※この作品はR-18です。

半人半妖の恋愛奇譚   作:紳爾零士

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第211話『思惑』

逢魔「…答えはすぐそこに差し迫っている。我々の目的は近いですよ。イドラ様。」

 

?「ふふふ…。貴方の考えに乗ってみれば、随分面白いことになってるわね。さながら、これも計算通りなのかしら?玄霧さん。」

 

…庭園。丸い机に二つの陶磁器。紅茶が二つ、お茶菓子がたくさん置いてある。…庭園とは言うが、自然の気配は一切ない。木のように見えたものも、草のようなものも…全て、土で作られた模造品である。

 

そして、そこに居るのは…黒幕。

逆立った白髪、透き通るような翡翠の目。濃い緑のジャンパー、首元にはファーのようなものがあった。濃紺のジーンズ、膝下が少し裂けている。そして、特徴的なガスマスクで隠した口元。…玄霧逢魔である。

 

?「君がマスクを外した姿は…初めて見たよ。普通にイケてるじゃない。」

 

逢魔「…これがないとまともに出れなくてね。この世は偽善じみたウイルスが跋扈している。不愉快だ。胸の中で蠢いている違和感…。」

 

?「それで…『幻想下ろし』を計画したと?だけど、良いのかしら?貴方にとってもこの幻想郷は必要なものだろうけれど。」

 

…逢魔が一口、紅茶を啜る。

イドラ…と呼ばれた女性が紅茶に角砂糖をひとつまみ入れ、ティースプーンでかき回す。紛れもなく、此処は戦場である畜生界だが、二人の間では時間が違うように感じられた。

 

逢魔「ギャンブルは知っていますでしょうか。例えば…インディアンポーカーやブラックジャック…など。」

 

?「名前だけならね。西洋での賭け事よね。」

 

逢魔「ええ。…どれだけ狡猾になれるか、どれだけ相手に自分の鬼札を悟られないかが、鍵となる…。何を、どれくらい賭すか。金、命、人生まで…。権力者どもの泥臭い遊戯…。そこで勝つなどまさに幻想。抱くだけ無駄なのですよ。」

 

?「何が言いたいのかしら。」

 

逢魔「…一度でも勝ったものには幻想ではなく、現実を見せなければならない。それにこれもまた暇潰しなのですよ。僕の構想を彼らがどう書き換えるか。ねぇ?銀乃。」

 

逢魔の背後から息を止めたかのように現れる銀乃と呼ばれた女性。黒のジャケットに逢魔と同じダメージジーンズ。そして、逢魔と同じ翡翠色の目、黒灰色の口元までを覆うガスマスク。頭の後ろで…黒い髪を束ねた女性だった。

 

?「えと…どなたかしら。」

 

逢魔「失礼。捨て子だった所を僕名義で拾いました。玄霧銀乃。それが彼女の名です。」

 

銀乃は後ろでイドラと呼ばれた女性を睨むように見ている。数秒経って、気づいたように会釈を交わした。

 

逢魔「彼女の能力は『大気を操る』程度の能力。周りの空気を薄めたり、熱気や寒気を攻撃に纏わせることもできます。ただ、一つに特化しているわけではないので、氷川漣やサンドラのような無茶苦茶な使い方は不可能ですが…。」

 

?「陰湿な人が多いわね…。どうせ、空気を薄めて呼吸困難で殺すつもりでしょうけど。この娘にそんなことができるの?」

 

逢魔「暗殺者…ではなく、僕の秘書です。紛れもなく。なので不用意に戦わせたりはしません。銀乃は弱いので…。」

 

?「弱いって言っても…貴(・)方(・)よ(・)り(・)でしょう?そこいらの名のある妖怪風情なら、目じゃないくらいの実力はありそうね。」

 

逢魔「…ハッハッハッ…。玄霧の名を冠する者。軟弱では務まりませんからね。その身が爆ぜるまで…その魂が潰えるまで、斬り刻みました。しかし、その苦痛に耐えながらも銀乃は…誰よりも僕の信用を勝ち取った。」

 

…イドラと呼ばれた女性…埴安神袿姫の目が少し細まった。信じられないと言った具合だ。玄霧逢魔が言っていることは拷問よりも辛い。

 

袿姫「…それって『儚月夜叉』を使ったってこと?」

 

逢魔「えぇ。それくらいしなければ、僕が信じられないですからね。」

 

袿姫「慎重ねぇ…。それで自ら娘を虐めるのが、貴方にとっての躾、信頼なのかしら?」

 

袿姫の言葉に銀乃の一切変えなかった表情が変わる。それは睨み…怒りから来る睨み。だが、当の逢魔はと言うと…。

 

逢魔「くくくっ…ハッハッハッ!!」

 

大声を上げて、笑っていた。

腹を抱えて笑っていた。彼特有の爽やかな声が造られた庭園にこだました。それに銀乃はびっくりしていた。彼女も父親のこのような声は聞いたことがない。その顔はまるで子どものような…そんな感覚だった。

 

逢魔「ハッハッハッ…。嗚呼…可笑しい…。流石にそこまではしてないですよ。彼女は僕が認めたのですから。儚月夜叉はたしかに抜けば冥府まで斬る妖刀。これでも人並みの慈愛は持ち合わせてます。我が子の魂まで…消すのは気が引けますから。」

 

袿姫「あーら、怖いわねぇ…。それ、何処までが本心なのかしら。」

 

逢魔「少なくとも、僕の家族に対しては嘘偽りはない。儚月夜叉は黒傷を持つ能力持ちの刀。…あの幻想神を狩るのは確実です。あの世から這い上がってきても…僕は彼を倒せる。」

 

紅茶を啜る音だけが聞こえる。

此処は玄霧逢魔の巣。堯黒院・中庭。創りはまるでかのかぐや姫伝説の中に出てくる宮中の館のような…和洋折衷の屋敷である。…更に今宵の戦場。

 

厳秋「…若、幻想神の残党どもがやって参りました。」

 

逢魔「…もてなせ。」

 

…歯車は回り始めた。




逢魔の根城『尭黒院』
和風な面持ちの大豪邸。玄霧組組員計6000人ほどが寝泊まりをする場所。見た目は昔の日本の貴族の屋敷に近く、黒い木を柱として基調に使い、壁面は白という意外に厳かな印象を与える。
中は九つの間と七つの厠、大広間と台所、そして逢魔御用達のバスルームがあり、とても広い。尚、どれほどドンパチやっても崩れないほど強固な結界が貼られている。

…一応、今回の舞台です。
畜生界にある隠れたお宿みたいな…イメージです。
では次回。次回から異変は急加速します。ではでは。
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