※この作品はR-18です。

ゆずソフト短編   作:つまさき立ち

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天色*アイルノーツより、白鹿愛莉の短編です。
透先生と愛莉ちゃんの朝の日常風景のお話となっております。
特にシナリオのネタバレは無いと思います。


短編:天色*アイルノーツ
日常(天色*アイルノーツ 白鹿愛莉)


 ここは落ち着いて、一旦状況を整理してみよう。

 

「うーん……」

 

 昨日は少し遅い時間に帰って来たけど、特に変わった事はなかった……はず。

 ここの所、定期テストの準備やら何やらで忙しかったから……休日の今日はしっかり体を休めようと思って、お風呂を借りて、オーウェンさんの夕食を頂いて。

 その後は、間違いなくボクの部屋の、ボクのベッドで眠った……はず?

 そして今は鐘の音が鳴る少し前といった時間、折角だし今日は、もう少し横になっていようかなんて考えていたっけ……さっきまでは。

 

「とは言え、この状況で二度寝する度胸はボクにはないからなぁ……」

 

 しかし、惰眠を貪ろうとしていたボクの眠気は、昨日までとは違う部屋の中の違和感によって吹き飛ばされ、すっかり目は覚めてしまった。

 そう、つまりは昨日眠りに落ちるまで、こんなモノはなかったはずなんだ。

 部屋の真ん中で異様な存在感を放つ、大きな段ボール箱なんてモノは……

 

「と言っても、目を背ける訳にもいかないし……」

 

 宛名も、宛先も、何だったら心当たりだって何も無いその箱に近づく。

 唯一の手掛かりは箱に貼ってある”生物”と書かれたシールただ1枚だけ……って、”生物”? ”ナマモノ”じゃなくて?

 

「……駄目だ、心当たりが無さ過ぎて、逆に興味が湧いてきてしまった」

 

 それにこれはきっと、考えても答えの出る問題じゃないだろうし。

 そう思い切り、勢い半分、諦め半分で箱に手をかけ、ボクの手は箱の封を破っていく。

 

 そこには――

 

「……」

「……」

 

 開けた箱の中には、愛莉ちゃんがちょこんと座っていた。

 何故かネコ耳着用で、ちょっとほっぺたを膨らませて不機嫌そうだけど……間違いなく、愛莉ちゃんが。

 

「……えっと、おはよう、愛莉ちゃん」

「……」

 

 硬直した頭から、かろうじて挨拶の言葉を絞り出してみたけれど……目の前の愛莉ちゃんからの返事は無く、代わりにじっとこっちを見つめて来る。

 いや、愛莉ちゃんの物言わぬ雰囲気とプレッシャーのお陰で、もはや睨まれているに近い感覚を覚える。

 

(えっと……どうしよう)

 

 寝起きの頭をフル回転させて、この状況に対する回答を必死に探す。

 数十秒かけて一つの答えを導き出したボクは、その答えに従い、愛莉ちゃんから視線を外さないまま、一歩ずつ距離を取る。

 そのまま、部屋のドアノブに手をかける、そして開ける。

 視線はそのままに、体をずらして部屋の外に出て――

 

 バタンッ

 

 そして最後に、ドアを閉めた。

 

 

 

 

「オニイチャン!? ゲンジツカラメヲソムケテハイケナイノデス!」

「……うーん」

 

 ドアの向こうから聞こえてくる抗議の声を一旦棚上げし、現状確認の為に頭を捻る。

 愛莉ちゃんが暴走するのはいつもの事だけど、今回は手間がかかっていそうな上に小道具が多い、何より箱の内側に居た愛莉ちゃんには、自分で箱に封をする術がない。

 と言う事は、つまり――

 

「先生? どうかなさったのですか、ドアの前でじっと立たれているなんて」 

「ん? あぁごめん、おはよう、天霧さん」

「おはようございます、先生」

 

 などと考えていた所、不意に背後から聞き慣れた、そして聞きたかった声の持ち主が挨拶と共に現れる。

 ……よく推理小説なんかで、”犯人は必ず現場に戻って来る”なんて言葉があるけど、アレはあながち間違いではなかったんだな。

 と言っても、天霧さんはここの住人である以上、会うのは当たり前だけれど。

 

