※この作品はR-18です。

GBF-L+D/F_ガンダムビルドファイターズ Lost + Diver's / Fantasy   作:杉村 祐介

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#ERR01「混ぜられた夢 + 紫陽花」

 闇夜のような静寂につつまれた世界。星が瞬くように弱い光が発せられては、明滅していくだけの世界。手元を照らす灯火すらおぼつかず、己の姿も目視することは叶わない。そんな世界に、意識という情報体だけが光を介して飛び交う。

 

「夢…将来に掲げる目標や、人生における希望といったイメージのことではない。人類…いや動物が皆、睡眠時の無意識下において感じてしまう情報のノイズ。それは朝目覚めるまでに整理され、不要なものとして捨てられてしまうものの残滓、残りカスのようなもの。とはいえそこには確かにエネルギーとして活用できるものがあると、僕は思うのです」

 

 青年とも、老人とも分からない男の意識が語りかけた。耳はその仕事を放棄して、目はまぶたの裏に隠れている。だが伝わるのは、それが五感を超えた何かで繋がれているからだろう。

 

「I agreeeee! 夢というのはまことにMagicalなものだ。単なるNoiseかと思いきや、Nightmare──悪夢となって身体を蝕んだかと思えば、Prophecy──予言のように未来を指し示すものさえ存在する! そこにUnknownなEnergyが満ち満ちているというのは至極、自然な話。But、異邦の来航者よ。Dreamという形のない存在をどう掴むというのです?」

 

 返答は快活なものだった。常人とは違った価値観の彼もまた、精神体ということなのだろうか。

 

「ええ。そちらの世界には『能力者』という特異点が形のないエネルギーを操っているとお聞きしました。残念ながらこちらにはその概念は無く、人類は人類でしかありません。ですがこちらには、そちらにない素粒子を持ち合わせている」

「Oh……不可解なParticle! 互いを一つにすれば、Dreamを形取ることも可能だと!?」

「ええ。私個人としては夢という未知なるエネルギー、毎日捨てていることが非常に惜しい。少しでも多くのリソースが必要なのです。協力していただけますね?」

「そのChallenge、協力させていただきまショウッ!」

 

 彼等の意識は一つところに収まったようだ。

 

「では、そちらの娘が夢を見た時に再会しましょう」

「そちらのボーイが夢を見た時に!」

 

 彼は「夢の中でしか叶えられない夢」を求めた。ここから先は、きっと夢物語であろう。

 

 

 

── ガンダムビルドファイターズ L+D/F ──

 〜 混ぜられた夢 + 紫陽花 〜

 

 

 

 石ころを踏み潰して駆け抜けた路地。燃える住宅街、けたたましく鳴り響く轟音、彼女は生命の全てを振り絞ってその足を動かし続けた。

 

「なに、よっ……これ!」

 

 全てが理解の範疇を超えていた。ふと目覚めたときから既にこのエリアに飛ばされていて、仲間も居ない、戦う術もない、ただ無防備な状態で戦場に放り出されていた。

 火の粉が舞う。焼くのは大好きだが、焼かれるのは大嫌いだ。

 

「ほんっと意味不明! どうなってんの……リクシー!?」

 

 普段は突き放していた相手の名前を呼んでも、あの憎たらしい声の主から返事はない。轟々と燃える炎の音だけが鼓膜を叩く。

 いや、違う。炎と風に紛れて誰かの声が聞こえた。それは自分の知っている人間のそれではなく、もっと小さくて弱い声だった。けれど孤独に圧されかけていたこの状況で、誰かがいるという事実は心の支えにもなる。そんなふうに弱っていた事実に自己嫌悪しながらも、声の主を目指して彼女は疾走った。

 

「誰かいるっていうなら、返事を──」

「ああああ……来るな、来るなあああ!!」

 

