、ステファニーが訊ねてくる。
つまらない問いを紡いだ唇を、強引に奪った。
抱き寄せた躰から伝わってくる鼓動は、早鐘のように打っているのが判る。
女の体とは柔らかいモノなのだな、という実感が痺れた脳髄に伝わる。奪った唇の柔らかさは、いつも他愛のない雑談を話していた唇と同じであるのに、一度触れてしまえば言葉を紡ぐというよりも口付ける為の器官としか見られなくなりそうだ。
「ふぁ…ん…っ…」
舌が絡む。唇を食む。伸ばした舌で、彼女の前列の歯に触れる。それは、本能的な交歓だった。触れている、この上なく密着しているという快感。粘膜が接触し、人体の中で最も弱く薄い部分の一つを触れ合わせている。
いつしか、接吻は貪り合うようなものになっていた。舌を吸ったところで無為だというのに、その単純な熱が思考の全てになる。己が蕩かされていく。
「……キスだけで、いいんですか」
潤んだ瞳でステファニーが問うてくる。もはや、それが演技か否かは問題でなくなっていた。
彼女は、メイド服のスカートを捲り上げて、その下に隠された両脚を剥き出しにした。
と言っても、彼女は顔以外の殆どの皮膚を布で覆っている。手には白の手袋を嵌めているし、両足だって白絹のストッキングを纏っているのだ。だから、その肌色が見えたというわけでもない。
スカートに隠されていた脚は、ほっそりとしていた。白いストッキングに包まれて、まるで人形の足であるかのように作り物めいていて現実感が無い。いや、経験の無いレスターにとっては、まさに女の体そのものが現実感の無い代物だった。だが、それに触れれば柔らかく、撫でれば心地よい弾力を返すのだ。
すらりと長い脚を軽く撫でると、ステファニーはこそばゆいかのように身を捩った。その媚態は、男の自制心を消し去っていく。
「ここです…わかりますよね…?」
ステファニーは、くすぐったさに声を甘く震わせながら、そっと己の指で指し示した。厚めのストッキング地に隠されているとはいえ、スカートという防壁を持ち上げられた状態では酷く無防備な場所が晒されていた。
細い二本の脚の間、その奥に隠された秘奥がある。薄絹一枚の布地に遮られているだけの場所。女である場所。
不意に、鼻が匂いを感じた。唾液の匂い、汗の匂い、女の匂い。
一度自覚してしまえば、その匂いは脳髄を焼く強烈な実感だった。
男と女が交わうときの、生物的な匂い。
「もし知らなくても、判る筈ですよね。貴方は男で、私は女なんですから」
彼女は手袋をしたままの手で、内股に手を這わせた。その様子に、目が釘付けとなる。
それは、肌の一つも見せていないのに、この上なく蠱惑的な手つきだった。
「此処に、殿方の物が、入るんですよ」
態々、手袋で秘所を開くかのように撫でつけながら、ステファニーは怪しく微笑する。
薄衣一枚で覆われているだけの股の間に、視線が釘付けになる。幾ら視線を投げかけても、ストッキングの一枚も破れる訳がないというのに、見詰める視線に熱が籠ってしまう。
「ふふっ。息が荒くなっています…。気付いていますか? 今、とても、いやらしい表情をしていますよ…」
その言葉は、蠱惑的だった。言葉と共に、彼女の手が秘所を弄って、より淫靡に色香が撒き散らされる。ストッキングの上をなぞる手の動きに、僅かに粘着質な音が混じっているのが聞こえた。熱視線を受けて、甘い蜜が染み出しているようだった。その匂いに、脳が惚けていく。
「―――もう、こんなに大きくしているなんて」
ズボンの釦に手が伸ばされ、僅かな指の動きで外されてしまった。
