※この作品はR-18です。

半人半妖の恋愛奇譚   作:紳爾零士

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第184話『黒と肉と電気と』

?「…アンタみたいな有名人がこんなとこにいるなんてなぁ…。玄霧逢魔。」

 

…ここは畜生界。まさに弱肉強食の世界であり、強いものたちが支配する世界である。強さがものを言うだった筈が、ずる賢い者が構成する世界となってしまい、今では数組の組織が支配する世界になってしまった。

 

逢魔「…アンタ、なんでここに…。死神、橙紋終っ!!」

 

終「あらら、知られちゃってまぁ…。俺も有名になったもんだねぇ…。」

 

崩れた瓦礫の上に腰掛けて、足を組んで歯を見せて笑う終に対し、逢魔は少し冷や汗をかきながら、睨み付けていた。

 

終「…何しにきたって感じだな。忠告しにきたのさ。あんまり派手に動くなってな。」

 

逢魔「…ッ…!!閻魔に感づかれていたのか…っ!!」

 

終「いいや?閻魔様はなーんにも関与してねえさ。感づいているのは…わかるよな?」

 

逢魔「…あの人か…。」

 

逢魔は悔しそうに言葉を吐いた。

終はその様子を見て大口を開けて、高らかに笑った。

 

終「大層派手にやられたようだなッ!!あのじゃじゃ馬は誰にも止められねえッ!!持ち前の嗅覚で、祭りをかぎ分け、来ちまうぜ?あんま、派手にやらかさないほうが良いぞ?ガスマスク!!」

 

逢魔「ッ…!!士道凰牙…め。」

 

終「…あの能力は異常だ。見えても聞こえてもねえのに、人の思考を当てちまう。ありゃ、化け物以外の何モンでもネェ…。」

 

逢魔「…昔から知ってるからこそ…ですか?」

 

終「…正解。アイツは行くべき場所に現れるからな。本能から察してるんだよ。…くくっ。やべえのに目ぇつけられたってわけだ。」

 

逢魔「…っ。」

 

厳秋「…あの若者、そこまで行ったか。」

 

厳秋が思い浮かべるのは、昔の凰牙の姿であった。あの頃はまだそこまで名の知れた剣士ではなく、月の中でも強いだけだった。刀を交えて、高みへは行くと思っていたが、そこまでとは…。無表情を貫き通していた厳秋の顔にほのかに笑みが浮かんだ。

 

終「…止めに来たわけじゃねえ。ただ忠告しに来ただけだ。」

 

逢魔「…簡単に帰れるとお思いで?貴方の存在も厄介なんですよ。ここで殺してしまえば、貴方の刀も魅力的ですからね。僕も武器は欲しいところですから。」

 

終「クハハッ!!威勢はいいが、狩るべき時を考えた方がいいぜ?じゃあな、逢魔。」

 

厳秋「『厳罰』ッ!!」

 

いつの間にか、終の背後にいた厳秋が黒い刃を終に振るった。が、終は長い刀でそれを受け止め、ニヤリと笑った。

 

終「戦う気はネェ…。俺は帰るぜ。」

 

厳秋の刀を弾き、指を鳴らして消える終。終が去ったところには人形に切られた紙がひらりと落ちていた。

 

逢魔「…伝書鳩め。」

 

逢魔は静かにそう呟くとその紙を握りつぶした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…久方ぶりだ。この月の地に足を踏み入れるのは…。

 

依姫「…先代、月夜見様、奥様。本日は御足労頂き有難う御座います。」

 

今宵は月の都の新たなる長を決める日。

故に過去の因縁を清算しなければならない。その為に俺は和泉を連れてやってきた。二人で来たのは戦う気がないという意思表示と何かあっても闘える妖怪の山最大の戦力である俺たち二人でやってきた。

 

和泉「わぁ〜…。月の都とは…なんと煌びやかなことでしょう…。まるで聞いていた京の都のよう…。」

 

月夜見「偉く復興したものだ。対応が早いのは豊姫のおかげか…。」

 

依姫「…あまり軽口は叩かぬよう…。この月の都は完全に貴方を許したわけではありませんので…。」

 

…依姫の声が低くなる。眼光も鋭く、俺が何をしようと必ず仕留めるという意思を感じた。

 

月夜見「…和泉の前で闇に手を染める意味はない。」

 

依姫「…その言葉、信じておきます。」

 

