本年も半人半妖の恋愛奇譚と私、紳爾零士をよろしくお願い致します!!
流弦「…。」
…今はただ鍛錬あるのみ。
妖怪の山の修練場。竹刀を人形へと打ち込む。その数、二千回。まだ序の口だ。皆があの男の為に、否、幻想郷の為に極限まで鍛錬を続けている。現に、今も白狼天狗どもをしごいているところだ。組手に次ぐ組手、技体だけではなく、滝行で心も鍛える。
和泉「流弦様!!」
流弦「和泉。」
和泉「休憩にしましょ。いくら流弦様でも、切り詰め過ぎは良くありません。」
…それもそうか。
近くの平たい岩の上に腰をかけ、和泉の持ってきた包みの中の握り飯を一つ持ち、齧る。
横に座り、和泉も握り飯に口をつける。普段とは違う、弓道着のような服装、赤いリボンで束ねた髪…。
流弦「…綺麗だ。」
和泉「ふぇっ!?…き、急に…なんですか!?」
握り飯を落としそうになりながらも、何とか留まる和泉。顔は真っ赤だ。…何か変なことでも言っただろうか。
流弦「思ったことを言っただけだ。」
和泉「いつもいつも…。唐突すぎますっ!!心臓に鉄の毛でも生えてるんですか!?」
流弦「知らん。」
和泉「もうっ!!そんなこと言うと…今夜は相手してあげませんよ?」
流弦「構わん。」
…困るのはコイツだ。
俺は一人でも寝れる。
和泉「うっ…。本当に良いんですか…?虫とか…お化けとか…出ますよ?」
流弦「…出たら出たで斬り伏せる。」
和泉「うっ…うぅ…。」
和泉は決して強い女ではない。修羅ではあるが、強人ではない。赤磐雄町を振るえるほどの力を持ってはいるが…。
和泉「…ど、どうしてもって言うなら…ゆ、許して…あげなくも…な、ないですよ?」
…あまりいじめ過ぎはいけないか。
少し涙目になってしまっている。和泉は美人だが、意外にめんどくさい女だ。…惚れた男の弱みか。
月夜見「…わかった。」
和泉「…むっ、何笑ってるんですか〜!!」
…まるで大きな娘を持った気分だ。
相手は生涯を誓い合った仲だが。
文「天魔様、何をしてらっしゃるんですか…。」
和泉「うえっ、あ、文!?な、なんで…。」
文「大月神様に頼まれて、事件の真相を追っていたんです。人里で目撃者がいないか、玄霧組の素性、拠点など。あらかた調べ終えたのでここまで来たのですが…。」
文のジト目が刺さる。
和泉の本当の姿を知っているのは俺と文だけ。椛やはたてですら、知らない。冷静沈着な出来る女と言った感じだろう。
…このように真っ赤になっている姿など予想できないはずだ。
流弦「…それで。」
盆に湯呑みを置く。和泉が渡してくれたものだ。文は…やはり、沈んだような目で下を見ていた。
文「…矢張り、漣さんはお亡くなりになったようです。シャド
流弦「…それで。」
文「…それを行ったのは矢張り玄霧の息がかかった者。玄霧組、偵察兼暗殺者、エリザベートと呼ばれる男とか。」
和泉「ま、待ってください!!」
和泉が話を遮る。
和泉「なんで、そこまでわかってるんですか!?」
流弦「…八雲紫だ。文とともに暗躍してくれている。」
…奴も氷川漣が死んだと言う事実に珍しく取り乱していた。憤怒の塊…とも言っていい。玄霧は…エラい者を敵に回した。逆に、敵に回すほど…。それ程に自信があると言えよう。
文「…紫さんによると数週間前、玄霧とヤクザの抗争があったそうです。それにより、玄霧組は勝利。ヤクザの組長も捕らえられた…とか。」
流弦「…人員は。」
文「逢魔を含め、6人。」
…6人か。少数陣営だ。
個々が強い感じだろう。確か、彼岸一の死神剣士『檜扇春國』も引き抜かれたと映姫が言っていたのを耳にしたことがある。
流弦「…どんな奴らか、わかるか。」
文「…いえ、そこまでは。」
…玄霧逢魔は慎重だと聞く。
前にあった奴は違った。グラートの元で何か、弱みでも握られていたのだろう。だが、奴は今やそのしがらみからも逃れられた。自由になったとも言える。だからこそ、今、奴らの動きが本格化してきた…ということか。
文「…これからも何か無いか、頑張って探ってみます。」
流弦「…頼むな。」
文は仄かに微笑むとその場を飛び去った。彼女の速度なら、幾ら奴らでも大丈夫だろう。
和泉「…しかし、大丈夫でしょうか。」
和泉がボソリと呟き、湯呑みの湯気立つ緑茶を啜った。
流弦「…氷川漣がやられた相手に我々が敵うのか…か。」
和泉「え、えぇ…。」
流弦「…安心しろ。人は守るものがあれば強くなる。俺たちにはこの妖怪の山を守るという責務がある。…そのために死んではならない。俺には、お前と、妖怪の山という大切な…この命に変えても守りたいものがあるんだ。…それに代えても死なない。」
例え、この身を差し違えても、俺は生き残る。友と…嫁と共に…。
麗奈「…皆んな、出番みたいだよ。」
此処は地獄。
夕暮れ時のような赤い空と暑い雲が特徴的で名物の針山も見える。
エリザベート「…おやおや。誰かと思えば…キミたちは外の世界の狗神一家さん達じゃァないカ…?」
神虎「白々しいな。手前ら、俺たちを追ってきたんだろ。」
神虎の青目がエリザベートを睨みつける。
既に滑車の中の武器は持たされており、臨戦態勢である。対して、迎え撃つ玄霧組はエリザベートと檜扇春國の二人。
春國「我が主人は…慎重な方だ…。お前達が…この戦に加われば…我々は…劣勢になる…。」
神虎「ふんっ…!!ただのビビリじゃねえか。」
春國「…貴様…。死ぬ準備は…出来ているのだろうな…。」
春國が打刀である『紅斬り』を引き抜く。紅い刃が青髪の神虎を映した。
神虎は口元の布を外し、傘を取ると腰の剣『リヴァイア』を引き抜く。
春國「…西洋の…剣士…か。」
神虎「残念ながら、これは拾いモンだ。海より向こうなんて言ったことはねえ。…『呼び水』」
神虎が左手を自分の目の前で広げる。
そこには渦を巻く少量の水が現れた。
春國「…私は…切れぬ物を…求めている…。」
エリザベート「ありゃりゃ…。始まっちまった。」
春國が神虎へと走り込んでくる。
神虎は滑車を守るように前へ走り出す。
水を纏った刀身が春國の横への一閃を止める。まさに攻防一体。刃同士がお互い、かち合っている。
二人はこれでは埒があかないと一度後ろへと飛び避ける。
春國「…水…?」
春國は自身の足元を見る。足元は濡らしていた。
神虎「水の刀身が手前に斬られた時に落ちたのさ。露がなッ!!水操術『大波小波』ッ!!」
春國の足元からとてつもない勢いの大きな水柱が上がる。
エリザベート「ありゃ?ハルちゃーん!!」
神虎「たかが水といっても刃みたいなもんさ。上がった水の勢いはまるで刃で斬りかかられるほどの力だ。」
春國「…これが刃…か。弱すぎる。」
水柱にいくつもの切り込みが入れられ、砕け散る。
中からは無傷の春國が現れた。
神虎はそれを見て、また睨みつけた。
二人の戦いの行く末を見届けるかのように風が吹き抜けていった。