既に股間のモノははち切れんばかりに存在を主張しており、彼女が手袋越しに触れるだけでビクビクと情けなくも震えてしまう。
「女を抱いた事が無いのなら…。
じゃあ、
手袋の絹の肌触りが、熱くなった肉棒にひんやり冷たい感覚を与える。
そのまま、絹で擦るように指に力がかけられる。ひんやりとした触感の摩擦だというのに、むしろ触れられるほどに血流は熱く波打つばかり。
棒の先からは、既に吐精を予感させる先走りが潤み、それを指先で弄ぶステファニーの手袋を汚してしまっている。
「どうですか? 私、気持ち良くできていますか?」
胸元に寄りかかりながら、ステファニーは問うてくる。返答は、快感のあまり呻きに似た息しか出せない。
思考が、快楽に染められていく。
「いいんですよ。もっと、気持ちよくなってください」
「す、ステフ…」
手袋から与えられる力が、より強くなった。撫でるという力加減から、握るといった具合に。
上下に擦られる運動は、抗えぬほど直截に快楽を流し込んでくる。
「あは。ビクビクって、してますよ。
レスターさん、気持ちいいですか? 気持ちいいですよね?」
揶揄うように伝える口調は、男を悦ばせるように熱を帯びる。
それは、どう言葉を紡げば相手が喜ぶのかを知った口調。
先ほどから、少女の口からは出ているのは、相手を籠絡するための言葉だ。
そう、それは技術。それは全て演技で―――。
本心など、判らなくて―――。
―――その時、気付いた。気付いてしまった。
密着したステファニーの体が、僅かに震えていることに。
「―――まさか」
至近距離で、瞳を覗き込む。
レスターは、躊躇いながら、問いを形にした。
「ステフ…。キミは、初めてなのか」
「・・・スパイになる時に、男性を籠絡する手管も教えられています。
上手にできていたでしょう?」
「そういう話じゃないだろ…!」
失念していた。この少女は、どうしようもなく嘘吐きだ。
土壇場に来てまで、己の震えすら隠そうとする。
「どうせ、いつか死ぬんです、お互い。ひょっとしたら、明日にも。
だから、罪悪感なんて感じなくてもいいんですよ」
その口調は、諦めを帯びていた。自棄、というのでもない。
ただ純然と、『そういうものだ』という事実を受け容れてしまっている。
「ここで抱かれなくても、結局、他の好きでもない男に純潔なんて奪われるんです。
想像できます? 酷く醜い男でも、とんでもない卑劣漢にも、任務なら抱かれてしまうんです。
あは、優しくなんてしてくれる人は、きっと稀でしょうね。
泣き叫んでも、乱暴にされてしまうのかも。
無理矢理に手籠めにされて、抵抗できないまま従わされてしまうかも…」
「止めろ…」
「いいえ、止めません。私は、そういう場所に居るんです。
今まで『そういう』任務に就かなかったのは―――」
ステファニーは、微笑を浮かべたままでメイド服に手をかけた。
今まで、殆ど晒していなかった肌が、剥き出しになる。
「―――あ、…」
レスターは、愕然として目の前の裸体を見た。
そこにあったのは、傷痕だった。
おそらく、古い傷だ。血が滲んでいるわけでもない、とうに塞がっている傷。
だが、その傷はステファニーの華奢な体のあらゆる場所に刻まれていた。二の腕、胸、腹、おそらく見えない背にも刻まれているのだろう。時が経てもなお、残酷にも生々しく残された、過去の傷痕。手袋とストッキングを身に着けて、常に肌の一つも晒さぬようにしていた理由が、この傷痕なのだ。
「こんな、体ですから。…殿方を誘惑するには、向いてなかったんです」
「ステフ、キミは」
「同情してくれますか? 可哀そうだと思ってくれます?
