天狗「殺せェェェェェッ!!」
ここは妖怪の山。天狗達は何者かを倒そうとしていた。天狗達の向かう道中、山道では見るも無残な光景が広がっていた。木にかかる天狗の死体。花を染める真紅の雨。飛んで行った天狗達は皆もれなく、何者かに切り裂かれた。
?「おいおい…。もっと強え奴は居ねえのか?相手との力の差をわからない奴がどれだけ向かってきても死ぬだけだぜ?」
大天狗「…ぐはっ…!!…き、貴様は…ッ!!」
烏天狗を統率する大天狗の胸から剣が引き抜かれる。真紅色に染められた長い刃が怪しく光る。男はその刃の血を払い、背中に携えている鞘に剣を入れる。そして、まだ、息のある大天狗の首を掴み、上に上げた。
大天狗「ガッ…!!」
?「…お前、大天狗か。あれまぁ…こんな天下の天狗様がこんな薄汚くなっちまって…。もう少し、骨があると期待していたが、飛んだ期待外れだぜ…。」
大天狗「…な、何故…貴様が…。」
?「…決まってんだろ?復讐だよ。復讐…。お前達はアイツが死んだのに何もしなかった…。その報いだよ…。報復さ!!アイツが死ぬのなら、いっそ、この郷ごと壊れちまえば良い…。」
大天狗の力なく倒れる身体を男は蹴り飛ばすと、弾幕を撃ち、消し飛ばした。意味ありげに男は高笑いをする。目からは涙が出ていた。ひたすらに笑った後は、その場からゆっくりと歩き、山道を男は降りた。その途中、ある人物が男を呼び止めた。
?「…何しに来た?射命丸文…。まさか…この俺を止めに来たのか?」
文「…えぇ…。そのまさか、ですよ」
?「…やめとけ。足が震えてるじゃないか。こうなるのが…オチだぜ?」
男は周りの天狗たちを指差して高笑いをした。文はその男を睨む。だが、足や体は震えていた。
?「圧倒的弱者に俺の欲求が解消できるわけがない。何も嬲り殺しなんて悪趣味なことをしたいわけじゃないからな。それに…顔なじみは殺したくない。」
文「…それは本心ですか?」
?「…半分本心、半分ジョークだ。お前を嬲り殺しで終わらせたくない。…人想いに一撃で…。」
剣を構える男。その目は真剣だが、何処か悲しげでもあった。文は扇を構えるが、内心、戦いたくない相手の為、その目には少し迷いがあった。吹き荒ぶ風が山の木々を鳴らす中、男の目に文が映る。全て…そう、男は全てを知っている。文も然り。何故、ここまで男を狂わせたのか、そして、何故、男はここまで荒んでしまったのかも…。
文「…目を覚ましてください。あの人が、ルナサさんが悲し「黙れッ!!」…。」
男は声を荒げた。
?「…お前に何がわかるんだ…ッ!!…ルナサが…悲しむだと?お前にあの子の感情がわかるのか…?俺が…もう少し強ければ…もう少し…早ければ…。あの子以外には何もいらない…!!何故だ…。何故ッ!!あの子は消えなければならなかったッ!!何故、この郷は守らなかったッ!!」
男の表情は怒りに歪んでいた。目はカッと開かれ、瞳孔も開いていた。顔は紅潮し、体からはおぞましい妖力が溢れ出ている。誰あろう、今、文が対峙している男はこの幻想郷で最強と謳われし博麗の巫女の男。その能力も実力も天井知らずにして、少し前まで味方だった男。
…先程まで声を獣の咆哮のように荒げていた男が俯いた。勿論、戦う気が失せたわけではない。文の体はとてつもない殺意の前に足が動けずにいた。
?「…あぁ…そうか…。消えたんじゃないよなぁ…。消したんだよなぁ…。この郷が…。俺の…大切なものを…跡形もなく…。」
男の声が自暴自棄気味に反響する。ゆらりゆらりと動くその姿はまさに地上に締め付け、捕らえられた亡霊のようだった。
文「…もうこんなことはやめてください…。貴方は…本来そんなことをするような人じゃないはずですよ…!!」
