研究室でいちゃいちゃする二人のお話になります
特に大きなネタバレは無いはずです。
年下だって背伸びしたい(RIDDLE JOKER 式部茉優)
「暁君、申し訳ないんだけど……次はそっちの棚の資料を取ってもらえないかな?」
「ちょっと待っててくれ……この青いファイルでいいのか? 茉優先輩」
「うん、それだよそれ! ありがとう暁君♪」
そんな会話を交わしつつ、俺は茉優先輩にお目当ての資料を手渡す。
先輩はそれを受け取って素早く目を通すと、再びキーボードを忙しなく叩き始めた。
「しかし……昨日の話だと、今年はもう仕事は無いと言っていなかったか?」
「それがねー、今朝になって急に依頼が舞い込んじゃって……ホントは断りたかったんだけど、長い付き合いのある企業さんだから断れなくってねぇ……たはは」
「なるほど、それで今朝から忙しく作業してるって訳か……」
「そゆことっ、まったく、折角冬休み初日だって言うのに、ツイてないよねぇ、アタシったら」
苦笑いしながら、茉優先輩は忙しなく手を動かし、手際よく資料を作成していく。
……付き合い初めてからは「甘えん坊な女の子」の一面を見る事が多くなったが、真剣にモニターに向かっている茉優先輩を見ていると、やっぱり……
「ん? どうかした? 暁君」
「いや……真剣な表情の茉優先輩も、凛々しくて可愛いなと思ってな」
「ふっふーん、お姉さんに惚れ直しちゃった?」
「惚れ直すも何も、俺は茉優先輩に惚れっぱなしだが?」
そう真面目に答えると、茉優先輩は顔を真っ赤にして、急にしおらしくなってしまう。
「っ……も、もう、暁君ったらぁ……」
……ずるいよなぁ、このギャップ。
「しかし……朝からずっと作業しっ放しで疲れてないか? 珈琲でも淹れようか?」
「んー……気持ちは有難いけど、今はいいかな、早くこの作業を終わらせちゃいたいから」
「もしかして、期限まで時間が無いのか?」
「そんなことないよ? 急な依頼で無理を言ってる事は承知しているってことで、先方も期日は長めに取ってくれてるから、今日明日に完成させなきゃいけないって訳ではないさ」
それだったら、無理せず少し休んだ方がいいんじゃないか?
俺がそう言う前に、茉優先輩は続けて口を開いた。
「だけど……折角冬休みに入って、アタシは研究も落ち着いて、暁君も任務の方は今は忙しくないんでしょう?」
「え? まぁ……親父からも特に今年いっぱいは、もう動きのありそうな任務は無いと言われているが……」
「でしょ? だったら……」
そう言うと、茉優先輩はキーボードを打つ手を止め、こちらに向き直る
……あぁ、成程
何処か期待しているようなその瞳を見た瞬間、流石の俺でも茉優先輩が何を言いたいのかを察した。
そして、次に俺が何を言うべきかも。
「だからね、その……ね? お互い、ここ最近は忙しかったから……」
「茉優先輩」
先輩の言葉をやや強引に遮って、俺は言葉を続ける。
「は、はいっ」
「この作業、予定だと何時頃に終わりそうなんだ?」
「えっ? そうだね……このペースで頑張れれば……1時過ぎには終わると思うけど」
「だったら、終わったらその後に、デートに行かないか?」
デート
そう言った瞬間、茉優先輩の可愛らしい顔にぱぁ、と笑顔が咲いた。
「う……うん! 行く! 行こう! 絶対行こう!」
「そうと決まれば、さっさと片付けてしまわないとな、俺も手伝うよ」
「ありがとう暁君! よーし、お姉さん頑張っちゃうよ!」
そう言うと、茉優先輩はさっき以上の勢いでキーボードを叩き始めた。
その気配を背中で感じながら、俺は次に必要になりそうな資料を先回りして準備していく。