それとも、この肌を見て気分が萎えましたか? もう要らないって思いました?」
ステファニーの言葉には、自虐的な響きがあった。
任務なら体も差し出す。なぜならスパイだからだ。
けれども、その内側の女の子は震えていて、傷ついた肌を晒すだけで心が悲鳴を上げる。
それは自傷のようだった。平気だ当然だと嘯きながら、心を殺している。
「ごめんなさい。こんな醜い肌の女、抱けないですよね。
あは、ダメだなぁ、私。結局、誘惑の一つもできなくて―――」
・・・耐えられなくて、口を強引に塞いだ。
無理矢理に舌を入れて、彼女の口腔内を蹂躙する。軽い抵抗を感じたが、無視した。
胸から溢れてきた名前の無い感情のままに、押し倒す。
メイド服と手袋を脱がせて、脇に放り投げる。
それから、彼女の腰に手をかけて、白絹のストッキングを脱がしにかかる。
「え、ちょ、ダメっ…!」
ジタバタと動いて抵抗した脚を、無視する。この期に及んで、紳士的になどなれなかった。
ストッキングを爪で引っ掛けて断線させながら、無理矢理に彼女を裸にする。
暗い寝室に、ステファニーの一糸纏わぬ裸体が浮かび上がる。
ほぼ全身に刻まれた、陰惨な傷痕。
それから目を逸らさず、正面から見据えてレスターは呟く。
「・・・キミは、ステキだ。綺麗だよ」
「嘘、嘘です。そんなの」
「本当だ」
そうでなければ、こんなにも昂るものか。
こんなにも、腰に炎が灯ったように熱くなるものか。
今まで弱みの一つも見せたことの無かった少女が、恥じらいに顔を染めている。華奢な身体を眺められて、視線から逃れようと身を捩る。
逃したくはないと、唇を執拗に重ねた。
唇だけではない。首筋に舌を這わせる。胸を揉みしだいて、その先にある蕾を啄む。肌につけられた傷も、その上の汗も舐めてしまう。唾液で傷が治る筈もないのに、それでも『過去』を慰められればいい、などと勝手に願って口付ける。
「そんなとこ、舐めなくたって…っ!」
抗議を黙殺して、全身をくまなく舐る。
腹部につけられた痣の痕を撫でて、その下の、口にするのも憚られる場所にさえキスをした。
「ん…っ。ふ、ぁ…っ!」
彼女の股の間に顔を埋めるようにして、キスを繰り返す。
口付けた場所は、秘めやかに蜜を垂らす泉になっていた。そこを、獣の如くに舐める。
初めて見る秘所と、その潤んだ熱に夢中になる。
吸う。啜る。舐める。
「―――キミは、ステキだよ。可愛い女の子で、こんなにも欲しくなる」
「っ…そんな。さっきまで、あんなに及び腰だったのに」
「もう、我慢しないから」
宣言するように、自分も全ての衣服を脱ぎ棄ててしまう。
寝台の上で、遮る物など無く触れる。組み伏せて、脚を開かせる。手を握って、顔を近づけた。
「もう一度訊くけれど…初めて、なんだね」
「・・・ん」
「わかった。優しくするから…」
ほんの少しだけ素直になった言葉に、答えるように接吻する。
逸る心を押さえつけて、そっと愛撫を続けた。
この心を何と表現しよう。同情? 憐憫? どれも近くて、どこか遠い気がした。
ただ、触れ合った皮膚の温もりだけが伝わる。
「・・・こんなに、大きいのが入るんですね」
「その、たぶん、痛いと思う」
「痛いのは慣れてますから」
「いや…、そうじゃなくて…」
「ふふ、判ってます。大丈夫です…たぶん」
そして、互いの性器を触れ合わせる。
興奮で経験したことが無いほど固く張り詰めた男性器を、しとどに濡れそぼった女性器に擦りつける。それだけで、ヌルヌルとした愛液に滑り、快感を感じる。
―――もし、挿れてしまえば、それはどれほど気持ち良いのだろう。身体は期待に震えて、腰をそのまま打ち下ろしてしまいたい欲求が脳を灼く。
それでも、
「―――挿れるからね」
頬にキスを。唇にキスを。優しく髪を撫でて、その匂いを嗅いで。
言葉にならない想いを、できるだけ優しくしようと振る舞う。
組み伏せた体の下で、ステファニーが僅かに頷いた。
腰の位置を狙い定めるようにして、深く押し込んでいく。
「んっ…。く、挿って、きて…っ!」
侵入を拒む様に狭まった箇所を、無理矢理に貫いていく感覚。
