…腹が減った。
ちょうど時刻はおやつの時間だ。俺には好きな甘味がある。お汁粉とか餡蜜とかでも良いが、とりわけ好きなのは団子だ。そこまで甘くなく、かといって甘さがないわけでもない。ほのかな甘さに心を打たれて三千里。俺は月のウサギの団子よりもうまい団子屋を探して、ふらふらと放浪している。行くあてがないにしろ、少しの備蓄と携帯食料など何があっても良いようにはしてあるのだ。
凰牙「…?」
…嗚呼、もう桜の散る時期か。桜の花びらが俺の目の前を飛び散った。桜が散る時期は、あの日を思い出すな。
?(お願い…。私の分まで…生きて…。強く…ッ…なって…。)
ノイズが走っているが、確実に彼女の声だ。俺は…飲まされたからな。不死身の薬品を…。
凰牙「…チッ…。」
アイツのせいで好きでもない甘味ばかり追いかけるようになってしまった。…まぁ、団子は好きだけど。
?「や、やめてくださいっ!!」
…人里にもこんな廃れた場所があったのか。それはそれでいい。だが、なぜ、二十歳にも満たない少女が筋骨隆々の男、2人に連れて行かれているんだ?…まぁ、いい。
凰牙「もし。」
男1「ア?なんだいなんだい?お兄さん。迷っちまったのかい?」
…あぁ。腐れ外道のタイプか。まぁ、世の中にはそんな人間だっているだろう。今は、それを考えている暇はない。背と腹がくっつきそうな今の状況、何者にも縋りたいのだ。
凰牙「美味い団子屋を知っていないか?」
男2「団子ォ?団子だとよ!!」
男1「お兄さん、団子よりも女の子を堪能していきませんか?よりどりみどりですよ?おっきい女の子も上手い女の子も…お兄さんの思うがまま…。悪くない話でしょ?」
…男がニヤニヤといけすかない表情をして、俺を見る。おっきいとは背のことか?俺はそういう目で女を見たことがないが…。
凰牙「…団子を馬鹿にするのか?」
男1「ですから〜。団子よりも女の子…。例えば、この子っ!!新しく入った付喪神の子でしてね?あと、ほら!!もう1人、居るのですよ。姉妹でしてね?それで…。」
凰牙「女よりも団子だ。貴様は今、団子を馬鹿にした。違えか?」
…俺は男を睨んだ。筋骨隆々の男2人は俺を見るなり顔を青くしてその場にヘタレこんだ。1人は尻尾を巻いて逃げていったが、もう1人は汗を流しながら、俺に質問し始めた。
男1「あ、アンタはなんなんだッ!!」
凰牙「ア?…テメェが外道なら、俺も外道だ。種類は違えがな。」
また睨みをきかせてやると、男は尻尾を巻いて逃げていった。置いて行かれた2人の女はキョトンとしている。俺は2人に近づいていった。…怯えても良い。俺は正義の味方になるつもりはないからな。
?「あの…。助けていただきありがとうございましたっ!!」
凰牙「…ア?…礼なんて言うな。」
?「え?」
…礼なんて言ったら、俺が良いやつみたいじゃないか。俺みたいなやつは外道で良いんだよ。ド派手に外道でいてやるってことさ。
凰牙「それはそうと…。お前ら、美味い団子屋を知っていないか?」
?「お、お団子屋…ですか?」
髪が薄めの紫色の女が首を捻って考え始めた。手には琵琶を頭にはビワの花飾りをつけている。もう1人はさっきの女より髪が短く、近くに琴が浮いている。…日本舞踊の楽団かなんかか?
