暁とあやせのちょっと特別な日の夜のお話になります。
特にシナリオのネタバレは無いと思います。
~22:02~
「んっ~~っっ、疲れたぁ~……」
忙しかった一日もようやく一段落着き、部屋に戻って来た私は安堵の息を漏らす。
買い物の為、普段行かないような所まで遠出しちゃったから、帰りも門限ギリギリになってしまって……
食事とお風呂を済ませたら、すっかりこんな時間になってしまった。
「でも……うん、頑張った甲斐はあった、かな」
呟いて、私は手の中の小さな箱を見つめる。
ギリギリまで時間はかかっちゃったけど、代わりに、私なりに納得のいく物を買う事が出来た。
これならきっと、暁も……
「……っと、いけないいけない、早く連絡しないとっ」
急がないと、折角間に合ったのに今日が終わっちゃう。
今晩部屋に来て欲しいって事は予め伝えてあるから、後は私の準備が整ったことを連絡するだけで済むけど……
それでも、どうしても気持ちが逸ってしまう。
「暁、喜んでくれるかな……あっ、もしもしさと……えっ?」
そんな焦る私の気持ちを、聞き慣れた機械音が急速に冷やしてくれる。
『おかけになった電話をお呼び出しいたしましたが、お繋ぎできませんでした』
「……えっ?」
~23:06~
「む~……」
時計の針を恨めしく睨みつけながら、私はもう何度も確認したスマホに再び目線を落とす。
けれど、何度確認しても画面に変化は無い。それはつまり、暁から何の連絡も無いと言う事。
「そりゃ、暁の仕事がそーいう物だって事は、わかってはいるけど……」
ただ電話に出ないだけじゃなく、あのアナウンスが流れるって事はきっとそう言う事なんだと思う。
それも、私に連絡する暇も無かった位、緊急で行かなきゃいけないような……
「だからって、よりにもよって何で今日なのよ、もぅ……」
わかってはいるけど、それでも自分の間の悪さを嘆いてしまう。
これっばかりは”それじゃあ、明日また”と言う訳にはいかないのだから。
……そうは言っても、私にできる事は、暁からの連絡を待つ事だけ。
「……暁のばかっ」
返事の帰ってこない言葉を呟いて、私は再び目線を時計に移す。
時計の針をいくら睨んでも、進みが遅くなるわけじゃない、そんな事はわかってるけど……
「間に合わなかったら、許さないんだから……」
それが、今の私にできる精一杯の抵抗と、強がりだった。
~0:02~
「……はぁっ」
ため息をついた私は、再び時計に目線を移す。
何度見ても、傾いた針はもう日付が変わってしまった事を表していた。
「結局、こうなっちゃったかぁ……」
枕に顔を埋めながら、そんな恨み言が口から零れてしまう。
力の抜けた手でスマホを拾い上げ、画面に何の変化も無い事を確認した私は、そのままそれをベッドの上に滑り落とす。
「……そりゃ、予め用意してなかった私も悪いかもしれないけど」
正確に言えば、準備はもっと早い時期から進めてはいた。
だけど、あれでもない、これでもないと悩んでいる内に、いつしかギリギリになってしまって……
休みの今日……いや、もう昨日だけど、早くから出かけて、ようやく納得の行く物が買えて、ホッとしていたのに。
「むぅ~……」
行き場のないモヤモヤが体の中を巡って、それは形を成さないまま、私の心と感情もモヤモヤさせてしまう。
今の気持ちをどう表せばいいのか、言葉が出てこないけど……一つだけはっきりしているのは、とにかく落ち着かないという事。
「別に……と言うか全く、暁が悪い訳じゃないけど……」
誰が悪い訳でもなく、強いて言えば間が悪かったとしか……いや、早く準備しておかなかった私もそりゃ、悪かったと思うけど……
「早く帰ってきなさいよ、ばかっ」
そうして、今日何度呟いたか解らない言葉が、再び私の口から零れ落ちた。
~1:36~
何をしても手に付かないし、何をしても落ち着かない。
結果として、私の目線はさっきから部屋の中を行ったり来たり。
「……ホントに何なのよ、もぅ」
枕を抱き締める腕に力を込める。
一向に帰って来る気配の無い連絡を待ち続けて、気付けばもうこんな真夜中になってしまっていた。
「と言うか……ちょっと遅過ぎない?」
モヤモヤとした気持ちは、時間が経つと共に徐々に不安へと変わっていく。
それでも、私には暁の状況を確認する術は無い。
確認できない分、どんどん胸の中の不安は大きくなっていく。
「まさか……怪我とかしちゃってたり、なんて事……」
ふっと、そんな言葉が頭をよぎると、不安は一気に膨らむ。
