佑斗と美羽が頑張って朝更かしをするお話になります。
特に美羽ルートのネタバレは無いはずです。
「「おはよう」」(DRACU-RIOT! 矢来美羽)
メールが無事に美羽へ届いた事を確認した俺は、そのまま携帯をポケットへ。
「ふぅ……」
そして顔を上げて、溜まった疲れを天井に向けて吐き出す。
視線を傾けた先にある時計は、朝日が昇ってから暫くが経過した事を示していた。
「すまんな六連、こんな時間まで」
「いえ、主任こそ体調は大丈夫ですか?」
「問題ない、ここで長く仕事していればこの程度、よくある事だからな」
そうは言いつつも、目の前の書類の束を前にため息を付く主任。
下手したら俺のソレよりも高く積み上がった仕事の山には、いささかうんざりしているのは確かなようだ。
「自業自得とは言え……なかなかキツいな、これは」
思わずそんな独り言を呟く。
ここの所、急な出動やら何やらで手一杯で、書類仕事はどうしても後回し。
明日が休みと言う事もあり、いい機会だから一気に片付けよう……なんて考えた半日前の自分を、ちょっと恨みそうになる。
「……顔を洗って、少しでも眠気を飛ばしてくるか」
そう言って、目の前の仕事から一旦目を逸らしつつ席を立つ。
窓から差し込む朝日に更なる気怠さを覚えながら、俺は給湯室へ向かった。
洗面所で顔を洗ってきた私は、再びソファーに腰を下ろす。
でもそうすると、多少はマシになった眠気が再び襲い掛かって来る。
「ふぅ……」
静まり返ったリビングに響き渡るのは、私のため息だけ。
朝食の喧騒で賑わっていたのはもう数時間も前の事で、皆が寝静まった今、リビングは私一人の独占状態。
静かで、ちょっと寂しさを感じる、少しひんやりとした空間。
「全く、佑斗ったら……」
言いつつ、私はポケットから携帯を取り出して、ついさっき着信したメールを見返す。
『すまない、帰るのはお昼前になると思う』
そのまま、目線を画面の上部に移動。
そこに示された数字は、佑斗が帰って来るまでにまだ時間が掛かる事を表していた。
「このままじっとしていても、眠たさに負けるだけね……」
そう思った私は、ソファーから立ち上がって玄関へ向かう事にした。
日の光は気怠いし、嫌いではあるけれど……眠気覚まし位にはなるかな、と思ったから。
「はぁ……」
「どうした、そんな景気の悪い顔して」
「いえ……ちょっと日の光を浴びて来たので」
「唐突に意味の解らん事を……」
若干増した気怠さを抑え込みながら、俺は自分の席に戻る。
……そんな俺を出迎えてくれるのは残りの仕事と、居残りの主任だけだが。
「多少は目が覚めるかと思ったんですが……気怠さが増すだけでした」
「……お前、今自分が吸血鬼だって事を忘れてないか?」
「忘れた訳ではないですが……人間の頃のクセとか感覚が、なんとなく残っていて」
「まぁ、お前さんの場合は吸血鬼化の経緯が特殊だし、わからんでもないが……」
時計の指し示す時間は、吸血鬼はとっくに眠り、人間は仕事が始まる、そんな時間。
目の前の難敵の山はだいぶ目減りしだが、それでももう一頑張りは必要だろう。
となると、目下問題なのはこの眠さだな……
「全く……おい六連、お前さんも飲むか?」
ぶっきらぼうな声と共に、珈琲の入った新しいカップを差し出してくる主任。
主任なりの気遣いと言う奴だろう、だが……
「有難いですが……お酒と一緒で多分、吸血鬼には大して効果はありませんよ?」
「知ってるさ、だがそんなもん人間だって同じだ、要は気分の問題って奴なんだよ、こういうのは」
「……まぁ、確かにそうかもしれませんが」
思えば人間だった頃だって、珈琲の一杯で眠気が吹き飛ぶなんて事はなかったからな。
「……じゃあ、有難く頂きます」
「おう、そいつを飲んでさっさと残りを片付けちまえ、そうしないと俺も帰れないからな」
「主任、本音、本音が漏れてますよ」
「はっ、部下相手に遠慮するモンでもあるまい」
