※この作品はR-18です。

半人半妖の恋愛奇譚   作:紳爾零士

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明けましておめでとう御座います。
本年も半人半妖の恋愛奇譚と私、紳爾零士をよろしくお願い致します!!


第204話『月読酒』

流弦「…。」

 

…今はただ鍛錬あるのみ。

妖怪の山の修練場。竹刀を人形へと打ち込む。その数、二千回。まだ序の口だ。皆があの男の為に、否、幻想郷の為に極限まで鍛錬を続けている。現に、今も白狼天狗どもをしごいているところだ。組手に次ぐ組手、技体だけではなく、滝行で心も鍛える。

 

和泉「流弦様!!」

 

流弦「和泉。」

 

和泉「休憩にしましょ。いくら流弦様でも、切り詰め過ぎは良くありません。」

 

…それもそうか。

近くの平たい岩の上に腰をかけ、和泉の持ってきた包みの中の握り飯を一つ持ち、齧る。

 

横に座り、和泉も握り飯に口をつける。普段とは違う、弓道着のような服装、赤いリボンで束ねた髪…。

 

流弦「…綺麗だ。」

 

和泉「ふぇっ!?…き、急に…なんですか!?」

 

握り飯を落としそうになりながらも、何とか留まる和泉。顔は真っ赤だ。…何か変なことでも言っただろうか。

 

流弦「思ったことを言っただけだ。」

 

和泉「いつもいつも…。唐突すぎますっ!!心臓に鉄の毛でも生えてるんですか!?」

 

流弦「知らん。」

 

和泉「もうっ!!そんなこと言うと…今夜は相手してあげませんよ?」

 

流弦「構わん。」

 

…困るのはコイツだ。

俺は一人でも寝れる。

 

和泉「うっ…。本当に良いんですか…?虫とか…お化けとか…出ますよ?」

 

流弦「…出たら出たで斬り伏せる。」

 

和泉「うっ…うぅ…。」

 

和泉は決して強い女ではない。修羅ではあるが、強人ではない。赤磐雄町を振るえるほどの力を持ってはいるが…。

 

和泉「…ど、どうしてもって言うなら…ゆ、許して…あげなくも…な、ないですよ?」

 

…あまりいじめ過ぎはいけないか。

少し涙目になってしまっている。和泉は美人だが、意外にめんどくさい女だ。…惚れた男の弱みか。

 

月夜見「…わかった。」

 

和泉「…むっ、何笑ってるんですか〜!!」

 

…まるで大きな娘を持った気分だ。

相手は生涯を誓い合った仲だが。

 

文「天魔様、何をしてらっしゃるんですか…。」

 

和泉「うえっ、あ、文!?な、なんで…。」

 

文「大月神様に頼まれて、事件の真相を追っていたんです。人里で目撃者がいないか、玄霧組の素性、拠点など。あらかた調べ終えたのでここまで来たのですが…。」

 

文のジト目が刺さる。

和泉の本当の姿を知っているのは俺と文だけ。椛やはたてですら、知らない。冷静沈着な出来る女と言った感じだろう。

 

…このように真っ赤になっている姿など予想できないはずだ。

 

流弦「…それで。」

 

盆に湯呑みを置く。和泉が渡してくれたものだ。文は…やはり、沈んだような目で下を見ていた。

 

文「…矢張り、漣さんはお亡くなりになったようです。シャド女医(せんせい)や鈴仙さんにも見ていただきましたが、血痕や流弦様が持ち帰った死体からも生前のような精気を感じられない…とか。」

 

流弦「…それで。」

 

文「…それを行ったのは矢張り玄霧の息がかかった者。玄霧組、偵察兼暗殺者、エリザベートと呼ばれる男とか。」

 

和泉「ま、待ってください!!」

 

和泉が話を遮る。

 

和泉「なんで、そこまでわかってるんですか!?」

 

流弦「…八雲紫だ。文とともに暗躍してくれている。」

 

…奴も氷川漣が死んだと言う事実に珍しく取り乱していた。憤怒の塊…とも言っていい。玄霧は…エラい者を敵に回した。逆に、敵に回すほど…。それ程に自信があると言えよう。

 

