はい。
こいし「こうまかん?」
漣「あぁ。霧の湖にある赤い建物って知ってるか?」
さとりと違って、地霊殿から度々出ているこいし。しかし、人里と博麗神社くらいしか行ったことがないそうで…。
アイツなら、こいしと同じ立場で話せるし、レミリアも了承するだろうと思い連れてきた。
こいし「赤い…?」
小首を傾げて、俺を見るこいし。人見知りなのか、慣れていないのか、それとも、無邪気ながらに過去のトラウマを引きずっているのか、俺の腕を掴んで離さない。こうして、冬から春へ変わるというような穏やかなひだまりの中、外に出て、慣らしている。出来れば、彼女と色んな場所を見て、色んな話を聞いて、さとりにも外に対して、興味を持ってくれれば…。さとりも病気だと妹に言わず、本当のことを言うだろう。今は、トラウマによって蓋をしているだけで…。
こいし「お兄さん。この人、寝てるよ?」
漣「…ん?」
ボーッとしすぎて、目的地に着いたこともわからなかったようだ。それに、美鈴も変わっていない。こんな真っ昼間に寝てたら、ナイフを刺されるのだが…学ばないから仕方ない。能天気というか、天然というか…。
漣「大丈夫、大丈夫。行くぞ?」
こいしは心配しつつも、首を縦に振った。大きな門を通ったところで後ろから悲鳴が聞こえたが、無視するようこいしに促し、突然現れた咲夜に案内してもらった。突然、現れる点に関してはこいしも同じだが、俺に触れている為、咲夜にも認識出来ることと突然現れた咲夜に驚いていた。
咲夜「妹様はいつもの部屋に…。遊びやすいよう、整備されておりますが、この時間帯ですと睡眠をとられている可能性もあるかと…。」
…盲点だった。そうだ、フランは一応、吸血鬼だった。能力がある程度使えるようになり、弱点という概念を破壊したとはいえ、生活リズムには抗えない。まぁ、眠っていたら寝起きが悪いわけでもないし、起こせばいいか…。俺は扉に手をかけて、中に入る。
フラン「あっ!!漣兄様!!」
考えすぎだったようだ。扉を開けた瞬間、部屋の主は一目散に俺の胸へと飛び込んできた。右手ではこいしの小さな手を掴んでいる為、左手だけで抱き受け止める。吸血鬼だということを忘れてしまいそうに軽いが、その力のお陰で後ろに倒れそうな体をなんとか耐える。この背丈で成人男性を押し倒せるフラン…俺がひ弱なのか、それとも吸血鬼の身体能力が尋常じゃないのか…。後者であることを信じたい。
漣「ふふ。そうだ、こいし。この子が言ってた子だよ?」
こいしはフランを見るなり、俺の後ろに隠れた。同じ背丈とはいえ、やっぱり初めて会う人には少し恥ずかしいのかもしれない。逆にフランの方はこいしに興味津々と言わんばかりにヒョコヒョコと俺の影に隠れているこいしを覗こうとしている。
フラン「誰?その子…。」
漣「ほら、こいし。自己紹介しな?」
こいしは俺の影からゆっくりと出る。フランはその様子をニッコリと笑顔で見ているが、こいしはまだ安心できないのか、俺の服を掴んだままだった。
こいし「わ…私、古明地こいし。」
フラン「…!!こいしちゃんね!!よろしくっ!!」
遊ぼ遊ぼとフランがこいしの手を引く。こいしは最初は戸惑いながらも、フランの勢いと遊べることへの嬉しさにパァっと笑顔になり、走って行った。本当に彼女らは無邪気だ。何して遊ぶ?という会話も見ていて微笑ましい。
咲夜「お茶をお持ちしましたが…お邪魔しない方が良いですね。」
漣「そうだな。」
…しかし、フランはババ抜き、好きだな。さっきからずっと床に寝転がってやっている。咲夜が来たときには遊んでいたトランプやら一緒に読んでいた漫画やらが散らかっている。…今は二人でぬいぐるみ遊びをしている。
咲夜「あらあら…。こんなに散らかして…。」
口ではそう言っているが、咲夜の顔はとても穏やかに微笑んでいた。まるで子どもの成長を見守る母親のような笑みだった。
フラン「でね〜!!お姉様ったらね〜!!」
こいし「あははっ!!」
咲夜「…あんなにお元気になられて…。」
やっぱりこいしを連れてきて良かった。最初にあった頃の彼女とは変わって、子どもらしく笑うようになった。友達…の存在はもしかすると家族と類似する大切なものなのかもしれない。
咲夜「…ありがとうございます。妹様があんなにお元気になられたのは、漣様のおかげです。あの異変以降、本当に…。」
漣「…違う。あの子は笑えたんだ。でも、破壊の能力と戦う為の力が足りなかった。幸い、狂うまでにはならなかったが、それを危惧したからレミリアは地下に閉じ込めたんだろ?…だが、結果としてそれが彼女を苦しめた。生き物ってのは、脆い。どれだけ生物として強くても、心は脆いんだ。だから、簡単に壊れてしまう…。俺はそんな奴らを何人も見てきた。」
…月の軍隊を率いていた時の話だがな。月兎は強い。身軽で軍隊としては申し分無かった。しかし、月面戦争の後、多くの月兎が戦死したとき、軍隊は散り散りになってしまいかけた。俺がなんとかしたが、あの時ばかりは軍で殺し合いも起こりかねなかった。フランとレミリアは肉親だ。家族だ。だが、あの時のフランは完全にフランドールスカーレットでは無かった。隔離された人形だった。感情も喜怒哀楽の哀の部分が強く出ていた。あの時は言葉に少ししか生気を感じなかった。
…今の笑い合う彼女が本当のフランドールスカーレットだ。断言できる。
咲夜「…責めてますか?私たちの下した決断を。」
漣「今更、何言ってんだ。俺にお前達の決断をとやかく言う理由はないさ。結果よければ全て良し。今、アイツがお前らのことを笑って許すなら、今更、それ以上に責める必要…あるか?」
…今日も紅茶は美味い。咲夜が淹れたのだから、そりゃ美味いだろうが、今日は格段に美味い。紅茶に移った俺の顔は咲夜と同様、少女二人の無邪気な笑い声につられたのか、穏やかな笑みを浮かべていた。今日は泊まって行こうか、それともこのまま帰ろうか。紅茶を飲みながら、読み進めていた小説のページをめくる。この時間がいつまでも続けば良いなと思えるそんな1日だった。
こういう終わり方好きねえ。私。
では次回。ではでは〜。