生徒会はオトナになりたい~『羞恥淫』な生徒会~ 作:めるぽん
一応念の為こちらのR18に投稿しますが、直接的な描写は無いのでR-15程度だと思います。
「ラブコメのバレンタインイベントってさ、ヒロインが過激に暴走するシチュ多いよな」
秀知院学園高等部・生徒会会計・石上優。
その彼の隣を歩く、秀知院学園高等部・生徒会会計監査・伊井野ミコ。
表向きでは反目し合っているこの2人。今は、紆余曲折を経て交際するに至っている関係だ。
もっとも、そんな事が明るみに出てしまえば『今までの態度は素直になれないだけだったのか』と囃し立てられてしまう(特にミコ)のは目に見えているので、周囲にはひた隠しにしている。
この日もまた、お互いタイミングをずらして校門を出て、待ち合わせ場所に合流するという『隠蔽工作』を行いつつ共に下校していたのだが……
「えっ?」
突然の石上の話題振りに、ミコが髪を靡かせながら石上の顔を見る。
「いやさ、こんなの現実じゃありえねーだろって事よくやるだろ?『チョコを作る為にカカオから栽培する』とか、『自分を象った等身大チョコ作ってくる』とか……」
「……確かにそうね」
ミコは、今まで読んだ事のあるラブコメ作品を脳内に思い浮かべながら答えた。
確かに、行動力の有り過ぎるヒロインが『○○様への愛ですわ〜!』などと言いながらそんなモノを持ち出してくるシチュエーションがいくつか浮かぶ。
「あと、アレも有るな。お色気キャラや、お色気キャラに騙された天然キャラが裸体にチョコぶっかけて『私を食べて♪』とか」
少し達観した所のある石上にとって、一笑に付してしまうような現実離れしたシチュエーション。
いくらリア充でも、あんな場面に遭遇した事のある人間は居るまい。
石上からすれば、共に『現実離れしたシチュエーション』を嘲笑いたくて言った軽いひと言に過ぎなかった。
だが、それを聞いたミコの返答は、おおよそ石上の想像の範疇からは外れるものであった。
「それはやろうと思えばやれるんじゃない?」
事もなげに答えたミコに、石上も思わず「そうか」と平然と答えた。
2人の間に、謎の沈黙が訪れた。
2人とも、今しがたの自分の発言と返答を脳内で反芻していた。
そして、ミコは気付いてしまった。
知らない内に、ちょっとアブない事を言ってしまった事に。
「やらないわよ!??!?!」
顔を真っ赤にしたミコの絶叫が、2人の間に流れていた沈黙を破った。
「わかっとるわ!」
ミコの言わんとする事が分かり、石上も思わず同じくらい大きな声で諌める。
いや、まあそりゃ、な?
『カカオ栽培』とか、『等身大チョコ』に比べりゃそりゃ手間は無いだろう。
身体洗って、裸に溶かしたチョコぶっかけるだけなんだから。
…………いやいや分かってる。伊井野がそんなエロ……いや痛い事をするはずが無い。
だから、今一瞬、ほんの一瞬思った事はすぐに忘れよう。
『もしほんとにやってくれるんだったらどんな感じになるんだろうか』とかいう、あまりにも邪でバカバカしい考えは……
そして、時は流れ。
2人は、2年次のバレンタインデーを迎えた。
石上は、今年のバレンタインは期待に胸を膨らませつつそわそわした様子であった。
何せ、今の自分には彼女が居るのだ。
愛情の溢れるほど込められた……か、どうかはともかく、少なくとも1個は『本命』を貰える事は確定しているのだ。
思春期の男子にとって、『本命』を貰えるか否かは気持ち的にとても重要な話である。
そこが保証されている分、石上はこれまでの年に比べて非常に余裕を持って迎えられていた。
─────もっとも、その余裕は時間の経過と共に徐々に失われていく事になったのだが。
何故なら、待てども、機を伺えども。
ミコから、チョコを渡される気配が無いからだ。
ヒミツの関係なんだから、そりゃ人前で渡されるのは期待していない。
しかし、昼に生徒会室で2人きりになっても。
放課後にもまた、生徒会室で2人きりになっても。
チョコをくれないどころか、何故か目が合うと気まずそうに逸らす始末。
何だ?どうしてだ?
石上は、不安渦巻く心の中で自問した。
付き合っているんだから、分かる。伊井野はかなり記念日を大切にするタイプだ。
ほんとめんどくさいけど、めっちゃ大切にするタイプだ。
……実のところ、めんどくさいなどと言いつつも『○○記念日』を逐一覚えているのは石上の方で、ミコ以上にバッチリ把握して大切にしているのだが。
そんな伊井野が、チョコをくれない。
ま、まさか……
『(はぁ?アンタにあげるチョコなんて無いわよ。アンタにあげるくらいなら自分で食べるわ)』
アレか!?倦怠期ってやつか!?
もう飽きたから、わざわざチョコなんて渡す手間をかけないって事なのか!?