そう言って、自分のデスクに戻る主任。
「……よし、俺ももうひと頑張りだな」
一人呟いた俺は気合を入れる為、貰ったカップを口に運んだ。
「……にがっ」
珈琲を一口飲んだ私の口から、思わずそんな声が漏れる。
カーテンでは遮り切れない朝日が差し込むリビングで、いよいよ眠さに負けそうな私は、普段はあまり飲まない珈琲に頼ってみる事にした。
だけど、効果の程はほぼ予想通り。折角ちょっと頑張ってみたけれど……
「……ふぁれ? ミュー?」
諦めて、再び読みかけの本に視線を落とそうとした時。
背後のドアが開く音と共に聞こえて来たのは、随分と眠たそうな声。
「どうしたのエリナ? こんな時間に」
「ちょっとお水を飲みに……って、それを言うならミューこそだよ、まだ起きてたの? もうすぐお昼になっちゃうよ?」
「えぇ、ちょっとね、今日はなんだか眠くならなくて」
努めて普段通りを装いながら、私はそう答える。
本当の理由は……言わないし言えない、恥ずかしいから。
「……ふーん?」
そんなエリナから向けられる目線は、眠そうな私の顔、膝の上の読みかけの本、そしてテーブルの上のカップへ移動し……
「あれ? ミューって普段、コーヒーってブラックだっけ?」
「え……えぇ、そうよ? 私は大人の女性だもの、ブラックコーヒー位余裕よ」
「……ミュー、いくらなんでも、ちょっと分かり易すぎるよ……」
……自分でも分かってるわよ、それ位。
「でもそしたら何で……あっ」
怪訝な顔を浮かべるエリナが、急に納得したような声と共に、手をポンと叩く。
それはエリナの視線が、テーブルの上に置きっぱなしだった私の携帯を捕らえた時。
……画面には、何度も見返した佑斗からのメールが映し出されていて……
「なるほど~……にっしっし、そう言う事なんだね、ミュー」
「……エリナ、その不適な笑みは何?」
「何でもないよ? それじゃミュー、エリナはもう寝るから、ユートによろしくねっ♪」
そう言って、エリナは不敵な笑みを浮かべながら部屋へと戻っていく。
私を恥ずかしがらせるだけ恥ずかしがらせておいて、全くあの子は……
「はぁ……仕方ないわね」
怒る気も追い掛ける気も、それ以上の眠気に阻まれた私は、諦めて再びソファーに腰を下ろす。
我慢してもう一口飲み込んだ珈琲の苦みは、さっきよりも強い気がしたけれど……やっぱり、眠気覚ましの効果は期待できないかも……
「ただいま」
控えめな声でそう告げるも、静まり返ったリビングから返事は帰ってこない。
それも当然だ、もうすぐ太陽も一番高い所まで昇るような時間、寮の皆は夢の中だろう。
「俺もシャワーでも浴びて、さっさと寝るか……ん?」
と思ったのと、リビングに人影を見付けたのはほぼ同時だった。
「……すー……すー……」
「……美羽?」
可愛らしい寝息を立て、ソファーに座ったまま眠る美羽。
膝の上には読みかけの本、テーブルの上には飲みかけの珈琲。
美羽の可愛さも相まって、見ていて非常に絵になる構図だが……いかんせん、毛布も被らずこのままでは風邪を引いてしまう。
「美羽、大丈夫か? こんな所で寝てたら風邪を引くぞ?」
「……んっ……んぅ……」
とりあえず揺すってみるものの、美羽が起きる気配はない。
さりとて、このままここで寝かせておく訳にもいかないし……
「……仕方ないか」
寝ている美羽を起こさない様に慎重に抱き抱え、ゆっくりと部屋まで運ぶ。
そうしてお姫様をベッドまでエスコートしてから、俺は自分の部屋に戻った。
「シャワー……も、もはや面倒だな……何より、眠気に勝てない」
この後の事は、起きた後の俺に任せよう。
倒れ込むように自分のベッドで横になると、意識はすぐに闇の中に落ちていった。
「んっ、うぅ……」
まどろみから目覚めた意識が、少しずつ覚醒していく。
窓から差し込む夕日、まだ少し重たい頭の感覚、何処か心が落ち着く甘い匂い。
(……ん?)
