買うもんいっぱいです。
…疲れた。
あの戦いから何年経った?僕は一体、何をした?わからない。揺蕩う水面に顔が映る。相変わらず、冴えない顔だ。整っているが、負け続きで頭にきてる。…そろそろ、潮時か。お気に入りの黒外套がずぶ濡れだ。中までは濡れてない。
…しかし、嘴はともかく、氷川漣は潰さなければならない。僕のどの能力を使ってでも倒さなければ…。
?「若。変わられましたな。」
…よく通る低い声が僕の耳に響く。懐かしい顔だ。
逢魔「…
空蛇「はい。貴方様の爺にござりまする。」
長い白髪に高い背と長い四肢。黒色の眼帯がこの男の長年の戦いを物語っている。かつて、とある小隊を仕切っていたとき。月の地上げ屋のようなもの。二代目月夜見の名より、その小隊は裏の仕事をしていた。その時から、僕の右腕と働いてくれていた。…いつしか互いを『若』と『爺』と呼び始めた。
蛇の目は笑っているのに笑っていなかった。
空蛇「…組の者が心配しております。若様だけが無理をしていると…。あのグラートなる者に仕えているのは月での戦闘の後、消耗し切った組の金を集める為でございましょ?…若は騙されておるのですよ。あの狸に…。」
逢魔「…だとしても僕に他にできることはない。」
空蛇「…若様はまだお若い。そこまで自身を追い詰めずとも、組の者はついていきます。いくら金無しとは言え、かき集めれば多少のものには…。」
逢魔「それではダメなんだッ!!」
怒号が響く。あぁ…アツくなるなんて僕らしくない。僕は善になんてなる気はないのに…。何を迷っているんだ。
空蛇「…ふふっ。久々ですね。若様がここまで声を荒げられるのは…。しかし、それでは一目はどうなるんですか?若様がご自身で見つけられた娘。組の者は疎ましく思う者もしばしば…。」
逢魔「…前にも言ったでしょう。玄霧逢魔は死んだ…。そういうことにし、僕は他の人を演じ、組の金を回収する。貴方も了承してくれたはずですよ。」
空蛇「…若、私は数多くの者をこの目で見てきました。」
今の空蛇は人の姿をしているが、元は何万年も生きた大蛇だ。住まいは幻想郷になる前の妖怪の山に住んでいて、氷川戀真との戦いにより、月から地上へと追放された僕を拾っては稽古やらなにやらをしてくれた。本気になれば誰よりも頼もしい。
空蛇「その策は駄策に御座います。何故、貴方はご自身の身を考えず、犠牲にして物事を考えるんですか。」
蛇は長生きだ。妖怪の中でも一二を争うほど。だから色々見てきた。だから色々知っている。人の醜さも、妖怪の醜さも…。だからこそ、知恵袋となる蛇は非常に冷静だった。何事も冷静に見る。それが蛇だった。
空蛇「…蛇めは、悲しゅう御座います。若様には我々が信用ならないんでしょうか。我々の間に絆などないのでしょうか。我々の歩むは修羅の道。そこに仲間という言葉は不必要なのでしょうか。…我々を率いた長、玄霧逢魔は死んでしまったのでしょうか。」
…蛇は意地汚い。その圧倒的な知恵により、ありとあらゆる策を作り出す。決して慌てず、決して騒がず…常に冷静沈着。この言葉が蛇を象徴しているのだろう。そんな彼に僕は…。
逢魔「…死んだよ。君のいう通りさ。…そういうことにしてくれ。今は、まだ…やるべきことが終わっていない。」
そう言って僕はわからない道を歩いて行った。歩けば何か見つかるような気がして…。後で後悔するだろう。その日は生憎の悪天候で、僕は何もかもを失って地面に寝転がっているだろう。…たとえ、そうなったとしても…負けるのは想像できない。
空蛇「…若様、私は待っております。晩年尽きようとも、この蛇、若様のお隣に立つ日を心待ちにしております。…ですから、いつでも…。」
そんな言葉が聞こえたのは気のせいだろう。…だって僕は、化け物になってしまったのだから。
船は降りた。ふんわりと優雅に揺蕩うその姿、硬い地面に止まっているのに、まるで水に浮かんでいるようにも見えた。砂埃でその真白の船体は一切の汚れを見せず、人の声すら聞こえない未知の巨大な魚を人里の人々は恐怖というよりは、好奇心を抑えるのでやっとだった。
その中でも警戒するのは約一部で、人里に住う慧音や阿求もその一部に含まれていた。と、船体は動きを見せる。船自体が動いているわけではない。その船内から何者かが現れ、人里に向けてなのか、はたまた、幻想郷に向けてなのか、声を轟かせた。
グラート「諸君!!我々は機動隊『シリウス』である!!先ず、手荒な登場となったことを詫びさせてもらいたい!!単刀直入に言う!!我々、シリウスにこの人里を拠点として貸し出して貰いたい!!」
その瞬間、人里はざわめき出した。当然だ。人里の住民にとってこのシリウスと名乗る者達は部外者である。その部外者が住んでいる場所を拠点として貸して欲しいと言った。つまり、人里の住民にとっては何の得もない。対して、シリウスは船内の備蓄を枯らさず、安全に情報を手に入れられる。…奴らにとっては、得しかなかった。
グラート「勿論、タダでとは言わない!!ここに金塊の山がある。売れば数億はくだらない。勿論、もっといるのならば…。」
その時だった。人里から1人の女性が歩いて行った。他でもない上白沢慧音だった。船体の近くまで行き、慧音はじっと見定めた。グラートは下を見下すような形で貼り付けた善人の笑顔で慧音を見た。
グラート「おや、どうかしたかな?Ms.…。」
慧音「上白沢慧音だ。人里で寺子屋の教師をしている。」
グラート「おや、これは失礼。Ms.上白沢。我輩はグラート。小さな寄り合いを束ねている者だ。して、なんのようだ?」
慧音「言わなかったか?私は人里で寺子屋の教師をしている。」
慧音は強気で言った。得体のしれない相手に警戒しているのだ。慧音の頬にはツーッと冷や汗がつたった。
グラート「だからなんだ?」
慧音「ここには私の生徒たちもいる。それより小さな子だっている。お爺さんおばあさんだっている。たくさんの人が住んでいるんだ。嫌な冗談を言わないでもらいたい。…子供が怯えているだろう?」
その目には怒気が込められていた。周りから見ればいつもの上白沢慧音だが、グラートに向けられる目は軽蔑と怒りを含むものだった。だが、グラートは怯えるどころか、真顔に戻り、空を見上げながら、口を開いた。
グラート「…なるほど。君は誤解している。我輩らは悪ではない。」
慧音「…いきなり現れて、此方に不利な条件を突きつける奴を私は善人とは言わないんだ。残念ながら…な。」
幸い、船の着陸地は人里からまだ少し離れていた。どんぱちやっても人里にはあまり被害は被らないだろう。
グラート「…ふむ。もう少し賢いと思っていた。」
慧音「あぁ。私も勝てるとは思っていないさ。だが、そんな身勝手な事情で人里を危険に晒すわけには行かないんだよ。」
グラート「…あぁ。実に残念だ。」
…慧音にとってそれは誤算だった。グラートは船へと戻っていく。慧音はそれを見届ける為、そこから動かなかった。だが、それがいけなかったのだ。
グラート「…危険分子は早急に対処せねばな。」
————————『雷帝の大槍』
あっちこっち行きますが、次回から本格的な戦闘かなぁ…と。コラボ編で貰った短刀の秘密も明らかになります。
では次回。ではでは。