※この作品はR-18です。

Quatro XX ~スパイ未満のオレの胃はもう限界かもしれない~   作:滑落車博士

7 / 10
短いです。
ドロシーさん顔出し回。
次くらいでアニメ本編に入れるといいなぁ…。





Case:D Dangerous Dinner Dealer

.

 

 

 最近、学食が美味くなった。

 

 と言っても、別に出てくる料理が豪華になったワケじゃない。

 ただ、なんというか…。料理が丁寧になった、気がする。

 

 日曜のご馳走(サンデーロースト)はともかく、普段の学食で出てくるのは殊更に豪勢なモンでもない。クイーンズ・メイフェア校が上流階級のお坊っちゃんお嬢ちゃんが多く通う学校でも、いつも晩餐会みたいな贅沢な食事を食べてるワケじゃないんだ。そりゃ、ロンドン下層に比べりゃはるかに上等なモンを食べてるんだけど…、…あそこと比較したら天国みたいだからね。

 

 それでも食堂のメニューは、基本的に似たようなモノの繰り返し、あるいは組合わせが変わるだけ。それが、普通だった。

 

 ところが最近、食堂で働いている人間が変わった。

 そうしたら、味が変わった。

 

 どこが、と聞かれると難しいんだけど、例えばグレイビーソース。付け合せの野菜。ベイクドビーンズ。そういった部分が良くなった。単純に肉の量が増えたとかじゃなくて、料理に手間暇をかけるようになったカンジだ。

 

 それから、今までお目にかからなかったようなメニューが出てくるようになった。ケジャリーだとかエッグロールとか…つまり、植民地由来の料理も時々出てくる。海外のメニューも時々出てきた。この間の夕食には『ブイヤベース』とかいう海産物のスープもあった。レパートリーが増えたから、出てくる料理の組み合わせも増えている。

 

 飯が美味くなるのに文句はない。胃に入れば一緒だとしても、マズいよりは美味い方がいいのは確かだ。

 

 問題は、校内で働く人間が増えた、ってこと。

 ーーー食堂に王国のスパイが入り込んだ、それは確かだ。

 

 

「人の動きが多いよなぁ…」

 

 屋上は、あたしのテリトリーだ。

 

 それは『タバコを吸うため』…という理由で、他の学生が近づくことがあれば睨みを利かせている。偽装(カバー)の一環で『不良』を演じているあたしに、わざわざ近づこうってお嬢さんは少ない。クイーンズ・メイフェア校に通うような子ってのは、基本的に中流階級以上の身分だ。ちょっと蓮っ葉で粗雑な商人の娘…というカバーストーリーは、人を遠ざけるのに便利なこともある。

 

 さておき、タバコの話だ。

 

 校内にも、喫煙者はいる。女学生には少ないが…男子学生の中にも、吸っているヤツは少なくない。そういうヤツは、匂いで判る。

 他にも、校内で働いている大人たちにも、喫煙者は少なくない。

 

 だが、最近、タバコを吸う人間が一人減った。

 

「・・・『爺さん』、どうしたんだろうな…。」

 

 学校の庭師をしていた男だ。庭以外にも清掃から何から…校内の雑用で使われていたような男で、白髪と髭がもじゃもじゃの爺さんだった。

 中々の愛煙家(ヘビースモーカー)で、校内でタバコを吸ってるところをよく見せていた。

 

 問題は、その爺さんが共和国側の連絡員だったって事だ。

 その爺さんが、ある日からパッタリと姿を見せなくなった。

 

 理由は推測がつく。急に増えだした王国の連中の所為だろう。

 クイーンズ・メイフェア校内は、既に共和国と王国の対立の縮図になってる。誰が味方で、誰が敵なのか、混沌とした情勢だ。

 

 『爺さん』も敵に感づかれて雲隠れしたのか、あるいは逃げ損ねて『消された』のか、それは判らない。けれど、王国側は一月ほどかけて着実に人員を増やしてきている。

 

 元々、メイフェア校は王国側の警戒が薄い拠点だったのだ。学長が内応者(モグラ)だから学校の生徒という形で容易に人員を投入できたし、立地が良いから亡命ルートとしても機能していた。

