シャド「…。」
初めて完膚なきまでに叩き潰された。忌々しい呪いが私の魔力を抑える代わりに体術面では私を支えてくれていた。全く、皮肉だね。私が3人の中で一番弱いなんて…。
幽香「なぁに、浮かない顔してんのよ。」
シャド「…幽香。」
同居人の声に思わず、苛立ってしまう。ちゃんとした睡眠をとったのは何日ぶりだろうか。そのせいで体が寝ることを拒んでいる。寝てしまえば、レンレンも幽香も魔理沙も…そして、メディスンさえも消えてしまいそうな…。姿が変わった時から怖いのだ。長い生の中ではごく僅かな時間だというのに…。
幽香「てか、いつまで私の服を使ってるつもりよ。無限にクローゼットから出てくるわけじゃないのよ?んで、あの時の可愛い服はどうしたのよ。あの戦いが終わってから、着ないで置いておいて。」
シャド「むっ。うるさいなぁ…。あの服見てるとさ、クソ親父のこと思い出してムシャクシャしちゃうの。…あぁ!!もうっ!!辛気臭い話はおしまいッ!!」
幽香「はいはい。…で?何悩んでたのよ。」
…他愛もないことだ。私は戦闘向きじゃない。氷は炎と違って変幻自在ではないのだ。これではレンレンを超えることは愚か、今まで通りに戦うことも出来ない。
幽香「…またくだらないことを。アンタ、一回、幻想郷を壊そうとしてたくせに?」
シャド「うっ…!!ま、まぁ?あの時は調子乗ってたし…?」
幽香「アンタ、そういうくせあるもんね。」
…幽香は優しく笑う。だが、その姿はどこか、遠い記憶の母に酷似していた。名前も力もわからない。声も姿もおぼろげだ。母は私に似ているだろうか。
幽香「アンタ、醤油は?」
シャド「…いる。」
月夜見「…珍しいな。貴様が俺を訪ねるとは。」
恐らく、コイツが一番近い。私にも、レンレンにも近く、そして、何ものにも影響されないのがコイツだ。慣れない畳の床に胡座をかいて座る。天魔である和泉が私にお茶を出してくれた。
月夜見「…やけに神妙な面持ちだな。士道凰牙の圧倒的な境地に臆したか。」
シャド「…氷で炎を超えることは不可能だって。戦闘において、私は月夜見より弱いと思った。この姿になって、魔力が効かない相手を初めて目にして…。」
月夜見「…唐突に訪ねてきたと思えば、そんなくだらないことか。はっきりと言う。今の貴様に戦場に立つ資格は無い。」
…容赦ない言葉。優しさだけでなく、時に自身を奮い立たせる為には辛辣な言葉も必要だ。月夜見は幼く見える容姿に関わらず、相手を威圧するかのような雰囲気を醸し出していた。一睨みでガッと心臓を掴まれるような感覚を覚えた。
月夜見「…氷で炎を超える。だれが不可能と決めつけた。俺も能力には苦しめられた。力を操るとはそう言うことだ。四苦八苦し、圧倒的な力の在り方を見据える。それが持つものの宿命。」
シャド「…お前は出来ると思う?氷で炎を超えることが。」
月夜見「綺麗事を言うようだが、出来るのでなくやるかどうかではないか。努力は裏切らん。…その言葉は俺は好きではないが、燻っている炎に勢いをつけるには適している。だから、貴様にくれてやる。」
月夜見のその声は変わらない表情の中、どこか慈愛に満ちていた。愛する者、相対する者と出会い、残虐非道の神はわかりやすく、変化を遂げた。心地の良い春の風の中、彼を象徴する金の逆立った髪は緩やかにゆらゆらと揺れていた。冷めてしまった緑茶を口の中に入れると苦味、渋味の中にほのかに甘みが感じられたのを覚えている。
月夜見「…姿が変わったことでなんの問題があるか。今は過去など無関係だ。それを逃げ道には絶対にするなよ。」
シャド「…わかってるわよ。」
煮え切らない気持ちの中、まだ香り立つ緑茶を飲み干し、その場を後にした。季節外れの桜吹雪が綺麗だった。
漣「…で、最後に俺んとこに来たのか。」
