※この作品はR-18です。

ゆずソフト短編   作:つまさき立ち

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DRACU-RIOT!より、布良梓の短編です。
風紀班のお仕事真っ最中の夜のお話になります。
特に個別ルートのネタバレは無いと思います。


スキだらけ(DRACU-RIOT! 布良梓)

「……はぁ」

 

 今夜何度目になるか分からないため息が、月明りの照らす夜空に溶けて消えていく。

 

「駄目だよ佑斗くん、ため息をつくと幸せが逃げちゃうよ?」

「よく解る、何せ幸せならもう逃げた後だからな……」

「仕方ないよ、やっと手がかりを掴めたんだし……この機を逃したら、次はいつチャンスが来るか分からないからね」

 

 そう言って、梓は意識を目の前の倉庫に集中させる。

 先に到着した偵察チームの情報によれば、中に居るのはいかにも怪しい薬の取引を行っている、いかにも怪しい男が4人。

 対してこっちの戦闘員は、苦労してお互いの休日を合わせた上に、デートの計画まで立てていた俺と梓の2人のみ。

 

「いくらウチが人手不足だからって、非番の俺達まで緊急出動させなくても……」

「なんかね、今晩は特に人員が足りないんだって、あちこちで取引とか摘発とか、そう言うのが重なっちゃったみたいで……」

「そのお陰で、俺は梓の手料理を食べ損ねた訳か……」

「ごめんね、折角楽しみにしててくれたのに」

「気にしないでくれ、梓のせいじゃない」

 

 ぽむぽむ

 

 しゅんとする梓の頭を撫でながら、俺は目一杯の恨みを送り込もうと、倉庫の入り口を睨みつける。

 

「落とし前は全部、中の奴らに取ってもらうさ……」

「ゆ、佑斗くん……急にやる気になってどうしたの?」

「さっさと突入して、中の奴らを2分で制圧してすぐ帰れば、その後からでもデートに行けるだろ?」

「連行作業に現場検証、報告書もあるし無理だよ……それに駄目だよ佑斗君、焦って油断したら思わぬ怪我しちゃうかもしれないでしょ?」

 

 めっ、と俺を窘める梓の瞳は、いつの間にか仕事モードの真剣なものに切り替わっている。

 ついさっきまでしょんぼりした子供みたいだったのに……こういう所が梓らしいと言うか、梓の魅力と言うか。

 

「ちゃんと最後まで油断しないこと、わかった?」

「あい・さー、相棒」

「ならよし♪……っ、佑斗くん」

「ああ」

 

 なんて、緊張感の抜けた会話を続けていた俺達の耳に響く、通信機からの声。

 どうやら当初の予定通り、偵察チームが取引の瞬間を確認したらしい。

 現行犯、すなわち現場に踏み込む口実を手に入れた俺と梓は、瞬時に仕事モードに切り替えて、お互い最低限の動きで目配せする。

 

「3カウントで突入する、援護は――って、今更言わなくていいか」

「うん、いつも通りでいいよね?」

「それで頼む」

 

 背後の恋人に背を向けたまま返事をして、立ち上がった俺は入口の前で身構える。

 3つ立てた指を1秒毎に折りながら、最後の人差し指を折った瞬間――

 

「任せた」

「任せて」

 

 自然と溢れた言葉を合図に、力任せにドアを蹴破った。

 

 

 

 

 情報通り、正面に見えるのはスーツを着た男が4人。

 しかも、全員が懐に手を突っ込んだ所を見るに、おそらく4人ともしっかり武装済みのご様子だ。

 

(この分だと、情報通り吸血鬼は居ないと見ていいか……が)

 

 いくら吸血後の身体能力と言っても、まだ相手まで距離があり過ぎる。

 銃撃に備えて硬質化の能力を発動、顔を覆って防御を――

 

 「佑斗くん!」

 

 しようとした刹那、背後から響く梓の声。

 俺は返答を言葉で返さない代わりに、一瞬だけ上体を沈めて梓の射線を確保する。

 まばたきよりも短いコンマ単位のやり取り……だけど俺と梓にとって、時間の短さは問題にならない。

 それを証明するかの様に、小さなゴム弾が俺の頭の上を掠めていくのを、吸血鬼の感覚だけが微かに捉えた。

 

