鏡一郎「オラオラオラァッ!!」
カキンカキンと金属同士のぶつかる音が聞こえる。鏡一郎は自身の鎌『デュベル』を型もなく、一心不乱に振り回している。対する月夜見は全てをステップで避けたり、赤く光る刃『酔狂満月』で振り払ったりしている。
鏡一郎「おいおい。イキってた割には攻撃できてねえじゃねえかッ!!」
月夜見「…。」
月夜見は一度後ろに飛び、鎌の当たらない位置まで下がった。そして、抜刀剣の構えに入った。デュベルの刃が月夜見へと近づく。鏡一郎がデュベルの刃を上へと振り上げたその瞬間、閃光の如く素早い月夜見の一閃が鏡一郎の肩を切り裂いた。
鏡一郎「クッソッ…!!」
月夜見「…俺は情けはかけんぞ。」
右肩を押さえ、デュベルを手放し、膝から崩れ落ちた鏡一郎首に月夜見は刀の刃を突きつけた。鏡一郎は諦めたのか、一点を見つめて動かなかった。
鏡一郎「…どうした?やれよ。」
月夜見「…貴様には聞かなければならないことが山ほどある。素直に答えれば、命まではとらん。」
鏡一郎「…情けはかけねぇんだろ?」
月夜見は鏡一郎を嘲笑うかのようにニヤリと笑った。鏡一郎は月夜見のその表情にイラッと来たのか、舌打ちをし、素直に話し始めた。
妖夢「ハァァァッ!!」
ミツヒデ「ふんっ!!」
妖夢の剣をミツヒデの長身刀『錦上添花』が弾く。妖夢は一本だけで戦っているがミツヒデは二刀流。左の錦上添花が刃を弾き、右のもう一本、『皆伝』が妖夢の首を狙う。
妖夢はその銀色に輝く刃をスレスレで避け、髪が少し切れるのみで抑えるとまた刀を振り上げた。
振り下ろされた刃を皆伝の刃が受け止める。妖夢は力一杯に刀を振るおうとするが、男、ミツヒデの筋骨隆々の腕に握られた刃は強固である為、刀同士の衝突で火花が出るのみだった。
妖夢「ぐっ…!!」
ミツヒデ「…想いが足りんッ!!想いが足りなければ、刀も軽くなるだけだッ!!」
妖夢「…貴方に教えを乞うつもりはありませんッ!!」
妖夢の刀は横一線を描く。
ミツヒデはそれを跳んで避け、体を捻り、反動をつけ、横一線を描く。
瞬間、妖夢はもう一本の『白楼剣』で二本の刃をガードした。
ミツヒデ「ほう…。」
妖夢「…貴方の方こそ、何か気になることがあるんですか?剣に力が乗ってませんよッ!!」
ミツヒデ「…何!?」
妖夢の楼観剣がミツヒデの錦上添花を跳ね除け、妖夢の白楼剣のみねがミツヒデの右肩に当たった。
ミツヒデ「ぐっ…。」
ミツヒデは、衝撃に刀を空へと投げ捨て、その刃は地へと刺さった。ミツヒデは右肩を押さえ、膝をつく。そして、妖夢はそんなミツヒデに楼観剣の剣先を向けた。
妖夢「…話してくれませんか。何故、このようなことをするのかを。」
ミツヒデ「…聞いても貴君の望むような答えではないぞ。」
妖夢「刀を交えて分かりました。貴方のような人が…なんの意味も無しにこんなことをするなんて…考えられないんです。だから…教えてください。」
妖夢の刀は震えていた。他の人間ならそれだけでわかるのかと思うかもしれない。だが、人一倍優しい妖夢なのだ。彼女の顔は少し悲しげな表情だった。そんな表情に上の空だったミツヒデもふっと笑っていた。
ミツヒデ「…俺にとって、主人様は一時的に仕えているだけの存在だ。」
妖夢「…つまり、これは本意ではないと?」
ミツヒデは首を縦に振った。
ミツヒデ「俺にはこれが悪か正義かはわからない。なぜなら、俺は仕えている主人の道具に過ぎないからだ。だから、俺は仕えている主人、玄霧逢魔の命令により、刀を振るう。元は廃れかけた村で刀の師範をしていた。…嗚呼、だがそんなことはどうでも良いのだ。俺は幾度となく刀を折ってきた。今、刀を振るうに意味は無し。」
ミツヒデは妖夢の刀を素手で掴み、立ち上がった。
妖夢「な、何を…ッ!!」
ミツヒデ「遠い昔に痛覚は失っているんだ。だから、こうやって刃を素手に触れても痛みを感じない。」
そう言って寂しげにミツヒデは笑い、跳んで行った刀のところへ行き、今一度刀を構えた。