 それが、あっという間に他と同じ騙し合いの舞台になってしまった。

 

 もっとも、ま(・)だ(・)他と同じくらいの警戒レベルだ。今までの校内がザルだっただけ。

 連絡員は数を減らしたが、中に潜入している共和国スパイが捕まったワケじゃあない…。

 そういう意味では、状況はイーブンに戻っただけなのだ。

 

「つっても、コレはキッツイなぁ…」

 

 食堂で料理をしている人間、寮で清掃をしている人間、校舎に出入りしている商人。

 そういった連中が、いつどこで見張っているかも判らない。

 気の休まる時間は、確実に削られている。寮の自室以外では、常に気を張っている。

 

 …面倒なのは、入ってきた人員の全てが敵ではないことだ。

 

 『爺さん』と入れ替わるように庭師になった男…冴えない中年の男だった…は、一週間ほど観察したが怪しいところは見つからなかった。

 もちろん演技の可能性もある…が、今のところ、ただ後任になっただけの庭師だ。不審な点も、特に見えない。

 

 そういった「コイツが敵なのか、そうでないのか」の判定を、増えた人間一人ひとりにしないといけない。

 だから、問題は―――近頃、増えた人間が多すぎる、ということに尽きるのだ。

 全てを疑わねばならず、それには時間も手間もかかりすぎる。

 

 あたしは、一人虚空に向かって溜息を吐きーーー。

 

 

「・・・おっと、失礼。まさか先客が居るとは思わなかったな」

 

 突然かけられた声に、バッと振り向く。

 そこには、一人の男が立っていた。

 

 クロフォード卿。

 短く清潔感のある黄梔子色(ガーデニア)の髪、瞳の色は晴天青(ブルースカイブルー)。背は高くないが、それがどこか柔和な雰囲気を漂わせている男。学校内でも女学生に人気の高い、少し前に学校に来た先生である。

 

「ん…? あれ、先生も吸うんです?」

 

 あたしは、擬装用のタバコを手にして、近づいてきたクロフォード卿に悪びれた笑顔で話しかける。同時に、嫌な汗が背を伝った。

 

 屋上だから、と気を抜いていた自覚は無い。学生が無邪気に屋上へ近づいてくれば、タバコをふかして『不良』の演技を先んじて出来ていただろう。

 

 一手、遅れをとった。その嫌な予感を、『不良の女学生』というカバーで隠す。

 

「葉巻を、少しだけね。付き合いで吸っていたんだが、いつの間にか癖になってしまった」

 

 クロフォード卿はシガーケースを懐から取り出すと、葉巻を口に咥えた。火を点けて、煙を吹きだす。銘柄は…『巌窟王(モンテクリスト)』か。甘い香りが、こちらにまで漂ってくる。

 それを見て、あたしも自分の紙巻きに火を点ける。

 

「へぇ…。その割には、あんまり吸ってるの見た覚えがないけど」

 

「先生だからね、あまり生徒の前で堂々とは吸えないだろう?」

 

 ニコリ、とこちらに微笑むクロフォード卿。

 その笑みはごく自然なもので…だからこそ、怪しく見える。

 

 そう、この男は怪しい。

 どこが、というか全部が怪しい。

 

 伯爵なのに急に学校へ教師としてやってきたのも怪しいし、図書館に自分の部屋を持ってコソコソと活動しているのも怪しい。・・・少し考えれば、怪しさの塊である。

 

 その癖、本職のスパイには見えない。立ち居振る舞いは訓練されたスパイの物ではないし、スパイの偽装(カバー)にしては派手に目立ちすぎている…『伯爵様の我儘』で、図書館の蔵書は増えたし、食堂も改善されたともっぱらの噂である。

 

「・・・そういえば、食堂が美味しくなったって評判だけど」

 

「ああ、学長を説得してね。伝手を頼って、腕の良い料理人を何人か斡旋してもらったんだ」

 

 それが、何か?とでもいうような、平然とした声。軽く微笑んだままの顔。

 

 正直、あたしはこの先生が苦手だ。これ以上なく疑われるような挙動をしながら、これっぽっちも怪しくありませんよーと主張するように平然と笑うのだ。

 

