※この作品はR-18です。

半人半妖の恋愛奇譚   作:紳爾零士

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特別なお話…なのかな。
名前だけは出てたけど、深くは語られなかったあの人のお話です。このお話は今回のみですが、もう少し後、コラボが終わったらへんで氷川漣の過去編として、この人のお話を書こっかなと思ってます。


第150話『月と音楽と漣という男と』

…好きなの。音楽が…。

 

寂しげに笑う君の顔。優しく触れる君の手は、俺には理解できなかった。

 

?「…チッ…。かったりィ…。」

 

癖っ毛をガシガシと掻き毟る。おんぼろ宿舎の扉を開け、共用の台所で小腹でも満たそう。そうしよう。

 

?「…卵と白飯…。」

 

台所にはそれしかなかった。頭が冴え渡らず、眠気が襲う早朝だが、腹は減る。朝は食いにくいが、腹を満たすにはかきこむに限る。今日はアイツの一回忌だ。あの辛そうな顔を今でも忘れられない。…不愉快だ。今は目の前の飯を片付けよう。

 

?「…そういや、あのクソガキ。まだ、起きてこねえな。」

 

アイツがあっちに行ってから、俺はアイツとの子を育てている。能力はアイツの力を、姿形は俺に非常に似ている。まるで生写しのようだ。俺はおんぼろ宿舎の階段を上り、上の階にあるガキを起こしに行った。

 

?「おい、クソガキっ!!起きやがれ!!」

 

風吹き込むおんぼろ宿舎。起こすには布団を剥ぎ取るに限る。ガキの名前はまだ決めていない。決めていないというか、教えていないのだ。何処にも1人では行かせず、俺はコイツを生涯で守ると決めた。

 

?「…もうあしゃ?」

 

舌足らずのその声が俺の耳に聞こえる。そういう、仕草だけは彼女に似ているのだ。

 

?「あぁ、もう7時だ。ちゃんと1人で起きやがれってんだ。」

 

?「へへ…。お父さん…。」

 

ガキは俺をお父さんと呼んで、はにかむように笑う。俺はその姿を見て、珍しく口元が緩んだ。そして、2人でとある場所に行く。おんぼろ宿舎の部屋の中、2人で正座になって、線香を焚く。手を合わせ、そこに映る彼女に今日も挨拶をした。

 

?「奏…。」

 

俺の声が辺りに響く。ガキにとって奏…母親といた時間は指折り、数えて4、5年くらいだろう。物心ついて、すぐ奏はガキと俺を置いて、空へと上っていった。その顔はいつもの愛くるしいほど眩しい笑顔だったが、心なしか、母の柔らかな笑顔にも見えた。病室の白い光が彼女の道を照らしていたようで、涙も出なかった。泣くことは彼女の生涯への冒涜なようで…。

 

?「いくぞ。」

 

?「うん。行ってきます、お母さん。」

 

…ガキにとって、母親と居た時間は俺よりも短い。だが、認知している。俺はまたそれが嬉しくて、顔が自然と緩んだ。ガキを悪友の剣道場に送ってやるのが、俺の役目だ。それからは遊んでも良いが、奏に悪いしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏にあったのは、まだ3代目月夜見が月の都の長として君臨していたあの日。まだ夜の遊びに明け暮れていた俺はほのかに照らされた橋の上で女が泣いていることに気づいた。

 

?「…ン?なんだ?」

 

当時には珍しかった発色の良い青色の髪で、瑠璃色の着物が彼女の体をとてもよく見せていた。彼女は突如として聞こえた低い声に驚いていた。

 

?「あの…。貴方は?」

 

暗がりでもよく見えたが、整った彼女の顔に目尻の赤さがよく目立ち、その顔はどこか幼くも見えた。だが、体つきはそうでもなく、遊郭に居たどの女よりも欲情する。下世話な話だが、その姿は何人もの男を虜にしてきたであろう。そんな姿だった。

 

?「…戀真。氷川戀真だ。テメェは?」

 

?「…奏と申します。この奥の…長者様に仕えておりました。」

 

声も非常に美しい。凛と澄んだ声だった。苗字は…と口走りかけたが、このご時世、苗字がある奴の方が珍しい。俺は勝手に名乗ってるだけであって、周りの(何の事情も知らねえ)奴らには『遊び人の戀さん』で通している。遊ぶほどの金のある人間てので、下手に出てくるヒルみてえな奴も居たが、そういう奴はぶん殴って帰していた。

 

戀真「…そんな身なりで寒くねえのか…?」

 

奏の身なりは今の季節には合っていなくて、露出部は少ないが、かと言って夜に出て良い服装でも無かった。

 

奏「…私は呪われてますので、この程度の寒さはカバーできるんです。私は能力持ちですので…。」

 

…能力持ち…か。月では初めて見たな。下では星の数ほど見たが…。俺が月に来たのもその能力によるものだ。周りには穢れないだの、浄化だの言っているが、本当は違う。その能力によって、俺は現代におけるロケットを作り出し、この里へとやってきたのだ。

 

戀真「…呪われている?何故だ?」

 

奏「…私の能力は『火を操る』程度の能力です。燃やせるものがあれば、火を起こすことが出来るんです。…意図せずにでも。」

 

戀真「…何?」

 

奏「先ほどの長者様も私を恐れて、家から追い出しました。能力の発現は幼少時、眠っているときに家を全焼させたのが始まりです。それ以降、私の能力は隠されて、裏市場で売買されました。長者様も夜伽のお相手として、大層大事にしてくださいました。私の能力を知るまでは…。」