半ばまで挿ったところで、それ以上は入れないと拒絶する抵抗がある。
それは、処女の証だ。
「・・・んっ」
言葉もなく、キスをした。
痛みを予期して目を閉じた顔を眺めて、睫毛が長いな、なんて些細な感想が浮かんだ。
もう一度、キスをする。
そして、ゆっくりと、強引に処女を奪った。
一番深い場所まで辿り着くと、深い息を吐く。
与えられる刺激はまるで未知の快楽で、気を抜けば果ててしまいそうな恍惚だ。
「ん、んぅっ…。痛…っ」
「ごめん。痛いよね…」
最奥まで貫いて、動きを止める。
目に涙を浮かべているステファニーを見ていると、無茶苦茶に動いてしまいたいなんて欲望は躊躇われて、それよりも大事にしたいだなんて気持ちが溢れてくる。
根元まで咥え込まれて、彼女が息をするたびに肉襞が収縮する。その動きは敏感な場所を撫で擦り、締め付けていく。粘ついた体液が絡みつき、堪らなくなる。
「もう少し、このままでいるから」
「うん…」
深い息を吐く。
「本当に、挿ってるんですね…」
声色は、戸惑っているようだった。
未体験の感覚。知識はともかく、初めての経験。
気の利いた言葉なんて思い浮かばなくて、見つめ合った。
「痛みは、平気?」
「・・・もうちょっと、このままで」
否やは無かった。荒くなった呼吸が落ち着くまで待とう。
手を握って、その掌を撫ぜて、指を搦めて。
安心させる方法なんて判らないまま、ただ肌で触れる。
不思議な時間だった。
昨日までの自分からは非現実的としか思えない状態なのに、繋がっている実感が心地いい。動いていないのに、何か満たされている。もっともっと快楽を求めたい情動はあるけれど、それを押しとどめてステファニーの顔を眺めているだけで、胸の空虚な部分が埋められる心持がする。
触れた肌の温度だけが、真実だった。
―――どれだけの時間が経過しただろう。
長いこと動きを止めていた気もするし、息が落ち着くまでの数瞬であった気もする。
「ーーー動いて、大丈夫ですよ」
「いいのか。辛いのなら、まだ…」
労るように問返せば、ステファニーは首を横に振った。
「痛いのは、たぶん痛いままなので…。
だったら、せめて気持ち良くなってください」
「…わかった」
キスをする。
今日だけで何度キスをしただろうか。
それでも、少しでも痛みが紛れてくれればと思う。
ゆっくりと、動き始めた。
奥を突く動き。引き抜く動き。
稚拙にその動きを繰り返していくだけだというのに、膣内を往復する度に快楽の波が訪れる。
ただ、時折ステファニーが痛みに耐えるように顔を顰める。
男には理解できない痛みだ。
耐えてくれ、なんて酷い言葉は口に出せなくて、せめて紛らわせればと胸に手を伸ばす。
掌で乳房を揉む。秘部に手を遣って、その小さな雌蕊を指の腹で撫でる。
稚拙な愛撫であったが、多少の効果はあったのか、口から洩れる息は痛みの中に甘い色を含む様になっていた。
だが、そこまでだった。
処女血を流す秘部が快楽を覚えるよりも先に、精液を吐き出そうという欲求が高まる。
気遣っていた筈が、次第に動きは荒々しくなり、身勝手に快楽を求めて粘膜を擦らせる。
息が、荒くなっていく。目蓋の裏に、恍惚の光が明滅する。
限界など判らなくなって、ただ昇り詰めたいと腰の動きが早くなっていく。
「・・・っ、ステフ…ステフ…っ」
打ち付け合う腰からは、ぐちゅぐちゅと湿った水音が大きく響く。
互いの体温の熱に浮かされるようにして、まだ足りぬと快楽を貪る。
「だ、めぇっ…! こんなの、こんなの…っ」
奥を突いた時に、ステファニーが嬌声をあげる。
痛みではなく、何か別の感覚に戸惑うような声だった。
反応を見ながら繰り返し突くと、そのまま耐えるようにしがみついてくる。
「っ… …痛くは、無いよね…?」
「うん…でも…っ!」
水音が響くほどに、深く奥まで求めてしまう。
痛みが薄れてきたのをいいことに、精を吐き出すことしか考えない動きで、膣内を蹂躙する。もはや遠慮など欠片もできなくなって、押しつぶすかのように肉襞を掻き分ける。