 見つけた。それは自分より頭ひとつ、いやもっと小さい男の子。尻もちをついた小柄な少年は、その細い腕を赤い空に向けてブンブンと振るっている。

 来るな、というのは自分に向けた叫びではないことは明白だった。目線の先には、黒を基調とした巨大人型兵器──モビルスーツが迫っていたのだ。

 

「……Deep/S!?」

 

 黒い装甲の各所に危険色である赤と黄色を織り交ぜた、威圧感を発する巨大な鉄塊。その翼には八機のドラグーンシステムが、両腕は異形のアームドアーマーが備わっている。モビルスーツとしても異質感を漂わせていたそれは、その手のひらに収まるほどの小さい命を睨みつけて離さなかった。黄金の手が伸びて、泣き叫ぶ小さい子供をいまにも捉えようとしている。

 モビルスーツを目視したことで少女の疑念はさらに深まった。理由は不明だがここは第九区画だ。誰かの罠かどうかは定かではないが、今まで能力者をここへ呼んで戦ったことは数多いが、まさか自分が強制的に呼ばれることになるとは思いもしなかった。それに自分はともかく、目の前で泣いている子供がなぜここへ呼ばれたのかも分からない。

 

「なんか意味不明だけど……あれが好き勝手やってるのって、キライ!」

 

 だが一つ確信したのは、自分があの機体をぶっ潰したい衝動に駆られていること、ただ一つ。自分はやったことがなかったが、この区画ではイメージを形にできるらしいじゃないか。機体の操縦以外、普段から全部リクシーに任せっぱなしだったが、あいつが居ないなら自分でやるしかない。

 

「おいでっ……あたしの、ガンプラ!」

 

 彼女の声に反応してか、空から一陣の光が舞い降りる。真紅の翼、漆黒の鎧。かの敵と同じ異形の両腕をもちながらも詳細は少しづつ違っている、双子のようなそれの名は『ロストフリーダム Deep/F』。

 飛翔してきたDeep/Fは眼下の子供に迫る敵へと猛突し、それを蹴り飛ばした。

 

「キャハハッ! いい気味だわ!」

 

 彼女はふっとばされたDeep/Sをあざ笑いながら、舞い降りた剣に搭乗しようと駆け寄った。そう、あれこそがあたしの武器であり、あたしの翼──

 

 

 

「……ロストフリーダム!」

 

 ぎょっとした。先程まで泣いていた少年が、Deep/Fを、ロストフリーダムの名を呼んで、近づいていく。この状況に恐怖もせず、異形のモビルスーツに畏怖も持たず。どうしてそんな感情を抱いたのか、あとになって思えば変な話ではあったが、彼女はその時Deep/Fを奪われるのではないかという恐怖と怒りを覚えたのだ。まだ中学生でもないであろう男の子に向かって殺意を覚えた。

 彼女はその子供の手を掴んで、ギッと強い感情を含ませた表情で睨みつける。

 

「あなた誰!? あれはあたしのよ! 引っ込んでて!」

「あれは……ロストフリーダムは、僕のガンプラだ。僕はロストフリーダムのファイターだ!」

 

 理解ができなかった。突然飛ばされた第九区画に、敵も味方も把握できない状態で、出会った男の子がDeep/Fを「自分の機体だ」とのたまっている──頭の血管が切れそうだったが、敵であるロストフリーダムが目覚めようとしていることで、彼女は冷静さを薄皮一枚で繋ぐ。

 

「……今はどっちでもいいや。それでキミは戦うの、戦わないの!?」

「戦うって、これって本当にガンプラバトルなの? こんな大きなガンプラ見たこと無いし、それに僕は、あのロストフリーダムを壊したくない──」

 

 その返答に、呆れたと言わんばかりのため息を返す少女。

 

「なら黙って見てて。お姉さまは、あたしのデザートだから!」

 

 男の子を置き去りにして、少女は一人Deep/Fに乗り込む。

 いつもの複座式コックピットに、やはり憎たらしいリクシーの顔はない。けれどあいつはいっつも自分の楽しみを中断させてくるイヤな奴だから、逆に居なくて清々するというものだった。

