漣「…?」
ここは…どこだ…?確か俺は、普通に寝ていたはず。いや、先ずは周りの状況を整理するのが先決か…。
足の下は…砂利?小石か?水の音もする…。山…森林…。こんな場所に覚えはない。ん?あれは…。
顎「…。」
漣「し、師匠…。」
師匠、紅顎が目の前に立っていた。俺の方は向いておらず、自身の背後をずっと向いている。修羅天竺を腰に佩き、朱色の着物に身を包んだ白髪の青年。それが向いている方向には太陽があった。
顎「…一度、手合わせをしたいと考えていた。外での大躍進。俺が死んでから、よくここまで強くなったな。」
師匠はゆっくりとこちらに向き、微笑みながらそう言った。しかし…。俺は長年、あの日から思い続けたことを師匠に聞いた。
漣「…何故、師匠は生きておられるのです?あの日…完全に師匠の息の根は…ッ!!」
顎「…あの時は…あの時か。俺は確かに死んだ。死して尚、今、お前の目の前にいる。我が友、氷川凰牙の頼みでお前を見ていた頃が懐かしいな…。」
…氷川?頼み?
なんのことか、さっぱりわからない。
顎「…知らないのも無理はない。お前の父、氷川凰牙は生き絶える前にお前を俺に託した。お前も知っている通り、俺は人間だ…。ただし、月人だがな。」
漣「その話をする為にここに呼んだのですか。」
体は移動していない。恐らく、精神のみをこの謎の空間に送っているんだ。だが、精神のみならば、五感を感じることがあるのか?視覚はあると思うが、嗅覚、触覚まで…。
更に妙なのは、これが精神世界というのであれば、何故、俺は来たことのない場所に今、立っている?この大自然を俺は見たこともなければ、行ったこともない。足下の砂利、川や滝の水音、風に揺れる木の音、葉の擦れる、ガサッ…ガサッ…という音。これが夢や頭の中の精神世界だと言うのなら、音や色の感じ方が妙なんだ…。なんというか、知らなければここまで再現できないほどリアルすぎる。
なにが言いたいかと言うと俺は自らここに来たわけではない。師匠が俺を呼んだと言うのが考えうる一番の説だ。
顎「…あぁ。お前が思っている通り、俺がお前の精神をここに呼んだ。五感に関しては触れるな。お前の実力を確かめたいが、今の俺では渡り合えない。だから、話をする為に呼び出した。」
師匠の顔から笑みが消えた。周りの空気も心なしか、変わった。空気がピリッとする。
顎「玄霧…と言う名に聞き覚えはあるか。」
玄…霧…?
漣「いいえ。その玄霧が、如何なされました?」
顎「…
…確かにそれは酷いな。自身の子を商品として売るのか。
顎「その男は頭が切れる。とても口が達者でな。幾度も幾度も死刑を逃れた極悪非道そのもの。しかも、見た目は病弱な少年。そして、そいつは自分に有利な証拠ばかりを残して、自分に不利な証拠は残さなかった。」
…それじゃあ、ソイツはまだ生きているのか?いや、俺は月にいたが、そんな奴は見たこともないし、そんな事件も聞いたことがない。だが、月人は死なない。寿命では…だが…。
顎「…あぁ。奴は死んだ。俺がこの手で殺したんだ。」
漣「…なら、何故、そこまで其奴のことを危惧するのです?師匠がその手で殺めたとあれば、危惧する必要はないのでは?」
顎「…月から地に落ち、胸をこの修羅天竺で貫かれ、死んだ…はずだった…。確証はないが、奴は生きている。」
…師匠がそう言うのであれば、それは確定だろう。だが、何故、ソイツは生きている?出血多量で死ぬか、はたまた、寿命で死ぬかのどちらかだろう。何故…。
顎「奴は…なったんだ…。妖怪に。」
漣「…。」
そうか。妖怪か。ならば、そう簡単には死なんだろう。
漣「師匠の話はわかりました。では、俺は…。」
顎「待て。」
