※この作品はR-18です。

GBF-L+D/F_ガンダムビルドファイターズ Lost + Diver's / Fantasy   作:杉村 祐介

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#ERR06「Lost + Diver's / Fantasy」

「リバティ……自由……!」

「いこう、お姉ちゃん」

 

 『Liberty』という能力を得て、少年は最後の戦いに望む。

 

 

 

── ガンダムビルドファイターズ L+D/F ──

 〜 Lost + Diver's / Fantasy 〜

 

 

 

 未だ健在な三機の敵モビルスーツ。まず飛び出してきたのは黒い影、AGE-1だ。シグルブレイドⅡという腰刀のような物理兵装を逆手に持って、夜の空を翔ける様はまるで忍者のようだ。狙うは能力者であり、自己再生能力を阻害する力の持ち主、遊のDeep/F。

 

「速い……!」

 

 かろうじて、左腕のビームトンファーで一撃を受け止めた。だがヒットアンドアウェイ、刃同士の激突後に再びAGE-1は闇へと隠れ、その姿をくらます。

 二撃目を警戒した遊に別方向からのアラート、だがそれはDeep/Sの砲撃で。

 

「しまった──」

「遊!」

 

 ジュンのDeep/Fが加速する。ビームジャベリンをくるりと回転させて、刃の出ていない側を遊に向けながら横に伸ばしてみせる。捕まれ、という意味を察した遊がそれにしがみついて、Deep/Sのハイメガキャノンが空気を焼いた。

 

「ごめん、助かった」

「能力が使えるからって、遊は弱いまんまなんだから。チョーシに乗らないでよ!」

 

 息をつく暇も与えられない。逃げた先に待ちかまえていたストライクが、ハンドガンのようなサイズのライフルを構えている。

 

「お姉ちゃん投げて!」

「……キャハッ、了解っ」

 

 ジャベリンにしがみついた遊の機体を、その長物ごとぶん投げたジュン。タイミングをぴったり合わせてDeep/Fのスラスターを全開にする。さらに加速した遊はそのストライクへと突っ込むと、託されたハイパービームジャベリンを横薙ぎに振り抜いた。

 ストライクは攻撃を受け切れる武装は無いはずだった、だが、気づけば異形のエールストライカーはパージされていて、代わりに紫電ストライカーと呼ばれる翼を背負っているではないか。ストライクは二丁拳銃をあっけなく捨て去ると、バックパックから大型対艦刀『紫電改』を抜き、遊のハイパービームジャベリンと刃を重ねる。

 バチバチと火花が散る。雷が落ちたかと錯覚するほどの轟音が響く。二振りの大型武器同士がぶつかりあい、空気を叩いた。

 

「キャハハッ!」

 

 ぐちゃり。直後、およそ鉄とは思えないほど簡単に、溶けるように溶断されたストライク。鍔迫り合いする遊とストライクの後方へ回り込んで繰り出されたジュンのDeep/Fの一撃、ヴァイブレーションネイルによって敵の背面は大きく抉られ、もはや人の形をしていることが精一杯の様相だった。

 その隙に遊も鋭爪をその大型大剣、紫電改に突き立てる。メリメリと鉄の泣く音とともにそれは、ものの数秒であっけなくひしゃげて砕けた。

 

「さすが、ジュンお姉ちゃん」

「遊もその調子! キャハハハッ!」

 

 だが、遊の能力で倒さなければこのバトルは終わらない。紫電改は破壊できても、ジュンの一撃を受けただけのストライクは、紫電ストライカーを切り離し、コロナストライカーという新たな翼を背負おうと躍動する。

 

「くそっ、再生される前に」

「遊、AGEが来る、下がって!」

 

 ジュンの呼びかけにふと我に返った遊は、その機体をターンさせて敵との距離を開いた。レーダーの先ではAGE-1がノーマルウェアから、その四肢が異様に肥大化した形態、ギガタイタスへと換装していた。

 飛行能力はない。だが地上から遥か上空での戦闘空域に、ギガタイタスはたった一度の跳躍だけで追いついてみせたのだ。すぐ近くまでジャンプしてきた新手に、遊は判断が遅れる。

 

「回避──」

 

 間に合わない、のではない。確かに回避したはずだ。だがその四肢は想像以上に長く、遊が届かないだろうと思っていた距離でさえ容易に腕を伸ばし、その脚部を掴んでみせたのだ。先程遊が「曲がらないだろうと思わせてビームを当てた」ことへの意趣返しとも取れる行動に、遊はただ息を詰まらせて。