…………いやいや、そんなはずは無い。
最近の自分達は、上手くやれてるはず。
定期的にデートしてるし、頻繁に一緒に帰ってるし、会話だって上手く行ってるはず。
…………唯一、まだ『アレ』だけはしてないけど。
アレって何かって?ほらあれだよ、『神々の遊び』。どっかの先輩は『契る』とも言ってたっけ。
…………だって、しょうがないだろ?
あいつを、そういう目で見てると知られてしまったら……
『(うわっ……アンタもなんだかんだ言って私の事そういう目で見てるのね?私の事ナンパしてきた連中と同じじゃない。
なのに自分は違いますみたいな顔しちゃって……ほんと、生理的に無理……)』
こうなるのは絶対に避けたい!
でも、逆に『手を出さない』せいで愛想を尽かされたりするんだろうか?
アイツは……伊井野は、そんな事で僕を見捨てたりはしない……はず。
じゃあ、どうして────
悩みの中1人寂しく下校していた、その時。
スマホに、LINEの着信を知らせるメロディが流れた。
確認してみると─────ミコからの、短いメッセージだった。
『今夜9時、私の家に来て』
────なんだ、そういう事だったのか!
石上の疑問と不安は、一気に氷解した。
自分の家で、手作りチョコを振る舞ってくれるって事なんだな。
何故そんな遅い時間なのかは分からないけど……ともかく、家に呼ぶって事はそのセンが濃厚だろう。
伊井野の家にお邪魔した事は何度かある。別に、何かやましい意味は無いはずだ。
何はともあれ、良かった────
石上は、不安の解けた軽やかな足取りで帰路を辿った。
そして、その夜。
約束の時間の5分前に、石上は伊井野家の扉を開けた。
事前に『鍵は開けておくから、入って部屋で待ってて』とメッセージを受け取っていたので、鍵が開いていても驚きはしなかった。
何でだろう、僕が来てから開ければ良いのに。
伊井野にしては不用心だ。メッセージを送っても無反応だったけど、後で直接言っておくべきか。
そう思いながら、石上はミコの部屋の戸を念の為ノックし、返事が返ってこないのを確認しつつ扉を開けた。
やはり、ミコは居ない。この家のどこかに居るのは間違いないはずなのだが……
だが、事前に『待ってて』と言った以上、何か他事をしていて、想定通りの事なのだろう。
石上は、素直に数分待つ事にした。
────そして、21時。
「…………石上?居るのよね?」
扉の向こうから、ミコの声が聞こえてきた。
「居るぞ、伊井野。今開けるから待ってろ」
そう言って立ち上がろうとする石上。
しかし、ミコは『ま、待って!』とそれを制した。
「?どうしたんだ、伊井野?」
自分の部屋に入る事に、何か躊躇する事があるのだろうか?
何故か居なかった事といい、石上の中で疑念が湧き出てくる。
すぐに返事は返ってこなかったが、14秒程の沈黙の後……ミコが、やや震え声で喋り始めた。
「……ね、ねぇ、石上。ちょっと前に話した事、覚えてる?」
「は?」
いや、まあ伊井野と話した事はほぼ全て覚えてはいるけども。
『ちょっと前に話した』だけでは、さすがにどれの事かなんて分かんないぞ?
「ほ……ほら。バレンタインでは、ラブコメのヒロインが暴走しがちって、アンタが話してきたじゃない?カカオから作るとか、等身大のチョコとか。……そ、それと…………裸にチョコ…………とか」
ああ、アレか。
そんな事話したな。
でも、あれは別に特別な意味は無かったんだが……
「は、『裸にチョコ』なんて、そんな事思い付くのってほんと変態よね。変態よ、変態」
「……悪かったな」
だから僕の願望とかじゃなくて、『現実じゃ絶対ありえない事』として持ち出したのに。
はいはい、どうせ僕は変態だよ。
最近藤原先輩に追いつけと言わんばかりに大きくなってきた伊井野の……胸も、マズいと分かっててもチラチラ見てるし。あー変態ですよ。そうですよ。
心の中で独り不貞腐れる石上。
────だが、そんな石上の耳に続けて聞こえてきたミコの言葉は。
彼の予想から、大きく外れるものであった。
「…………あ、あんな事を言ってくるって事は。じ、実は……ちょっと期待してるんでしょ?」
「へ?」
いやいや、待て待て。
誰が『やってほしい』なんて言った?
