月夜見「…。」
ここは天魔の館。月夜見達の住まいとは別に天狗達の集会所としての場所である。木の床はとても綺麗に整備されており、道場のような一室となっていた。
今回の騒動はこれまでのものとは異質である。故に館内は緊張が走っていた。左右には数十名の大天狗達。そして、その全員が見つめる場所、瞳を閉じて、集中する金髪の男と艶やかな黒い長髪が特徴的な女性が座っていた。
和泉「して、件の巨大な何かはその後、どうなったのだ?」
大天狗1「はっ!!妖怪の山上空をゆっくりと飛び、そのまま進んで行きました。落とそうとした小隊は全て無残に殺されました。」
月夜見「…焦げた匂い。そして、あの閃光…。間違いない。炎、または雷の力を持つものが敵にいる。」
…とはいえ、目的はわからない。仲間を殺され、冷静さを欠くものもいる中、月夜見は冷静に、和泉はそれを治める器として指揮していった。焦らず、騒がず…。知恵袋である月夜見は天狗達の話に一切耳を貸さず、聞こえてきたこと、見たことを整理する。
そよ風が吹き、青々と茂った草の匂いが鼻を刺激する。だが、それによって考察を中断することはしない。
月夜見「…進行方向には人里がある…。もしかすると…。」
和泉「人里を狙っているのですかッ!?」
ボソリと呟いたその台詞にすでに足が痺れ始め、正座を少し崩していた和泉、そして、大天狗達が騒めきだす。月夜見はそれに表情を一切変えず、金色の目で辺りを見渡した。
月夜見「…慌てるな。恐らく、奴らの狙いは幻想郷の破壊、或いは侵略だ。その為の活動拠点が空上であれば、外から来て地を這うことしか出来ないであろう奴らには少し行動範囲が狭まる。籠城するにも備蓄はすぐに無くなる。つまり、活動拠点にするには人のいる、そして、備蓄もそこそこある人里が最適だ。奴らにそれを無視するメリットもない。デメリットの方が大きい。……全て、俺の考えに過ぎないが。」
月夜見は最悪のケースを考えていた。それは人里を奪われることでも、幻想郷を盗られることでもなく、プライド的な問題であった。
和泉「…となると、八雲紫を誘い出すために…。」
月夜見「紫か…。彼奴もそこまで弱くはない。実力者として数えられるほどの強さだ。あの時はまだ寒かった。奴も本調子ではなかったのだろう。だが、八雲が調子を取り戻せば、そこまで苦戦はしないはずだ。侵略者の実力がわからない今では、確実とは言えないが…。」
漣「ハァァッ!!」
凰牙「遅いッ!!」
…あの日、玄霧逢魔に敗れたあの日から、先生に団子を駄賃として技、体の使い方を再度、学んでいる。ただ学ぶ…のではなく、先生の技をこの身に受け、目で見て動きを盗んでいる。…簡単に言っているようで難しい。先生の技はまるで陽炎のように朧げなのだ。
凰牙「俺の技を見て盗むだと?その程度で俺の技が伝承できるかよ。粋がってんじゃねえぞ?神もどき。」
漣「…くっ…!!」
先生に蹴りをかます。だが、俺の足は実体の無いものに当たったかのように手応えがなく、それに気づいた時には俺の体は後ろに吹き飛ばされた。
…視界に入れる前にダメージが体を走る。威力、速度…共に天下一品。一挙一動が目視できない。地面に倒れたことでついた砂粒を払いながら、立ち上がる。
凰牙「…そもそも、技を習おうなんざちゃんちゃらおかしい話だぜ。テメェにも自分の技があるってのによ。なんで…。」
漣「…俺はもっと強くならなきゃいけないんです。もっと強くならなきゃ…守れるもんも守れない…。」
凰牙「…テメェらしくねえな。いつもの冷静さはどこにやった?置いてきたか?急ぐなよ。馬鹿野郎。」
そう吐き捨てるように言うと先生は俯く俺の髪を乱雑に握り、上に抜けない程度の強さで引っ張った。
漣「ぐっ…!!」
凰牙「…はっきりと言う。テメェは神になんざなれっこない。」