その姿がなんだかいたたまれなくなり、文は不安げな声を出した。そんな文を見る男の目に光はない。あるのは純黒の闇…。そこに一人の烏天狗が映っているだけ…。
文「…お願いです。まだ、メルランさん達だって…。」
?「…ルナサがいない幻想郷など必要ない…。消えろ。射命丸文。」
文の慈悲の言葉も虚空に響くだけ。男は刀を構え、戦意喪失した文に向かって力一杯振るった。男の顔に笑みも涙もない。真剣そのものであり、先程までの情けなどひとかけらもなかった。
文「…ガハッ…。」
一太刀で文の体を切り裂いた。文は空気と共に口から血を吐き出した。口からの吐血と体からの出血により、立つだけの体力を失っていた。体に力が入らないながらも、文は倒れたままに男を睨む。
?「…鬼の前に天狗なんてこんなものだ。椛と同じとこまで飛んできな。」
そう言って、男は文に背を向け、去っていた。薄れゆく意識の中で文はその人物の名を何度も何度も呼んだ。
文「…漣…さん…。」
レン?「…ここも。生き残りは居ない…。正真正銘、二人の世界だ。」
…それは突然起こった。春が来ない異変。枕元の紫電一閃がカチカチとうるさく震えた。俺はルナサ達とともに冥界へ行った。師匠には、紫電一閃の帯刀は禁止されていた。だが、俺はルナサ達を守りたかった。だから、近くに置いておくことにした。何かあったときのために…。
雪のように髪が白い少女が目の前にいた。二本の刀を帯刀していた。目は俺を鋭く睨んでいた。隙がないが、まだ未熟だと思った。ルナサ達を前に行かせ、彼女と俺は刀を交えた。久しぶりに血がたぎった。彼女は俺の見立てより強かったのだ。…その時だった。俺の中で何かが壊れた。忘れていたオヤジ譲りの鬼の力。…いや、違う。俺が鬼の力を手にしたのは、この剣にかけられた呪いだった。師匠の妹を手にかけたあまりに…。だが、あの人はそんなことをお構いなしに俺を育てた。この剣に彼女の力が宿っている。だから、鬼神に…なった。
鬼の力は戦いになり、俺を掌握した。簡単に…先程まで楽しんでいた彼女との戦いを終わらし、俺は向かった。だが、そこで見たのは惨劇だった。異変の首謀者を飲み込んだ桜はひたすらに周りを喰らい尽くした。屋敷も魔理沙も……ルナサも。
冷たくなった彼女…。騒霊ながらにも…霊ながらにも暖かかったのに…っ!!
レン?「…ふざけんなよ…ッ!!」
?「…大丈夫。私がいるじゃない。レンさん。」
レン「…またお前か。レイム。」
桜は俺とレイムでぶっ倒した。それからだ。レイムが俺に言い寄ってくるようになったのは…。彼女なら愛してくれる…。でも、ルナサを失った喪失感は彼女では補えなかった。
レン「…お前と俺は付き合えない。」
レイム「…また、ルナサ?」
レイムの手が俺の手に重なる。優しい声で俺に諭すようにレイムは言う。
レイム「…でも、愛さないなんて言ってるけれど。ここに来てくれているじゃない。この、博麗神社にね。」
レイムの囁き声が耳に響く。…ただただ鬱陶しい。蒼白の巫女…博麗レイム。人の女…。俺を虚無から救おうともがく少女…。結局は人か…。
レン「…違う。此処以外は全て、俺が壊した。俺が殺した。お前以外は全てな。」
レイム「…ユカリもやっちゃったしねぇ…。この郷に残っているのは、私と貴方の二人だけ。不死身の者でさえも、貴方の大切な者でさえも。」
レン「…口を閉じろ。お前だって簡単に八つ裂きに出来るのだぞ。」
俺はレイムを睨みつける。うるさい女だ。だが、奴は俺に向かって微笑み返す。不思議な奴だ…。この感覚は…。
忘れろ…。もう、思い出すなッ!!胸に手をやれば、ドクドクとうるさくこだまする。額から汗が流れ落ちる。…汗じゃない?これは…。
レイム「…どうしたの?貴方が泣くなんて珍しい。」
…大粒の…涙?