 これで本当にスパイだったら「あー、やっぱりなー」と納得できるのだが、いくら観察しても彼がやったのは蔵書を増やしたことと、食堂の改善くらいである。食堂の人員にスパイが紛れ込んだのは間違いないのだが、それがこの伯爵の差し金なのか、これが判らない。単に、美味しい料理が食べたかった、とかそんな理由で踊らされた可能性もある。

 

 つまり、ものすごーく疑わしいのだが、残念ながらクロフォード卿は現時点で『灰色(グレー)』だ。

 黒と言い切りたいのだが、まだ尻尾を出していない。

 

 曖昧に笑いながら、あたしは吸いたくもないタバコを口に咥えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 ボクは、煙草をあまり吸わない。

 食事の味が判らなくなるからだ。

 

 何度も吸ったことはある。王宮内には愛煙家が多い。葉巻(シガー)にパイプ、嗅ぎ煙草(スナッフ)。そういった物の愛好家との社交として、付き合いとして用いる分には、便利な小道具なのだ。

 王宮内では、ボクは若輩者だ。基本的に相手は年上、社交といっても顔を覚えてもらう所から始まり、『まだ若いがそれなりの青年』くらいの立ち位置を確保しなくてはならない。個人としては酒に拘りは無いが、相手がワイン好きならどういったワインが好みなのかを知っていた方が便利だし、葉巻を吸う相手ならご相伴に預かるのも社交の一つだ。

 社交とは、相手に合わせるものだ。

 

 だから、ボクが七つも年下の子と煙草を吸うのは、初めての経験だった。

 

 今、ボクの隣で紙巻き煙草に火を点けたのは、ドロシーという娘だ。

 

 彼女はいわゆる『不良』という生徒らしい。教頭や寮監が頭を悩ませているという話も聞こえてきていたし、こうして屋上で煙草を咥えている様子を見ると、『あんまりに跳ねっ返りなので、商家の旦那が嫁入り前に礼儀作法を習わせるため、無理矢理にクイーンズ・メイフェア校に入学させた』という話も分かるというものだ。

 

「他の先生は、屋上に吸いに来たりはするのかな?」

 

「ん? …いや、来たのは先生が初めてかな。他の先生は、他所で吸ってるんじゃないか?」

 

 貴族の子弟が多い学校にあって、彼女の話し方は少し砕けている。大人びた顔立ちに、恵まれた体格。切れ上がった凛々しい目つきに、数歳は年上といっても通じそうな女性らしさ。不良のレッテルを張られてはいるが、その実、男女問わず人気があるらしい。(これは『校内の恋愛相談窓口』で聞いたから間違いない)ルパート卿のご子息からは、どうやって恋文を書けばいいのだろうか…なんてナイーブに過ぎる相談までされてしまった。

 

 鳶色(オーバーン)の腰上まで届く長髪に、煙紫色(ヘイジーパープル)の瞳。上背のある美人といった雰囲気で、なるほど、横でエスコートするなら彼女より背の高い落ち着いた紳士でなくては、と思わせる容姿。少なくともボクだと背丈の関係でバランスがよくない。

 これでまだ学生だというのだから、父親である商家の旦那さんの危惧もむべなるかな。下手な貴婦人よりも大人びていて、着飾れば社交界の華間違いなしだろう。

 

(最近の若い子は大人びていているんだなぁ…)

 

 葉巻をふかしながら、七つほど年下の彼女を観察する。

 あまり生徒をそういう目で見るのは良くないが、近頃の子は栄養状態がいいのだろうか。こちらが気後れしてしまうくらい、肉付きの良い体格をしている。

 

「・・・なに? あたしの顔になんか付いてる?」

 

 視線を不審に思われたのか、むっとした表情で訊ねられた。

 苦笑して、思ったことを口に出す。

 

「いや、吸っている姿が様になってると思ってね…。

 なるほど、他の娘たちが遠巻きにするわけだと納得したのさ」

 

「はぁ…?」

 

 疑問符を浮かべる彼女だが、その疑問に応えるには『恋愛相談窓口』で聞いた話を喋らなくてはならない。

 

