漣「…。」
昨日から妙に心が疼く。時間が経つにつれ、痛みが増していく。うやむやな気持ち悪さがずっとそこにいる。シャドの言葉の意味とは何か…。確か、あの後は…。
漣『本当の地獄…だと?』
シャド『…死して尚、死ぬことを許されなかった。生き絶えた病室に奴が現れたんだ。』
シャドは大きく息を吸った。診療所の木の椅子に目一杯もたれるシャド。軋む音が印象的だった。年季の入った室内に不釣り合いの白衣の男が話を進めた。漆のように黒い瞳が一寸の曇りも無く、俺の姿を映し出した。
シャド『…奴が何をしたかまでは見えなかったし、読めなかった。立体映像として見る限界ってやつだな。一人称でしか見えないから、何をしたかまではわからなかった。次に見えた景色はブリキの人形のはずだった自分が動き、主人である病死した少女の死体の近くにあるポシェットを持ったんだ。皮肉なことに彼女は『自分はまだ生きている』と思っていた。そりゃそうだ。死んだことすら忘れちまったんだからな。』
漣『てことは、あの子の正体は、死んでも彼岸に行けない亡者…。』
シャド『…結論に行くにはまだ早えよ。彼女は玄霧に連れられ、何処かの研究施設に入れられた。そこにはあるものがあった。片方は眼鏡をかけた男、もう片方は女の遺体だった。ユウは確信した。それが自分の両親であると。しかし、玄霧は言った。『考えることはありません。彼らはもうただの人形。彼らは脳死ですから、植物人間ですので、もう君の両親ではありません。ただの人形…ですからね。』だとさ。普通、そんなこと、言うか?まがりなりにもブリキの人形に入った魂は子どもだぜ?意味が分からなくて、泣けもしなかったみたいだが…。』
そう言うとすっかり冷めてしまったハーブティーのティーカップの中身を半分ほどまで飲み、また、此方を真剣に見た。
シャド『…その後だよ。次に見た景色が恐らくは記憶がなくなった原因だろうな。その子の前で、目の前で親の体を解体し始めた。四肢を切り落とし、骨や内臓が剥き出しになったその姿を見て、恐らく吐いてしまったのだろう。だが、元はブリキの人形。吐きたくても吐くものがない。何も食べていないからだ。だから、少女は倒れてしまった。記憶を代償に生きたんだ。だが、気がついたときには遅かった。』
漣『…遅かったって?』
シャド『ブリキの人形に大層なもんつけたみたいだぜ?試運転で村一つを破壊。少女の大切な人形は、人を殺す…兵器になっちまった。使い込まれた体はピカピカにされた代わりに遊んだ主人との記憶も失った。念のため、元々の…人形だな。そいつの記憶も読み取ったが…元々、ブリキの人形は売れ残りだったらしい。年季の入ったアンティークショップの隅の方でずっと見てたんだと。そこに来てから幾年もの月日が流れた。店主が三代まで変わった頃、自分と同じ黒髪の可愛らしい少女。相当、裕福な家庭だったらしく、両親はもっと綺麗な人形を買ってやると言ったらしいのだが、この人形が良いと頑なに譲らなかったらしいぜ。まるで自分の生写しのようだった。記憶の中に出てくる彼女に相当似てたさ。だが、逢魔はそんな過去なんか関係なかったんだろうさ。』
漣『…彼女は…何のために生きてんだよ。』
シャド『…さあな。当人にしかわからねえ記憶やわからねえことがあるんだろうよ。だが、一つだけ言えるのは、玄霧逢魔は、アイツに何かしたんだ。…奴を倒せば、彼女は消滅する。リリカに言うのも時間の問題だぜ。』
漣「…。」