 

…生命は火を嫌がる。本質的な問題だ。そして、この子は自身の仕事を夜伽として黙認している。それがこの子の在り方なら否定はしない。だが、長者の話をするときの寂しげな表情が俺の胸を締め付けた。

 

奏「…不思議ですね。貴方にはこんな話も出来てしまう…。」

 

戀真「…そうだな。俺も話しておくよ。」

 

…だから、話しておきたくなった。聞いた奴は無敵だの、陰湿だの言う俺の能力について…。

 

奏「…戀真さんも能力を持っていらっしゃるのですか?」

 

戀真「…あぁ。俺の能力は『サイクルを操る』程度の能力。」

 

奏「…さ、さいくる?」

 

…この時代の人間には英語はわからないんだっけ。

 

戀真「…物事にはそれを行うための流れがある。創造、分解、再生成、再分解や、創造、咀嚼、飲み込み、そして、消化、排泄…。俺はそのサイクル、流れを好き勝手に弄ることが出来る。例えば、妖怪が月に来たら、穢れるっつう話があるな?」

 

奏「…はい。ございますが…。」

 

戀真「そのサイクルを逆にして、妖怪が月に来なければ、穢れてしまうようにする。そうすることで俺はこの月に来ることが出来た。…言わば、これは常識を変えることが出来る。汚染みたいなもんだ。」

 

…一般的に考えれば無茶苦茶なのかもしれない。他にも、過去、現在、未来というサイクルを逆転させ、未来の技術を俺の思考に差し込み、過去に行くことも可能。生死のサイクルを断ち、寿命では死なないようにすることも可能。一般的に死ぬようなダメージをくらってもそのサイクルを逆にして、相手に自分がくらうはずだったダメージを与えることが可能。

 

…だが、逆に言えば1人だけで人々の認識を書き換えることも可能なのだ。無敵なんてチャチなもんじゃない。諸刃の剣なのだ。

 

奏「何かわかりませんが、戀真さんは非常にお優しい方なんですね。」

 

戀真「…優しい…か。俺の能力は人を洗脳し、自分の好き勝手に現実を変える恐ろしいものなんだぞ。」

 

奏「だって…それなら私のことをちからずくでも手に入れようとするではありませんか。…先ほどから私のことをそのような目で見ていることはわかってますよ?」

 

…この子はかなり傲慢なのかもしれない。だが、その顔は俺を軽蔑するような表情はしておらず、上品な笑みを示していた。

 

戀真「…勝てねえな。」

 

奏「ふふ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戀真「…。」

 

?「…また、奏か?」

 

戀真「…顎。」

 

ガキを悪友、紅顎の剣道場に連れてきていた。顎ともう1人、士道凰牙という男は俺と旧知の仲である。奏のことやガキのことも知っており、ガキのことは働いている間、ほぼこいつらに任している。

 

顎「…しかし、あの戀真が地道に働くとはな…。働いたら負けだと言っていたのに…。」

 

戀真「るっせ。お前も華奈に振り回されてるだろうが。」

 

顎「はっはっはっ。全く、血の繋がった家族というのも面倒なものだな。…ただ、俺は兄貴だから、アイツを守ってやらなきゃいけないだけだ。」

 

道場の縁側で夏の風に吹かれながら、朝から呑んでいる俺に苦言を言いにきたのか、道場の主は横に座った。

 

顎「…しかし、よく妖魔が月に居られるな。月夜見に殺されないか、心配だ。」

 

戀真「あっこの先代とは仲が良くてよ。全く不思議な縁もあるもんだぜ。」

 

顎「…何本目だ。昨夜も呑んでいただろう?」

 

俺は指を3本立てる。真面目な顎はため息を吐き、俺の頭を叩いた。

 

戀真「イテッ…!!何すんだよ!!」

 

顎「…お前はこんなに早く奏に顔を見せる気か、呑んだくれ。」

 

戀真「急性アルコール中毒。まだ酔ってもねえからノーカンだ。ノーカン。」

 

…前の世界ではアルコール中毒にはお世話になったからな。まぁ、褒められた人生じゃねえし、親にも先立たれたから、後悔は無かったが…。

 

戀真「…庭の桃、またなったんだな。」

 

顎「随分、熟れた。あれは綿月の方々が良く気に入っておられるからな。」

 

戀真「桃はどこでも同じだろ。」

 

顎は俺の連れない返事にため息を吐き、室内へ帰って行った。

 

桃は甘い。奏が好きなものの一つだった。この時代には無い、おかしなことを言う俺の話を奏は笑いながら聞いてくれた。長者に捨てられたと言う彼女とルームシェアをし、いつしかかけがえのない存在になっていた。皮肉だ。俺は彼女の好きな桃が食べられない。アレルギーだからだ。都心に住んでいた頃、俺は病院でそう言われた。それ以来、桃やリンゴを食べていない。

…彼女の好きな桃を願わくば一緒に食べたかった。だが、能力を使ってもそれは回避できなかった。過去のトラウマが俺の能力をセーブしているのだろう。

 

戀真「…あの子はとても丈夫に育っているよ。奏。」

 

空を見ると彼女が微笑んでいる気がした。彼女に会って以来、俺の女癖の悪さも無くなった。彼女以上に愛おしい存在を見つけられなかったからだ。いくら彼女より美しかろうが、いくら彼女より金を持っていようが、勃つことはない。彼女に体を許してしまったときに全てが狂ってしまったのかもしれない。…怒ってる?んな馬鹿な…。幸せだよ…。すっごく…。

 




では次回。
ではでは…。
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