?「ごめんなさい。私たちもここに生まれたばかりで詳しくは知らないんです。」
凰牙「…そうか。じゃあな。」
俺は立ち去ろうとすると、視界の端でさっきの女たちがオロオロと動いているのがわかった。…なんというか、気になる。
凰牙「おい。テメェら、これからどうするんだ?」
?「…えへへ。それが何にも決めてなくて…。さっきの人たちに手間取ってたら、生まれた場所も忘れちゃって…。」
短髪の方が答える。余裕そうに見えるが、長髪の方はその短髪の女を優しめではあるが叱っているところを見る限り、やはり余裕がない。と、長髪の女が俺に話しかける。
?「お兄さんは何をしてる方なんですか?」
凰牙「…別に気にするほどのことじゃねえ。ただの流浪人だ。そういうテメェらは付喪神じゃねえか。なんでこんなところに…。」
?「いやぁ〜…。あはは…。実は何もわからないんです。私たち、前はものだったので…。」
と、短髪の女が申し訳なさそうに言っている。
…この2人、どこか彼女に似ている。顔や髪型は短髪の方だろう。だが、性格はしっかり者の長髪の方だろうか。
凰牙「…テメェら、名前は?」
?「弁弁です。」
?「八橋でーす!!」
…名前はわかるのか。弁弁と言った少女は礼儀正しくお辞儀をし、八橋と言った少女は元気よく手をハーイと挙げていた。
凰牙「ほお?」
八橋「お兄さんは?」
凰牙「士道凰牙だ。」
…コイツらは金も住むところも無しにこれから生きて行かなきゃならないのか。まぁ、それもまた人生だよな。
弁弁「そうだ。お団子屋なんですけど。」
凰牙「ア?」
気怠げに反応する俺。団子屋、知らないじゃなかったのかと聞くと元の持ち主と行った外の所なら覚えていると言う。俺が行けないじゃないかと指摘すると顔を真っ赤に染めやがった。…まぁ、教えてくれたのには変わらないか。
凰牙「行くぞ。」
弁弁「え?」
凰牙「…情報の礼だ。この前行った美味い甘味の店まで行く。食いたきゃついてこい。」
2人は目を輝かせ、俺についてきた。女は全く甘味が好きな奴らが多い。全てとは言わないが…。
シャド「…。」
サンドラ・アルカディア、もとい、シャドだ。今は太陽の畑まで来ている。果たして、今の私をメディが受け入れてくれるのかはわからない。
幽香「すっかり潮らしくなっちゃって…。女の子ねえ。」
シャド「…う、うるさい。」
幽香が私の頬を指で突っつく。本人曰く、柔らかく帰ってくる反動が心地よいらしい。…知るか、そんなこと。噛み付いてやることもしばしばある。
幽香「…ほら、行くわよ。」
シャド「ま、待て!!こ、心の準備が…!!」
そんなの知らないと言わんばかりに、幽香が扉を開く。すると中から出てきたメディが勢いよく幽香に飛びついてきた。こう見ると少し歳の離れた姉妹だよな。
幽香「ただいま!!メディ。」
メディスン「お帰りなさーい!!…あれ?シャドは?」
…まぁ、そうなるよな。
幽香「シャド?いるじゃない。」
メディスン「…あっ。ほんとだ。シャド〜。」
と、私の元へとメディが抱きついてきた。私はびっくりした。姿、形、更には性別までもが彼女の知ってるシャドとは違っているのに…。
シャド「なんで…。」
メディスン「そりゃあ、いっぱい一緒に居たんだもん。わかるよ。シャドだって。」
…全く…なんでそんなんでわかるんだよ…。
私は前よりも華奢な腕で彼女の小さな体を包み込んだ。
メディスン「…シャド、泣いてるの?」
…前におんなじようなことがあったな。あの時私は理不尽にキレたっけ。私はメディに微笑みかけた。傾いた日の光が私たちを優しく照らした。
シャド「…うん。嬉しいんだ。メディにわかってもらえて。」
メディスン「えへへ。」
メディの頭を優しく優しく撫でた。
…目から大粒の涙が流れる。久しく泣くことなんて無かったのにな。女の姿を取り戻したのが原因だろうか。悪魔王が…笑わせる。だが、後から幽香に聞くとその時の私のことをこう言った。
…まるで『天使』のようだったと。
では次回。ではでは〜。