文「…紫さんによると数週間前、玄霧とヤクザの抗争があったそうです。それにより、玄霧組は勝利。ヤクザの組長も捕らえられた…とか。」

 

流弦「…人員は。」

 

文「逢魔を含め、6人。」

 

…6人か。少数陣営だ。

個々が強い感じだろう。確か、彼岸一の死神剣士『檜扇春國』も引き抜かれたと映姫が言っていたのを耳にしたことがある。

 

流弦「…どんな奴らか、わかるか。」

 

文「…いえ、そこまでは。」

 

…玄霧逢魔は慎重だと聞く。

前にあった奴は違った。グラートの元で何か、弱みでも握られていたのだろう。だが、奴は今やそのしがらみからも逃れられた。自由になったとも言える。だからこそ、今、奴らの動きが本格化してきた…ということか。

 

文「…これからも何か無いか、頑張って探ってみます。」

 

流弦「…頼むな。」

 

文は仄かに微笑むとその場を飛び去った。彼女の速度なら、幾ら奴らでも大丈夫だろう。

 

和泉「…しかし、大丈夫でしょうか。」

 

和泉がボソリと呟き、湯呑みの湯気立つ緑茶を啜った。

 

流弦「…氷川漣がやられた相手に我々が敵うのか…か。」

 

和泉「え、えぇ…。」

 

流弦「…安心しろ。人は守るものがあれば強くなる。俺たちにはこの妖怪の山を守るという責務がある。…そのために死んではならない。俺には、お前と、妖怪の山という大切な…この命に変えても守りたいものがあるんだ。…それに代えても死なない。」

 

例え、この身を差し違えても、俺は生き残る。友と…嫁と共に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麗奈「…皆んな、出番みたいだよ。」

 

此処は地獄。

夕暮れ時のような赤い空と暑い雲が特徴的で名物の針山も見える。

 

エリザベート「…おやおや。誰かと思えば…キミたちは外の世界の狗神一家さん達じゃァないカ…?」

 

神虎「白々しいな。手前ら、俺たちを追ってきたんだろ。」

 

神虎の青目がエリザベートを睨みつける。

既に滑車の中の武器は持たされており、臨戦態勢である。対して、迎え撃つ玄霧組はエリザベートと檜扇春國の二人。

 

春國「我が主人は…慎重な方だ…。お前達が…この戦に加われば…我々は…劣勢になる…。」

 

神虎「ふんっ…!!ただのビビリじゃねえか。」

 

春國「…貴様…。死ぬ準備は…出来ているのだろうな…。」

 

春國が打刀である『紅斬り』を引き抜く。紅い刃が青髪の神虎を映した。

神虎は口元の布を外し、傘を取ると腰の剣『リヴァイア』を引き抜く。

 

春國「…西洋の…剣士…か。」

 

神虎「残念ながら、これは拾いモンだ。海より向こうなんて言ったことはねえ。…『呼び水』」

 

神虎が左手を自分の目の前で広げる。

 

そこには渦を巻く少量の水が現れた。

 

春國「…私は…切れぬ物を…求めている…。」

 

エリザベート「ありゃりゃ…。始まっちまった。」

 

春國が神虎へと走り込んでくる。

 

神虎は滑車を守るように前へ走り出す。

 

水を纏った刀身が春國の横への一閃を止める。まさに攻防一体。刃同士がお互い、かち合っている。

 

二人はこれでは埒があかないと一度後ろへと飛び避ける。

 

春國「…水…?」

 

春國は自身の足元を見る。足元は濡らしていた。

 

神虎「水の刀身が手前に斬られた時に落ちたのさ。露がなッ!!水操術『大波小波』ッ!!」

 

春國の足元からとてつもない勢いの大きな水柱が上がる。

 

エリザベート「ありゃ?ハルちゃーん!!」

 

神虎「たかが水といっても刃みたいなもんさ。上がった水の勢いはまるで刃で斬りかかられるほどの力だ。」

 

春國「…これが刃…か。弱すぎる。」

 

水柱にいくつもの切り込みが入れられ、砕け散る。

 

中からは無傷の春國が現れた。

 

神虎はそれを見て、また睨みつけた。

 

二人の戦いの行く末を見届けるかのように風が吹き抜けていった。

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