「突然だけど、天霧さん」

「はい、何でしょうか」

「愛莉ちゃんから何か相談を受けなかった?」

「相談……ですか?」

「そう、例えばネコ耳を付けて箱の中に潜り込みたい、みたいな」

「左様な内容ではありませんが……別の内容のご相談でしたら」

 

 そう言って、実に楽しそうな笑みを浮かべる天霧さん。

 まず間違いないと思っていたけれど、どうやら今回の暴走は愛莉ちゃん一人だけのモノではないらしい。

 

「なるほど……わかった、ありがとう天霧さん」

 

 確認したかった一言が聞けて満足したボクは、再びドアノブに手をかける。

 

「ご相談の内容は、お聞きにならないのですか?」

「それをボクが聞いちゃうのは、流石にフェアじゃないかなって」

「畏まりました、では先生、頑張ってください♪」

 

 若干含みのある笑顔の天霧さんに見送られつつ、ボクは再度部屋の中へと戻る事にした。

 

 

 

 

 

 ドアを潜った先には、先ほどと変わらない眼力でこちらをじっと見つめる愛莉ちゃん。

 

(とはいえ……さて、どうしよう)

 

 ……とりあえず、箱から出て貰わないと話が進みそうにないか。

 そう思い立ったボクは、箱の中で座っている愛莉ちゃんを抱き上げる。

 すると、終始無反応だった愛莉ちゃんの表情が変わって、

 

「…ふっ、ついに拾ってしまったのですね、お兄ちゃん」

「ん? 拾う?」

「そうなのです、今のわたしは正に、ひねくれて面倒くさい捨て猫なのです……」

 

 成程、だからネコ耳と言う訳か。

 

「ちなみにその設定、誰のアドバイス?」

「夕音ちゃんです、ちなみにネコ耳はフランちゃんが貸してくれたのです」

「……じゃあ、この謎の生物シールが貼られた段ボール箱は?」

「それはシャーリィちゃんの発案なのです、最近やったゲーム……? を、参考にしたって言ってました」

「……となると、寝ている間にドアにかけていたハズの鍵を開けたのは」

「当然、真咲ちゃんなのです」

 

 この雰囲気だと、下手したら火宮さんも何か絡んでるんじゃなかろうか。

 うーん、友達総動員とは、結構に大がかりな作戦だったみたいだ。

 

「じゃあ最後に、一番聞きたい質問なんだけど……これ、どういう事?」

 

 諸々の確認が終わった所で、ボクは最大の疑問を愛莉ちゃんに投げかける。

 

「皆に相談してみたのです……最近忙しいお兄ちゃんの気を引くにはどうしたらいいのかを」

「うんうん」

 

 やはり、と言う言葉がボクの頭をよぎる。

 ただでさえ忙しい職業なのに、最近はそれに輪をかけて仕事量が多いものだから、愛莉ちゃんとの時間も中々用意できずにいたし……

 

「皆から色々アドバイスを貰ったのですが……どれが一番効果的か、考えても答えが出なかったのです」

「うんうん」

「なので、全部一度に試してみたのです」

「うんうん……うん?」

 

 なるほど、こういう所はいつもの愛莉ちゃんだった。

 

「確かに気を引く事には成功してるけど……インパクトが大き過ぎて、それどころじゃなかったのが正直な感想かな」

「やっぱりですか……わたしも、何だか方向性がズレて来ているような気は、薄々感じていたのです」

「気付いた時点でブレーキを踏むべきだったね」

「それは無理な話なのです、わたしには最初からそんな機能は備わっていないのです」

「うーん、自身満々に言い切られてしまったか」

 

 とは言え、最近はこんなやり取りもご無沙汰だった事は事実だし、愛莉ちゃんに寂しい思いをさせてしまった事も事実。

 ここは愛莉ちゃんの彼氏としても、埋め合わせはしなくてはならない。

 加えてそれは、ボクも望む所でもある。

 

「ちなみに……愛莉ちゃんの作戦では気を引いて、この後どうするつもりだったの?」

「? どう、とは?」

「……もしかして、ノープラン?」

「当たり前です、暴走するわたしに、次の事を考える余裕なんてある訳がないのですっ」

 

