漣「おぉ…。もうここまで復旧したか…。」
あの事件から1ヶ月が経過した。地底の繁華街はもうあの頃の荒れた街並みは無く、鬼たちの喜ぶ声が辺りから聞こえてきた。
こいし「…あっ。」
漣「おや。こいしじゃないか。」
こいし「…どうしたの?お姉ちゃんに会いにきたの?」
繁華街の入り口付近を屯していると緑髪の少女、古明地こいしがぶつかってきた。フランほどの少女なので大した痛みも感じないのだが、こいしは少し顔を赤らめ、俺に何をしようとしていたのか聞いてきた。
漣「まぁな。お前は何してたんだ?」
こいしの手には茶色の紙袋が握られていた。
こいし「えへへ…。お姉ちゃん、病弱だから、こういう本とか外に頼んだものは私が取りに行ってるの。覚妖怪って嫌われ者だから認識されない私が取りに行かないと…。」
こいしの顔が暗くなる。そうだな…。覚妖怪特有の心を見る力ってのは、相手の見られたくないものも見るわけで…そうなれば、相手にとっては面白くもなんともない。しかも、さとりの能力は俺と違って制御不能だ。そんな奴が周りにいれば…少し嫌悪するかもしれない。
こいし「お兄…ちゃん?」
漣「ん?あ、あぁ…。」
考えすぎてしまっていたようだ。俺はこいしと共に地霊殿を目指すこととした。途中、二本尻尾の猫、火車のお燐と合流。そのまま、地霊殿の門前へと着いた。
漣「デカいな。ここが地霊殿。」
燐「よっと。」
玄関を潜ると今まで猫だったお燐が人形に戻り、八重歯を出して笑いかけてきた。
燐「兄さんのことは、さとり様から聞いてるよ。さとり様から話があるってさ。多分、伝わってないんだと思って、来るのを待つように言われててね。…ここがさとり様のお部屋さ。」
俺が言葉を挟む間も無く、さとりの部屋へと案内された。勿論、アポ無しだ。コンコンとお燐が扉をノックすると「…どうぞ」と落ち着いた声が聞こえてきた。
燐「…失礼します。」
ガチャリとノブが回り、扉が開く。室内は広かった。広く、左右の壁に本棚があり、棚にはみっちりと本が並べられていた。扉を開けた目の前には、大きな机と椅子があり、そこに地霊殿の主は座っていた。
さとり「…予想通り、来ていましたね。探偵さん。お久しぶりです。」
さとりは上品に笑い、こいしから茶色の紙袋を受け取った。さとりの小さな手がこいしの銀色とも緑色とも取れる不思議な髪をサッと撫でる。
漣「で…。ここまで俺を連れてきた理由は?」
さとり「あら。お燐は何も申しておりませんでしたか?」
漣「あぁ。」
祭りであったような彼女とは違う。そこに居たのは主である古明地さとり。レミリアとも幽々子とも違うが、確かに存在感のある…そんな感じがした。さとりは俺からそう聞き、頬を膨らませながら、「…全く。」と小声で言った。
さとり「まぁ…良いでしょう。あなたをここに呼んだ理由はただ一つ。あなたの『ありとあらゆるものを視る』程度の能力について…です。あれは…私たち、覚の能力のコピー&ペースト…模倣ということでよろしいですか?」
漣「…いや、違う。」
ありとあらゆるものを視る程度の能力は、その名の通り、ありとあらゆるものを視る。視覚化する…と言ったところか…。心の声、相手のする行動、相手に起こったこと、自身に起こりうる未来などをまるで書物を読むように視覚化し、咄嗟に自分の頭で認識する。勿論、戦闘中に悠長に読書をする時間はない。なので、頭にインプットする時間はほんの数秒…いや、それ以下だ。ということをさとりに伝えた。
さとり「…なんというか、次元が違いますね…。だから…こいしも…。」
こいし「そういえば…なんで、お兄さんは私が見えるの?いつもは他の人は私を認識しないのに…。」
漣「ん?あぁ…。それはね…。」
俺はこいしの目線に合わせ、しゃがもうとするが、気づいたさとりが、椅子と机が用意された部屋に俺たちを連れて行き、紅茶と茶菓子を用意してくれた。用意周到といったところか…。俺は一口、その紅茶を飲む。紅魔館より、なんというか…庶民よりの部屋だが、清潔感があり、それでいてこの時期にしては暖かい部屋だった。
さとり「…お話の続きを…。」
漣「そう焦るな。…俺がこいしの能力を受けない理由だが…。」
さとり、こいし、お燐がゴクリと固唾を飲む。
漣「…俺には能力が効かない…というか、能力が効くという事実を燃やすという形で逆転させているんだ。」
燐「にゃ?ど、どういうことだい?」
こいしとお燐は訳がわからないといった風に小首を傾げている。隣のこいしのシャンプーのいい香りが俺の鼻を刺激した。さとりはまるで何かが分かったかのように顎に手を当て、考え込んでしまっている。
さとり「なるほど…。つまり、漣さんは、私の模倣のように能力を応用して使っている…と。しかし、何故そんなまどろっこしいことを?」
漣「…その昔、ある少女に言われてな。俺の前で死んだ少女は俺に二人の少女を託した。だが、俺はそれからすぐに元いた場所に帰らなければならなかった。だから、知り合いの鬼にその子たちを預けたんだ。」
さとり「まさか…その少女って…。」
さとりはあり得ないといったように俺の方を見る。横のこいしは何もわかっていないのか、また小首を傾げて考えている。
漣「…その子の名前は覚えていない。俺もまだ若かったからな。都でわがまま姫を守りつつ、その子と過ごした数日はとても新鮮だったよ。その子は両手で女の子と手をよく繋いでいた。娘だと…笑顔で言っていたんだ。片方はその子に似たピンクの髪が綺麗な子。もう片方は銀とも緑とも言える不思議な髪の子。ひっそりと山で育てていた。だが、ある日、その子の心読の能力を訝しげに思った鬼に殺されてしまった。その子は泣きながら俺にあの子たちを託し…『ありがとう。嫌われ者の私と…普通に接してくれて…。』と言って逝った。俺と友とでその鬼は殺したが…。」
さとり「…その人は幸せそうでしたか?」
漣「…幸せそうに笑っていたさ。俺が言えるのはここまでだ。」
横のこいしはまだわかっていない。わかりたくないのか、分かろうとしない。さとりはまるで聖母のように全てをさとったような笑みを浮かべていた。
さとり「あなたの力は…私たちの為だったんですね。」
漣「くく…。そんな大層なもんじゃないさ。ただ、1人の鬼が力を手にしたかっただけ…だ。」
こいし「…でも、お兄さんだけだよ?私とお姉ちゃんをずっと見てくれる人…。」
俺はこいしの頭を乱暴に撫でる。先ほどから少し自信がないような声を出していたが、見てくれないというその不安感がこの子を縛り付けていたのだろう。だから、この子は自分に自信がない…のだと感じた。
漣「…そんなことはないさ。勇儀やパルスィ、シャドだってお前らを見てくれるだろ?人ってのは本当に見たいものは見れない。見ようとしないとな。心も…体も…。」
俺は紅茶を飲み、そこを後にした。彼女らがあの後どんな話をしたのかはわからないが、彼女らは彼女らでリスタートしたのだろう。だからこそ、こいしはフランと同じ、ピッカピカの綺麗な笑顔が出来るようになったんだろうと思った俺であった…。
急に思いついたらこんな話に…。
次はほのぼのしたいですね〜。