 

「ぐうっ……」

 

 現実世界のガンプラバトルでは体感できない強烈なグラビティを感じながら、遊はギガタイタスに引きずられて墜ちる、墜ちる、墜ちる。その強靭な両足は大地を抉り、ほぼ同時に、右腕で掴んでいた黒いモビルスーツを叩きつけた。

 土砂とともに跳ね上がったDeep/Fは、受け身をとる力すらなく、重力に引かれてもう一度地面へ落ちる。

 

「遊っ!」

「だいじょう、ぶ」

 

 落下の衝撃で飛びそうになった意識と操縦桿をかろうじて握りしめて、遊は再び立ち上がろうとする。だが先程の一撃で、修復したばかりの脚がまた引きちぎられていることに気がついて。

 

「ああ、っ、また、壊され」

 

 ぞわぞわと悲しみが、憎しみが、怒りが心の底から湧き上がるのを感じたが、遊はそれを自分でコントロールできず──

 

「落ち着きなさい!」

 

 雷が鳴ったかと思った。怒号はハイパービームジャベリンとともに天からふり下ろされ、遊のすぐ近くへと突き刺さった。

 

「遊はあたしの『らしい』を守りたいんでしょ! だったら……だったら最後まで、自分も自分らしく居続けてよ!」

 

 ハッとした。増幅していた怒りが止まり、荒れ狂う心の海が静まり返った。そうだ、自分は何のために戦っている。誰かを助けようとしているのに、自分が助からなかったら意味がない。誰かを笑わせたいのに、自分が笑ってなければそれは叶わない。そうだろう。

 

「……ごめん」

「遊は弱いんだから強い人をもっと頼ればいい! あと、ごめんじゃないでしょ」

「うん、そうだよね。ありがとう、ジュンお姉ちゃん!」

 

 遊のDeep/Fはバーニアで無理やり飛び上がり、バラエーナをタイタスめがけて発射した。巨人はそれをシールドで防ぐわけでもなく、右拳での正拳突き。すると突然、バラエーナから飛び出たビームがまるでシールドに防がれたかのように、バチバチとぶつかって消滅する。

 

「あれはまさか、『ディストラクション』……」

 

 触れたものを瓦解させる能力、それは敵対するギガタイタスの、本来の操縦者が習得していた能力だった。それはガンプラに備わるものではない、ということはこの機体にはファイターがいるのか……いや、居るならおかしい。彼がロストフリーダムDeep/Sと共に降りてきたことへの説明がつかない。ということは、この世界はジュンの世界へと引き寄せられすぎているという事実の現れか。

 どちらにしても、敵は能力をつかえる。ということはストライクも──

 

「遊、逃げて!」

 

 ジュンが叫ぶ、と同時に上空から急転直下、遊のいる地表付近へと全速力で向かう。空にはすでに誰も居ない。さっきまで復元に手間取っていたストライクの姿はどこにもない。

 叫ばれた意味を理解しない遊の背後に、ストライクが瞬間移動していた。

 

「なんで、レーダーには何も──!」

 

 言うが早いか、Deep/Fは背中にビームサーベルをもろに受けてしまった。バックパックの根本から左側の翼が切り落とされ、バランスを失ったそれは地面に伏す。

 本来のファイターが使う能力『空間跳躍』によってテレポートしたストライク。その一撃は並のファイターでは見ることすらできないという。まだ幼く、この世界にも完全に順応できていない遊にとっては全てが未知で。

 

「それでも!」

 

 見様見真似、遊は残された右側のバラエーナを、メインカメラに入っていないストライクめがけて発射した。轟くそれは敵影にアラートを知らせるだけで、その脇をそれるような明後日の方向に抜けて消える。

 その一瞬、わずか一瞬が明暗を分けた。追撃しようと踏み込んだストライクの頭上に、黄金の牙、ヴァイブレーションネイルがふり下ろされて。

 

「遊を壊していいのは、あたしだけなんだからぁーっ!!」

 

 本日二度目、引き裂かれた白い機体はその動力を失って力なく瓦解した。

 

 

 

 追いついたジュンのDeep/Fが、倒れた遊のそれに近づく。

 

「キャハハ! あれを当てるのは遊には無理だよっ! でも、ナイス!」

「うん。でも」

 

 遊は何度かマニュピレーターを操作してみて、機体が動かないのを改めて実感する。

 

「もうダメみたいだ。僕のロストフリーダムは重力に逆らえない」

「……ってことは、重力が無ければ良いのね?」

 