俺は師匠を背に歩き出した。だが、俺は師匠に止められた。そうか…。俺はここからの帰り方を知らない。だから、止めた…と思っていた。だが、師匠は右手に修羅天竺を握り、俺に刃を向けた。
顎「…少しだけ…付き合え。」
俺は師匠の言葉に静かに頷き、剣を握った。行くぞと言う師匠の声を皮切りに剣同士、刃同士がぶつかる金属音が響き、火花がその剣から散る。師匠の一撃は重く、更には繊細だ。付け入る隙間がない。
俺は、師匠のなぎ払う攻撃を剣で相殺し、後ろにバックステップで避ける。
顎「…奥義『彗星居合斬』」
…周りの雰囲気がガラリと変わった。
師匠は目を閉じ、鞘に入れて居合の態勢に入る。たった一つの技なのに、周りの木がざわめき、砂利や岩が砕ける。
どれだけのパワーがあの技に…。
顎「…。」
漣「くっ…。」
止めないといけないのはわかっている。だが…ッ!!力が強大すぎて、近づくことすらままならない…ッ!!師匠を中心に力が渦巻く。その力は風を呼び、地を削り、雷鳴を生み出すほどだ。遠いはずの山も倒壊し始め、川も流れが早くなる。
漣「ハァァァッ!!」
無駄なことはわかっている!!だが、とにかく弾幕を打つしかないと、俺は空中からがむしゃらに打ちまくる。弾幕はホーミングし、師匠に向かうが、力の渦になすがまま…コントロールを失い、周りに落ちるものや師匠の周りで爆散するものが大半を占めた。ある程度は当たっているっぽいが、それも全く効いていない…のか…!!
顎「その程度かッ!!」
漣「ッ!?」
師匠が口を開いた。
顎「お前の覚悟は…その程度かッ!!あの男に言ったのだろうッ!!その程度の脆弱な拳では、なにも守ることは叶わないぞッ!!」
…そうか。彼は…神君は…こんな気持ちだったのか…。俺は地に足をつけ、目を閉じ、集中する…。胸の炎…あのときの感覚を…思い出せッ!!
顎「…終わりだッ!!」
師匠は足の反発を使い、とんでもない勢いで俺の元へと駆け出してくる。目前で抜刀し、その高速の刃、一太刀が俺の体に触れる…。
顎「ほぅ…。」
寸前のところで俺は宵ノ明星を抜刀し、師匠の刃に十字になるようにガードする。師匠の一撃が俺の腕を刺激し、そのまま刀ごと砕け散りそうなくらい激痛が襲う。だが、もう迷いはないッ!!
俺は師匠の刃を払いのける。師匠は先程の技の反動なのか、払いのけた瞬間、コンマ1秒ほどだが、隙ができた。その瞬間を狙い、俺は刃を横一線に振るう。師匠に攻撃が当たりはしたが、致命傷には至らず、右頬を掠めただけだった。
顎「…ふっ。そうこなくてはなッ!!」
漣「…もう…貴方に脆弱とは…言わせませんッ!!」
顎「…ッ!!」
体を捻り、刃を振るう。体全体を使った大振りの攻撃なので、様子見ではあるが、師匠はその大振りの攻撃を刃で止め、俺の腹に蹴りを入れる。師匠の攻撃に骨が砕けそうになるが、俺は止められた刃を動かし、師匠との距離をバックステップで取る。
漣「幻想『半人前の刃』!!」
俺は見様見真似ではあるが、妖夢の太刀筋を真似し、宵ノ明星に宿す。地面を蹴り、師匠の飛ぶ斬撃を避けるように走る。そして、師匠に当てようと剣を振るう。が、すんでのところで避けられ、師匠のかかと落としが俺の脳天にヒットする。が、俺は霧のようになり、四散してしまう。
顎「ほう…。」
そう。先程の技をうったのは、フェイクだ。半人前の刃を打つ前に俺は虚像を生み出し、師匠と戦わせた。言わば、分身と言える。もし、あれが俺に当たっていたら、確実に戦えはしないだろう。
顎「ならば…何処へ…。ッ!?」
前がダメなら、後ろに回り込む。後ろもダメなら、横から斬りかかる。何事も…試す!!それが俺だ。師匠にはガードされてしまったが、背後からの一太刀に先程までの余裕は…ない!!
