なんか、あっという間でしたね。
漣「…終わったのか…?」
激戦地に黒煙が舞う。立ち上がっている影が二つ。グラートなる男と先生だ。2人とも先ほどまでの長期戦が全く堪えてないように見えたが、よく見ると満身創痍であった。
凰牙「…チッ…!!これ、結構、体力使うんだよ…!!」
グラート「…我輩も…腹が減った…。」
…あの様子だとまだまだやれそうだ。全く、恐ろしい人だよ。先生は…。こっちは少しでも気を抜いたら、痛みで失神しそうだ。
ルナサ「漣さん…。無理しないで…?」
漣「…わかってるさ…。イテテ…。」
こりゃ、骨の一本や二本は折れてるな…。
立つにしろ、戦うにしろ…。体力が少なすぎる。…酒の一滴でも流さなければ、このままの回復速度じゃ…。あの世に行くのが早いか…はたまた…回復するのが早いか…。
嘴「…あー。痛かった。」
…嘘…だろ…?
あれをもろに喰らってアレだけのダメージなのか…?外傷は伺えない。だが、痛かった…と言っている以上、無傷では無かった…ということ。先生の戦いは無駄ではなかった。
嘴「…流石に…疲れたな…。」
振り子のように大袈裟に左右に揺れ、倒れる。と、先ほどまでいた空間は崩壊するでも、消え入るのでもなく、何事もなかったかのように俺たちの世界へ帰ってきた。気がつけば、玄霧逢魔の姿はどこにも無かった。だが、依頼人と依頼人の付き人…?その他諸々も俺たちの世界ということがわかっているようだ。
…と、依頼人は何やら違和感たっぷりの術を披露し、そこから沢山の酒を取り出した。シャドはそれに怪訝そうな顔をする。確かに少し歪んだ空間…。常人なら発狂ものだ。
?「歪、こいつらに配ってやれ。」
歪「はいはい。」
と、歪と言われた少女はやけに上手に皆に酒を配っていく。桜もすっかり葉桜になってしまったが、杯を交わすには十分すぎる晴天だ。まるで先ほどまでの長い戦いが歴史から消されているかのように、なかったかのように…。
グラート「なんだ?我輩も良いのか?」
歪「いい。」
?「お前が決めるな…。まぁ、良いけどな。」
素性は知り得ない男だが、今回の立役者でもある。完全に勝ったわけではないが、先生曰く『敗走させたのだから、勝ちと考える』らしい。まだまだ本気ではなかった先生にとっては不完全燃焼のようだった。しかし、この空間、ほんと妙だな。
漣「俺も手伝うよ。アンタだけだと大変だろ?」
?「おお。じゃあ、これ任せた。」
漣「…容赦ねえ…。」
怪我人に持たせる量じゃない…。
まぁ、持てなくはないがな。一応、半分は怪力の鬼だし…。
…これが日本酒の味というものか。
欧州の味とは違うな。…面白い。我輩の口には合わないが飲めないほどではない。
グラート「ご一緒してもいいかな?」
?「好きにしろ。」
実に無愛想な青年だ。だが、何処か我輩に似ている。出会う世界が違えば、我輩の元へ置いていた。酒の席に戦闘は無粋だ。この数、士道凰牙以外は敵にはならんが、またあのペストマスクの男がやってきては面倒だからな。もう少し腹を満たせておけば、奴を完全に消滅させられた。
………これは確信である。士道凰牙とて相手ではない。が、危険だ。士道凰牙にはあのペストマスクの男ですら、一撃も、擦り傷すら与えられなかった。だが、これは士道凰牙とて同じである。危険も危険。天空帆船〈アーク〉も強固だが、無敵ではない。最悪、この世界ではなく、この男の…。いや、それは考えないでおこう。倫理的な問題である。我輩とて、世界の創造主は相手にはしたくないものだ。
グラート「あの嘴…とかいう男は一体何なんだ?」
?「…ただの変人だ。」
グラート「随分軽く言うものだ。だが、確かにそれ以上の表現はないな。」
…さて、これ以上の相席は無粋か。そろそろ、方舟は結界を突っ切るとの話が来ている。我輩にも我輩のプライドがあるのだ。故に、これ以上、相反する敵と話をするのはプランにも関わることだ。万が一、いや、あり得ないが、情が湧くということが人間にはあるらしい。我輩があるかどうかは我輩にもわからないが…ここは、認識から外れておこう。
グラート「…御馳走様。」
…捨て台詞にはちょうど良い。
…何か違和感を感じる。まるでそこに居た何者かが去ったような違和感。…いや、気のせいか。気のせいに違いない。
漣「とりあえず、乾杯。」
?「乾杯。」
杯の水面に揺らめく葉桜が実に風流だ。それを楽しみつつも酒を喉へと流し込む。
漣「なーんか、前から知り合いだったみたいだな。アンタ、名前は?」
?「狙間熱だ。」
漣「ア…アチ…?舌噛みそうな名前だな。俺は氷川漣だ。」
熱「…そうか。」
…コイツ、酒付き合い悪いな…。なんというか、愛想がない。まぁ、相槌を打ってるだけマシか。酒の味は変わらないだろ。
漣「で、そこで飲んでるのが、ルナサ。俺の嫁さんだ。」
熱「…そうか。」
漣「…えーと?」
熱「…嘴が迷惑をかけた。俺の監督不届きだ。すまん。」
漣「…いやいや、アンタが謝ることじゃ…。」
熱「あいつの代わりに謝れるのは俺しかいねぇんだ。だから、謝っておく。」
漣「…なんだかなぁ…。」
…変な奴…。
レジネス「…収穫はあったんで?プレジデント。」
空中帆船〈アーク〉は現在、境界を飛んでいた。船体は博麗大結界に向かい、進んでいる。甲板にはラスト、フューリー、グリードの姿があった。その姿はさながら、遠い異国で伝わる海賊そのものであった。
グラート「…なにも。ただ、面白い奴らに会った。」
レジネス「…傷一つついてねーとこ見るに、相手にならなかったんでしょうが、少しは食っていってくれやせんか。アンタ、能力に頼らなきゃ、一番弱えでしょ。元軍人でも下手に口も上手くない。あんま、動かないでくだせえ。アンタは能力に頼ってくださいよ。」
グラート「ハッハッハッ。…まぁ良いさ。次は我輩らの番だ。」
では次回。ではでは。