 

「……キャハッ。楽しませてよ、お姉さまっ!」

 

 操縦桿を握る手の感覚にシビレながらも、足元のペダルを強く踏んで、爆発するかのように空へと飛んだ。

 

 

 

 瓜二つなロストフリーダム。方やフリーダムの翼、胴、脚というスタイリッシュなシルエットに、両腕だけがバンシィのアームドアーマーに移植されている存在。方や同じアームドアーマーを装備していながら、素体をストライクフリーダムにした上で頭部をZZガンダムへと差し替えられた機体。それぞれDeep/FとDeep/Sという固有名詞を与えられたロストフリーダムは、燃え盛る第九区画の上で激突した。

 Deep/Fはその爪を猛々しく開き、Deep/Sへと向けて振り下ろした。だが当然、敵も黙って受けてくれるほど甘くはない。見え透いた一撃は簡単に、横へ一歩分くらい動かれるだけで回避されてしまう。

 そんなこと、分かりきっていたかのように。

 

「キャハハ!」

 

 彼女が笑った。直後、すでに展開されていた右側のバラエーナが吼える。Deep/Sはその攻撃を受けてたじろいだ。だがそれも致命傷ではない、左腕のヴァイブレーションネイルは獅子の牙でもあり、同時に堅牢な盾でもあるからだ。

 バラエーナの一撃を弾ききった左腕は、熱された煙を発しながらもカウンターを叩き込もうと唸った。

 

「甘い、甘いよお姉さまっ!」

 

 バック宙のように綺麗な弧を描いて飛び上がったDeep/Fが、両腰のレールガンを空中で展開、射出する。ガン、ガン、と二度ぶつかったそれは、VPS……ヴァリアブルフェイズシフト装甲によって難なく弾かれる。が、その一瞬で敵のツインアイを逸し、こちらの動きを見失わせるには十分な時間を稼いでくれた。

 

「ねぇ、前のように泣いて、叫んで、喚いてよ。キャハハハッ!」

 

 だがその問いかけに、敵からの返答はない。ただDeep/Fからの二撃目になるヴァイブレーションネイルが、Deep/Sの頭部と右肩を切り裂いて、地に服した時の地響きだけが鳴った。

 

「……なに、黙って澄まし顔? そういうのって、キライ」

 

 落ちたZZの頭部をサッカーボールのように蹴り飛ばして。右腕に握ったハイパービームジャベリンを振りかぶって──。その時やっと、いつも愛用していたそれが無いことに、気がついた。

 無ければ無いで困ることもなければ、他の武器だって十分に強い。けれど、あれは純粋に敵を恐怖へと陥れるための武器として、敵を簡単に切り裂いてボロボロにするための道具としてかなり気に入っていたため、無いとなると口淋しいような気分になる。

 

「……今日はなんか調子くるうなー。だから遊びはおしまいにしましょ」

 

 仕方なく、右手で抜刀した腰のビームサーベルを逆手に持って、倒れ込むDeep/Sの背中に向けて突き立てようと──。

 

「やめて!」

 

 レーダーに人影が映った。先程の男の子が、そのちっぽけな身体を張って、ロストフリーダムの前に立ち止まって。

 

「これ以上傷つけないで! あのガンプラが、僕の大事なガンプラが壊れるところは見たくないんだ!」

 

 何を言ってるの、と言い返そうとしたとき、夜だったはずの世界に日が昇った。燃え盛っていたはずの世界に雨が降った。まるで悲しみを洗い流し、怒りを浄化するような光が世界を満たした。すると倒れていたロストフリーダムも、ビームサーベルを握っていたロストフリーダムも、光にボロボロと崩れていく。

 コックピットに座っていたはずの彼女は、その支えを失ってふわり、空中へ投げ出されて。

 

「何よこれ、どうなってるのっ!!」

「危な、いっ──!?」

 

 落ちていく少女を受け止めようとした男の子は、その重さを支えきれずに下敷きになった。

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