しかし……
(……お互い、同じ事を考えていたとは)
”折角の二人の時間、できるだけ沢山イチャイチャしたい”
そう思ってはいたものの、茉優先輩を急かすのが嫌だった俺は、それを口にはせずに作業を手伝っていたのだが……
(つくづく……似た物同士だな、俺たちは)
それが嬉しくて、気付けば俺まで笑顔になっていた。
そうして、お昼の1時過ぎ。
予定では作業が完了し、「これから何処へ行こうか」なんて話を、二人で珈琲を飲みながら話している時間、だったのだが……
「うぅぅ……ぐすっ……」
「何故こうなった……」
半泣きの茉優先輩を抱き締めながら、俺はそう呟く。
いやまぁ、原因はわかっているのだが。
「本来、今日は研究室を使う予定は無かったんだし……忘れるのも仕方ない事だと思うぞ?」
「ぐすっ……それは……そうだけど、そうかもだけどぉ~……」
今日の作業は、あくまで今朝舞い込んできた突然の依頼だ。
つまり、茉優先輩も本来は今日、研究室を使う予定は無かった。
「でもでもっ、予め通知は来ていたんだし……」
「それを言ったら、俺だってそれは確認していたんだ、茉優先輩一人の責任じゃないさ」
そう言いつつ、俺は茉優先輩のデスク、積まれた書類の下から掘り出した、一枚の紙に目をやった
~冬期休暇中の各種点検作業のお知らせ~
そう、早くデートに行こうと時間も忘れる勢いで集中していた俺たち二人は、時間以外のモノもすっかり忘れてしまっていたのだ。
冬休み期間中、学園の各所で設備点検が行われる事。
今日のお昼1時、この研究室のあるフロアの電気設備点検が行われる事。
それに伴い、点検中は一時的な『停電』が発生する事を。
「うぅ……だけど折角、お昼から二人でデートに行けるはずだったのに……」
作業も終わり間際、と言う所で停電に見舞われた俺達。
停電そのものはものの数分の事だが、問題はPCの電源が落ちてしまった事だ。
……つまる所、作業中のPCを停電が襲い、保存していなかった分のデータが吹き飛んでしまった。
完成間際で強制リセットを喰らった茉優先輩は、心がポッキリと折れてしまったらしい。
半泣きで俺の胸に飛び込んできて、そのままずっとこんな調子だった。
「そう言えば……先輩って普段、こういう作業の時は細かく保存してなかったか?」
「普段はそうだけど……終わったらデートだって思うと、少しでも急がなきゃって浮き足立っちゃって……」
「……消えたデータってどの位なんだ?」
「ぐすっ……にじかんぶん位……」
「……それは折れるなぁ」
「うぅ~……ゴメンね暁君……駄目なお姉さんでゴメンねぇ……」
そう言いつつ、俺に抱き着いたまま離れない茉優先輩。
相当ダメージが大きかったんだろう、何とか慰めてあげたいが、一体どうしたら……
(……しかし、こうして甘えてくる所を見ると、お姉さんと言うよりはまるで……)
そこまで考えて、ふと思いついた。
なんのかんの言いつつも、茉優先輩は年上だ。こうして年下の男に胸を借りるのはどうしたって気恥ずかしさはあるだろう、普段から年齢の差を気にしている茉優先輩なら猶更だ。
だけど、こんな時位は思いっきり甘えて来て欲しい。頼って欲しい。
そう思った俺は、少しばかりの恥ずかしさを抑え込んで……
「大丈夫だ、俺も一緒に手伝うから、もう一度頑張ろう……茉優」
俺は茉優先輩の頭を優しく撫でながら、まるで泣きじゃくる妹を慰めるように、出来る限り優しく声をかけた。
その瞬間……
「っっ!」
茉優先輩の体がビクッと一瞬震えたかと思うと
「……」
そのまま黙り込んでしまった。
……あれ、もしかしてこれ、逆効果だった……?
