コラボの話を進めて、同時進行で異変編を始めようかなぁ…と。コラボ編も後日、順番に上げていきますので読者の皆様には混乱させてしまうかもしれませんがご了承の程、お願いします。
第152話『帆船と進行と終わりの始まりと』
ラスト「…。」
フューリー「…プレジデントグラート。お呼びですか?」
空中帆船〈アーク〉、船内。
その船内は豪邸にも見間違うかのように整った設備で埋め尽くされていた。上品な暗さを保つその部屋の、ただ、凛と澄んだピアノの音色が静けさへと帰る瞬間を待ち、赤い絨毯の上をストールを巻いた青年と右腕をポケットへと突っ込んだ青年が立っていた。
グラート「…来たか。フューリー、ラスト。」
五線譜に書かれていない不協和音を皮切りにピアノの音はピタッ…と止まった。そして、ピアノを奏でていた主は締め切られたカーテンから少し差し込む光に輝くキチッとした革靴を履いていた。そして、主は先ほどの2人の元へと一定のスピードで進む。その足音が静まると、フューリーなる青年の顔はわかりやすく強張った。
グラート「…そう緊張しなくても良い。そう。今宵はめでたい日だ。天空帆船〈アーク〉の進行を拒むものはもうない。後は、耳障りな烏どもを消し飛ばすのみ。」
ラスト「…なら、尚更、なんで僕たちを呼んだ…。戦力を削ぐ必要は…無い。」
フューリー「まぁ、その通りです。数も見た限りではうちの船員と良い勝負です。俺たちの力も使うべきでは…。」
グラート「そう思うかな?なぁに。ウチには君たち以上に優秀な兄弟は居ない。連携は取れ、お互いの弱点を補い合う無敵の兄弟。君たちを失うわけにはいかないのだよ。我輩の狙い、わかってくれたかな?」
グラートは優しく微笑み、青年らと向かいになっているソファの上へと腰を下ろした。甲板では、その静けさが嘘のような死闘が繰り広げられていた。美しい帆船の白いボディには傷一つ付いていないことと月のものとは違う銃火器を使っているシリウス軍との戦いは幻想郷を守るために奮闘する烏天狗達にはやや厳しいものであり、誰が見ても烏天狗達は劣勢であった。
レジネス「…めんどくせえ。雑魚どもがしゃしゃりでやがって…。」
グリード「いいじゃないか。どうせ、我々が出るまでもない。ワシみたいな老いぼれが手を焼く相手じゃなくて良かったわい。」
銀髪の逆立った髪の黒レザージャケットで身を包んだ男、レジネスが甲板へ座り込んだ。その横に白い仮面を顔につけた老人、グリードも座り込んだ。レジネスは心底嫌そうな顔をしていた。
レジネス「…近づくな。気持ち悪りぃ老いぼれが。」
グリード「ハッハッハッ。生きが良いのう。流石、あのエレーナと噛み付き合うレジネス…。怠惰というわりに傲慢なのかね?」
レジネス「…俺はなんでもねえさ。あの、ババアはどこ行ったんだよ。」
グリード「汗をかいたからと風呂に入っておるわ。全く、自由なもんじゃ。」
細い糸目の仮面の目にあたる部分からギロリッと三日月形の目が見えた。その真っ青な瞳は笑っているようにも真顔のようにも見えた。レジネスは舌打ちを打ち、手に持っていたペットボトルの僅かに残った水を飲み干した。
レジネス「…しかし、忘れられたものの理想郷か。考えたな。プレジデントも…。要が居なくなった。叩くなら今ってこった。博麗大結界も巫女がいなけりゃ、この程度か。」
グリード「いーや。要は戻っておるぞ。だが、次世代の博麗の巫女を立てる前に突入する我々の計画はグッドだったようじゃよ。」
レジネス「…しかし、めんどくせえ。なんなんだよ。この量は。こっちは光るもんなんも持ってねえってのに。質より量ってか?能無しどもが…。」
