〜尭黒院『地下牢』〜
酷く廃れた石造の地下牢。ぽちゃん…ぽちゃん…と水の落ちる音が聞こえる。玄霧…ではなく、此処は埴安神袿姫の管轄。袿姫は、強い土偶兵が欲しかった。此処は拷問部屋。捕らえられているのは…吸血鬼、フランドール・スカーレットである。
フラン「…ハァ…ハァ…。」
?「…次はその柔らかな腕を切り落としましょうか。…何度も申し上げた通り、袿姫様の軍門に降れば、痛いことはしませんのに。」
フラン「…なん…で…。こ、こんな…こと…。」
…フランの体はズタズタだった。
腕、足、顔、全てが切り刻まれ、まるでボロ雑巾のようだった。
?「…何故?そんなもの決まっております。主人への忠誠心…ですよ。主人は無敵の奴隷、吸血鬼兵を欲しがっています。特に貴方のような凶暴でかつ、特有な能力。…それは強すぎる。だからこそ、袿姫様は欲しいのです。」
フラン「…ぜっ…たい…。いかない…!!私は…!!」
?「残念ながら、その娘は俺のものだ。誰にも渡さないよ?」
光が女を直撃する。
フランには暖かく、女には熱すぎるくらいだった。
カツッ…カツッ…と暗闇に響く。その闇と同じくらいに暗いロングコート。腰に帯刀された『宵ノ明星』…見慣れた人間がその鍔を見間違える筈がない。そして、優しい声色。
フランの目から涙が溢れた。救われた瞬間だった。心の器が満たされた瞬間だった。
フラン「…れん…にい…さま…!!」
漣「貴様らの企みは終わりだ。玄霧一派。…袿姫派、杖刀偶磨弓。」
磨弓「…何故、何故だ…!!何故お前が…!!生きているッ!!幻想神ッ!!」
氷川漣がそこには立っていた。誰もが待ち望んだ男。まだ心が幼きフランが心が折れなかったのはこの男がいるとわかっていたからだ。
漣「…。」
磨弓「ぐっ…!!」
漣の刃が磨弓の剣を弾く。
磨弓は弾幕を放つが、漣は同じ密度の弾幕を同じ位置に配置し、相殺。
その後、爆破した煙を目眩しにし、走り込み、磨弓を蹴り飛ばす。
漣「わからないな。なんで、こんな不毛な戦いをするんだ。君は俺には勝てないだろ。」
磨弓「勝てなくても、主の為ならこの命!!」
漣「…君のそれは忠誠じゃない。ただの自己犠牲だ。不毛な自己犠牲だ。」
磨弓「その犠牲がッ!!全て袿姫様のためになるんだッ!!」
磨弓が地面を蹴り、漣へと向かう。
磨弓が漣を切ろうと走る。
漣は全て視て躱し、その刃を指で摘み、へし折った。
磨弓「ぐっ…!!」
漣「…俺は一つだけ、俺について納得のいっていないことがある。」
磨弓「何を…!!」
漣「どれだけ敵を倒そうと、俺は甘すぎる。」
…殴りかかってくる磨弓を視て躱し、そして、漣は抱きしめた。磨弓の脳は今起こっていることがわかっていなかった。頬が熱くなり、胸が熱くなった。
磨弓「な、何を…!!」
漣「抱え込みすぎだ。まるで人形だよ。人の意思だけ尊重して、自分の意思はまるで興味がない。さっきも言ったけどそれは…。」
磨弓「貴方に何がわかるんですか…!!袿姫様を侮辱する気ですか…!!私にとってあの方は全てです…!!私は…。」
漣「人のために生きるのと、人のために死ぬことは違うよ。」
?「そうよ。磨弓。」
空間が揺らぐ。
地下牢に一筋の光が差し込む。その空間には異質な存在が立っていた。イドラデウス、埴安神袿姫だ。
磨弓「…袿姫様…。袿姫様…!!」
袿姫「…あら、ほんと可愛い子ね。」
漣の腕から逃れ、まるで子と親のように光差す地下室で袿姫と磨弓が抱き合う。漣からも自然と笑みが溢れる。
袿姫「…ありがとう、幻想神。磨弓と私は玄霧逢魔に嵌められました。最後のお茶会。あそこでティーカップに毒を仕込んでました。一つは催眠作用の、もう一つは…幻覚作用。それも、彼らにとって都合のいい記憶を見せられるタイプのです。」
漣「…悪趣味だな。」
袿姫「…玄霧逢魔は記憶や繋がりすらも壊してしまう。ただの化け物です。最早、此処に彼の居場所はない。…そして、吉弔にも。」