ミツヒデ「…俺は刀を振るうしか能のない人間だ。この刃が俺を俺として尊重してくれる。俺にはこれと彼女しかいないんだ…。」
妖夢「…彼女?」
ミツヒデ「…時同じくして、村は大規模な飢饉に見舞われた。俺は一時的に飢饉から救われるよう発展した街へと一人行った。だが、街の長は俺たちを嘲笑い、見捨てた。その態度に落胆した俺は村へと帰ることにした。その時だった。俺の前に男が現れ、こう言ったのだ。『…復讐をしたくはありませんか?』と。俺は『復讐?』と聞いた。」
ミツヒデは剣を下に向け、淡々と話し出した。妖夢も剣をしまい、その話を静かに聞いていた。静かに吹く風が二人の髪を靡かせた。
ミツヒデ「男の風貌は非常に奇妙だった。黒い外套から見える手足は細く白かった。その色は夜の闇の中では非常に異質で、月明かりに照らされた美しい緑の目を見ていると何を考えているのかわからなかった。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
男は言った。
?『ええ。復讐です。君は村を救いたかった。なのに、街の人間は答えてくれなかった。なんと、非人道的な行為か。お気持ち、お察しします。だからこそ、その怒りと恨みをかの者たちにぶつけるのです。』
俺はその男のことが終始信じられなかった。だから、俺は反論した。
ミツヒデ『…争いは争いしか生まん。別に俺は奴らを殺したいわけじゃないからな。それに…。』
?『…僕のことが信じられませんか。大丈夫です。信じなくても良い。だけど、手を貸してくれるならば…。愚かなる人類に復讐をする為ならば、君の願いを叶えてあげましょう。』
男は高らかに笑った。その鼻につく笑いと饒舌な男の言葉が俺はにわかには信じられなかった。俺は内心穏やかではなくなっていくのを感じた。だが、第六感は訴えた。この男はまともに相手をしなければならない程、危険であると。
ミツヒデ『それで…俺の村は、子供たちは救えるのか?』
俺は一か八か悪魔の誘いに乗ることにした。男はニヤリと笑い、無言でこくりと頷いた。それからだ。俺が人を殺し始めたのは…。
ミツヒデ「…男は…玄霧逢魔という男はこの世のなによりも危険だ。奴は俺たちの願いを事細かに実現し始めた。最古参である俺はいろんな願いを見てきた。ある者は左腕を犠牲に家族を作り、またある者は虐めから逃れるために力を手に入れた。そのうちの一人が…彼女だ。彼女は寿命を間近に迎えた13にも満たない少女だった。その子は生きたいと男に祈った。男はその意思や命を長寿であった大蛇に移し替え、その少女の見た目に作り替えることでその少女の願いを実現させた。そのかわり、男は少女に力を与えた。強大な力はその身を焦がす。俺はその少女に仕えることにした。」
ミツヒデは真顔で妖夢を見た。その顔は紛いなき真顔であったが、少しだけ悲しげに見えた。
妖夢「…それが彼女…ですか?」
ミツヒデ「…俺は彼女を今の元気のまま、元に戻したい。これは俺から始まった業だ。その償いとして、俺は主人様の側で主人様を超えるッ!!彼女を救い出すッ!!…この力はそのための力だ。」
妖夢「…。」
ミツヒデ「…どうだ?これが貴君の求めた答えだ。それを聞いてもなお、障害と化すのならばッ!!…我が迷い無き刃で貴君をねじ伏せるッ!!」
ミツヒデは声を荒げ、地面を蹴った。空に飛び、上空で体を捻り、二本の剣を並行に妖夢に叩き込んだ。
妖夢はその剣を刃で受け止め、踏ん張った。脚に力を入れ、ミツヒデを睨む。
ミツヒデ「やはり、貴君は面白いッ!!我が迷いなき刃を簡単に受け止めるとはッ!!」
ミツヒデは後ろに下がり、妖夢に向かって狂気的な笑いを見せた。だが、妖夢はそんなミツヒデを睨んだ。
妖夢「…貴方は何もわかっていません。」
ミツヒデ「…何?」
妖夢のボソリと呟いた声にミツヒデは少しだけ気分を悪くした。なにせ、この戦いを楽しく思っているミツヒデにとっては妖夢のその行動は水を差すものだったからだ。