……いや、そりゃ実際にやられればそれはそれで……って、いやいや。
「あ、アンタは……付き合い始めてから……付き合う前からも……ずっと、優しくしてくれて……だ、だから、ね?そ、そのお礼も兼ねて……」
ドアノブがカチャリと開く音と、だんだん恥ずかしそうに震えを増していくミコの声を聞いて。
勘の良い石上は、数秒後に何が待ち受けているのかを悟った。
いやいやいやいや。まさかそんな。
────でも、この流れは……
そして、そんな石上の不信混じりの予想は。
眼前に飛び込んできた光景を以て、正しいと証明されるに至った。
扉がゆっくりと開かれ、石上の視界に飛び込んで来たのは。
『生まれたままの姿』で、恥ずかしそうに震えて顔を真っ赤にしながら、両手で胸の先を隠し。
両のふとももをきゅっと密着させて、秘部を隠しつつ。
成長目覚ましい2つの果実に、とろけたチョコを塗ったミコの姿であった。
「い……石上……わ、わ……私を……た、た、たっ……食べ……」
限界はちきれそうなといった様相で、身も声も恥ずかしさで震わせながら。
いつか言った、あのセリフをそのまま言おうとするミコ。
呆れ、驚き。
様々な感情が、石上の脳内に訪れた。
だが、やがて……混沌とした頭の思考は纏まって行き、1つの答えが出る。
石上は、少量のチョコがかかった生まれたままの姿で震えるミコの元へ歩んで行き。
着てきた上着を、そっとミコにかけた。
「……ったく。そんなに恥ずかしいなら、やるなよそんな事。あり得ないって言ったろ、あり得ないって」
思ったより冷たい言葉が返って来て、ミコはハッとした表情で石上の目を見る。
「………でもな、伊井野」
石上は、震えるミコをそっとゆっくりと押しつつ、ベッドの方へと誘導していく。
「ありがとう。お前の気持ちは受け取ったよ。ここまでされたら……僕も、その気持ちに応えるぞ」
石上は、ミコを優しく、ゆっくりとベッドに押し倒して。
「…………伊井野、良いんだよな?」
石上の瞳には、強い決意が宿っていた。
「…………うん」
頬を赤く染めながらも、ミコは嬉しそうに微笑んだ。
「お前のくれたチョコ、朝までゆっくりと……食い尽くすからな」
そして、翌朝。
「あっ、おはよう、伊井野さん」
そうミコに声をかけたのは、3年生にして、石上達よりもずっと先に『神化』した先輩、柏木渚。
「あっ……お、おはようございます、柏木先輩」
そう返事を返すミコの様子がいつもと違う事に、柏木は気付いた。
いつもは完璧にセットされているキレイな髪が、今日はほんの少し乱れが見えるし、表情や口調もいつもより凛々しさや力強さに欠ける気がする。
何というか、いつもより『キチッとしてる』感に乏しいのだ。
疑問に思った柏木は、ミコに近付いきた。
「伊井野さん、どうかした?」
何となく尋ねてみると、予想以上にミコはしどろもどろになりながら「なっ、なな何でもないです」と慌てながら答えた。
マズい。よりによって、今日、今、この人に捕まってしまうなんて────。
そう思ったのが顔に出てしまったのか、勘の鋭い柏木に不審を抱かれてしまった。
「伊井野さん?ホントに何か────」
柏木の言葉は、そこで途切れた。
実は、柏木は鼻がよく利く方である。
故に、ミコから香る匂いがいつもと少し違う事に気付いた。いや、気付いてしまった。
疑問に思った柏木は、ミコにかなり近付いて香りを探った。
「あ、あの?柏木先輩?」
戸惑うミコを他所に、柏木は鼻を利かせていつもとの違いを模索する。
いつもの、甘い匂い。そして、それに混じる……チョコの匂い?
────そして、ほんのちょっと混じってる、この匂いは。
間違いない。自分は、もう何度もこの匂いを感じた事がある。
この、青くさいけど……嫌いじゃない匂いは─────
昨日が、バレンタインデーであった事。
そして、微かに感じた匂い。
柏木の中で、全てが繋がった。
全てを察した笑みを浮かべた柏木は、ミコの耳元へと顔を近付けると。
からかいの感情を多分に含んだ声で、囁いた。
「(石上くんの『ホワイトチョコ』、美味しかった?)」
「えっ!?!?」
きょっとした表情と共に、驚愕の声を上げるミコを見て。
柏木は、自らの推理が正しかった事を悟った。
「(伊井野さん、急いでシャワー浴びただけで済ませたでしょ?いーっぱい貰ったんだね、石上くんからの『お返し』?)」
小声で囁く柏木に、全てを見抜かれてしまったミコは顔を真っ赤にしながら、『あっ、あう……』と言葉にもならない返事しか返せなかった。
柏木の言う通り、朝まで石上の『お返し』を貰っていたミコは、迫る時間に焦り軽くシャワーを浴びるだけで身支度を済ませて急いで登校してきたのだ。
それがまさか────ほんの僅かな手がかりで、バレてしまうだなんて。
「(ほら、伊井野さん?ちょっとだけ香水付けてごまかそ?『知ってる』子にはバレちゃうかもよ?『校則違反』だけど、しょうがないよね)」
からかいの笑みを浮かべた柏木は、カバンから香水を出しミコの手にぎゅっと握らせた。
「(朝までだなんて、熱々だね〜。おめでと、伊井野さん♪)」
そう言って柏木は、にこやかに小さく手を振りながらその場を離れて行った。
その日から暫くの間、ミコは生徒会長としても風紀委員としても、柏木に強く言えなくなったという。