「ぐあっ!」

 

 正確に放たれた弾丸が4発、それぞれ銃を取り出そうとした手に命中すると、男達はうめき声と共に銃を取り落す。

 男達はなお、銃を拾って反撃しようとするが……そんな隙は当然与えない。

 

「恨みは無いが…いや、あったな!」

 

 まずは一番手前の男に、硬質化させた腕でそのまま鳩尾を一発。

 悶絶して倒れ込むのを目の端で確認した俺は、その後ろにいた男が放ったパンチを躱し、そのまま腕を掴んで地面へ放り投げる。

 

「あとふた…うおっ!」

 

 力任せの投げで体勢の崩れた俺の、胴に向かって放たれる蹴り。

 タイミングは完璧……と言いたい所だが、それはあくまで”人間対人間”だったなら、の話だ。

 

「これでっ!」

 

 強引に蹴りを躱し、そのままクロスカウンター気味に放った手刀が男の首筋を捉える。

 白目を剥いた男が倒れるのを横目に、最後の一人がいた場所へ、そのまま蹴りを――

 

「っ!」

 

 放とうとした俺の顔スレスレを、銀色の刃が通り抜けていく。

 間一髪でそれを躱した俺は、地面を強く蹴って男と距離を取った。

 

(……マズイ、完全に油断した)

 

 銃を落としたからと言って、それ以外の武器を持っていないと言う保証にはならない。

 撃たれた方と逆の手でナイフを構える男は、俺と距離を保ったまま、ジリジリと距離を詰め、そして……

 

 “タンッ!”

 

 無防備に晒していた横っ面にゴム弾を喰らい、そのまま倒れ込んだ。

 

 

 

 

「突入前に言ったでしょ? 最後まで油断しちゃダメだよって」

「……面目ない」

「もー……駄目だよ? 油断大敵、何かあってからじゃ遅いんだからっ」

「肝に銘じます」

 

 ぷんすこ怒った相棒のお説教を、俺は甘んじて受け入れる。

 正直、あれ位ならどうにでもなったとは言え……油断していたのは事実だし。

 

「それはそうと助かったよ、梓」

「佑斗くんが任せてくれたんだもん、私も期待に答えなきゃ」

 

 えっへん、と誇らしげに薄い胸を張る俺の恋人。

 戦ってる最中の真剣な表情からは想像できない位子供っぽくて無邪気な笑顔に、思わず俺もつられて笑ってしまう。

 

「期待に答えると言うか、期待以上と言うか……まさか4人もいる相手の武器を全部同時に落とすとは」

「同時ではないよ? 人によって皆、武器を抜いたり標準を合わせる速度はバラバラだから、それが早い人から順番に狙っただけ」

「……マジ?」

「うん、マジ」

 

 あっけらかんと常識外れな事を言ってのけられて、思わず目を丸くする。

 吸血鬼の視力で捉えたって、そんなに大きな差は感じられないと言うのに……

 

「まだまだ俺も修行が足りない、と言う事か……」

「?」

「いや、俺も精進しなきゃなって」

「その意気や良し、だよ♪ ……あっ、来たみたいだね」

 

 倉庫の外から車の停まる音が響く、梓が呼んでいた別チームの面々だろう。

 後は犯人やら押収物やら諸々をあっちに丸投げすれば、俺達は……

 

「じゃあ佑斗くん、私達は本部に戻って報告書だね!」

「そうなるよなぁ……」

 

 解り切っていたとはいえ、目を背けたい現実に思わず肩を落としてしまう。

 

「まぁまぁ、今日の分の補填はちゃんと出るらしいから……デートはその時に、ね?」

「……いっそ、本部で仕事しながらイチャついてやろうかな」

「そんな事したら、美羽ちゃんにこれでもかって位からかわれちゃうよ?」

「それはそれで絶対嫌だな……」

「でしょ?」

 

 そんな軽口を叩き合った後、俺達は顔を見合わせてくすくすと笑い合う。

 その顔は、銃を握っていた時の真剣な表情からは想像もできない様な、無邪気で、可愛らしい笑顔で。

 

「うーん……」

「どうしたの? 佑斗くん」

「いや……」

 