…重々しい音を立て門が開き、月の都1番の豪邸、月夜見邸が姿を表す。その緋色の姿は月の都の中でも異質な存在感を放っていた。月夜見の名と酔狂満月はここで貰った。先代没後の住まいとしても世話になり、俺としても思い出深い場所だ。

 

回廊を渡り、大広間へと入る。巨大な緋色の月夜見邸の中でも一際、大きな大広間には中心を分け、その周りに一つの道を開けるが如く、両端に月の新たなる重鎮達が座っていた。その部屋の奥には白い羽織をきた、逆立った銀髪の青年が胡座をかいていた。

 

?「…伯父貴…久しぶりだな…。」

 

月夜見「…月秀。」

 

この大柄な男こそ、次の月夜見候補『楼観伝月秀』。顔に刻まれた傷が奴のやんちゃさを象徴としているが、これはこれで真面目であり、月の都のために働くことが多く、幼き頃から月秀を知る者は妥当だと思っていた。

 

月秀「…まぁ、そこに座ってくだせぇ。奥方様もご自由に。」

 

月夜見「わかった。」

 

…言葉に甘え、俺は畳の上にどかっと座った。その横にちょこんと正座で座る和泉。どことなくこの空間にいる天狗というのは孤立していた。穢れを嫌う月人ならではなのだろうか。

 

月秀「…伯父貴…いえ、大月神流弦(おおつきのかみりゅうげん)様。この俺を七代目として、月夜見の名を。」

 

月夜見「…本名を言うとは…覚悟はあるようだな。」

 

月秀「…はい。七代目月夜見として、この月の都を守っていく所存です。どうか。」

 

両方の拳を床に打ち付け、頭を下げる月秀。母である陽月姫や、他の女がいない。となると、今回は襲名と宴のみで婚姻の儀式はしないということか。女遊びするような奴でもないしな。

 

月夜見「…。」

 

和泉「つ、月夜見…様?」

 

…この空気の中、和泉が消え入りそうな声を出す。彼女にとっては相当な威圧感だろう。確かに天魔も襲名式ではあるが、彼女らは一対一で襲名するらしい。だが、今回は…。

 

月夜見「…申し分ない。」

 

月秀「おぉ…。それではっ!!」

 

月夜見「…月夜見の名を頂くのだ。童のような顔をするな。童には、いかなる重圧にも耐える力がない。お前にそれがあるか。」

 

月秀「…もちろんで御座います。この月秀、母陽月の名において、これからこの月の都のため、身を削って働く所存です。」

 

…幻想郷を見守る器か。

俺には出来なかったことだ。杯を持ち、目の前の月秀と酌み交わした。喉元に通る酒はスッキリとした味わいで弱い奴でも飲めるくらいだった。

 

月秀「カァーッ!!しかし、伯父貴も大層な嫁さんを貰ったようで!!母から耳が痛くなるほど聞かされているぜ。」

 

月夜見「今宵は無礼講…か。」

 

…今の俺は元月夜見。月夜見の名は乾杯の合図とともに奴に渡した。『大月神』という名字も母、リンネからもらったもの。彼女の姿もどんな人かも知らぬ。ただ、生きろと言われただけだった。

 

月夜見「この酔狂満月とも別れか。」

 

月秀「…刀をコロコロ変えなさる。宵と明ノ明星も渡されて…全く、伯父貴は自由な人だっ!!はっはっはっ!!」

 

月夜見「良い。俺にはもう一本、あるからな。」

 

月秀「ほう?月の神具に勝るとも劣らない代物で?」

 

月夜見「『夕隠れ』だ。かつて、氷川戀真が使っていたとされる代物。それを氷川漣より受け継いだ。持て余している…とな。」

 

夕隠れの名を聞いたところであたりがざわつく。月秀も少し眉をぴくりと動かした。

 

月秀「…なんの表情も変えず、恐ろしいことを言いなさる。夕隠れは人斬り刀。人を斬った数ほど刀は名を売る。月の都でどれだけの人がその夕隠れに殺されたか…。」

 

…そう、夕隠れとは別名『血塗れ刀』。

斬り刻まれた人の血に染まったような、はたまた夕暮れ時のような橙色に光る刃が特徴である。これもまた運命か、月では穢れの象徴として疎まれているものだ。

 

