エレーナ「死屍累々、生体反応が全て消えました。」
グラート「問題無い。全て、予想通りだ。」
太陽光が差し込まず、カーテンが閉め切られた薄暗い部屋。普段は傲慢なエレーナが膝をつき、平伏している。当のグラートは、ピアノの蓋を開け、鍵盤に手を触れようとしていた。
グラート「…奴らの処理はレジネスに一任しよう。我々はNo. 1の回収を急ぐ。あの魔法エネルギーとここに満ちている妖魔のエネルギー。それを合わせれば、彼方に帰ったとしても戦争を終わらせることが出来る。」
エレーナ「…しかし、No. 1と我々の保有するNo.2は手に余ります。二つ合わせなければ意味がないとはいえ…この方舟〈アーク〉が問題なく博麗大結界を抜け、我々の世界に到達するには膨大なエネルギーが要るかと…。」
エレーナの声にグラートは耳を傾ける。と、同時に頭に少し痛みを覚え、怪訝そうな顔をし、歯軋りをした。指はピアノの鍵盤から離れ、グラート自身も打鍵する気には到底なれなかった。
グラート「…忌まわしき博麗大結界め。硬く我輩らの行手を妨げた挙句、唯一の拠点たる方舟〈アーク〉に着陸を余儀無くさせるとは…。おかげで地上の下人どもを相手取らなければならないではないか。無理矢理はミステイクだったようだ。」
エレーナ「…しかし、ここまではプレジデントの計画通りです。唯一、外れたとすれば、ラストの裏切り…でしょうか。父親にも近いプレジデントを裏切り、たてつくとは…。」
グラート「…問題無い。誤差の範疇だ。…全ては執行人〈怠惰なる雷〉、レジネスに任せる。」
漣「…手間取った…。」
…玄霧逢魔との戦いから数分ほど。人里の中心地ではほぼ誰にも会わなかった。当然だ。ここは荒れ具合がとてつもない。ほぼ瓦礫の山だ。人っ子一人いやしない。とりあえず、師匠のいる西部に歩いて行くが…。
?「あれ?レーェンッ!!」
漣「蛮…蛮奇?」
蛮奇「そうだよ〜。久しぶりだなッ!!」
…徐にやって来た…飛んできた?のは、赤蛮奇だった。飛んできた…と言ったのは蛮奇の格好が所謂、生首の状態だったからだ。なるほど。コイツの能力なら偵察にも使えるし、相手にもバレにくい。
漣「おいおい、引っ付くなよ。」
蛮奇「…なんでさ。久しぶりのこの感触〜♪それに、独り占めできるんだよ?誰だってこうするさ!!」
最早、それは頭突きだよ…。
俺の胸あたりにスリスリと頭を擦り付ける蛮奇。
見るものによっては卒倒するだろうが、生首でも可愛いは正義だ。仕方ない…。
蛮奇「ひゃっ…。」
漣「皆んなのとこまで案内頼んだぞ。」
蛮奇「ちょっ…ちょっとッ!!なんで…抱き抱えて〜!!」
漣「嫌じゃないだろ?」
俺としてもぬいぐるみを抱き抱えている感覚で心地が良い。あと、肌がプニプニしてて気持ちいい。…ちょっと熱いが。
蛮奇「や…やじゃないけどぉ〜…。そのぉ…そうっ!!ドクッドクッってうるさいからぁ!!」
漣「嫌なんじゃないか。」
蛮奇「むっ…意地悪なんだぁー。わかってるくせに。女の子、いじめちゃダメなんだぁ。」
…どっちなんだよ。あぁ…心なしか俺も熱くなって来やがった。コイツもなんで不服そうな顔してんだよ。…膨れっ面も可愛いけど…。