普段の目覚めと、何処か何かが違う。
意識がはっきりとしてくるにつれて強くなる違和感の正体は、考えなくてもすぐに分かった。
なにしろ、その原因は俺の目の前で一緒に横になっていたのだから。
「あら、折角の休みなのだし、もう少し寝ていたら?」
「……その前に、この状況について説明を頼めないか? 美羽」
朧げな記憶を掘り返してみる。
今朝は確かに、リビングで寝ていた美羽をベッドまで運んだ、だけどそれは当然、美羽の部屋のベッドにだ。
なのにどうして、俺のベッドで美羽が一緒に寝ているのか……
「佑斗ったら、いくら寮とは言え不用心じゃないかしら? 鍵も掛けずに寝てしまうなんて」
「今朝はとにかく疲れてたからな……って、いや違うそうじゃない」
などと考えていても、当の本人はさも当然でしょ、と言わんばかりの表情。
実にあっけらかんとした態度でこちらを覗き込んでくる。
「だいたい、不用心を言うなら今朝の美羽の方こそ……と言うか、何でリビングで寝てたんだ?」
「別にそうしたかった訳ではないわ、ただ……待ち疲れてしまっただけよ」
「……もしかして、俺を? でも、確かメールはしたはずだが」
「それは確かに届いているわ、でも……」
そこまで言いかけた美羽の顔が少し赤く染まったかと思うと、何故か俺から視線を外す。
暫く待っていると、少し不機嫌な表情を浮かべた美羽が俺の顔を睨む。
「佑斗、私の頭を撫でて」
「……そりゃまた唐突な」
「いいから、それにこれは、慰謝料の徴収でもあるの、佑斗に拒否権は無いわ」
「……すまない、美羽を怒らせるような事をしてしまったようだが……全然身に覚えがない」
「別に佑斗は悪くないわ……だけど、たとえそうだとしても、女の子を待たせた罪は、この世で最も重い罪なんだからっ」
不機嫌なお姫様は、顔を真っ赤にしながらそんな滅茶苦茶な事を言う。
しかしそう言われても、思い当たる原因が無い。待たせたと言っても特に約束を、それも一緒に寝る約束をして忘れる訳が無いし、そもそも帰りが遅くなることはメールで伝えていたし……
「……あっ」
「何? どうしたの佑斗」
「もしかして、美羽……」
美羽の頭を優しく撫でながら、俺は美羽に向き合う。
「……寝る前にいちゃいちゃしたかったから、俺が帰って来るのを待ってたのか?」
「っ……」
「でも、思ったより俺の帰りが遅くて、耐え切れずそのままリビングで寝てしまって」
「っっ……」
「で、寝る前にいちゃつけなかった分を、起き抜けに慰謝料として請求しに来た、と」
「……っ~~~~!!」
みるみるうちに真っ赤に染まる美羽の顔を見る限り、どうやら図星らしい。
「……えぇそうよ、全部正解よ大正解、悪い!? 悪いですか!?」
「いや……悪くない、むしろ嬉しいよ、美羽」
顔を隠すように俯く美羽の頭を、俺は優しく撫でながらそう答える。
「それにすまなかった、そう言う事なら頑張ってもっと早く帰って来るんだった」
「……本当に、そう思ってる?」
「本当だ」
顔を真っ赤にし、だけどそれ以上に申し訳なさそうにしながら。
そんな複雑な上目遣いでこちらを覗き込みながら、美羽は呟いてくる。
「……なら、もっと撫でて、それに抱き締めて、もっと優しく……もっと強く」
「お安い御用だ」
そう言って、俺は美羽の体を抱き寄せて、優しく頭を撫でる。
目を細めながら受け入れてくれる美羽を見る限り……支払いには満足してくれているようだ
「……ねぇ、佑斗」
「何だ? 美羽」
「……ありがとう、それに……我儘を言ってごめんなさい」
「こんな可愛い我儘ならいくらでも言ってくれ……それよりも、大切な事を言い忘れてた」
「……大切な事?」
そう言ってから、抱き締めている美羽に向かって、その言葉を告げる。
「おはよう、美羽」
腕の中の恋人は、その言葉を受けて微笑み返す。
「……えぇ、おはよう、佑斗」
気怠い夕日の光と、温かい温もりに包まれながら。
そうして、優しい一日が幕を開けたのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
コーヒーの下りはちょっと自分の想像が入っています、確かルート中に紅茶は飲んでたけどコーヒーは飲んでなかった…はず?
ちょっと自信無いので、間違ってたらごめんなさい。