※この作品はR-18です。

半人半妖の恋愛奇譚   作:紳爾零士

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第210話『虫の知らせ』

?「ハァッ…ハァッ…!!」

 

…鳥も寝静まる夜中。

閑散とした人里を走る一つの…影。ポタッ…ポタッ…と何かが落ちる。涙か、汗か…はたまた…。

 

人里外れ、森へと進む。冬独特の身も凍るような風が彼女の体に吹き付ける。普通なら足も痛み、進むのも酷な修羅の道。ただ一つ…。

 

希望の光を求めて、進む。

 

?「ッ…!!」

 

暗闇の中、苦労をかけ走った甲斐あり。

生い茂る森の中、不自然なまでに姿を隠した日本家屋の姿が見えた。息絶え絶えで藁にも縋りたい彼女は倒れそうになりながらも、扉を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルナサ「…。」

 

帰ってきた。

白玉楼から我が家に。勿論、漣さんはいない。代わりに玄関で血だらけの女の子が倒れていた。ドンドンと大きなノック音が聞こえると思ったら…。

 

霊夢「…もしかして、これがあの男の言っていた…畜生界の女…?」

 

凰牙「奴の言っていた復讐の刻…ってのが、近づいてんのかもな。」

 

…復讐の刻。

アイツがただただ復讐したいだけで、それだけで…一つの世界を巻き込んでいるんだ。それでこの人はボロボロになって…。

 

シャド「幸い、傷は浅いわ。多分、殺す目的じゃなくて痛ぶる目的だったと思う。それに漣の時の傷と同じ傷が3箇所。恐らく、そのエリザベートとかいう奴のせいだと思う。」

 

ルナサ「…エリザベート。」

 

漣さんを殺した奴の名前だ。

怒りで床を殴りつけたくなる。…言い忘れていたけど此処はうちではない。シャド女医(せんせい)の診療所だ。凰牙先生が運んでくれた。緊急を要するって。

 

流弦「…差し詰め、拷問でも食らったか。あえて我々を畜生界に呼び込む為に此処に追い込んだのだろう。」

 

シャド「どっちみち、行かなきゃだーけーど…。この状況で行って勝てるとは思えないわね。迦具土も漣が死んで消えちゃったし…。先生とれーむの夢想天生だけが頼りね。」

 

霊夢「…夢想天生は出来てるわ。最後の段階まで。だけど、それは切り札で温存しときたいの。玄霧逢魔を殺すために。勿論、霊華もだいぶ仕上がってるわ。連れて行くかはさておき…。」

 

…みんな、来たる戦争について色々と準備しているようだ。私も寂煌月に漸く慣れてきたところ。あの…アチ?だっけ?

あの人はちょっと怖かったけれど…。漣さんも悪い人じゃないって言ってたし、意外に助かってる。…変わった人だけれど。

 

?「う、うぅ…。此処は…。」

 

シャド「あら、目が覚めたみたいね。」

 

?「…ありがとう…ございます…。助かりました…。」

 

女の子が…目覚めた。

見たところ、立てない、動けない程の傷では無さそうだけど…決して軽傷ではない。

 

?「くっ…!!」

 

シャド「無理しないの。そのまま動いたら、アンタ、本当に死ぬよ?」

 

?「…し、しかし…。このままでは…組が…。」

 

シャド「焦らないで…。ほら、ゆっくり…何があったか…。ね?」

 

ベッドから出ようとした彼女。

流石に傷だらけで動けないようで、シャド女医に止められた。…何やら苦虫を噛み潰したような顔で…口を開いた。

 

?「…私は黒社会のもの。ヤクザ、鬼傑組組長、吉弔八千慧と申します。我々、鬼傑組は…畜生界の造形神に争うため、敵対する頸牙組と戦ったのですが…。造形神の呼び込んだ玄霧組なる少数陣営の組織に二組織は壊滅を余儀なくされ、私は最後の手段として…。外の住人に手を貸してもらうため、外に出した動物霊達も玄霧逢魔が皆殺しに…。」

 

