レミリア「…では、乾杯。」
フラン・パチュリー・漣「乾杯。」
…月が山から姿を現し、天中に浮かぶこの時間。一般的には吸血鬼が活動を始める時間だが、ここ、紅魔館の吸血鬼たちはほとんど人間と同じ生活をしていることが多い。
特に紅魔館では夕食後に洋酒を嗜むことが習慣としてあるらしく、たまたまというか、幻想郷であったことを聞きたいとのことで、俺は訪れていたのだが、折角ならばと酒の席に呼ばれた次第である。…まぁ、俺も咲夜とフランに会いたかったしな。
レミリア「…あの時使った三位一体でトドメを刺したというわけか。お前にそこまでさせるとは、そのグラートとやらはとてつもない力を持っていた…というわけだな。」
漣「頭もキレ、能力にも長けている奴だった。」
レミリア「…ワインが不味くなるようなとてつもない下衆ということか。しかし、まだ死体も形跡も見つかっていないというのが少し引っかかるな。」
…確かにだ。
輝針城の瓦礫の中から片腕と頭の無いフューリーの遺体しか出て来なかった。ラストがエレーナとグリードが居ないことを不思議に思っていたが、彼は罪を償う為、残ったシリウスの残党とともに船に乗り、飛んで行った。だが、エレーナ、グリード、そしてグラート、レジネスの姿が残っておらず、さらには玄霧逢魔の姿も人里近くには無かった。その近くには橙色の服を着た男が居たと人里の人たちが言っていたが…そんな奴、見たことがない。
レミリア「今宵は祝いの酒というわけか。しかし、どうだ?いつも呑んでいる日本酒とは違い、洋酒の味は…。」
漣「…別に?酒で重要なのは何を飲むかじゃない。誰と飲むかだろ?」
レミリア「何を飲むかも重要だとは思うが…。やはり、それでこそお前だな。氷川漣。」
何処で誰と飲んでも美味い酒。そんな美酒がこの世にあっても俺は家族と飲みたい。酒の好みは鬼によるが…。
フラン「そういやさ、サグメ姉様も元気だった?」
漣「あぁ。今は我が家にいるよ。」
サグメも災難だ。月の神器なんかのために、グラートに捕まった。…本人は本当に知らなかったが…。月夜見の刀の名前をサグメが言っていたのも気になる…。
口元にグラスを当て、中の洋酒を少し飲む。たまにはこういうのも良いかもしれない。
…あれから少し話をした後、小さな会合は終わりを告げた。俺は自室に行き、月を見ながら、持ってきた日本酒を口に少し含む。…飲み過ぎは注意されたからアレだが、寝る前のこの時間くらいは好きに過ごさせて貰いたい。
咲夜「…あら?漣様、起きてらっしゃったんですか?」
漣「ん?咲夜、どうして…?」
咲夜「部屋の電気がついておりましたので、ノックしてみても上の空だったのか、お返事なさらなかったので失礼ながら入らせていただきました。」
…おや、そうだったのか。
漣「すまなかった。」
咲夜「お気になさらず…。横、良いですか?」
漣「あぁ。」
ちょうど寝具から月が見えるため、そこに腰掛けて飲んでいたため、隣が空いている。咲夜はそこにゆっくりと腰を下ろした。
咲夜「私、まだ実感が無いです。漣様と恋仲になれて本当に…嬉しかったです。」
漣「…飲むかい?人でも飲める…弱い酒だから。」
咲夜「…ありがとうございます。」
お猪口に酒を入れて、咲夜に渡す。思えば、こうして二人で飲むのはルーミアか、ルナサかだった。咲夜と腹を割って話すのは初めてだったっけ…。
咲夜「…美味しい。」
漣「良かった。洋酒しか好まないのかと思ったよ。」
咲夜「普段飲んでいるものとは少し趣向が違いますが、これはこれで頂けます。…私、お酒があまり得意では無いので…。」
…そうだったのか…。そんなことも知らないとは…。彼氏失格だな…。