月秀「…多少は昔より綿月のおかげで穢れには寛容になったが、それでもその名を聞いて持つことを許すものはいない。それでも、刀としては一級品。奥方様の腰のそれに匹敵するほどの名刀。貴方ほどの人が持てば、確かに強力な矛になろう。」

 

月夜見「…これも気に入っていたが、この刀は自ら主君を選ぶ。お前との日々、楽しかった。」

 

…月夜見としての象徴、月の神具『酔狂満月』は俺に答えるかのようにきらりと輝いた。…鞘に納め、地面へと置く。

 

月夜見「…月夜見の名とこの酔狂満月、此度、楼観伝月秀殿に明け渡す。」

 

月秀「嬉しゅう御座ります。伯父貴。この月秀、月夜見としてこの月の都とともに一族に恥じぬ一生を送って参ります。」

 

月夜見「…。」

 

今宵は無礼講。

陽月が見ればなんというだろうか。元はただのチンピラだったはずだった。それが今や、月の都…いや、月全土を背負おうとしている。綿月は月を変えたぞ、漣。

 

月夜見「…美味かった。」

 

月秀「おや、帰るのかい?まだ早えんじゃ…。」

 

月夜見「山を空けるわけにはいかないからな。世話になった。」

 

月秀「…手が欲しければいつでも呼んでくれ。俺が長である以上、誰も伯父貴を悪いようには言わせねぇ…。」

 

…これこそが…月夜見のあるべき姿なんだろう。全てを従わせる…器。

 

月夜見「あぁ。また会おう。月夜見陛下。」

 

和泉「…ッ!?月夜見様が…笑った…!!」

 

襖を閉め、また長い回廊を進む。

月の都は賑やかで良いな。進んだ科学都市が確かに光りを月にもたらしている。…ここは、いい街だ。

 

和泉「つ、月夜見様?さ、さっき…。」

 

月夜見「…笑っていない。」

 

和泉「うぇっ!?で、でもぉ…。」

 

月夜見「…ただ、嬉しかった。それだけだ。」

 

…肩の荷が降りるとはこのこと。

月の都に執着が無かったといえば嘘になる。故にこれはこれで…良かった。俺の返事を知ってか、和泉はパァ〜と明るい笑顔になる。…コイツには勝てない。

 

和泉「月夜見様?手を…。」

 

月夜見「…。」

 

…言わなくてもいいのに。

俺が頷くと和泉はほのかに顔を赤く染めながら、俺の手をキュッと握る。ここを出れば暗闇になるからな。少し震えているのはそういうことだろう。だが…。

 

月夜見「…俺はもう月夜見ではない。」

 

和泉「なんですか?唐突に…。」

 

月夜見「…いや。」

 

和泉「月夜見様は月夜見様です。私は月夜見様以外に甘えたくありません。私は月夜見様が大好きです。だから、大月神云々は知りません!!」

 

…あぁ。

 

月夜見「…長かったんだな。」

 

…あと2文字なのだが。

 

和泉「お、覚えられなかったわけでは…。」

 

月夜見「…大月神流弦。」

 

和泉「…へ?」

 

月夜見「お前にはそう言われたい。…いや、友にも…か。」

 

…俺らしくないことを言う。

名前なんて何の意味もない。だが、わざわざ捨てた名で呼ばれ続けるのも…癪に触る。

 

和泉「…り、りゅうげん…様…。流弦様…。流弦様っ!!」

 

流弦「…あぁ。」

 

…これにて一件落着。

これからは月夜見ではなく、本当の名で名乗り続けていく。これが俺としての覚悟。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月秀「…大月神か。」

 

依姫「そういえば、大月神…ってなんなんですか?そんな名前、この月夜見邸の文献にも書かれて…。」

 

月秀「馬鹿いえや。ありゃ、あのお人にしか名乗れねェ…名だ。」

 

依姫「な、なぜです…?」(なんという…威圧感…)

 

月秀「…大月神が文献に書かれていない理由…。それは、闇雲の影に隠れた選ばれた血統の者だからだ。母上が言っていた月帝という人の名。それは大月神を姓に持つ者だと俺は思う。」

 

依姫「…月帝…文字通り、月の帝王。そんな人がなぜ…。」

 

月秀「…全ては地下牢の奴に聞け。あれなら全てを知っている。」




月夜見の話を書きたかったので。
次回からはしっかりと漣の話をしていこうかなと。まだプリズムリバー三姉妹も書いてないしね。では次回。ではでは〜。
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