異変編の導入です。
?「…
…季節外れの桜が舞う。
桜の花びらは地面に落ちる。落ちた花びらは先端から焼けていく。仄暗い世界はただ時を紡ぐ。…夕刻、黄昏の逆側。顔を隠した二人の少女と数人の付き人達が山道を歩いていた。見た目は砂漠の商人のようである。
?「…お兄ちゃんが?…生きててくれたんだ…。」
?「…お兄ちゃん?誰なんだい?」
左の少女が歓喜の声を漏らす。それに対し、右の少女は小首を傾げた。首と頭を隠している布からは月明かりに照らされた瞳は瑠璃色と白金色に輝いていた。
?「…お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。私のお兄ちゃんは強いんだ。お父さんとお母さんと同じくらいに…ね。」
?「…強い…か。それは力の強さか、心の強さ。ゆらりゆらりと力に向かう。力を求める哀れな生き物だ。…だけど、心の強さなら、それは真の強者と言わしめる。ふふっ♪会ってみたいな、お兄ちゃん…と。」
?「貴方のお兄ちゃんじゃないわ。私のお兄ちゃんよ。」
?「君のお兄ちゃんはボクのお兄ちゃんじゃないか。君はボク。ボクは君。夕闇に溶けた太陽。水の中に溶ける月。ボク達はそんな関係じゃないか。」
木の滑車が引かれていく。二人の少女に言い争いにまたかと赤い布をつけた人物がため息をついている。滑車を引いているのは青と紫の布を顔に巻いた男は静かに笑っている。
?「…お嬢様方、喧嘩はよしてください。ここ一体を燃やし尽くす気ですか。」
?「むぅ…。ねぇ、
龍忌「まだです。まだ地獄巡りは終わっておりません。針山を超え、最短は畜生界と煉獄のどちらかを抜けること。…そして、我々の目的、奴の首は畜生界にあると踏んでおりますが…。」
…龍忌と呼ばれた人物は自身の顔に巻かれた赤い布を触った。右腕には経が書かれた包帯が巻かれている。包帯の影からは青紫に光る目が見えた。
?「…しかし、地獄に夜があるとは。文字通り、地獄巡りだな。狗神。」
龍忌「…うるさいぞ。神虎。雲外と共に滑車を引け。中には我々の武器がある。置いていけば、殺すぞ。」
神虎「…言ってら。楽しやがって…。」
雲外「クックックッ…。良いじゃないか…。地獄の風は心地よい…。特に俺ァ、血の池が好きだぜ。地獄の富士山針地獄の頂が水面に写るとは…。風流かな、風流かなっ!!クハッハッハッ!!」
滑車を引く二人、青布の男〈水刃神虎〉と紫布の男〈牛鬼雲外〉に赤布の〈狗神龍忌〉が一括する。その姿に雲外は狂ったように笑い、神虎は気怠げに息をついた。
龍忌「…しかし、玄霧組か。妙な組を作ったものだな。」
神虎「…残忍無慈悲な性悪野郎。畜生ってのはアレを言うんだろ。しかも、幹部の面々も名が知れた犯罪集団じゃねえか。」
雲外「クックックッ…。蟲使いに、煉獄の管理者。更には玄霧の姓を持つ童が一人。しかも、女人。…戦が楽しみよ。」
?「変わり者しかいない。この組は粋狂揃いだね。…ある意味、心の強さとも言える。嗚呼、なんと粋狂なことだ。ボクは心がウズウズして仕方ない。」
?「…貴女、本当に変わり者ね。」
赤茶色の布で顔を隠す少女は呆れたように声を出す。それを聞いてか、灰色の布で顔を隠している少女はクスクスと笑い出した。
?「はてさて、ボクが変わっているのか、世界が変わっているのか。変わっているのがボクか。世界か。…本当に謎だね。麗奈…。」
麗奈「そうね。貴女を相手していると気が狂いそうだわ。名無。」
名無「…名無しの権兵衛。妙な名をつけないでくれ。名前が無いのは仕方がないが、姿形はそこにある。それがボク。故にボク。…クスクス♪なにがボクをボクたらしめるのか。」
住人達は愉快に進む。血の滴る地獄を抜けて、目指すは本拠地畜生界。玄霧逢魔の首ただ一つ。
地獄にはてなく暗い空にて、名無と呼ばれし少女は高らかに笑った。彼女らを人は道化の集団〈狗神一家〉と呼ぶ。
?「…今宵は…変わった…客が来る…。」
砥石に刀を擦り付ける音。
四方を木に囲まれた小屋から聞こえる。中には袴を来た男が一人。自身の愛刀を研いでいた。
逢魔「…見つけましたよ。貴方が、煉獄の…。」
?「…手配書に出てた顔…。閻魔殿の仇か…。」
逢魔「…ほう?蛇にも勝る威圧感。流石は煉獄きっての天才剣士、確か、名前は…。」