シャド「悪い〜?」
途中で会ったメディスンとともに暇であろう漣の家にやってきた。今日は雷夢とこいししかいないみたいだ。
漣「自分家みたいにくつろぐな。女になってもその横暴さは健在か。」
シャド「るっさい。」
ソファがふかふかなんだから仕方ない仕方ない♪
…私が♪はキモいかな…。ソファはふかふかで、メディスンはどこがとは言わないがプニプニしててくつろぐにはうってつけである。まぁ、幽香ん家の安心感には勝てないが…。
メディスン「シャド、良い匂いする〜。」
シャド「え〜。一緒にお風呂入ってるからおんなじシャンプー使ってるじゃん。一緒、一緒。メディだって良い匂いするよ。」
漣「…うちでイチャイチャしないでくれるかな…。」
なんやかんや2人でやっていると漣が氷の入ったオレンジジュースを持ってきてくれた。さっきまで口の中が苦かったので、お口直しになった。
漣「…昼、食ってくだろ?」
シャド「んー。」
漣「ちゃんと返事しなさい。」
モテる男は違うねえ。声に出さないでもわかるんだもん。…しかし、父親か。最後に見た父の顔は、安らかに眠っていただろうか。恐怖に歪んでいただろうか。いや、違う。明らかに覚えているのは、その醜悪な面と優しさなど求めることを根本的に否定する非道な笑みだった。
メディスン「シャド?」
シャド「…え?あぁ。ごめん。」
安心させるようにはにかむような笑みをメディに見せた。メディもそれに答えるように口角を上げて、柔らかに笑った。私はこのような背の歳の時、自然と笑えていた記憶がない。
漣「出来たぞ〜。あったから、適当に蕎麦を茹でといた。」
シャド「ん。」
お腹が空いているからネガティブになっているんだなぁ。多分。取り敢えず、蕎麦を食べることとした。
漣「そんなにがっついて、火傷すんなよ。」
シャド「ん〜♪だって、おいひいんだもん。ねー。」
メディスン「ほんとっ♪」
漣「茹でて、つゆ入れただけだって。」
と、言っているが、漣以外にかき揚げが乗っけてある。天ぷら蕎麦だ。サクサクしてて美味しい。漣はただのかけ蕎麦だが、アホみたいに七味をかけている。…よくあんなの食べるな。私が猫舌なのもわかっているようで、温められたつゆは少しだけ冷ましてある。
雷夢「シャドさんは、お父さんのこと、好きにならないの?」
シャド「え?」
漣「はっ?」
昼食を食べ進めて少し経った頃、雷夢が唐突にそう切り出した。最近の子は大人だなぁ。ちょっと顔赤くして…。でも…。
シャド「ならないなぁ。」
漣「そうだな。」
雷夢「え?」
元々は男として彼と接してきたし…。それになんていうか、ちょっと歳離れた従兄弟?みたいな感覚なんだよなぁ…。
漣「女になったとしてもシャドとの関係は相棒だからな。コイツは俺に勝とうとしているし。」
シャド「そういうこと。何れはコイツを超えるから。」
漣「ま、無理だけどな。」
シャド「言ったなー!!絶対超えてやるかんなっ!!」
漣「食べてる時くらい口閉じなさい。」
漣が穏やかに笑う。それを見て私も、他のみんなも笑った。一頻り笑い、蕎麦を食べた後、窓からの日の光に照らされて、私とメディはお昼寝をした。目が覚めた頃には日は傾いていたが、私は真っ直ぐ前を向く決心がついた。もう私は迷ったりしない。
UA40000越え、更に更にお気に入り150人越え、そしてそして、小説も150話までやってきました!!
ここまで御愛読して頂きありがとうございますっ!!いやぁ、いつも言うようですが、ここまで来れるとは思ってなかったんでめちゃくちゃ嬉しいです!!次回、記念すべき150話では、特別な回にしたいと思います。こう言うのが見たい…!!という、アイデアがありましたら、是非是非リクエストBOXまで!!
では次回!!ではでは〜!!