漣「ダァァッ!!」
何度目の拳だろうか。
煉獄結界で先生に打つ拳は絶えず虚空で静止する。質より量としても、まるで煙を殴っているかのような感覚に陥る。つまりは文字通り、掴みどころの無いということだ。先生は涼しい顔でそれを避け、俺に肘打ちを打とうとする。
俺はそれを地を転がり、躱し、弾幕を撃ち込んだ。
悠々自適に空中を紅色の傘に乗り、舞う先生。まさに蝶のように舞い、蜂のように刺すとはこのことだ。刺すというには、一撃が重いが…。
しかし、この結界の中にいると時間の感覚を失う。今は何年であり、そして、何時なのか。わからない。外の時間は。
凰牙「炎操術『炎炎葬槍』!!」
俺を囲むように槍が虚空より現れた。
漣「…へっ!!」
凰牙「いけっ!!」
掛け声と共に全ての槍が此方に向かってくる。面倒なことにこれは何処までも追いかけてくる。ならば、狙いを根本的に崩せばいい。
凰牙「そうだ。教えただろう。…比類なき熱は対象を朧げに見せる。」
————陽炎。
今まで避けていたのが嘘みたいに相手からの攻撃を無効化する技。周りに熱を放出し、俺の姿をその場に投影させる。まだ、先生のように一部だけを陽炎にすることはできないが、炎炎葬槍の槍の砂埃と合わせれば、目眩しにはなる。
凰牙「…ふっ。炎操術『炎天連鎖』!!」
…一筋縄で行けたら苦労しない。先生は炎の鎖を周りに呼び出し、グルンっと捻るように動かし、砂埃を晴らした。
こうなってしまえば、実像である俺は丸見えである。
凰牙「ラァァッ!!」
即座に地面を蹴り、距離を詰めてくる先生の拳が俺の頰を掠る。
その風を切る拳のラッシュは激しく、反撃の隙を与えなかった。故に、ガードするしか無いのだが、このままでは此方が先に参ってしまう。
漣「チッ!!」
俺は一度、距離を取ろうと後ろに飛ぶ。が、次の瞬間、体制を立て直した俺の鼻頭を先生の爪先が上へと払った。…もう少しズレていたら、鼻が無くなっていた。
凰牙「へっ。」
漣「くっ…!!」
このままでは此方が不利だ。先生との近接戦は油断も少しの猶予も無い。常に気を張り、集中しなければ一気に形成を逆転させる。…陽炎を使いたいところだが、それすらも見通しているだろう。
漣「…煉獄『月輪砲』!!」
凰牙「おいおいッ!!無茶苦茶やんなッ!!」
新技『月輪砲』。
スペルカードのように色彩豊かな見ても楽しい技。魔理沙のマスパのように直線状に向かうが、弾かれるとレーザー光線は四散し、相手を囲むように極小濃密の弾幕の檻になる。勿論、レーザー砲を避ければ弾幕ごっこのルールには従っているし、自分で檻にすることも可能なので、いくつかの新技の中では割と使いやすい方だ。
…先生には陽炎で避けられたが…。
凰牙「触らぬ神に祟りなし…っと。陽炎を使わなかったのは良い考えだ。使った瞬間、炎炎葬槍で囲むつもりだった。逃げられねえようにな。」
ニヤリと不敵に笑う先生。小一時間はこの状態だが、汗一つかいていないところを見ると流石だと思う。だが、喋っている暇はない。
漣「ハァァァッ!!」
凰牙「せっかちだなッ!!」
お互いの拳がぶつかり合う。俺の骨が軋む音がするが、多少は技でカバーしているので痛みはそこまでない。先生が拳を出せば、拳で相手する。蹴りならば、蹴りで相殺する。いつもの戦闘だ。…半分は鬼の血が流れている俺についてこれる人間って…。
凰牙「体力勝負ってかァ?」
漣「勿論…ッ!!」
…そこまで馬鹿ではない。
煉獄結界で作られた荒野の砂がお互いの蹴りで空へ舞う。拳は風を切り、先生は俺の右手を、俺は先生の左手による拳を掌で受け止めた。
凰牙「ほお…!!握り潰す気かい…?」
漣「ぐっ…!!」
握力も常人より上。まるで拳が林檎のように簡単に握り潰されそうな音がする。骨が軋む音だ。…正直、手から血が出るくらい痛い。それ以外の言葉で表せない。だが、ここで終わってはダメだ。
凰牙「…その目、直しな…。なんか、ムカつくんだよ…。自分がなによりも強いみたいな…。」
漣「そん…なッ…ことッ!!」
凰牙「…そんなに家族が…仲間が…信用できねえか?…そんなに自分だけが強くなりたいか…?」
話しながらも手による束縛を解くことは無い。だが、その顔は本気だった。…少しでも身勝手な答えを言えば、殺すという目だ。凰牙先生だから、やりかねない。そんな人なのだ。
…仲間が信じられない。だから、強くなりたいわけではない。
漣「俺…はッ!!信じてッ…くっ…いるからこそッ!!強くなりたいんですッ!!」
…あいつらに背中を預けて貰えるほど強く…。違う。アイツらと並んでも恥じぬように強くなりたいんだ。シャドも、月夜見も、陽奈も、霊夢も、ルナサも…皆んな、自分なりの強さのため、奔走している。俺はこういうやり方しか出来ないから…。せめて、幻想郷を守る盾となるためにッ!!
漣「強さを…ッ!!求めているんだッ!!」
凰牙「ッ!?」
俺は先生の頭に頭突きを喰らわせた。脳が震える感覚が絶妙に気持ち悪い。額からダラッと血が流れる。先生も同じくである。…油断していた。確実に。あの先生が油断していたのだ。だから、周りに貼る結界を緩めてしまった。だから、攻撃を許してしまったのだ。
凰牙「イッテェ…!!テメェ…何回、それで勝ちゃあ気が済むんだッ!!」
漣「ヘヘッ…。俺、アイツらと会って少しは変わったでしょ?」
…そういうと先生はため息をつき、次の瞬間、笑顔になった。
凰牙「…変わらねえなぁ。氷川漣。大人なのに子どもっぽい。ちっちぇえ時はやけに大人っぽく見えたが、今度は逆だ。全く…甘える嫁さんが出来て、そうなっちまったのかぁ?」
漣「甘えているばかりじゃありませんよ。…お互い、支え合ってるんです。俺は太陽、彼女は月。お互い、無くてはならない存在なんです。」
…ルナサ・プリズムリバー。彼女がいるから今の俺がある。会い方や添い遂げている過程はなんであれ、彼女の存在は俺の中でとても大きなものだった。
…ルナサのことを考えると心がポカポカしてくる。そんなことを思っていると先生はまたため息をついた。
凰牙「…嫁さんのことを考えると笑っちまうんだな。気持ち悪りぃ…。」
漣「…別に良いでしょ。」
凰牙「…だが、合格だ。前より早かったじゃねえか。」
先生は八重歯を見せ、笑った。どっちが子どもっぽいのか。その童顔で先生の方が子供に見える。
先生は『紅』を呼び出すときのように空中を手刀で大きく切り裂いた。
凰牙「さっ。行くぜ。」
漣「…はい。」
何年ぶりの外だろうか。早くルナサに会いたい。勿論、霊夢や妖夢達にも…。俺はワクワクして、その亀裂にゆっくりと飛び込んだ。
…だが、現実は厳しいものだった。煉獄結界から飛び出て見たものは…荒廃した人里だった。
次からはもうちょっと多めで書きます。では次回。ではでは〜。