 どうやら、思った以上に行き当たりばったりだったらしい。

 

「で、ですから……」

「ん?」

「何も考えていませんので……お、お兄ちゃんの、好きにして下さい、です……」

 

 恥ずかしそうに小声で呟く愛莉ちゃんの言葉は、ボクの頭の温度を急激に上昇させていく。

 薄暗い部屋の中でもはっきりとわかる位に、その可愛らしい顔は真っ赤に染まっていた。

 そして、それはきっとボクも同じだろう。

 

「……本当に、好きにしていいんだね?」

「は、はい……」

「じゃあ……愛莉ちゃん、目を閉じて」

「お、お手柔らかに、なのです……」

 

 そう言って、愛莉ちゃんが目を閉じると、ボクの顔が自然と愛莉ちゃんの顔に近付いていく。

 そしてそのまま、唇が触れ合うまであと数センチの距離へ――

 

 

 

 カラーン カラーン

 

 

 

 ライゼルグに朝を告げる大きな鐘の音が、街中に鳴り響く。

 驚いたボクたちは目を見開き、お互いを見つめ合って。

 

「……ふふっ」

「……あはは」

 

 そして、どちらからでもなく笑い始める。

 随分とタイミングの悪い鐘の音だけど、何と言うか、こういうのもボク達らしいと言えなくもないのかもしれない。

 

「愛莉ちゃん、今日は何か予定はある?」

「いいえ、今日は何もないのです、それに暇じゃなければこんな事、出来るハズがないのです」

「それは一理あるかもね……と、それじゃあ」

「はい?」

 

 抱き抱えていた愛莉ちゃんをベッドの上に下ろしながら、ボクはこう告げる。

 

「今日、デートしようか」

「えっ、こ、この格好のままでですか!?」

「いや、そうは言ってないけどね?」

「お兄ちゃんは、ネコ耳にはあまり欲情できないですか……」

「朝から言葉がストレートだね……欲情はともかく、可愛いと思うよ、よく似合ってる」

「そ、それはどうもなのです……」

 

 照れる愛莉ちゃんの横目に、ボクは急遽決まったデートのプランを考え始める。

 ……が、落ち着きを取り戻したボクが不意に感じた空腹感が、今のボク達の状況を思い出させてくれた。

 よく考えてみれば、まだ顔を洗ってすらいなかったっけ。

 

「今日の予定も決まった事だし、朝ご飯を食べに行こうか」

「そうですね、わたしも早起きして箱の中に閉じこもっていたので、お腹がペコペコなのです」

「言葉にするとますます意味が分からない状況だね……」

 

 二人で苦笑いしながら、ボクは部屋のドアに手をかけて……

 そこでふと、違和感を覚えて固まってしまう。

 

「愛莉ちゃん」

「? はい、なんです?」

「今日のアレって、具体的には誰に手伝ってもらったのかな?」

「アレですか? 夕音ちゃんに真咲ちゃん、シャーリィちゃんにフランちゃんですが」

「ウォリックさん達も来てたのか……あれ、火宮さんは?」

「『面白そうだけど早起きは無理』と言っていたのです……」

「あぁ……なるほど、つまりだいたい勢揃いと言う訳か」

 

 ドアの外、複数の足音が離れていく気配を感じながら、ボクは観念してそんな事を呟く。

 どうやら、朝食は穏やかに済みそうにないな、これは……

 

「どうかしたのです? お兄ちゃん」

「……いや、何でもないよ」

 

 そう言って、ボクはドアを開ける。

 開いた扉の先にあるのはきっと騒がしくて、だけど優しい、そんな日常。

 

「行こうか、愛莉ちゃん」

「はいなのです!」

 

 そうして、ボク達は二人並んで歩き出す。

 鐘の音の余韻が響くこの島で、今日もドタバタな日常が始まった。




ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
天色は未プレイな方も結構見かけるのですが、独特な優しい雰囲気が凄く好きです。
個人的にはプレイして損は無い作品だと思いますので、余裕があれば是非。
ただし聖地巡礼が大変なんですよね…ドイツは流石に遠い…

箱の下りはまぁ、パロディと言うかオマージュと言うか、そんな感じと言う事でここは一つ。
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