凰牙「…良くなったな。お前ら。」
…あれから丸3日。鍛えに鍛え上げた。
もうすぐ攻めに行ってもいいだろう。だが、油断は禁物。まだ後、2日はかける。せめて、鬼炎丸とは成らずとも、剣の腕を鍛えておかないと。
妖夢「…ふぅ…。」
冬だと言うのに全員、玉のような汗をかいている。時折、博麗姉妹や美鈴、陽奈などが心配して、色々と持ってくるが、見るだけで間違えるほど強くなっているのがわかる。最初見た時は俺の腰より背丈も下だったのに、今やレミリア達より背丈が高いからなぁ…。博麗姉妹も。
…姉貴が結婚しろって言う訳がわかったかもしれん。
妖夢「…まだまだです。これでは漣さんの仇は…。」
凰牙「…待て。客人だ…。」
永久に咲き続ける桜。
その落ちた花弁が風も吹いていないのに飛んでいく。幾千も下界から連なる階段を越えた石畳の上。…彼は現れた。
腰まで伸びる結われた白髪の男。鉛色の目。黒と見間違えるほど暗い青色の着物。その背丈は化け物でも見たかのように高く、八尺はある。
…忘れるはずがねェ…。
俺の体に一閃を入れた男。俺に最強に成るきっかけをくれた男。敗北を教えてくれた…男。
厳秋「…いい目になった。侍の目だ。」
…褒めてはいるが、声は決して和らいでいない。顔も笑っていない。
凰牙「…久しぶりだな。空蛇殿。」
厳秋「…貴様に叩き切られたこの左腕が疼く。正に追い詰められた一撃と言ったところか。」
凰牙「貴様の評価は誰も求めてねェよ。今度はどうした。…また、殺し合いをしに来たのか。」
…俺は睨む。
あの何の感情も無いような顔に今でも恐怖を覚える。睨まれてないのに、蛇に蛙が睨まれた感じだ。妙な感覚を覚えた…。不思議と冷や汗が垂れてくる。
厳秋「…貴様も所詮は井の中の蛙。今、ここで俺たちがいがみ合っても意味が無い。」
凰牙「…なら何故…。」
厳秋「…火のないところに煙は立たない…。忠告をしに来た。お前達がいくら足掻こうと、ウチの若には勝てない。若は言葉では語れないほどの怪物。限界のある貴様ら人間には…勝つことは不可能。」
凰牙「んなしょうもない事を言いに来たのか。」
霊夢達は俺たちの話し合いを遠くで見ていた。この白玉楼中に空蛇厳秋という男の異質さが満ち満ちていた。
凰牙「限りがある人間が化け物に勝てないと。だが、俺たちはその化け物どもを超え、幾度となく強くなった。不可能を超えてきたんだ。…不可能なんて努力次第で何度でもなる。俺たちは人間で、妖怪で、神で…。またはその両方のやつだっている。テメェが何のことを言っているかはわからねぇが、俺たちは勝つぜ?…これは絶対に
厳秋「…。」
奴の右眉がぴくりと動いた。
少し動揺しているようだ。奴だって、俺たちにさほど不可能というのを感じていないんだろう。
霊夢「貴方がどう思ってるかはわからないけれど。私たちは玄霧逢魔を絶対倒す。貴方も必ず。漣さんが笑顔で帰ってきてくれるように!!」
厳秋「死人が蘇るとでも…?」
霊夢「ええ!!だって、ここは幻想郷だもの!!」
厳秋「…
ふっ…と口元を和らげる厳秋。
その瞬間に俺たちを抜ける風。周りの木々が、ただ悠然に揺れた。俺の横に霊夢、妖夢、フラン、ルナサが並ぶ。全員、真剣そのものだ。
厳秋「ものは言いよう…とはこの事か。俺たちはその
月人共を見限った玄霧逢魔は恨みを重ね、化物と化した。だが、心の底の優しさが我々を作った。…だが、若はあの一件以来、心を病み、恨みをまた重ね始めた。若の目的は氷川漣や月人の撲滅にあらず…。」
…成る程。
安っぽい話だ。結局は復讐だ。玄霧逢魔も化け物では無く、ただの半人半妖だっただけか。
凰牙「それを俺たちが知って何になる。どうせ、衝突は防げないんだ。」
厳秋「…あぁ。今から俺もお前達と手合わせすることとなる。…が、その前に俺はお前たちの価値観を確かめたかった。化け物と聞いて如何思うのか…。若の過去を知って如何思うのか…。君たちは若に対して憎悪しかないようだ。」
妖夢「手合わせする?…ここで貴方を倒せば、玄霧逢魔は一人重鎮を失う事になります。」
厳秋「…覚悟。」
突如、目の前から厳秋の姿が消える。
妖夢「ぐっ!!」
妖夢が抜刀。
後ろから現れた厳秋の刃を受け止め、弾く。
ルナサ「…今の…見えた?」
霊夢「…い、いえ…。」
厳秋「…初撃を受け止めるとは…。相手にとって不足なし。」
妖夢「やぁっ!!」