ルナサ「…漣さん。大丈夫?」
頭が痛い。だが、ルナサを不安にさせるわけにはいかない。
漣「…大丈夫だ。」
俺がなんとかしないと…。じゃないと、リリカは真実を知ったときに壊れてしまう。拳に力を入れ、自身に喝を入れる。
ルナサ「きゃっ…。びっくりしたぁ〜。急に立ち上がらないでよ。」
漣「すまない。」
ルナサが隣に座っていることをすっかり忘れていた。リリカ以外は全員揃っている。勿論、ユウちゃんと響奇もいない。
ルナサ「…やっぱりおかしい。漣さん、朝から怖い顔して…。」
…気がつかなかった。
俺は深呼吸をして周りを見渡す。ルナサたちが先ほどから心配そうな顔をしている。正邪は俺から少し離れた場所で椅子に座り、お茶を飲んでいた。
蛮奇「はぁ…。何か、あったんだな。」
漣「…ッ!?」
蛮奇が俺の顔を胸に抱き、頭を撫でた。…暖かい。
紫苑「むっ…。蛮奇ちゃんだけずるい。」
蛮奇「…早いもん勝ちだよ。とにかく、アンタには私たちがいる。アンタを信じる私たちを信じろっ。なっ?」
蛮奇の顔は見えない。だが、声はとても優しかった。同調する紫苑やルーミア、メルランやルナサの声も聞こえた。その声に胸がいっぱいになった。
漣「…。」
俺は蛮奇に離してもらい、周りのみんなに全てを話した。逢魔のこと、死屍累々のこと、そして、ユウちゃんのこと。
全てを洗いざらい話した後、胸の痛みは次第に引いていった。
ルナサ「嘘…。そんなことって…。」
メルラン「リリカになんで言えば…。」
次第に引いていっただけで、完全に消えて清々しくなったわけではない。まるでユウちゃんはリリカの妹みたいな存在だった。それを考えれば、ルナサやメルランが傷まれない気持ちになるのもわかる。
ルーミア「…死屍累々…ね。私でも聞いたことないわ。先代の博麗の巫女の口からもね。ねぇ?正邪、あなた、何か知らないの?」
体相応。大人びたクールなルーミアが正邪に聞いた。正邪はティーカップを机に置くと首を横に振った。
ルーミア「そう…。魂に関しては白玉楼の人たちならわかるかもね。」
漣「…ルーミア、どうして…。」
ルーミア「…黙っていたけれど、私もあの子の正体は薄々気がついてたの。無邪気な子供には感じられない圧倒的な闇の力。…知ってる?シャドより私の方が闇の力は上なのよ?」
ルーミアは俺に向かってウインクをした。さて、そろそろこの負の連鎖を終わらせようか。
漣「…みんな、力を貸してくれ。…客人が来たようだ。」
…全てわかっていた。やっぱり、信用ならなかった。
鏡一郎「…見つけた。さぁ!!幻想神!!No. 1はどこだ?」
漣「佐久間…鏡一郎っ!!」
太陽の中に化けの皮を剥いだ奴がいた。鏡一郎は月夜見が行っていた黒色の鎌をふりかぶり、いつでも攻撃できるようにしている。
漣「No. 1とはなんだッ!!」
鏡一郎「全て知っているのだろう?回りくどい話は無しにしようぜ?」
漣「…ユウちゃんか。あの子は絶対に渡さない!!あの子は俺たちの家族だッ!!」
そういうと鏡一郎は空を見て大笑いした。鎌の刃も下に下げている。その態度が俺を馬鹿にしているようにしか感じなかった。
鏡一郎「かーぞーく?家族か…。貴様はたったの数日間しかいないものを家族と宣うのか。…馬鹿だなッ!!家族なんて何の価値にもならないッ!!」
漣「黙れッ!!お前にはわからないんだろう!!可哀想に…!!帰る場所があることも、おかえりと言ってもらえる喜びも…!!」