繋がった場所が擦れるたびに、ステファニーは艶めかしく喘ぐ。
―――限界は、すぐに訪れた。
体の奥底から達していく感覚を前に、彼女の唇に吸い付いた。
それを呼び水にして、ドクドクと膣奥に精を吐き出す。
「―――ッ! ふ、ぁ―――」
接吻で息を塞がれたステファニーは、肢体を強張らせていた。
呼吸を奪いながらも、射精は止まらず、彼女の中に精液が撒かれていく。
唇を離せば、荒い息が漏れた。
「―――はっ、はぁっ…」
息が切れる。全てを吐き出して、心臓の鼓動が痛いくらいだ。
「…ん…っ。 終わった…んですよね」
「うん…」
交わす言葉は、たどたどしくなってしまう。
今更、妙な気恥ずかしさを覚えて、誤魔化すようにキスをする。
まだ自分のモノは、彼女の中に収まったままで、精液と愛液に包まれる生暖かい気持ちよさに漂っている。昂りの後の余韻は、倦怠感にも似ていたが、どこか気持ち良い脱力となっている。
ステファニーは、額に汗しながら、抱きしめてくれた。
僅かな笑み。ただ、その笑みは、今ひと時だけ仮面を外した女の子のように思えて―――
―――繋がったままの姿勢で、そのまま、しばらくの間、余韻だけを感じていた。
ーーーーーーーーーー
いつの間にか、眠っていたようだった。
慌てて飛び起きようとして、右横に温もりを感じる。
「あ、起きました?」
耳朶を叩く囁き声。先ほどの熱情と色欲の残り香を漂わせたまま、ステファニーはこちらを見詰めていた。彼女は右腕を枕にしながら、一糸まとわぬ姿のままで微笑んだ。
その笑みは、どこか自然なものに感じられて。ぼんやりとした頭のまま唇に口付けた。
軽く触れ合うだけの、ささやかなキス。
「・・・、・・・」
何を言っても嘘になってしまう気がして、無言でキスをした。
唇と、額に。それが何か物悲しくて、右手で彼女の髪に触れてみる。
蘇芳色の髪を指で櫛梳れば、先ほどの乱れ様を思い出す。
それが演技なのか、なんてことは些末事にしか思えなかった。
ただ、自分は確かに十字架を背負ったのだろう。あるいは、首輪と鉄枷を己自身で嵌めたのだ。
「寝ないのかい」
「貴方の寝顔を見ていたんです」
呼称が戻っている―――それだけだというのに、少し胸を突かれる。
たった一晩の逢瀬、一度肌を重ねただけだというのに。驚くほどの愛惜の念が押し寄せる。
男とは酷いモノだ、と自嘲的に思う。
まるで女が手に入ったかのように錯覚し、独占欲めいた情欲さえ覚えるなどとは。
「・・・一つ、酷いコトを言っていいかい」
許可を得る前に、言葉だけが喉から勝手に出ていく。
「ボクはキミが好きだ」
無責任な、勝手な告白だった。
意味など無くて、伝えたところで詮の無い言葉だった。
何も守れない、空虚な響きの味がした。
「ごめん。―――ただ、今の本心だった」
「・・・ふふっ」
寝台の上で寄り添っていても、互いの心なんて微塵も理解らない。
それでも、ステファニーは困ったように微笑んでいた。
呆れていたのだろうと、そう思った。
「今晩は、泊っていくのかい」
「ええ。どうせ、明日も朝からこちらのお屋敷に来る予定でしたから…。
このままでも、いいのかな、って…」
普段の姿からは想像もつかないような、ふにゃりとした声。
眠いのだろうか。それとも、男の身では判らないが、女の体というものには大きな負担がかかっていたのだろうか。微睡みに落ちる前、純潔を散らしていた肢体を思い浮かべ、そっと背を撫でた。
「じゃあ―――明日の朝もいるんだね」
「ええ・・・」
その返答に、安心してしまう自分がいる。
このまま夢に落ちて、朝になって自分一人しかいない寝台を想像すると、胸がチクリと痛んだ。
別に、彼女が手に入った訳でもないのに。
ただ、明日起きた時には、彼女が側にいて。
とても美味しい朝食を用意してくれるのだろうと。
それを無条件に信じてしまう自分が居た。
―――そう、思ってしまった。
to be continued…?
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_(:3」∠)_