時、少し戻りて『刀剣の間』。
春國「『旋風刃』」
春國は自身から出る風を刃へと変え、流弦を囲む。
流弦はそれを一太刀で断ち切り、踏み切る足に力を入れ、春國の間合いへと入る。
その縦の一閃を春國は紅斬りで止め、天乃空で斬ろうとする。
流弦「…ぬんッ…!!」
春國「ぐっ…!!」
春國は驚いた。急に先ほどまで受け止めていた一閃が重くなったのだ。受け止めている紅斬りが根負けし、春國の胸に僅かに切り傷をつける。
春國はそれを受け、一度後ろに飛んで距離を取る。
春國「…肉までは…至らなかったか…。」
流弦「…ここまでだ。檜扇春國。」
春國「…愚か…。私は…足掻くぞ…。たとえ、貴様が…私の上であっても…。『刃桜・返り咲き』」
桜吹雪のように流弦の上から刃が落ちてくる。
カキンッカキンッと金属のぶつかり合う音をが響く。全て刀で斬り伏せた流弦がまたとてつもない勢いで春國に向かっていく。
春國「…一刀五百年、二刀千年…。刃、心を隠して敵を討つ世界を見せる。『千年魔境』」
流弦「ッ…!!」
円形に斬撃が飛び、流弦を迎え撃つ。
更に足元からにじり寄ってくるように生え、襲う刃の群衆。そう、春國の技『千年魔境』は自身を含む空間全てに刃を出し、飛ぶ斬撃を生み出すと言う技。
地面から生える刃が流弦の着物を裂き、肉を裂き、血を舞わせた。
流弦は刃の生えていないところを的確に判断し、ぴょんぴょんと跳びながら、致命傷は避けようとするが、それでも着実に体力を失いつつあった。
流弦「ぐっ…。」
春國「…飛び交う弱者は哀れなり…。貴様の敗因は…慢心だ…。念のため、死体にも…刃を立ててやる…。」
流弦「…まだだ。俺は勝つ。」
春國「…何故倒れぬ…!!この出血量…幾ら貴様とはいえ…ただでは…。」
その通りだった。
普通なら倒れても仕方ない出血量。地面から生えた刃に足が貫かれているにも関わらず、それでも足は動き続ける。その速度は一時的ではあるが、天狗のそれを超え、春國の額に汗が浮かび上がっている。
流弦「浴びせよう…ッ!!月帝と呼ばれし大月神の血の力を…!!」
若くして『大月神』と言う名を冠した流弦。
月で言う大月神とは最も刀の扱いが上手い者並びに、最も先代月夜見の血が濃いものにつけられる名。…月の都では忌み名に相当する。何故か、それは…。
流弦「…『桜華一閃・月読』!!」
流弦が春國の間合いに入り、剣を振るう。
その大振りな一撃を春國は剣をクロスし受け止めるが、その速度を侮っていた。
春國が認識した時、既に春國は斬られていた。
春國「ぐっ…!!」
春國の肩から血が噴き出る。
その瞬間、光の粒子になり、春國は何処かへと消えていった。
流弦「…ぐっ…。」
流弦の視界が揺らぐ。
体は支えを失い、元に戻った床にうつ伏せで倒れる。
和泉「月夜見様ッ!!」
流弦「…もう…戦う力は残ってないな…。」
優しげに微笑み、消えゆくような声でそう言う流弦。流弦こそ大月神を名乗るに相応しい男。そう大月神とは、月人の最も上である月夜見が人の心を知って欲しいと闇雲リンネが名付けた名。そして、唯一『月読』の力を得る者たちの名である。
ならば月読とは何か。
所謂、集中の一種である。常に集中し続け、相手の捉えることが不可能なほどとてつもない速度で動く力。それを使えるのが大月神というわけだ。
流弦「…和泉。ここは漣達に任せて、外へ行こう。」
和泉「…休まれてはいかがですか…?…もう、人は居ないので…なんでも致しますよ?」
流弦「ふふ…。ならば、このまま俺の頭をお前の膝に預けていいか。少し眠りたい。」
和泉「ええ。」
和泉が上品に笑う。
その正座した膝には流弦が幸せそうな顔で眠っていた。