 『ドロシー先輩って、ちょっと怖いけど、そこが孤高っぽくてカッコいいんですよね…!』『そーそー! 背も高くて美人で、胸も大きくて包容力ーってカンジだし!』『あの方は不良と呼ばれておりますけれど、お話しますと気さくな方で、その気風の良さが「お姉さま」って感じですの…教師や大人の評価を気にもとめない、磊落なところなんて、ああ、なんて凛々しい方なんでしょう…!』……などと、褒めそやす声が幾つもあったのである。しかも、ドロシーより年少の下級生の女学生から、である。

 

 もっとも、当人には伝わっていないようだが。

 ボクも相談内容を無碍にしたいとは思わない。わざわざ下級生の憧れを伝えてしまうのも無粋なので、黙って紫煙を口から吐き出す。

 

 容姿から判断すれば男性の目を惹くのは判る。

 だが、年下の同性から陰で「お姉さま」と呼ばれるのは、中々に珍しい。

 それで、少し興味が湧いて、屋上(ここ)まで来てみた訳だけれど…。

 

(たしかに、「お姉さま」だな。これは)

 

 内心で独りごちる。

 校内の男子生徒では、とても彼女と釣り合いが取れまい。それこそ、ノルマンディー公のような老紳士の横に立っているほうが様になるだろう。

 

 

「ーーーあまり授業はサボらないように。教頭が、また反省文を書かせるぞーって言ってたからね」

 

「げっ。こないだ書いたばっかりなんだけどなぁ…」

 

 先生らしく小言を言ってみせると、ドロシーは渋面を作って嫌そうにする。

 それから、少し笑い合って、束の間の喫煙を共にした。

 

 

 ーーーそれが、ボクとドロシーの初対面(ファーストコンタクト)。

 ロンドンには珍しいくらいの快晴の、気持ちのいい日のこと。

 

 数日後、互いに思いもよらない場所で鉢合わせすることになるのを、まだ知らない時のことだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

(余談)

 

 

レスター『学長! 食堂を改善しようと思うのですが…』

 

学長『また君か…今度はなんだね?』

 

レスター『いやあ、この学園は優秀であれば身分を問わずに学生を受け入れているじゃないですか。

     だから学期途中の転校生も多いですし、植民地出身の学生もいる訳で」

 

学長『(ギクッ!)』

 

レスター『ですから、植民地出身のメニューを時々提供するとか、そういう変化があってもいいと思うんですよ。その他にも、海外のメニューを部分的に取り入れるとかしてですね、世界に羽ばたく人材を育てるために食の多様性を生徒たちに伝えられたらな、と。

 

 学長も、我が国が大陸諸国から『アルビオンの料理はマズい』と馬鹿にされてるのをご存じでしょう? そのイメージを払拭するには、まずは学校の食堂から改善していかなくちゃと思うんですよ!(熱弁)』

 

 

 

学長(頑なに拒めば疑いの目が向く。…あまりに多くの学生を転校生として入学させたのを感づかれたか…)

 

学長「ええで」

 

レスター「やったあ!」

 

 

ノルマンディー公「よし、王国のスパイを増員するぞ。これで校内の監視網が確立するな」

 

L「事前連絡を受けていたので、連絡員は一端撤退済み。問題はない。

  先回りして料理人のスパイ(ニキ from プリGOM)を食堂内に紛れ込ませておくぞ」

 

 

 

 

レスター「やったぜ」(美味しい食事が出てくるようになったため)

 

ドロシー「この先生、めっちゃ怪しいんだけど」

 

ステフ「このケジャリー今度お屋敷で作ってみよう」

 

 

 

 

・・・というワケで、この時空ではニキさんが食堂に潜入しています。たぶん出番は無い。

やったねニキちゃん! 悪徳富豪の厨房から脱出できたよ!(周りの料理人は王国スパイな模様)

 

 王国の介入が強まるのは確定事項なので、共和国視点でも捕まりそうな連絡員は逃がせたし、食堂にも共和国スパイを追加で潜り込ませたから次善策として悪くない。

 

 王国側からすると、ちょっと怪しい学長を押し切って王国スパイの配置数を純増している形。学長にも圧力をかけて、このまま学内の統治に口を出していく下準備になる。

 

 ・・・めんどくさいな二重スパイ…。

 

 

 

 

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