妖夢の放つ縦の一閃。それは虚空を切り裂く。
妖夢は次の攻撃に備え、刀を構える。
厳秋「…だがまだ甘い。」
妖夢「…ッ!?」
背後から厳秋が斜めに刃を入れる。
それに合わせ、妖夢が体を捻り、刀で受け止める。
厳秋「『厳罰』」
凰牙「妖夢ッ!!避けろぉぉッ!!」
妖夢「これしきのことッ!!」
妖夢は足に力を入れ、厳秋の光る強力な一太刀を受け止める。
妖夢を中心に地面に円形の窪みができる。
厳秋「ほう?」
妖夢「ぐぬぬッ…!!」
窪みはだんだんと広がり、妖夢の体を沈んでいく。
フラン「妖夢ちゃんッ!!」
ルナサ「今…助けるわッ!!」
厳秋「…。」
厳秋はそのまま妖夢を前方へと蹴り飛ばし、ルナサとフランの放つ弾幕の当たらない位置に現れ、二人を背後から強襲する。
ルナサ「くっ…!!寂煌月ッ!!」
ルナサは懐から迦具土の宿っていない短刀を取り出し、厳秋の刃を受け止める。
カキンッカキンッと金属と金属がぶつかる音が聞こえ、まるで空中を走っているかのように勢いよく何度も打ち付けられる刃にルナサは押されていた。
フラン「禁忌『レーヴァテイン』ッ!!」
劣勢のルナサを庇うかのように炎の大剣で厳秋の斬撃を受け止めたフラン。
厳秋「…武具は良いが、使用者が駄目だ。まるで使いようになってない。」
フラン「ううっ〜!!ルナ姉様はフランが守るっ!!」
ルナサ「フランちゃんっ!!」
次の瞬間、またもや厳秋は二人の目の前から姿を消し、背後へと瞬間的に移動する。
厳秋「…最早、ここまで。先程の言葉を変えそう。ここで君らを倒せば、我々に優位に働く。懺悔せよ。秘伝『獄門』」
フラン「くっ!!」
刃を下にし、地面にブッ刺す厳秋。
すると厳秋を中心に波紋状に並んだ弾幕が周りにばら撒かれる。
フラン、ルナサはそれを弾幕を使って相殺するが…余りにも多い。
霊夢「霊符『夢想封印』ッ!!」
厳秋「ん?」
その弾幕ごと色とりどりに光る帯が厳秋を包み、そこから大小様々な色とりどりの弾幕が厳秋を襲う。
次の瞬間、夢想封印の印が横一線に両断され、破られた。
ルナサ・フラン「霊夢〜…!!」
霊夢「二人ともよく頑張ったわね。ここは私と先生に任せなさい。」
…やれやれ。
少しはこれで修行になっただろう。一方的ではあったが…。
俺は紅を待ち、歩いて行く。霊夢の横に立ち、刀を出し、臨戦態勢を組む。
霊夢「私たちを試したでしょ…。」
凰牙「それぐらいしてもらわないとねぇ…。コイツは俺でも骨が折れる。流石は、玄霧組のNo.2。」
厳秋「『天誅』」
厳秋は俺たち二人に向かって、虚空で突きを出す。
白いレーザー状のようなものが発射され、俺たちはそれを避ける。
先ずは霊夢。霊力で鍛えてあるお祓い棒と自身の拳で厳秋相手にラッシュをかけていく。
俺は後ろで弾幕を打ち、奴が瞬間移動を出来なくする。
厳秋は霊夢に斬撃を入れるが、お祓い棒で弾かれ、逆に腹に拳を受ける。
霊夢「くぅ…!!硬っ…!!」
厳秋「…楽しめそうだが…やはりダメか。」
厳秋はまたもや回し蹴りをかますが、霊夢はそれを受け止め、ぐるんぐるんと回し、ぶん投げる。
その瞬間、飛ばされながら、瞬間移動をし、俺の背後を取る厳秋。
後ろからの斬撃は俺には届かず、いつものように虚空で静止した。
厳秋「…つまらん芸当だ。いつもなら切り裂くところだぞ。」
凰牙「なんだかんだ言ってアンタは優しいんでね。コイツらにもトドメはさしていないし…。修行に付き合ってくれてありがとよ。」
厳秋「昔、若…いや、逢魔につけてやった修行を思い出した。それだけだ。人数は多いが、これも俺の修行にもなる。」
霊夢「…貴方みたいな人が…なんで…あの悪魔のところで…。」
厳秋「…あんな奴でも弟子は可愛いものさ。俺は人の感情に興味を抱き、愛情を知った。だからこそ、バカな息子でも可愛いんだよ。」
目を細め、微笑む顔は何処か、優しい老紳士の面影があった。霊夢は少しその姿に動揺していた。…当たり前だ。今のはコイツの本心だろう。長く居たから、玄霧逢魔を止められなかったのだろう。
厳秋「…だからといって、手は抜かないでおくれよ。俺は敵なのだから。秘伝『上厳罰』」
凰牙「手を抜く?…するわけねぇだろ?朱点抜刀『夕闇火斬』ッ!!」
炎の一撃と白い斬撃がかち割る。
二人の攻撃により、突風が発生し、小石や砂を巻き上げて砂嵐を作り出した。