 キャハッ、と彼女が笑った。その笑みがどんな意図を持ち合わせているのか遊には分からず、ただキョトンとするばかりで。

 彼女が天から地へと突き刺したハイパービームジャベリン、それを勢い良く引き抜いた。地表の傷口は修復されることもなく、まるで世界に亀裂が入ったかのように、紙一枚隔てた向こう側に、闇夜のような静寂につつまれた世界が広がっていて。

 

「そもそも第九区画は雨が降ったり止んだり、こんな変な世界じゃない。誰かが真似て作った箱庭、あたしと遊を閉じ込めるための鳥籠。だから遊の能力で、『Liberty』でこの世界を破壊すれば──」

 

 先程遊が使ったビームジャベリンには、遊の能力がエンチャントされたような状態になっていた。この『自由』の力は『解放』も司り、閉じられた世界すら解き放つことができてしまった。

 迫る第三の牙、傍観していたロストフリーダムDeep/Sが、ジャベリンを引き抜いて世界を開放すると宣言したジュンのロストフリーダムへと向かう。

 

「キャハハハ! やっぱり! これを壊されたら困るんだ。お姉さま……違う、あなたは、だあれっ!?」

 

 装甲が砕け、はじけ飛ぶ。その直線的過ぎるDeep/Sの動きはジュンにとって単調で、カウンターでその胸部装甲だけを穿つことも余裕だった。Sのコクピットが露出され、そこにいる人間の顔が顕になる。

 

 

 

「LastまでHideeenするつもりでしたが、こうなっては仕方ないですね!」

「……やっぱり」

 

 白衣の青年は諦めたように、その操縦桿から手を離し、サイドボードに接続されたキーボードを叩く。

 

「そこのBoyと『No.6』、交流によるReseaaarchを行いつつ、Betterな調整になればと思ったのですが。まさかそのBoyがν-type!」

「それもリクシーが与えた設定なんじゃないの?」

「Noooッ! 彼のAbilityは彼自身のだ! だから! このPlanは彼によってFailureeeeとなった!」

 

 モビルスーツのOSに独自の設定を書き加えるその打鍵速度はさらに加速していく。

 

「Clientは遊……キミのことは『自由にして良い』と言っていた。なのでここからは私のFreeeedomにさせてもらう!」

 

 地に伏せるDeep/Fを見下したリクシーの指で、タン、とEnterキーが打鍵された。Deep/Sはそのからだを震わせると、まるで別の魂が宿ったかのようにツインアイを光らせて。

 

「さらばBoy! そして『No.6』! きっと私のことは目覚めればForget! だってこれはDreaaamなのだから!」

 

 

 

 全ての仕事をし終えたリクシーは、自らDeep/Sのコクピットから飛び降りると、崩壊していく大地の裂け目から、星々の瞬く宇宙空間へ飛び込んだ。それは宇宙の塵となってしまうのか、シュミレーターのデータとして回収されるのか、そもそも見えていたリクシーは投影されているだけの人形なのか、答えは定かではない。肝心なのは暴走を始めたDeep/Sと、能力まで再現されている強敵が二体も残されていること。

 

「遊! 壊すよ、全部!」

「わかったよお姉ちゃん……僕はそういうの、得意だから!」

 

 ジュンはそのビームジャベリンで手当たりしだいに地面をえぐった。吹き出す光は星々の輝きか、それともセルリアンブルーの粒子か。伏せっぱなしの遊も無理やりレールガンを展開して、やたらめったらに発射した。燃えた民家はもはや原型を留められず、形を保てないままにボロボロと崩れてゆく。重力はもはや意味をなさず、ふわり浮かんだ世界に放り出される。

 作られた世界の中でしか動けない敵モビルスーツが、世界を破壊して開放するDeep/Fを狙った。ギガタイタスがボロボロの遊をその豪腕で打ち砕かんと振りかぶる。

 

「能力『ディストラクション』が何かは知らないけど!」

 

 遊のロストフリーダムは頭部に拳が直撃し、首から上がバラバラに吹き飛ぶ。だがうろたえず、前のめりに。アームドアーマー、ヴァイブレーションネイルを握りしめ、拳にして殴り返した。それはクロス・カウンターの要領で相手の頭部を弾き飛ばす。

 間髪入れること無く、ロストフリーダムはその巨人の懐に取り付いた。ギガタイタスはそれを引き剥がそうともがいたが、四肢の長さがアダとなってDeep/Fを捉えることができず、ビームトンファーによって弾かれる。