蛮奇「…馬鹿。」
漣「えー…。会って早々、それは無いじゃないんですかね。お姉さん。」
蛮奇「だって馬鹿じゃんッ!!一人でなんでも抱え込んでさッ!!私らがどれだけ心配したと思って…!!」
…涙。再会早々、見たくなかったが、俺のために流してくれていると考えると胸が痛い。俺は落ちないように首を抱え、頭を撫でる。久々の彼女の髪は柔らかく、香りも良い匂いがした。
蛮奇「…それで済むと思わないでね。」
漣「…悪かったって。」
蛮奇「許さないもんね。あのしーちゃんがブチキレてんだよ。観音様がキレてもキレない寛容なしーちゃんがだよ?それに、ルナサだって怒ってるし…。」
…こりゃ、帰ったら家族会議ですね。
蛮奇「…デート。」
漣「え?」
蛮奇「一日中、デートしたら許してやるって言ってんの!!私はね!!それに、一緒に謝ってあげる。これでどう?」
漣「…わかった。」
それにデートだったらいつでも大歓迎だしな。修行続きで心身共に疲弊してるし…それにコイツがこんだけ言うのも少ないし…。俺の罪は言い逃れは出来ないが、それでも…良いな。待ってくれる人がいるって。身勝手だけどそう思う。
蛮奇「ちょっと…痛いじゃない。」
漣「…悪い。」
蛮奇「…そういうのは体がいる時にしてくれよな。…こっちが撫でられないだろ?全く、お前は子どもなんだから…。」
…息苦しいかもだけど、俺はギュッと彼女の頭を抱きしめていた。さっきの少しに感じた戦いでひどく疲れていたようだ。地面に座り込んで、久しぶりの蛮奇に甘えていたい。
蛮奇「体ないけど、久々だな。二人っきりってのは。いつも、ルナサか、響奇か、しーちゃんが居たな。ほんと…甘えん坊なんだから。」
漣「…なんつーか。母親だな。お前。」
蛮奇「だって母親だもーん。」
…ちょっと冷静になってみれば、生首がぴょこぴょこ動いてるこの状況、シュールすぎやしないか。
蛮奇「ほらほら。頑張って。あとちょっとだから。」
漣「…この後、怒られんのか…。」
蛮奇「自業自得だねー。最低でも二週間は開けときゃなきゃ。」
…ま、それは余裕。事後処理とか色々しなきゃだけど、家族サービスと仕事の両立は来なさなきゃ、神様に怒られちまう。
蛮奇「ほら、ここだよ。小規模な博麗の結界を張って、強くしてるんだ。シャド達は永遠亭。博麗姉妹が結界を貼りに行ったから、多分、大丈夫。」
…案内されたそこは、人里の入り口近く。小規模の村…というか、三つ、茅葺き屋根の家が立っているだけだ。村じゃないな。そこに何人かの生き残った人里の住人、霊夢達がいるらしい。…さて、腹を括るかな。
漣「…久しぶりだな。みんな。」
フラン「漣兄様ッ!!」
俺は蛮奇を離し、フランロケットを受け止める。…鳩尾回避なのがせめてもの救いだ。もう、上二人はこうやってできないので、懐かしい感じがする。
紫苑「…弁明は?」
漣「…ありません。」
泣きじゃくるフランを胸に抱いてあやしている最中、霊夢とルナサ、紫苑が笑顔で俺に迫ってくる。その後、長期にわたる説教が行われた。…結論、みんなも一人で抱え込むのはやめようねっ!!
