…ここは月。月夜見の横暴により、古い考えを持つ月夜見支持派、反氷川漣派の人々が軒並み斬り殺され、残ったのは殆どが子どもや女性であった為、再建には相当な時間をかけ、ようやく都として形となった。
それもこれも全ては綿月家の力である。月の都の最有権者である月夜見家の殆どを月夜見が惨殺したことにより、月夜見家の権威は失墜し、次点で有力者であった綿月家に指示が集まった。しかし、綿月家長女、綿月豊姫は月の都の長になることを『愛する夫に会えなくなるから』と辞退。依姫は兵士長として玉兎たちを育てる役割を既に月夜見から預かっており、それを全うすることとした。
残ったのは稀神サグメなのだが、稀神サグメは能力の都合上、氷川の人間がいないところでは話せず、現時点では月の賢者の一席を担っているため、長になっても結局は一席が空くことになる為、他の賢者は頭を抱えた。そこで目をつけたのは月夜見家である。神の力を受け継いでいるのは現在の月夜見なのだが、先代の月夜見神の実子、月夜見の姉にあたる人物の息子たる影月を即位させ、月の都を都として形作った。
しかしながら、問題も多々ある。先ずは影月。月夜見の姉にあたる人物、陽月姫が身篭ったのが、数年前の話であり、影月は普通の人間で言うところの5歳ほどである。そんな子どもに月の管理など無理に等しい。対して、母、陽月姫も幼い頃に女というだけで捨てられた為、教養という教養は無く、月の学者であった夫の受け売りでなんとか生活している。だが、その男は若くして月夜見支持派の老賢者に斬殺されてしまった。
しかし、影月以外の世継ぎがおらず、月の長の証、月神の血を引くことを条件にするものがいない。そこで依姫を知恵袋とし、月夜見家を支援する形で綿月家が立っていることで、月の都を成立させた。
…では、稀神サグメは何をしているのか。月の賢者とはいえ、やることはほぼデスクワークである。自室に座り、万年筆の擦れる音が静かな部屋にこだまする。
その環境を確実に壊す人間が一人。誰一人としてその男を認知することはできない。
グラート「…もし。」
サグメは驚いた。こんな時間に来客の予定はなかった。突然聞こえた兄とは違う低い声に心臓が飛び出しそうだった。しかし、兄のいないこの自室で話すことは自らの滅びを意味する。兄との約束との為、決して言葉は発しない。
グラート「いえ、そのままで結構。貴方のことは既に調べさせてもらったよ。舌禍の女神。」
サグメ(調べさせてもらった…?どういうこと?)
サグメは不思議に思った。見張りは誰一人いなかったのか…答えはノーである。少なくとも2分前に厠に立った時には扉の前に二人の玉兎が立っていた。
グラート「我輩はグラート。…君には教えておこうか。本当の名は『グラトニア・クリスタシー』。だからなにかと言われれば、我輩はどうともいえないが…。まぁ、覚えておくといい。さて、この娘に見覚えはあるかね?」
サグメ「…ッ!?」
グラート「あるようだね。この娘の能力と君の能力は酷似している。どちらも天邪鬼だ。だから、何かあると踏んでいたが…。あぁ。そう言えば用件がまだだったねえ。」
グラートはその写真をスーツのポケットに隠し、闇があるかのような笑みをサグメに示した。サグメは不思議と生理的に嫌ではなかったが、どこか悪寒が走った。
グラート「月の魔鏡〈千年魔鏡〉、神が打ちし刀〈酔狂満月〉、そして、偽りを晴らす光の印〈罪無きの指輪〉。月の神具と呼ばれたこの三つ…。どこにあるか、わからないか?」
…サグメは首を横に振った。そんなもの、聞いたことも見たこともない。強いて言うならば、真ん中の刀は月夜見が持っていたとも思えるが、少なくとも全ての場所を知り得る術は現在のサグメにはなかった。それを聞いて、グラートは真顔になった。
グラート「予測済みだったが…やはり、綿月の者を揺すらないと手に入らないか…。」
サグメ「…ッ!?」
フルフルと首を振り、目の前の不審な男を睨みつけるサグメ。グラートはその様子をただただ真顔で見下しているだけだった。
グラート「…愛…友情…。所詮はそんなもの、ただの紛い物だ。人の為、世の為、仁義を尽くす幻想郷精神…良くも悪くも人だな。妖怪と人間は交わるべきではないと言うのに…。人同士でも争いが起こるのに、他種族との共生など出来るわけがないだろう。下らぬ言い合いで幾つもの生命が命を絶ったのだ。…言葉だけでは何も生まない。行動で示さなければ…。」