レン「…何故だ…。何故…こんな気持ちに…なる…。俺は…ッ!!捨てたッ!!」
頭が痛い。あの時と同じだ…ッ!!鬼の力が…俺を支配する…ッ!!嗚呼…ルナサ・プリズムリバー…。君のことを想い、今は最後の命を捧げよう…。
レイム「…そう。殺すのね。良いわ。…殺して。貴方に殺されるなら、本望よ。」
レン「…。」
…君が此処に居れば、この愚かな喜劇を終わらせられるのだろう。傷だらけの心を癒せるだろう。…俺が氷川レンで…居られる…その日までに…もう一度…君の…ヴァイオリンを…聞きた…かっ…た…。
暗闇の中、玄霧逢魔は意味ありげにニヤリと笑う。…死屍累々、最強にして最後の剣。それを見つけた…。
逢魔「鏡一郎君。…これでお咎めなしと言うわけではないですからね…。」
鏡一郎「御意。では、手筈通りに…。」
ひざまづき、平伏す鏡一郎の顔は苦虫を噛み潰したようだった。逢魔は知っているか、知らないかはわからないが、まるで鏡一郎を…いや、確実に鏡一郎のことを下に見ていた。現に下であるのだ。それ故に正しいことなのだ。だが、その行為が鏡一郎を苛立たせた。プライドを刺激したのだ。
鏡一郎「チッ…!!一つ聞きたいッ!!」
圧倒的な威圧感の中、鏡一郎は今、部屋を去ろうとする逢魔に声を掛けた。逢魔は決して後ろを振り向かず、その場に立ち止まった。部屋を月明かりが照らす。開いた窓からは夜風が吹き、逢魔の外套を揺らした。
逢魔「…なんでしょう。」
逢魔の声は酷く冷たかった。冷たく、低く…全てを震わせるほどの圧力を感じた。しかし、鏡一郎は逃げたい気持ち、恐怖心を抑え、逢魔を睨んだ。
逢魔「…ほお?睨みますか。この僕を…。」
鏡一郎「…我々は…もし、貴方の改革が終われば…どうなるの…でしょうか…。」
逢魔「…。」
逢魔が此方に近づいてくる…。鏡一郎は怖くて前が見えない。逢魔の手が鏡一郎の頭に…頰に…そして、首に伸びる。
鏡一郎「ガッ…!!」
逢魔の細い腕が鏡一郎の首を締める。まるで骨のように細い腕だが、その手は鏡一郎の気道を完全に塞ぎ、そして、成人男性一人を宙に持ち上げた。逢魔の目はその息苦しそうにもがく鏡一郎を不思議そうに見ていた。その目はまるで緑のビー玉のように透き通っていた。
逢魔「…何をもがいているのですか?死ぬのが…怖いのですか?大丈夫ですよ…。君が思うより、死は怖くない…。本当に怖いのは…無知です。無知は争いを生み、死を怖がらせる…。知らないと言うことは、実に怖い…。覚えておきなさい?…無知は死よりも争いよりも、そして…無謀よりも…怖い。」
鏡一郎「ガッ…わ、わかり…。」
逢魔の声は優しかった。優しすぎた。それ故に鏡一郎の恐怖を掻き立てた。急に支えを失い、硬い木の床に重力に従い、落ちた。先程まで入らなかった空気が肺に入る。逢魔の目はいつも透き通っている。だからこそ、怖いのだ。透き通っていて、考えがわからない。逢魔の去る足音に鏡一郎はホッとしていた。だが、その顔は怒りに満ちていた。拳を固く握っている。
鏡一郎「…この僕を…小物扱い…しやがってぇ〜…!!」
…床を殴りつける鏡一郎の拳の音だけがその部屋にこだましていた…。
では、次回!!
次回からようやく物語が動き出します。
ではでは〜。