…鳴る。鳴る。ピアノの音。
淡々となるピアノの音。細い指が凛とした音を奏でる。男は言った。
『ピアノを鳴らすのは誰でも出来る。だが、この演奏ができるのは我輩のみだ』と。
決してこの男は有名なピアニストではない。俗に言うただの成金だ。部屋には世界各地で買い求めた有名な絵画や美術品の数々がそれぞれを引き立てるように並べられていた。
グラート「…集まったか。軍隊長諸君。」
?「…プレジデントグラート。一から五番隊、全員集結致しました。」
黒く光り輝くオールバックの髪、整えられた眉、切り揃えられた髭。その姿はまさにジェントルマンである。名を『グラート』。機動隊『シリウス』を束ねる王である。
グラートはピアノを奏でるのをやめ、スッと立ち上がる。そして、光り輝く革靴で、赤い絨毯の上を歩き、お気に入りの赤いソファの上に座る。男の黒い目には椅子に座る5人の男女の姿が写っていた。
グラート「諸君。感謝しよう。我輩の要請から五分と立たず、5人全員が集まってくれた。」
?「…勿体ないお言葉です。プレジデントグラート。それにしても、普段は気まぐれで会議の参加しない5番の人間がここにいるとは…。流石はプレジデントですわ。」
右から4番目の女が言う。それに対し、逆立った銀髪の男が舌打ちを打った。
グラート「はっはっはっ。そうは言ってくれるな?エレーナ。レジネスも多忙の中来てくれたのだ。それにレジネスは我輩に匹敵するほどの実力者だぞ?」
エレーナ「とはいえ、このような男どもの中に私を置いておくのはいくらプレジデントの要請と言えど、酷ですわ。私のような華麗なる花に男どもの汗臭い悪臭がうつったらあなた方、責任が取れて?」
薄紫色の腰までの長い髪の女、エレーナが怪訝そうな顔を示した。それに対し、5番目と2番目の男はエレーナを睨み、3番目とグラートは爽やかに笑い、一番右の男は興味なさそうにしていた。
?「ハッハッハッ。面白いのう。流石は〈魅了する傲慢〉エレーナ。何処まで行っても傲慢じゃのう?」
エレーナ「あら?誰の許しを得て喋っているのかしら?老いぼれ。あなたの寄越した…ライトシープでしたっけ?あんな無能を今回の作戦に参加させるなんて…どういう神経してるのかしら。」
エレーナの声に3番目の眼鏡をかけた白い髪の男はニヤッと笑った。
?「老いぼれ…のう。ワシはまだジャパンと同じ年しか生きておらぬぞ?」
エレーナ「さっさとくたばりなさい?私の美の前に。」
?「怖いのう。最近の若者は…。だが、ワシの命は我らがゴッド。グラート殿に預けた。簡単にくたばっては強欲の名が泣くのう。」
男はまるでライトシープが少し年老いたような見た目をしていた。エレーナと男のやりとりにグラートが笑った。
グラート「おいおい、喧嘩はしてくれるなよ?折角、5人揃ったんだ。それにエレーナも言い過ぎだぞ?高齢者は敬わんとな。」
エレーナ「はぁい…。」
エレーナは不満そうに言った。そのやりとりが終わった後、先程のレジネスと呼ばれた男が気怠げな様子でグラートに声をかけた。
レジネス「んで、プレジデント。俺らはなんで集められたんで?」
グラート「わかるだろう?聞かなくてもな。特にお前には。」
レジネス「俺たち、五番隊が出るくらい厄介な奴が例の箱庭にいるんで?そうでなくとも、こんな大袈裟にすることねーでしょ。たかだか、妖怪の作った箱庭でしょ?一番弱い3番隊だけでも、処理できることでは?」
レジネスの気怠げな低い声にグラートは意味ありげに笑った。ここで右から2番目の男が口を開いた。
?「レジネス。グラート様相手にその口の聞き方はなってねえ。」
レジネス「…黙ってろ。フューリー。テメェと同じ空気を吸ってるってだけで胸糞悪い。」
フューリー「俺もだ。レジネス。貴様と同じ人間ってだけで虫唾が走る。」
?「やれやれ。ワシ以外にしっかり者はおらんのかねぇ…。なぁ?ラスト。」
真ん中の男が一番右の青髪の男、ラストに声をかけた。ラストは目を開けるが、興味なさそうな表情を浮かべていた。