 寮長として、クラスメイトとして、風紀班として。

 他にも先輩として、相棒として、そして……恋人として。

 付き合い始めてから、コロコロと変わる梓の色んな表情を見て来たけど。

 

「やっぱり笑顔が一番だなって」

「うにゅ? どういう事?」

「そりゃ、笑顔の梓が一番かわ――」

 

 可愛い、と言おうとした俺の口を止めたのは、ポケットから伝わる不吉な振動。

 

「……なぁ、梓」

「……なに? 佑斗くん」

「何となくだけど俺、この電話出たくない」

「気持ちはわからないでもないけど、それは駄目だよ……」

 

 ついさっきまで無邪気に笑っていた恋人の顔は、いつの間にか街を守る風紀班のソレに変わっていた。

 そしてそれは多分間違いじゃない、何の根拠も無いけど……俺の中の吸血鬼の勘が、そう叫んでいた。

 

「はい、六連です……あぁ、やっぱり……いえ、何となくそんな気がしていたので、はい、すぐ」

「うぅ……今の電話って、やっぱり?」

「あぁ、残業確定」

 

 応援要請の電話を切った俺は、今日一番の深いため息を一つ。

 

「佑斗くん、ため息をつくと」

「そうだな、幸せならつい今しがた、また逃げていったもんな……」

「うにゅー……」

 

 この分だと、補填の休暇が貰えるかどうかも怪しいのでは……なんて思いは、思っても決して口にはしない事にする。

 と言うか、口にしたら本当にそうなりそうで怖い。

 

「仕方ないよね……行こ、佑斗くん」

「……こうなったら、向こうの現場でイチャついてやろうかな」

「そんな事したら大問題じゃ済まないよ……それにまた戦闘になるんだから、そんな気が緩んでたら危ないでしょ?」

「二度も同じヘマはしないって、さっき梓にも注意してもらったばかりだしな」

「ほんとに?」

「ほん――」

 

 ほんとに、とただ一言を言うだけのほんの一瞬、でもその確かな一瞬。

 でも確かにその時、俺は梓の言う様に油断していたのかもしれない。

 そして俺の相棒は、そんな一瞬を見逃さない。

 

 それを証明するかの様に、気付いた時には俺の唇は、梓の唇で塞がれていた。

 

「……ね? やっぱりゆーとくん、隙だらけだよ」

 

 一瞬だけ見せてくれた、恋人の俺しか知らない梓の表情。

 突然のキスに加えて、そんな不意打ちで追撃された俺の頭は、見事な程に一瞬でフリーズしてしまう。

 

「ほ……ほらっ急がないと! 早く行こ、佑斗くん!?」

「……あ、あぁ」

 

 抜けている様で、でも頼りになる様で。

 あどけない子供かと思ったら、急に大人っぽくなったり。

 

 そうして、そんな梓の一つ一つの表情がどれも大好きで、今でもドキっとしてしまう。

 

「……確かに、梓の言う通りかもな」

 

 これだけ梓の虜になっていれば、隙の一つや二つ生まれるのは当然だろう。

 そんな自分をちょっと自嘲するみたいに、軽いため息を一つ。

 

「だから佑斗くん、幸せ逃げちゃうよ?」

「大丈夫、今のは違うから」

 

 幸せが逃げたんじゃなくて、幸せが溢れ過ぎて口から零れた、って言うのは……流石に、ちょっと恥ずかしい。

 

「え? どういう事?」

「気にしない気にしない、それよりほら、応援に行かないと」

「むー……何だかはぐらかされてる気がする」

 

 そんな風におしゃべりしながら、月明りの中を二人で歩き出す。

 このドタバタした海上都市の、平穏な夜を守る為に。

 子供っぽくて大人っぽい、大切な恋人と一緒に。

 

 次の現場へ到着するまでの間だけ、手を繋ぎながら。




ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
恋人と一緒なら残業も楽しめるのかな…なんて思いながら残業中にちょこちょこプロット書いてました、ちょっと泣きたくなりました。
頑張って月2本ペース位で更新したいんだけどなぁ…体力が…

蛇足ですが、次のコミケにサークル申し込みしました。
当落含め、詳細が判明したらまた改めてご連絡致します。
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