流弦「…畜生界は悪鬼羅刹の集う場所。そこを根城にするとは…偉く慎重だな。その言い方だと、その造形神とやらが呼び込んですぐに来たようにも聞き取れるが、恐らく永らく息を潜めていたと俺は考える。」

 

凰牙「…木を隠すなら森の中、人を隠すなら人混みの中、影を隠すなら闇の中…。考えたもんだなァ…。八雲紫の管轄下を抜け、更には畜生界の人間と手を組んで、邪魔者を消し去る。それで氷川漣を呼び出して、殺す。奴が考えそうな陰湿な考えだ。」

 

…この状況。

八千慧さんを疑うわけではないけど、逢魔の考え通りだとしたら、出来すぎている。八千慧さんがた(・)ま(・)た(・)ま(・)私たちの前に現れた…とすれば、あの男はハッタリを言ったことになる。…その逆ならば…。

 

霊夢「ルナサ、どうしたの?」

 

ルナサ「う、ううん。なんでもないわ!!」

 

…考えすぎよね。

私たちを頼ってくれてる八千慧さんを疑うのは失礼だもの。

 

シャド「…攻めるのには絶好の機会か。どちらにしろ、やらなきゃいけないわね。」

 

八千慧「…皆さん…。」

 

目指すは畜生界。

初めて見る場所だし、漣さんも迦具土ちゃんもいない。だけど、ここまで時間をかけてきた。…絶対、借りは返す…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逢魔「第一段階、終了だ。」

 

…ゆらりゆらりと電灯が揺れる。

楕円の大きなバスタブに玄霧逢魔がどかりと浸かる。不自然なまでに真白な体とそこそこ鍛えられた身体。…決して強そうには見えず、どちらかと言うと病弱な印象を与えた。

 

ベル「お待たせ、逢魔さん。」

 

引き戸を開け、白い霧の中、ベルが入ってきた。

体にバスタオルを巻き、羽根を隠しながら、やってくるが流石は吸血鬼。見るものは全て振り返るほどの美しい身体。出ているところは出ており、引っ込むところは引っ込んでいる。

 

逢魔「せっかく、僕が心を癒している時間なのに。」

 

ベル「今日はちゃんと入るって言ったわ。ここの男性陣は私を見ても欲情しない。ほんと、良いところね。汚くない。汚れてない。」

 

逢魔「…レモン、メロンにもそれ相応の節操を学ばせなければ。」

 

ポタッと逢魔の髪から水滴が落ちる。

その隣に体を寄り添うように肩まで浸かるベル。断じて、そういう関係ではない。二人が可笑しいだけである。

 

逢魔「そろそろ…彼女らが来ますよ。」

 

ベル「わかってる。でも、私は戦わない。お洋服が血で汚れるわ。」

 

逢魔「…僕のを何着でも貸しますが?」

 

ベル「それは私服で使わせてもらうわ。逢魔さんの匂いがついてるんだもの。」

 

逢魔「…うわぁぁ…。」

 

…背筋が凍った。

逢魔はベルから少し離れ、バスから出ようとするがベルの力が逢魔を超えている為、ギュッと手を掴まれている逢魔は逃げられない。

 

逢魔「…くっ…殺せ…。」

 

ベル「それは貴方が言う台詞じゃないわよ。あの噂が嘘だとしても、少しは度胸があってもよくって?」

 

逢魔「…何故、汚れを嫌う君が汚れているんだ…。」

 

ベル「うふふ。逢魔さんが可愛いから…かしらね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…このまま過ぎれば良いのだが。

勿論、それは夢物語。影に紛れて飛び交う切符。逢魔は見通し、高らかに笑う。

 

ルナサ率いる幻想郷。

 

逢魔率いる玄霧組。

 

氷川兄妹率いる狗神一家。

 

それぞれ、修行に明け暮れて、新たな力を提げて進む。これから起こる大決戦。雨降り雪降り、共に行き、彼岸、引いては畜生界の入り口に進む。大きな陰謀蔓延る蜘蛛の巣。…此処にこれまでで1番の戦争が巻き起こる。

 

…残るはただの嘲笑のみ。




では次回。
ではでは。
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