妖夢「…貴方は本当にそれを望んでいるのですか?本当にこれで良かったんですか?まるでそれしか無かったような言い方です。でも、ほかに方法はあったのではありませんかッ!!」
ミツヒデ「…ほう。ならば、貴様ならばどうした。」
妖夢「…え?」
ミツヒデ「…言えんか。俺を否定して、自身は答えを出せんか。それは誰にだって出来るぞ。諭すのならば、先ずは答えを探さなければならん。…俺もそうだった。これ以外の方法を見つけることが…できなかった。だが、俺は運命に争いたい。」
妖夢「…話があっちこっち言ってますね。何が言いたいんですか?」
ミツヒデは一呼吸置いて、目を見開いた。その濃紺の瞳に映るのは妖夢ではなく、ただ一人の少女だった。ミツヒデの剣先は下へと下がる。もう彼に戦う気はないように妖夢には思えた。
ミツヒデ「…貴君は覚悟が出来ているようだな。太刀筋に迷いがない。だが、一人前でもない。成長するだけの力がある。未熟だ。軟弱な鉄、軟鉄だ。ここからなんにでもなれるな。」
妖夢「…いきなりなんです?やっぱり、何かあるんですね。」
ミツヒデ「…汚染の力はなによりも強い。不死なる者にも永久の痛みを与え、生ある者には確実に死へと誘う。嗚呼、そんな力を幼子が持って何になる。剰え、それは子どもぞ?壊れぬ筈がない。彼女は自分自身も…。」
妖夢「…ッ!?なんですか!?あの…草木の異常は…ッ!!」
妖夢が指を指した。ミツヒデはそこを見て、言葉を失った。緑色に生い茂る森がいつのまにか、紫色に染まり、その場所の木々は腐食され、朽ちていた。鳥はその異常に早くに気づき、飛び出した。
ミツヒデ「…発動したッ…。」
ミツヒデはそれだけ言い、走り出した。妖夢はその異常さに気づき、その場を後にした。
リリア「う〜ん。面白そうなことは無いわねぇ…。でも…。」
逢魔「…おや?君は戦わないのですか?」
逢魔に腕を組み、切り立った岩山の崖から全てを見ていた。リリアはその横で空に飛びながら、興味深そうに見ていた。
リリア「戦いたいけれど…。私の能力は広範囲だと逆にこっちに不利になるのよ。あの子と一緒でね。」
逢魔「…サキュバス。君は煩わしいですね。僕の計画にも加味せず、かといって彼のように邪魔もせず…。嗚呼…本当に煩わしい。」
逢魔は自由に動くリリアの行動に怒るわけでも落胆するわけでもなく、ニヤリと歯を剥き出しにして笑った。
逢魔「…だが、ミツヒデもまた煩わしい。彼の能力もまた諸刃の剣。我々はそんな溜まり場なんですよ。…弱者は弱者故の、強者は強者故の弱点がある。弱点がない生き物なんてあり得ないんですよ。」
リリア「ま、それもそうね。弱点がない無敵同士の戦いなんて面白くないものねぇ〜。」
逢魔「…ええ。不死者であろうとなんだろうと、死ぬからこそ不死者なのです。死んでもなお、その死んだという状態を無効化した者を不死者という。不死者とて無敵ではない。痛みもあれば、苦しさもある。故に無敵ではないのです。」
リリア「つまりは、貴方が言いたいのは今回のメンバーはあえて集めたと?」
逢魔「…それはご想像にお任せしますよ。ただ僕の能力は二つではない。八雲紫に言ったのは虚言ではないが、嘘でもある。真実でもないが、誠でもある。玄霧逢魔という存在は美の骨頂であり、醜悪である。不死であるが、はかない命でもある。…そう、そこまでの存在でしかないのです。それに従ったのは…君たちですからね。」
逢魔はほくそ笑むように笑った。リリアはその話を聞き、彼を恐ろしくも素晴らしく思った。
リリア「…あら、他人事ね。皆んな、貴方を信じて来たかもしれないじゃない?」
逢魔「信じる…ですか。少なくとも、そんな世迷言はありえませんね。我々のような友とも同じ意志を持つ者とも言えない…奇妙な関係には存在しないのですよ。信用という不確かな存在は。あるのは…欲望、ただ一つ。欲望の中では冷静な判断など無に帰すのです。だから、死体の山…なんですよ。生きる意味を失くした亡者の群衆。それが我々なのです。」
では次回。
ではでは〜。