ルーミア「…遅い。」
漣「悪いって。」
…不覚だ。待ち合わせ場所に霧の湖を指定してきたルーミアであったが、少し遅れてしまった。…最悪だ。
ルーミア「…そーやって、女の子を待たせるんだね?やっぱり、意地悪な人。」
漣「悪いって。」
ルーミア「謝って欲しいなんて一言も言ってないでしょ。まぁ、いいわ。ちゃーんと、反省してるみたいだし。お昼ご飯で手を打ってあげる。」
…おいおい。昼飯で手を打つって…!!
ルーミアは自分がどれだけ食べるか…知ってんのか?だって、人一倍…いや、何倍も…。
ルーミア「なーんか、文句ある?」
漣「…ありません。」
キッと睨んでくるルーミアに…不覚ながらも怖気付いた。…流石に彼女の中でも長生きの大妖だ。ただの半人半妖とは格が違う。
ルーミア「じゃ、行こっか。この状態で人里いくの、楽しみだなー。あっ、どう?寒いからちょっとイメチェンしてみたの。」
くるくる〜と回って見せてくる。イメチェンと言ってもリボンは変わらず、黒と白のカラーリングは変わってないが、上は落ち着いたセーターで、下はパンツ、いつもの赤いシューズではなく、中がもこもことしたブーツである。…秋服というか、冬服というか…。大人っぽい姿とは裏腹に、無邪気に八重歯を見せる姿が子供っぽくて可愛い。
漣「あぁ。可愛いよ。」
ルーミア「ふふっ。ありがとね。さっ、いきましょ?」
…ふと疑問に思った。
人喰い妖怪、まぁ、姿は多少変わってはいるが…。入ってもいいものなのか?
ルーミア「そうねぇ…。これも、貴方の人望の賜物かしら。ふふっ。」
漣「そんなものなのか?」
ルーミア「簡単なことよ。…畏怖を好む妖怪としては複雑だけれど。氷川漣の彼女としてはとっても嬉しいわ。」
恍惚そうに、愛おしそうに俺の手を握り、ニッコリと笑うルーミア。ルナサや霊夢とこの子が違うところはこういうところかもしれない。絶対に取り繕わない。嫌なものは嫌と言い、好きなものは好きと言う。一本、筋が通っている。うちの彼女らはどれにとっても強い。…美しい薔薇にはとげがあるとは…このことか。
ルーミア「何よ。急に笑って。気持ち悪い。」
漣「…気持ち悪いって…。お前なぁ…。」
…ほんっと刺々しいな…。
漣「…着いたぞ。」
ルーミア「…美味しそうな人ばっかり。」
じゅるりと舌舐めずりをするルーミア。一際、長い舌が彼女の唇をなぞる。
漣「付き合うときの約束、覚えてないのか?」
ルーミア「冗談よ。食べるんだったら貴方がいいもの。あえて愛した上で……頸動脈をガブリっ!!…てね♪」
…なーにが、てね♪だ。言っている内容と顔が一致してない。笑顔でウインクされても冗談には聞こえない。当の本人はクスクスと笑っている。…こう見たらただの美女だ。美女の戯れ…戯れで死んでたまるか。
ルーミア「はぁ…。一頻り笑ったら、お腹すいちゃった。」
漣「まだ昼前だぞ?」
ルーミア「だからと言って、このままじゃ何もできないわ。ほら、貴方も食べた方がいいって言うじゃない?お昼には早いから〜…。軽く和菓子でも…どう?」
漣「はぁ…。」
ただでさえ、待たせてしまっているのだ。彼女の喜びが俺の喜び。人里の中で1番腕が立つ場所と言えば…先生行きつけの『篠屋』だろうか。確か、寺子屋の近くだったな。
漣「よし。行くぞ。」
ルーミア「やったぁ!!」
篠屋の看板娘が俺たちを誘い、古き良き座敷に座り、軽食を待つ。朝飯と言うには少し遅く、昼飯と呼ぶには少し早い時間だ。俺はみたらし団子を、ルーミアは餡蜜を頼んだ。
ルーミア「せっかく、お茶屋に来たんだから、甘味を味わえばいいのに。」
漣「みたらしも立派な甘味だぜ?」
甘すぎず、辛すぎず…。ほのかな醤油の香りが後を引き、そこからここ特有の優しい甘さが追いかけてくる。俺は甘いものを好かないから、とても良い。
ルーミア「そー言えば、人里もだいぶと変わったものね。あの時は塵同然だったけど。」
漣「これも勇儀たちのおかげだ。」
…剛力の知り合い。鬼という鬼を連れて、ここの復旧を手伝ってくれた。感謝しても仕切れない。鬼とは言え、俺一人では無理だった。
ルーミア「…立派なことね。」
漣「全くだ。」
看板娘「お待たせしました。みたらし団子一つと餡蜜一つでございます。」
看板娘の声とともに、俺の前にみたらし団子を、ルーミアの前に餡蜜を持ってきた。丸い白い皿に茶色の醤油だれがきらりと光り、よく映える。一口いただくと…美味い。やはり、先生の言葉通りの味だ。
ルーミア「う〜ん…!!美味しい!!」
ルーミアも手放しで褒めていた。かなりの手前だ。味による満足感が、腹を満たす。軽食にしては、少し満足しすぎたかもしれない。山のように積まれた、3本の串団子を平らげた。それと同時ぐらいにルーミアも餡蜜を平らげていた。
ルーミア「美味しかった。御馳走様。」
漣「満足したか?」
ルーミア「うーんと…。そうねぇ…。」
そう言いつつも口元の黒蜜を指で拭い、ペロリと舐めるルーミア。
ルーミア「うんっ。もう満足だわ。今はね。ちゃんとお昼は食べるから。」
漣「はいはい。じゃ、いこっか。」
二人分の代金を支払い、店を出た。山の方はもう色づいていない。
ルーミア「お待たせ。さぁ、いきましょ?」
漣「おう。」
…次は何処に行ったものか。今宵の妖怪の山はあまり向いていない。とはいえ、昼までまだ時間がある。飯屋はたくさんあるが、少し時間を置いても良いだろう。再び、彼女の手を握る。…何故か、とても冷たい。
ルーミア「あったかい。今日はやけに寒いわね。」
漣「そうなのか。」
ルーミア「そーなのよ。」
…確かに風は少し強い。ルーミアの長めの髪も少し揺らいでいる。顔にかかったのか、耳にかける姿が可愛らしい。
ルーミア「そうねぇ…。お着物でも買おうかしら。」
漣「着物?お前は着ないと思っていたが。」
ルーミア「好きな殿方と同じ服でいたいじゃない?少なくとも私はそう思う。」
…そんなものなのか?
だが、楽しそうに買い物をする彼女を見るのは好きだ。例え、荷物持ちにされてもね。
ルーミア「いきましょ?」
漣「あぁ。」
嬉々として彼女の手を握る。…今日はとても長い1日になりそうだ。