?「…賊に教える…名などない…。ここは煉獄…。あるのは強さ、ただ一つ…!!」
逢魔「…なんと荒々しい。勇猛な剣士ですね。」
逢魔は笑う。その後ろに厳秋を引き連れて。
対峙する男は思った。体が震える。武者震いか、否。この煉獄に来て百年余り。己よりも強者にあったことはない。煉獄は強者の溜まり場、故に修行の場に選んだ。が、目の前の男は、玄霧逢魔は、強者と呼ぶにはあまりにも異形すぎた。…怪物。そう、それが奴にはふさわしい。
逢魔「…君の名は知っています。なぁに、とって殺そうとは思ってない。ただ、君の力を知って求めているだけ。」
?「…言ったはずだ…。ここには…勝つか負けるか…。あるのは強さだけだと…!!」
先程まで研いでいた刀を二振り、握りしめ、構える。
逢魔「…僕が言っても良いですが、ここは…。」
厳秋「…名の知れた剣士ほど刀を交えることを快感とする。俺が行きましょう。」
?「…主も…私より…上か…。」
厳秋が刀を引き抜く。目の前の三白眼の男の威圧感に煉獄の剣士は実力を見出すが、決して引こうとはしない。
?「…かなりの達人と…見える…。」
厳秋「…お喋りが好きか?」
?「…嫌いではない…。」
男の右目を隠す前髪が揺れる。男は目を閉じると、観念したのか、刀を鞘に納め、その場に正座した。
厳秋も刀を鞘に納め、逢魔は硬い口を隠しているガスマスクを爪で弾いた。
逢魔「偉く素直ですね。」
?「…必ずしも…争うことが…その場の最適解に…なるわけではない…。引き際は弁えている…。私は
逢魔「協力感謝致します。僕は玄霧逢魔。此方は僕の師にて、右腕、空蛇厳秋。以後お見知り置きを。」
春國「…御意。」
風が吹き、煉獄の砂埃に視界を遮られる。砂埃が止むとそこに人影はなく、ただそこには先ほどの小屋があるだけだった。
月夜見「…新たな力の覚醒。」
日が沈み、獣達も寝静まる夜中。俺は甚平に着替え、紙に文字を書いていた。氷川漣の急速な成長、グラートなる者の広範囲に及ぶ能力の使用。これを覚醒と呼ぶならば、俺とシャド、更には博麗の巫女達も強くなれるのでないか…。
例として、博麗の秘術、夢想天生と呼ぶ技。アレを極め、常駐出来れば…。だが、それはスペルカードルールなるものに反してしまう。当たらなければ意味がないと言うものだ。だが、逆に覚醒をしているであろう奴もいる。ルーミアや八雲紫がその筆頭格だ。本気を出せば、頭一つ抜けている。
月夜見「…。」
俺の力がもっとあれば、この妖怪の山と…和泉を守れるだろうか。安心して、盾になれるだろうか。
和泉「月夜見様?まだ起きてらっしゃったんですか?」
月夜見「…和泉。」
寝室から和泉が小さく欠伸をしながらやってくる。特徴的な艶やかな長い黒髪も乱れ、白い寝巻きからは溢れそうなほど豊満な双丘が形作っている。
月夜見「先に寝ていろとあれほど…。」
和泉「月夜見様が居ないと私は寝れません…。私の癖を知っている月夜見様ならご存知の筈ですっ。本当に意地の悪い方…。」
…そういえば、こいつは寝るときに何かを抱く癖があったな。ここのところ、学問と戦により、心身ともに疲弊している。
和泉「…月夜見様が強いとはいえ、体を休めなければ。寝てからでもお勉強は出来ます。月夜見様?月夜見様は何故そんなに頑張るのですか?」
月夜見「…俺はこれ以上何も失うわけにはいかない。愛した花は枯らさせない。吹雪からも、干害からも、人の手からも…。故に俺は盾とならなばならぬ。悪を一つ、この身に知る故の正義。愛を亡くして人は語れぬ。神も同じ。否、神だからこそ信仰とは違う、愛に執着している。だから、強く、守れる強さを手に入れたい。それの為なら努力は惜しまない。」
和泉「…では、私も同じです。貴方を守るために心技体全てを手に入れました。…ですが、夜更かしはダメです。体を自分から窮地に追いやるような真似、しないでください。」
…和泉の言い分はもっともだ。それに時間も遅すぎる。明日も鍛錬がある。…そろそろ、寝ることにするか。
月夜見「…わかった。俺が寝ないとお前も眠れんようだからな。」
和泉「なっ!?…う、うぅ〜…!!本当だから…何も言えません…。」
月夜見「…暗闇に強くなろうな。」
和泉「…はい。」
名無は仮名です。仮の名前です。
では次回。ではでは。