鏡一郎「…んだと?…ふざけやがってぇ〜!!そんなものに何の意味があると言うのだッ!!僕は…僕は…ッ!!ただ、普通でいたかっただけなのにッ!!家族だと?笑わせる…。あんな僕のことを何もわかっていない者達を一緒の家に入れたくもないッ!!なら守ってみろよッ!!その家族とやらをッ!!」
鏡一郎の横に鏡のようなものが現れ、鏡一郎はそこに吸い込まれるように消えた。時間にしておよそ1秒ほど。先ほど目にした筈の鎌の刃が俺の前髪を切り裂いた。咄嗟に避けていなければ、首まで至っていただろう。俺は奴の腹に2、3撃、蹴りを入れる。奴の口からは唾液の混じった空気が吐き出され、あまりに痛いのか、少し悶絶していた。
鏡一郎「…ぐっ!!これが幻想神の力なのか…。ふざけんなよ…。僕はお前らみたいな化け物じゃないのに…!!No. 1を!!あのボロ人形を!!回収しに来ただけなのにッ!!」
漣「…おい。今なんて言った?」
鏡一郎「ア?だから、ボロ人形を回収しに来…ッ!!」
考えるよりも先に体が反応していた。俺の拳はより鋭く、より深く入る。奴の口からは鮮血が飛び散った。…最早、歯止めは効かない。その瞬間、どうにもできない憤りを感じ、佐久間鏡一郎を怒りのままに殴り、蹴っていた。周りの石は砕け散り、奴が倒れている場所は大きく円形に凹んでいた。
鏡一郎「ぐはぁ!!」
漣「お前に何がわかるッ!!彼女がボロボロなのはっ!!愛されたからだッ!!沢山、遊んだからだッ!!それを馬鹿にするお前を俺は許さないッ!!」
鏡一郎「クッソォォォ…ッ!!玄霧…様ァァァッ!!」
鏡一郎の体を地面に叩きつけた。奴はよろよろと立ち上がり、空に飛び立つが、俺は弾幕を前に打ち出し、奴に狙いを定める。…こんなところで新スペルの初披露とはなッ!!
漣「くらえッ!!語符『千と一夜を越え処刑』ッ!!」
最初は非力でも後になれば増殖し、奴を追い詰める。だが、奴には意地でもこれくらいしなければならないっ!!これぐらいやらないと気が済まないッ!!
鏡一郎「なんだぁ?これは…。こんな光の玉で何ができるッ!!」
そう言い、鏡一郎は空を縦横無尽に駆け回る光の球を嘲笑うかのような顔で余裕をかましながら避けまくる。だが、奴は知らなかった。玉はだんだんと多くなり、奴の逃げ場を塞ぐ。
鏡一郎「チッ!!なんだよッ!!この玉はッ!!うざったいんだよッ!!」
漣「…言っただろ?『処刑』ってな。」
鏡一郎「チクショォォォッ!!こんなところでッ!!こんなところデェェェェッ!!」
…アイツはもう終わりだ。これで全ての因果が終わる…ッ!?
?「極刑『裁きの針』」
…数百はあったろう。増えに増えた弾幕が何かに貫かられ、一撃で爆散した。…あれは糸か?それとも、針か?
?「…ダメですよ?こんなところで壊されてしまっては。」
鏡一郎「玄霧様ッ!!」
爆散した弾幕の煙の中から、緑色の瞳が此方を見ていた。口元は不快に歪み、奴の顔は笑みを浮かべていた。
漣「玄霧…逢魔ァァァッ!!」
逢魔「…怖い怖い。だが、ここでこの人を殺されてしまえば、計画が破綻しますからねぇ…。約束通り、No. 1を使い、皆殺しにします…。」
奴の体から糸が伸びる。崇めろと…讃えろと言わんばかりに奴はドヤ顔をし、狙いが定まらないかのように伸びる糸。
逢魔「…さぁ…愉快な愉快な殺戮ショーの始まりだ。」
では次回。
第一幕、完結です。
余談ですが、この異変、閑話休題を入れずに全部続けるか、閑話休題入れるかどっちがいいですかね?
ではでは〜。