顎「考えはいい!!だが、剣が風に当たって音が出ているぞッ!!」
…流石としか言いようがない。剣が風に当たって出る音なんて程度がしれている。モスキート音よりも小さいだろう。そんなもの、戦いの最中に気づけるはずが…!!
顎「よそ見は…禁物!!」
漣「ガッ!!」
肩に師匠の刃のみねが当たる。激痛も激痛…肩が千切れそうで意識を失いそうになる。俺は倒れそうな体をなんとか起き上がらせ、剣を握る。
漣「…!?」
師匠は何処だ。足音一つ立てず、心の声も消して動いているとでも…!!そのときだった。背後にキラリと輝く何かが見えた。俺はその刃を飛んだ避ける。
顎「避けたか。」
漣「幻想『月隠しの強弓』!!」
俺は剣を終い、手を弓矢の構えにして、弾幕の矢を師匠に向かって放つ。矢を風を切り、突き進むが、もちろん、見え見えの攻撃が当たるわけもなく、師匠は矢を斬り、そのまま突き進んでくる。
だが、そのまま進撃を許すわけにはいかないっ!!
漣「幻想『土着砕破』!!」
顎「あまいッ!!」
俺を中心に円形に地面が割れ、所々に剣山が出現する。だが、師匠は猪突猛進。いくつもの細い剣山のような石の柱を刀で粉砕し、突っ込んでくる。俺が言うのもなんだが、無茶苦茶だ。
漣「幻想『水操奇術』!!」
俺は手の甲を刀で切り、そこから垂れる血を操って、師匠の死角から貫こうとする。とりあえず、少しでも動きを止めたいところだが、師匠はステップで避け、俺の懐に潜り込んで刀を振るった。
漣「ぐっ…。」
峰打ち…。
結局はなにも使わずに師匠に勝つことは不可能だったのか…。俺の体は地面に突っ伏している。
顎「…お前の悪い癖は、最初から全力じゃないことだな。」
漣「…へへ…。そうですね…。」
顎「…ふっ。だが、楽しめたぞ。強くなったな。漣。」
そう言うと師匠は俺に手を出した。俺はその手を握り、立ち上がった。体はボロボロだが、気分は少し爽快だ。師匠は俺に微笑みかけ、黙って後ろを指差した。後ろには謎の光が空から照らしていた。あそこから現実に帰れると言うことなのか。
俺は師匠に一礼し、その光へと入っていった。次に俺が見た景色は、ルナサの寝顔だった。
漣「…。」
時計を見ると朝の2時。寝てから少ししか経っていない。体感では、とても時間が経ったような感覚がしたのだが…。俺は二度寝をすることにした。また、あの空間に行くのならば、それもよしと。
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暗い空間。夜のように真っ暗で月明かりも照らさず、ただ時計の針の動く音だけが響く空間。右も左もわからない空間に彼はいた。
?「やっとスタートラインに立ちましたねぇ。幻想の神。」
黒外套に身を包んだ白髪の男。男は背もたれの長い椅子に座り、キャンドルの置いてある赤いテーブルクロスのかかった机にある紅茶を持ち上げ、啜った。
?「…さて、ここにいる皆様は、既に僕のことをご存知でしょう。ふふ…。ですが、彼とゲームをするのは、また後日ですね。」
カチャリとティーカップが机に置かれる。男は此方にふっと微笑みかけ、まるで霧のように消えていった。
最初の事件まで…後、〇〇。
異変編はまだまだです。
では次回。
ではでは〜。