サグメ「…。」
グラート「所詮は箱入り娘…か。自分の能力に対抗する力、知恵すらもないか。相当、愛されて過ごしてきたんだな。愛玩動物かのように過保護という檻の中で優しく守られてきたジュエリーかのように美しく、慎重に…。全く、反吐が出るよ。その優しさが人としての尊厳と常識を奪っていることに…。」
グラートは悲しげにサグメを見た。サグメには何を言っているかはわからなかったが、目の前の男がサグメを知った前提で…サグメと義兄である氷川漣を馬鹿にしているということはわかった。
グラート「ほう、馬鹿ではなさそうだ。…気に入らないが、興味が湧いた。果たして、君が我輩の城に捕らえられているとわかれば、かの幻想神はどう思うだろうな。…うむ。貴様にも来てもらおう。あぁ。大丈夫だよ。拒否権は無論、用意していないし、君がどれだけ怪訝に思ったとして、力の差がわからぬ程、馬鹿ではないだろう?それに…我輩としては、どちらでも構わないのだよ。貴族紛いの月人を揺することも出来るし、更に、君にはこの娘の命がかかっている。…な?拒否権など毛頭ない。」
サグメ「…。」
グラートの長い話が終わり、うんざりしてきたサグメだったが、グラートのその不敵な笑みとそこが見えない妖力にサグメは嫌悪感を抱いていた。ここで戦えば、彼女の命が危ない…。写真に写る鬼人正邪を見たサグメはゆっくりと頷いた。
グラート「…いい判断だ。予測済みではあったがな。」
次の瞬間、サグメの体は黒い油のような液体に包み込まれた。口元まで覆われた瞬間、サグメには勿論、息苦しさを感じていた。視界がブラックアウトする。その次にサグメが目覚めたのは…上下逆さになった和風な城であった。
その城内には幻想郷には珍しい歯車の小気味良い動く音とやたらめったらに上下左右に張り巡らされた階段や廊下、ふすま。無数の部屋が用意されており、サグメは広い空間に取り残されていた。
グラート「ようこそ。我が輝針城へ。何も用意していないが、ゆっくりしていってくれ。」
エレーナ「グラートさまぁ♡この娘…どうなさいますぅ?」
グリード「偉く媚びた言い方をするのう?エレーナ。このグリード、珍しくサブイボが出てきたわい。」
エレーナ「うるさいわねッ!!死に損ないの老いぼれめッ!!」
グラート「まぁ、そう言うな。エレーナだって、言い合いをするレジネスが居なくなって寂しいのだろう。」
エレーナ「べ…別に寂しくなんてありませんわ!!それより、グラートさまぁ♡」
未知の空間に取り残され、何もわからぬまま3人の会話を聞いているサグメ。サグメからは名前もわからず、髪を上げた男、スタイルのいい性格の女、まるで老人のような男?(仮面をつけているのでわからない)と言った様子しかわからない。
グラート「うむ。そうだな。
エレーナ「はいっ♡ほら、行くわよッ!!」
サグメ「ッ!!」
エレーナの変貌ぶりと迫力にサグメは勢いよく頷き、連れて行かれた。
サグメの居なくなった大広間。グリード、そして、グラートがただ立っているだけだった。
グラート「…例の件は。」
グリード「…全て手筈通りに。グラート様、いえ、グラトニア王の予測通りでございます。輝針城の機械化は既に整っております。元の城主は独房にて、縛り付けており、元々の輝針城では無くなりました。我々にとって…とてもやりやすい環境かと。」
グラート「…流石だ。グリード。全てを我が計画の礎とする。…先ずは幻想郷を奪取し、我が王国の始まりの地にするのだ。ここに満ち満ちる妖力、霊力、魔力を全て我輩が取り入れ、強者が強者たる世界を作るのが我輩の理想。…この郷よりうってつけの場所はない。」
グラートはそれだけ言い放ち、天守閣へと降りていった。グリードは仮面の奥でほくそ笑んでいた。
天探女…日本神話に登場する女神。天邪鬼の原像とされる。
…分かる人にはわかるネタを仕込みたいができない俺氏。話が続いていくに連れ、ちゃんと書くつもりです。
話は変わりますが、日常編に出して欲しいキャラ、やって欲しい話、募集します。本当は絞り出したいのですが、異変編から急に変えると頭がこんがらがりまして…。彼女達のはやりたいと思ってます。「しょうがないなぁ、こんなのどう?」って方はリクエストBOXまで。
勿論、スペルも募集してます。よろしくお願いします。
では次回。ではでは〜。