暁ならきっと大丈夫……そんな根拠のない自信は、真夜中の静寂に押し潰されて、すぐに大きく揺らいでしまう。
そして私は、枕を抱き締めていた腕にさらに力を込める。
「だ、大丈夫……前だってこれ位の時間になった事はあったし、別に変じゃない、だから……大丈夫」
自分に言い聞かせるように、私は小さく呟く。
だけどその声は、時計の針が進む音よりも小さく、弱々しい声。
「……暁の、ばかっ」
今日何度目か分からない恨み言。
一体、これをあと何回言う事になっちゃうんだろう…
~2:40~
『大丈夫だから、すぐ来て欲しい』
随分遅い時間になっちゃったから、きっと気遣って電話じゃなくてメールで連絡してくれたのかな。
私はそれに短く返信して、スマホをポケットへ。
「結局、こんな時間になっちゃったかぁ……」
無事に帰って来てくれた事には本当に安心したけど、そうすると胸のモヤモヤがまた蘇って来る。
不安、焦り、我儘、ちょっとの八つ当たり……自分でもどうしようもなくて、抑えられない、ごちゃごちゃしたよくわからない気持ち。
「暁ったら……彼女をこんなに待たせるなんて、許さないんだから」
部屋に来たら、恨み言の一つや二つもぶつけよう。
そう思いながら、私は目と耳を部屋の窓に向けて集中させる。
すると、直ぐに窓が開いて――
「済まない、あや……うぉっ!?」
色々と言いたい事があったはずなのに。
でも、最愛の彼の顔が目に映った瞬間、気付けば私の頭は真っ白になっていて、飛び付く様に彼に抱き付いていた。
「えっと……あやせ?」
「怪我は?」
「えっ?」
「怪我とか、してない?」
「あ、あぁ……大丈夫、かすり傷一つ無い」
「……なら、いい」
……あぁ、これはずるい、卑怯だ、あんまりにもフェアじゃない。
だって、あれだけ色々と言いたい事があったのに、暁の顔を見た瞬間に全部吹き飛んじゃって。
あれだけモヤモヤしていた頭の中も、暁の声を聴けただけで、安心と幸せの気持ちで一杯になって。
結局、私は――
(たったこれ位の時間、会えなかっただけで、こんなに寂しかったなんて……)
どうやら、私は私が思っていたよりもっともっと、暁の事が大好きみたい。
それを自覚させられたみたいで……恥ずかしくて真っ赤になってる顔を隠すように、私は更に暁に抱き付く。
「……ばか」
「本当に済まない、緊急で仕事が飛び込んで来てしまって」
「それは、いい……でも」
「でも?」
「ばかっ」
オーバーヒートしそうな頭で言葉を紡ごうとしても、うまく繋がらない。
それでも、目の前の大切な人は申し訳なさそうに、優しく私の頭を撫でてくれる。
……やっぱり卑怯だ、こんなの。
「所で……今日はどうしたんだ?」
「えっ?」
「いや、あやせの方から来て欲しいって、連絡してくれただろ?」
「あっ!」
言われれ、私はハッと顔を上げる。
そうだ、待ちくたびれて、すっかり頭から抜けちゃってたけど……。
「えっと……本当は、昨日の内に渡したかったんだけど……」
テーブルの上に置いていた小さな箱を、背中に隠しながら私はそう告げる。
……だけど、目の前の彼氏はいまいち何のことか解って無さそうで、きょとんとした顔を浮かべていた。
「……もしかして、昨日が何の日か、忘れたりしてない?」
「すまないが……心当たりが無い、と言うより任務のせいで、それ所じゃなかったと言うのが正直な所だが」
「……はぁっ」
そりゃ仕方ないかもしれない、かもしれないけども。
折角、喜んで貰いたくて精一杯頑張ったのに……何だか私だけ空回りしてたみたいで、ちょっと、いやかなり悔しい。
……本当、何でこんな人に惚れちゃったんだろう、私。
「もう…暁の、ばか」
そう言って、背中に回していた手を暁の目の前へと差し出す。
両手の上には、プレゼント用に綺麗にラッピングされた小箱。
(……ほんとに伝わるかな、私の気持ち)
目の前の鈍感彼氏に、ほんのちょっとでも、この気持ちが伝わる様に。
全部伝えきれるかどうかも解らない位に大きくて、大切で、愛おしいこの気持ちが、少しでも沢山伝わる事を願って。
そう思いながら私は言葉を紡ぐ。本当は昨日言いたかったけど……言えなかった分、せめて心からの笑顔と想いを込めて――
「誕生日おめでとう、暁」
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
あやせルートの、時には気の合う友達の様な、時にはらぶらぶ全開で恋人しちゃう二人のやりとりは控えめに言って最の高でしたね…