真剣な真っ赤な目に曇りなどない。こうはっきり言われると心に来るものがある。…神になるつもりなど毛頭ない。だが、俺を幻想の神という奴らがいる。そう、俺を神と認めてくれている奴らだっているのだ。それを否定することは俺の今までの生き方を否定すると同義。この窮屈な結界の檻の中で俺は神に等しい存在とならなければならない。
凰牙「…その目、意地でも俺と同等…いや、俺を越えようって目だな。俺は神でもなんでもねえ。不死身になった…。言い方を変えよう。この世の理から外れたものだ。…覚悟っつうのはそういうもんだ。理すらも捻じ曲げる…覚悟…。それを代償に力を得た。この数千万の修行の成果。簡単に超えられるかよ。」
漣「…アンタが理から外れたってんなら、俺もですよ。俺だってこの数年間、のうのうと生きてきたわけじゃないんです。アンタや父さんに勝てるように日々尽力してきたんです。…まだ負けちゃいけないんです。2年も3年もここにいるようじゃまだまだ…。」
…あれから少し時間が経った。というのも、響奇が大人びてきた。変化はそのぐらいだ。あの年越しの日から3年。俺は死屍累々の逢魔に負けた日から日々鍛錬を続けてきた。大体、それから2年半ほど。月日とは短いものだ。
迦具土の炎はまだ体に馴染んでいない。アレが馴染めば…超えられる。確信はある。
凰牙「ガキの時のテメェがこの煉獄結界の中を抜けられたのは15年くらいかかったぜ?テメェが成長してなきゃ、どんくらいかかるかね…。」
漣「自分で言い出したことです。…あのとき感じた違和感は紛れもない殺意や狂気でした。ですが、あれには俺は一太刀も入れられません。だから、俺は強くならなきゃいけないんです!!」
凰牙「…ヒーローみたいな口振りしやがって…。情熱なんて持っても、虚しくなるだけだぜ?俺たちは…神でもなんでもねえ。つまりは、自分の力で強くも弱くもなれるっつうわけだ。」
お互い、剣を構える。
平原の背の低い草が靡く程度の風が吹いているような気がした。
凰牙「…地面がないのに地面に立ち、風がないのに風が吹く。自分で作っといて妙だな。この煉獄結界は。まさに煉獄ってか。」
漣「…地獄を模した空間。」
凰牙「…懐かしいなぁ。300年はいたっけな。」
…話しながらも、目線は鋭く此方を見る。口角が歪み、ニヤリと笑うその顔は記憶のどこかにあるほどに見覚えのあるものだった。
凰牙「…朱点居合『緋月』!!」
漣「っ!?」
勢いよく引き抜かれた刃から放たれる斬波が短い草に焦げ目をつけ、俺へと一目散に襲いかかってくる。
俺はそれを飛んで避け、そのまま先生へと走り込み、刀を振るった。
スライディングで起こった砂煙が視界を遮る。
その直後だった。
轟音と共に頭上が赤く照らされた。
漣「ぐっ…!!」
体の中から焼かれたかのような熱さと目や口の水分が一気に蒸発したような感覚を覚え、目が開けられない…。
耳だけに感覚を集中し、草や地面の砂粒の音まで聞き分ける。何処にも先生の気配を感じない…。
凰牙「…聞こえる、見えるものが全てじゃねえってこった。」
その言葉を背後から聞いた途端、背中に電撃を浴びたような衝撃と痛みを感じ、地面へと伏した。
凰牙「ハッハッハッ!!まだまだだなっ!!さっ!!飯にすっか!!」
漣「…はい。」
…まだまだ…か。
先生は強い。だが、先生は私情以外のことには首を突っ込まない。よく言えば、賢く、悪く言えば人としてはどうなのだろう…と言ったような人だ。…今回の異変には先生の力は借りられない。
凰牙「…そんなに気ぃ落とすな。一度は出た場所だ。もっかい出れるさ。」
漣「…はい。」
…ほんっと、この人には勝てねえな。
そう思いつつ、何処からか現れた和菓子屋で団子を食べることにした。
一応、時系列的には今回のコラボ編から3年後の世界です。僕の小説はそこら辺、わかんないよね…。
では次回!!コラボ編も見てね!!