咲夜「…漣様、よくぞご無事で戻ってくれました…。あそこで…あんなボロボロになられた時…不甲斐ながら咲夜は…漣様が死んでしまうかと…。」
咲夜の顔がわかりやすく暗くなる。…そっか、コイツは一緒に居たんだもんな。俺は咲夜の頭に手をやってポンポンと軽く叩いた。髪はサラサラでとても柔らかかった。
咲夜「んっ…。れ、漣様?」
漣「…安心してくれ。どんなに強大な相手が居ても俺は死なない。たとえ、負けようが地を這いずろうが、俺は死なない。お前たちが帰りを待ってくれているからな。」
咲夜「…漣様…。」
漣「ありがとう。心配してくれて。咲夜。」
…咲夜がやっと笑ってくれた。そうだ。やっぱり、笑顔が一番だ。部屋の明かりと月明かりに照らされた室内でも、咲夜の笑顔は一際輝いていた。
咲夜「もうっ。心配しておりましたよ?…怒る気でここまで来たのに…失せてしまいました。漣様の馬鹿っ。大馬鹿ですよ…。ほんと。」
漣「悪いね。…こんな大馬鹿に付き合ってくれて。」
咲夜「いいえ。漣様がどうしようもないおバカさんだから…。私がそばに居て差し上げないと…。」
漣「…そうだな。」
…いつも冷静な咲夜が子どものように真っ白な歯を剥き出しにして笑っている。美人だと思っていたのだが、改めて彼女の可愛さが見えたような気がした。…忘れていたが、彼女は二十数年しか生きていないのだ。大人びているが、俺よりもずっと若い。俺からしたら陽奈も咲夜も変わらない。
咲夜「…もう一つ、わがまま言っていいですか?」
漣「…なに…?」
咲夜「…私、少ししか漣様と居られませんでした。想いを告げて二年ほど経つのに、私は漣様とまともにお出かけしたこともありません。戦いの場で、陽奈と一緒に会うくらいです。私も漣様の彼女の一人ですのに…。」
漣「わ、悪い…。」
咲夜「…本当ですよ。おバカさん…。もっと一緒に居たいのに。そこに居ない歯痒さと言ったら…。それに、漣様が生きていても私はどうせ、漣様よりも早く死んでしまう。人のまま、居たかったですが…貴方の子を授かるのならば、人の体では弱すぎる。…だから、私、決めました。」
咲夜は俺を見つめ、そっと微笑んだ。
本当に綺麗な顔をしていると俺は思った。
咲夜「…私を漣様の手で、人ならざるものとしてください。」
漣「…本当にそれがお前の意思か?吸血鬼じゃなくて…本当に良いのか?」
咲夜「…お嬢様には断られました。咲夜が望んでいることじゃないでしょって。私が望んでいるのはただの不老不死では無いのです。漣様とともに居られることが…私の望みなのです。」
…咲夜が寂しげな笑みで此方を見てきた。無論、彼女の決心は固く、俺に折れるものではない。しかし、それは人として生きた生涯へのお別れで、彼女としても思うことがあるのか、完全には笑えていなかった。
漣「…後悔しないな?」
咲夜「…勿論です。私は貴方のものです、そして、お嬢様方の…メイドですから。」
…意を決し、彼女の唇に俺の唇を重ねた。
力を分け与え、半人半神とする。そこから完全に不老不死になるには定着させる必要があるが、咲夜なら大丈夫だろう。
漣「…ぷはっ。…どうだい?人じゃなくなった自分は。」
咲夜「…何も変わっておりません。気持ちが良いだけです。」
そんな咲夜はそこにあるなによりも輝いていた気がした。俺は彼女をギュッと抱きしめ、そして、彼女と寝ることにした。
漣による神化の影響も書きたいんですけど、別に変わらないんですよね。不老不死になれる、迦具土ノ炎を共有できるぐらいなんですよね。ただ、勿論、それだけじゃないです。
では次回。ではではー。