ラスト「…僕は使命を全うする。それだけだ。グリード。」
グリード「まっ。貴様ら兄弟はそう言うわな。しかし、〈無欲なる色欲〉か。矛盾も矛盾。貴様の存在がワシには理解できんわい。」
ラスト「理解を求めたつもりはない。プレジデントグラート。使命を。」
ラストの抑揚のない声が室内に響く。一部始終を見ていたグラートはニヤリと笑い、よく通る低い声を出した。
グラート「ラスト、少し早計すぎる。何も今から行くのではないぞ。箱庭の守りはとても強固だ。博麗大結界は我々、外部からの干渉を遮断する強固な盾。この方舟〈アーク〉でも通過するにかなりの力と負担がかかる。だからこそ、アレは更なる手を尽くして、No. 1の取り巻きたちを始末しようとしている。まだ、我輩ら、プロが動く時間ではないと考えるが?」
グリード「流石はゴッド。では、本日はどのような…。」
グラートはソファの上で長い足を組む。彼の黒色の目はキラリと輝き、口を開いた。
グラート「我輩ら、シリウスは持たざる者。勝ち組ではないが、敗北者でもない。全ては我輩の手の上…。そう、全てな。」
先ほどから少し時間がたった。グラート、グリード、エレーナ、そして、レジネスが室内に留まっていた。4人の紅茶の湯気が上へ上へと立ち昇る。
レジネス「んで、プレジデント。例の計画はどうなってる?」
レジネスの気怠げな低い声が室内にこだまする。その声を待っていたかのように、グラートは紅茶をガラスの机に置き、ニヤリと笑った。
グラート「知りたいかい?なぁに。順調さ。」
エレーナ「そんなこともわからないの?これだから、強いだけの脳筋は。」
レジネス「うるせぇ…。厚化粧のババアに言われたくねえな。」
レジネスのこれまた気怠げな皮肉った暴言にエレーナは怒りの声を上げる。それをお茶菓子としてグリードとグラートは楽しむのが日課である。
グリード「ハッハッハッ!!実にいいのう。男前と美人の喧嘩っていうのは。」
レジネス「うるせぇ。ジジイ。別にテメェのためにこの厚化粧を罵ってるわけじゃねえよ。…てか、それすらもめんどくせえ。」
グラート「ハッハッハッ!!…しかし、氷川漣…か。」
グラートの声に喧嘩をやめ、皆がそちらを注目した。先程の笑みとは違い、真剣になったグラートの表情に3人の笑みが消えた。
グラート「…敵ではないが、ラストとフューリーに行かせるか。奴らの能力ならば、取り巻きどもを殲滅するのにそう時間は掛からんだろう。」
エレーナ「えっ!?何故ですか!!私たちでも簡単に倒せますわ!!プレジデントの為なら例え卑劣な行為でも…!!」
エレーナの嘆願にグラート…ではなく、隣で聞いていたレジネスがくだらないと吐き捨てた。目を見開き、怒っているような表情でエレーナは隣のレジネスを見た。グラートとグリードはその様子をニヤリと笑い、見ていた。
エレーナ「くだらないってなんなのよ!!貴方はプレジデントのお役に立ちたいとは思わないの!?」
レジネス「キンキンキンキン…うるせえよ…。ハァ…。めんどくせえ…。良いか?テメェがこんなこともわからねえ屑だとは思わねえが、一応、説明してやる。俺たちが出るのは最後の最後。プレジデントが出るのはその最後だ。それに、フューリーはともかく、ラストは強え。アイツ1人でも下手な小隊はぶっ壊れちまう。それでも壊れなかったら俺たち大人が出れば良いって話だ。わかったか?年増。」
エレーナ「キィィィッ!!なんなのよッ!!アンタは見えてないからって…ッ!!」
レジネス「完全に見えねえわけじゃねえ。ただ淡く見えるだけだ。そういうテメェは悪口ばっかしっかり聞こえやがって…。」
グラート「まぁまぁ。そこまでにしておけ。…紅茶が冷めてしまうだろう?」
そう言ってグラートは紅茶を一飲みして感傷に浸るかのように目を閉じた。グラートは息を吸い込み、そして吐き出すとまたピアノのところまで歩き出し、そして、鍵盤を思うがままに叩き奏でるのであった。
今日は色々するかもです。
SCPとかSCPとかSCPとか…。