はぁ…とため息をつくレジネス。レジネスの言葉通り、戦況は依然としてシリウスが優勢であった。槍や剣で立ち向かう天狗達に対し、遠距離で戦うシリウス。近づかないといけない天狗達にとってはこれほどまでやりづらいものはない。近接から弾幕による遠距離に移行する天狗達。
レジネス「…めんどくせえ。」
レジネスが甲板から右手を突き出し、その掌を天狗達に向ける。
シリウス軍下っ端「レジネス様っ!!」
レジネス「騒ぐんじゃねえよ…。」
速度を上げ、白き船体へと向かう閃光弾、そして、烏天狗達。その数、万は優に超える。が、突如として轟いた雷鳴とともにその烏天狗達の約半数以上が地へと落ちた。空中だと言うのに、何かが焼け焦げた臭いが辺りに充満した。
レジネス「…雑魚どもめ。死ににきやがって。」
グリード「ハッハッハッ。容赦ないのう。」
レジネス「…チッ…。気色悪りぃんだよ。何が郷のためだ、見苦しい…。戦力差も向こう見ず、向かってくるなんて…。馬鹿にも程がある…。それとも、接待役が木偶どもなのは、俺たちを皮肉ってんのか…?馬鹿にしてんのか…?どっちみち、気色悪りぃ…。お里が知れる…。」
皮肉のように吐き捨てるレジネス。グリードはそれを細い仮面の亀裂からニタニタと笑っているような目で見ていた。
グリード「まさに幻想郷とやらの宣戦布告かのう。じゃが、それももはや海のもずく…。」
レジネス「…これが宣戦布告なら尚更ナメてる…。」
対して、大天狗を主軸とした天狗達は満身創痍であった。天狗達からすると一部でかき集めた軍ではあるが、相手になす術なくやられている状況に大天狗は冷静さを欠いていた。バサッ…バサッ…という自身の羽音すら今の彼には煩わしく思えた。彼らにとって、巨大な船体は未知のもの。似ているものと挙げるなら、三途の川を渡る渡り船…。ただ、確実にそれというにはデカすぎた。規模が違いすぎたのだ。
無情にも1人、また1人と弾丸の雨により、空中から地へと落ちていく。鋼鉄の雨はカラスの羽毛を削り取り、肉体に穴を開け、カラスを落としていく。
大天狗は出ない。この立場になっても死は怖いからだ。部下達の生き残りたいという生命の残り火にも耳をかさず、大天狗の刀を握る手はプルプルと震えていた。
グリード「…最早、奴に組織を束ねる器などないのう。まるで逆じゃ。ゴッドと…。」
レジネス「…ふん。わかってたことだろ。成り上がりの屑ほど、死に敏感なんだよ。生きることに何の意味がある…。俺にとってプレジデントの居ない世の中なんて…つまらねえ…。」
レジネスの鋭い眼光が大天狗へと突き刺さる。大天狗は生まれて初めて、心の底から恐怖を覚えた。部下の静止の声を聞かず、山へと飛び去ろうとしていく。天下の烏天狗、速さだけには自信があるらしかった…。
レジネス「…死ね…。『雷帝の弾丸』」
…次の瞬間、大天狗の体は黒く焦げ、地面に落ちることも無く、散り散りになって、風と化した。
グリード「…ほんっと。容赦ないのう。」
レジネス「…弱えあいつが悪りぃ…。」
外での騒ぎが収まった。グラートがニヤリと笑ったその顔にフューリーは心臓を掴まれたような感覚を覚えた。…紛れもない、威圧感である。
ラスト「…プレジデント…?」
グラート「…長らく…。計画を実行する機会が遂にやってきた。ミスター玄霧にラグナログ、そして、魔法使いの姉妹…。ここまで幻想郷を荒らしてきたのも我々の計画のため…っ!!」
フューリー「…幻想郷侵略計画。」
グラート「…その通りッ!!今こそ、我々持たざるものが持つものを凌駕する時ッ!!嗚呼…この気持ちを体現する一曲を奏でよう…!!さぁ!!これこそ、ユートピアのレクイエム…だ。」
暗闇にピアノの音だけがこだまする。ゆっくり…ゆっくり…と空中を進む白き帆船。その行く手を阻んでいた烏天狗達の姿はもう…見えない。
では次回。
ではでは。