漣「…わかった。俺たちはもう行く。先に行った…妹達にも会いたいしな。」
…漣はフランをおぶって、上を目指す。
ただそこに二人の少女を残し、漣は一目散に目指して走った。
尭黒院〜『魔鯨の間』〜
シャド達が足を踏み入れた禁忌の地の名。玄霧組の中でも最凶で最狂の男がそこに座っていた。
?「…懐かしいなぁ…。その顔。サンドラ…。」
シャド「…ッ!?…な、なんで…ここに…!!」
魔理沙「…?知り合いか?」
…シャドは鮮明に覚えていた。体が恐怖に震える。男の姿は至って普通のサラリーマンのようだった。黒いスーツに身を包み、我が物顔で玉座に肘をつき、足を組み此方を見下している。片目を紺色の髪で隠した真っ黒な目を持つ男。
シャド「…史上最大の反逆者…。バハムート…。」
バハムート「そうさッ!!俺はァッ!!バハムートッ!!貴様ら、ウィザードどもに虐げられ、そして、封印されたッ!!…お前達に復讐するために…!!イドラ・アルカディアを殺すためにナァァァッ!!」
バハムートが吠える。
両翼…シャドとは逆の翼が少し小さい。
シャド「…魔理沙、私、死ぬわ。」
魔理沙「はぁ?…あんな奴、強くねえだろ。」
シャド「…力はおそらく…先生と同じ…!!」
バハムート「…ハイドロバーストッ!!」
黒い水流がシャドと魔理沙を両断するかのように放たれる。その火力はマスタースパーク…を軽く超えている。
魔理沙「チッ!!」
バハムート「…おいおい。もっと楽しませろよッ!!」
シャド「ぐっ…!?」
バハムート「ほらほら…ッ!!飛んでけ、よッ!!」
シャドはバハムートに腕を掴まれ、そのまま飛ばされる。
地面に当たり、黒煙を上げるシャド。
魔理沙「恋符『ノンディレクショナル・レーザー』ッ!!」
バハムート「テメェの芸は見飽きたぜ…ッ!!『ハイドロバースト』ッ!!」
ニヤァ…と笑い、魔理沙の時計回りに回る3本のレーザーを破壊する水柱を生み出すバハムート。
魔理沙はそのまま突っ込んで至近距離で弾幕を放つ。
が、バハムートは天高く叫び声を上げ、弾幕を全て破壊する。
魔理沙「そんなのアリかよ…!!」
バハムート「ありだろ。『背鰭撃ち』」
驚いている魔理沙。
その背後に瞬きよりも早く移動し、手に持っている魔剣で魔理沙の背後から斬撃を入れるバハムート。
魔理沙はそれを間一髪で避け、そのまま距離を取った。
バハムート「ちょこまかちょこまか…。俺はもっと滾るような…。心の底から死ぬことに震える絶対的な力の差を…求めているッ…!!なのに、攻撃せず避けるとは…ッ!!愚か者どもめッ!!もっと俺を楽しませやがれッ!!」
シャド「…そんなの、アンタ一人で楽しんでなッ!!限界『absolute zero』ッ!!」
部屋に冷気が立ち込める。
左翼をバサッ…バサッ…と羽ばたかせ、まるで山を囲む猛吹雪のようにその冷気はシャドを包み込む。
バハムート「…くくくっ…。アルカディア家の出来損ないが、こんな力を隠してやがるとは…!!」
シャド「その名前はもう捨てた。」
猛吹雪が止む。その姿はまるで氷の女王。本来無いはずの左翼が展開され、周りにはオーラのように冷気が放たれている。その左翼は無色透明に透き通っており、左目の青目が光り輝いていた。
魔理沙「へへっ…。そんなんあんなら、早くやれよ…。」
シャド「…これは体力の消費が激しいから、本当に奥の手。…てか、喋ってる暇ないよ。魔理沙。行けんの?」
魔理沙「あぁ!!お前が居るからなッ!!」
ニッと笑う魔理沙。
それに対して、ふっと笑い、バハムートに向き直るシャド。
バハムート「…くくくっ。最高だッ!!最高だよッ!!サンドラッ!!…それに敬意を称して、俺も本気になろう。」
魔理沙「へっ。テメェを倒して、このまま玄霧を倒すッ!!」
シャド「…バハムート。この戦いに父さんは関係ない。アンタを倒して、父さんも殺すッ!!」
バハムート「さぁッ!!かかってこいッ!!」
その声とともに両者、ぶつかっていった