…みんなって誰だ。
…紫苑のど低音の声を聞いた瞬間、久々に恐怖心が湧いてきた。で、今は…。
漣「…紫苑さん?…一体これは…。」
紫苑「…罰ゲーム。」
…三軒のうちの一軒家で誰にも見られず、正面から抱き合っている状態である。俺の硬い胸板に彼女の柔らかな双丘が軽く押しつぶされ、耳に彼女の呼吸がかかる。彼女特有のウィスパーと呼ばれる声と耳にかかる息のせいで体がぶるっと時折、震える。普段ならば、イチャイチャで済むのだが、紫苑が無言で顔も合わせないので、謎の緊張感が室内に走る。
紫苑「…。」
漣「…。」
紫苑「…そんな目されても許さないから。」
…やっと声を出してくれた。三時間にもわたる説教の大半は紫苑が占めており、しかも、その勢いに負けた二人は俺を可哀想に思い、辞めたとのこと。
漣「…悪かった。俺は弱かったから…お前達がそんな弱くないのわかってんのに…。」
紫苑「言い訳はいいの。…漣さんが居ないとつまらないんだもん。怒るのは当然。みんな、帰ってきてほしいって思ってるから。」
…妖夢なんか半泣きだった。
俺が玄霧逢魔と戦い、勝ったことは知っていたらしい。だが、一人を選んだのが間違いだったようだ。結果はどうあれ、少しでも間違っていれば俺は死んでいた。不死身とはいえ、死ぬことはある。…まだ、幼い子を置いて、死ぬことは許されない。
紫苑「…二度としないでほしい。私と違って、貴方は皆んなの神様なんだから。」
…ずりぃよ。
笑顔でそんなこと言われちゃ、死ぬわけにゃいかねえじゃんか。俺の口から乾いた笑いがでる。紫苑はそれにむすっとするが、ギュッと先ほどまでとは違い、強く抱きしめてきた。
紫苑「…大好き。私を…孤独から連れ出してくれた…神様。」
漣「…俺もだよ。紫苑。」
ただ二人の時間が続くだけだ。至福の時と言って良い。もう、無謀なことはしないだろう。…させてくれないよな。幸せなことだ。
紫苑「…今度、どっかお泊り…行こ?」
漣「…またかい?」
紫苑「…次は好きにさせないから…。」
…行ったな?
夏だから普通に花火とかを見に行って…それから…。楽しみだ。
紫苑「…罰ゲーム、終わり。」
漣「うん。」
さて、最後は…。
ルナサ「…私だね。」
漣「…しかし、これで良かったのか?」
彼女が欲したのは俺との添い寝だった。普段しているのだが…と言うと。
ルナサ「…この前まで出来なかったじゃん。」
と、返された。彼女には勝てない。一つの布団の中で俺とルナサはギュッと抱き合った。ルナサの顔が真っ正面に見える。いつもの優しげな笑顔で少し顔を赤らめていた。
漣「…ご、ごめん…。」
ルナサ「謝らないで?…私、嬉しいの。こうやって二人でいられて…。元通りの生活に戻れそうで…。玄霧逢魔さんがいた頃は、漣さんは怖い顔しかしてなかったから。でも、今は違う。だから、嬉しいの。」
漣「…ルナサ。」
…彼女の笑顔が眩しくて、少し顔を背けてしまう。なんか、今日一日、この調子だ。変な感じがする。
ルナサ「ふふっ。漣さん、照れてる〜♡」
漣「…ッ。久々に皆に会ったからかな…。」
ルナサ「我慢してきたんだもんね。でも、もうちょっと我慢だよ?人の家でするわけには行かないから。」
…人をなんだと思っているだろうか。この子は。嗚呼…ほんと、ずるいよな。ベタ惚れなの知っててこんなこと言うんだもんな。熱く思えたのは布団の暖かさもあるが、それよりルナサの肌に触れているのが何よりだろう。
ルナサ「…もう、寝て良いよ。私も眠たくなってきちゃったし…。」
漣「…あぁ。」
俺はルナサの頭を胸に抱き、一頻り撫でる。彼女は目を細め、喜ぶような声を出していた。そして、そのまま眠りに落ちた。時刻は午前0時。全員の相手をしていたからか、少し遅めの就寝となった。久しぶりの人肌に触れつつ、俺は意識を手放した。
ちょっと長いかもだけど許してください。
書きたかったんです…。
では次回。ではでは〜。