 腹部に潜り込んだDeep/Fが、そのトンファーで、ヴァイブレーションネイルで、ギガタイタスの胴体を八つ裂きにした。

 

「キャハハハッ!」

 

 時を同じくして、ジュンはストライクのコクピットをビームサーベルで貫いた。だが再生能力によって原型を取り戻したそれは、危機回避と反撃のために『跳躍』する。

 

「プログラムされた動きなんて、簡単にわかっちゃう!」

 

 その機体が現れる場所に置いておくようにスマートガンを射出した。その姿が見えるか見えないかもわからないままに、それはビームの熱量に溶け落ちる。幾度のダメージを受けてもその再生は止まらない。だがその復元速度があきらかに落ちていることは明白で。完全に復活するまでのタイムラグに、Deep/Fがバラエーナを御見舞する。

 これ以上、ダメージを受けるわけにはいくまいとしたのか、ストライクは蒼い炎を身にまとい、コロナストライクとなって機体性能を数段格上げした。強化されたそれはバラエーナの一撃も回避し、再び跳躍する。

 ジュンの背後へとワープしたストライクは、その二振りのサーベルで斬り刻もうと振り上げて──

 

「キャハハ! 戦ってるのはあたしだけじゃないのよ!?」

 

 バーニアを全力で吹かした満身創痍の遊が、その背中、仲間に迫った白い装甲を穿つ。ダメージを負ったストライクは怯み、たじろぐ。その一瞬を利用して、遊が攻撃してくれることが分かっていたかのようなジュンが、振り向きざまにビームジャベリンを振るって敵の胴を一刀両断に斬り伏せた。

 

 世界の亀裂はさらに広がり、作られた第九区画は壊崩されていく。閉じ込められていたセルリアンブルーの粒子は願いを叶え終わり、その役目を終えて空間へと霧散して。

 残されたDeep/Sは壊れゆく世界において、せめて遊のロストフリーダムだけでも道連れにしようと思ったのだろう。まるでプログレスの一撃を当てようとした時のように遊のDeep/Fにしがみつく。

 

「遊っ……!?」

「Deep/Fごとジャベリンで破壊して!」

「でも、それは遊の」

「いいんだ!」

 

 Deep/Fのコクピットハッチが開いて、生身の遊が単身、飛び出す。

 

「僕を受け止めて、ジュンお姉ちゃんっ!!」

 

 彼の想いにジュンは無言で頷いた。バーニアの尾を引いて近づいたDeep/Fが、破壊のための左手で遊を壊さないよう大事に拾うと、右手に握った解放のための槍をもってDeep/Sを、抱えていたDeep/Fごと貫いた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 全てが溶けていく。光りに包まれる。夢から覚め、人々は目を覚ます時間だ。

 少女と少年は同じモビルスーツのコクピットから、壊れゆく世界を、忘れられていく世界を眺めていた。

 

「遊、すっごく楽しかった! キャハハハッ!!」

「お姉ちゃん、その、服を──」

 

 戦闘中は興奮していて気にも止めなかったが、ジュンは今、一糸まとわぬ姿で、その素肌をさらけ出している。

 

「なあに、照れてるの……?」

「ううっ」

「それとも『続き』、やってほしいって思ってたり?」

「そ、そんなんじゃない!」

 

 彼女は笑った。からかわれているのは不満だが、彼女が笑顔なら、それも少しは許せるか。

 

「でも、続きをしてあげる時間はなさそうだし、これで我慢してね」

 

 ジュンは口をもごもととさせて、ガリッという音。その直後、遊に再び口づけを。舌を介して渡されたのは、ストロベリーと罪の味……。

 

「うぐう……」

「キャハハッ! 顔まっかだよ!?」

 

 

 

 段々と光が強くなる。白い世界に視界を奪われる。彼女の笑顔も、ふくれたほっぺも、怒った表情も見れないのかと思うと、涙が出そうで。

 

「ジュンお姉ちゃん! また、また会えるよね……っ!?」

「当然! だってあたしも遊も、Deep/Fのパイロットなんだから!」

 

 キャハハと笑う彼女の声だけが、最後まで、最後まで覚えていた記憶。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 夢は思い出そうと思っても忘れてしまうもの。きっと二人も互いのことはすぐに忘却してしまうことだろう。だからどうか、この出来事を観測していた貴方にだけは、忘れずに覚えておいて欲しい。幼い二人の物語を。

 これは「喪失の世界」と「創造の世界」が気まぐれに重なった白昼夢。

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