「……えっと、茉優せんp」
「暁君っ」
そう思って声をかけた俺を、茉優先輩の切羽詰まった声が遮る。
「もう一回」
「……えっ?」
「さっきの……もう一回、お願い」
俺の胸に顔を埋めたまま、そうはっきりとお願いする茉優先輩。
「えっと……茉優」
茉優先輩の長い髪を指で優しく撫でながら、俺はもう一度、できる限り優しい声で囁いた。
すると、俺を抱き締めている茉優先輩の腕に、ギュっと力が込められて……
「もう一回」
「……茉優はよく頑張ったよ」
ギュっ
「もう一回」
「辛い時は、こうして思いっきり甘えていいんだからな、茉優」
ギュっ
「も……もう一回」
「お安い御用だ、茉優」
ギュっ
俺が茉優先輩の名前を呼ぶ度、茉優先輩の腕に力が込められていく。
おそらく、照れ隠しと……喜んでくれている、のだと思う。
(少し恥ずかしかったが……言ってみて、良かったな)
そう思いながら、俺は茉優先輩の気が済むまで、何回も名前を呼び続けるのだった。
「これで……完っ成ー♪」
一際大きなタイプ音と共に、喜びの声が研究室を満たした。
あれから暫く慰め続けた後、立ち直った茉優先輩はもの凄い勢いで消えてしまった分の作業を再開。
そのスピードは凄まじく、結果として2時間分を1時間で終わらせてしまった程だ。
「早いな……これでもう全部終わったのか?」
「うんっ、これで今日のお仕事は終了さ!」
「そっか、お疲れ様、茉優先輩」
そう言って、俺は準備しておいた珈琲を茉優先輩の前に差し出す。
しかし……
「……何でそんなに不機嫌そうなんだ?」
「名前っ」
「……茉優先輩」
「さっきは『茉優』って呼び捨てにしてくれたよね?」
「それは……やっぱり先輩な訳だし、礼儀的なアレコレとして……」
「本心は?」
「すっごく恥ずかしいのでっ」
「むぅ……」
ちょっと頬を膨らませながら、珈琲に口を付ける茉優先輩。
……いやまぁ、さっきはああいった状況だから半分勢いで言えたが、実際の所、やはり猛烈に恥ずかしい。
それに加えて……
「とにかく、まだ学生である以上は茉優先輩は先輩なんだ、そこはケジメとして必要だろう? さっきみたいな状況なら別だが……」
「お姉さんはそんな些細な問題より、二人の愛を育む事の方が大切だと思うけどなぁ?」
「それは一理あるが……とにかくだ、少なくとも在学中は茉優先輩と呼ぶからな」
「えー、もう、暁君のケチぃ……」
「それに、だな……」
一呼吸置いて、俺は助走を付けてその後の言葉を口にした。
「……その呼び方は、先輩と後輩の関係でなくなった時の為に……取っておきたいからな」
「それって…どう言う事?」
「それは、まぁ……つまり……」
「?」
「いわゆるその……一つ屋根の下で一緒に暮らす関係と言うか、何と言うか……」
「……」
……もしかしなくても、相当恥ずかしい事を言ってるな、俺は。
「だからその……って、あれ? 茉優先輩?」
「……」
茉優先輩は少し驚いた表情のまま、固まってしまって動かない。
が、段々とその表情が驚きから喜びに変わると……
「~~~~~~っっっ!!!」
「おわっ!!」
感極まった、とでも言わんばかりの勢いで俺に抱き付いて来た。
「暁君っ」
「何だ? 茉優先輩」
俺の胸の中から顔を上げ、茉優先輩は溢れんばかりの喜びを表すように……
「大好きっ!!」
今日最初のキスは、俺の淹れた珈琲の味がした。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
茉優先輩は自分がゆずソフトにハマるきっかけになった思い入れのあるキャラクターなので、これからも事あるごとに書いていきたいと思います。