凉音さんと昂晴くんのちょっとアブノーマルなお外プレイのお話になります。
特にシナリオのネタバレはありませんが、R-18描写がありますので、読んでいただく際はご注意下さい。
始まりは、いつからだっただろう。
「お待たせしました」
「ん、ありがと」
着替え終えた昂晴と入れ替わりで、今度は私がバックヤードへ。
さっさと着替えようと思ったけれど、その前に……疲労で重たくなった体を椅子の背もたれに支えてもらいながら、天井に向かって大きなため息を一つ。
体の内側を満たしていた疲れと緊張感が、私の口から吐き出されて……そのまま、ふわふわと部屋の中を漂う。肩の力が少しだけ抜けた気がした。
「ふぃー、つっかれたぁ……」
静まり返った部屋の中。それでも働き続けてくれる時計の針が、もうすぐ日付が変わろうとしていることを教えてくれる。
他の皆は当然、とっくに家に帰った後。明日が休みだからとついつい気合を入れて厨房の掃除に熱が入りすぎた結果……ふと気付いた時にはもう、こんな夜中になってしまっていた。
熱が入ると妥協が出来ない、自分の悪い癖がまた出てしまったと自己嫌悪。……そう、これは悪い癖。アイツは「それが凉音さんの良い所じゃないですか」なんて涼しい顔で言うけれど……
「はぁ……それにしても……」
こんな時間まで文句も言わず、付き合ってくれた昂晴の姿を思い出す。
私なんかとは違って大きくて力強くて……実際、力仕事なんかは本当に助かってるし、最近は仕事に慣れてきたこともあるのか若干の貫禄というか、頼り甲斐を感じることも増えてきてる。
……隣に並ぶ度、手を繋ぐ度、他にも……ベッドの上で泣かされる度に、何度も思い知ってはいたけれど。
やっぱり男の子なんだなぁ……なんて、柄にもなく乙女なことを思ってしまう位に。どうやら私はまだまだアイツのことを、どんどん好きになっていってるらしい。
小さな私が寄りかかってもびくともせずに、受け止めて支えてくれる。そんな大きなアイツに……
「……っと、いけない、早く着替えちゃわないと」
まだちょっと重たい体に勢いをつけて立ち上がって、仕事着をロッカーへとしまっていく。
着替えを進める手の動きは疲れた体とは思えない位に軽快で、しかもどんどん早くなっていってしまう。
……恋人同志と言っても、仕事中は上司と部下の関係でもある。
だけど、それはあくまで仕事中の話。それに明日は休みだ、もう私達の関係を遮るものは何一つない。
この場に栞那さん辺りが居たら、きっとニヤリと笑みを浮かべながら私のことをからかってくる。だけど今の私は、それに否定することはできないみたい。
どんどん早くなる手の動き。それと……心臓の鼓動。
「っ……」
淀みなく動かしていた手の動きが、ピタリと止まる。
下着姿のまま、金縛りのように固まる私の体。その原因は私の中で渦巻く気持ち……主成分は恥ずかしさ、隠し味は少しの理性。
だけど、それもほんの少しの間だけのこと。そうして伸ばした手はハンガーにかかった私服ではなく、私のカバンの中へと伸びていく。
……本当、いつからだっただろう。
心に浮かんだ疑問はだけど、すぐに別の感情で乱暴に上書きされてしまう。
時刻は真夜中、明日は休み。
もう、私達だけの時間を遮るものは……何もない。
「おまたせ」
お店のドアを開けると、すぐ側で昂晴は私を待っていてくれていた。
吐く息はもう殆ど透明だっていうのに……こういう律儀で健気な所、少しズルい。
「それじゃあ、一緒に帰りましょうか」
そう言って、ポケットに入れていた手を自然と差し出してくれる。
ギュっと握り返すと、私の小さい手をいっぱいに包み込んでくれる温もり。自然と心にまで染み渡ってくるような、そんな暖かさ。
「どうします? 寒いし真っ直ぐ帰るか、それとも日本酒でも買ってから帰りましょうか」
吹き付ける夜風が、晒した頬と髪を撫でる。
冬の容赦ない風は、コートの上からでも私の体を貫いてくる。こたつが恋しい……昂晴と二人、熱燗も添えてぽかぽかの温もりに包まれて夜を過ごすのも悪くない、いや、それも凄く魅力的。
だけど……今は、今晩はそうじゃない。
まだお酒を飲んでない私の頬がもう赤く染まっているのは、夜風が冷たいせいだけじゃない。
それに……コートの内側の体は、もう少し汗ばんでいる位。
理由は、はっきりと分かってる。
「えっ、と……」
普段の私らしくない、歯切れの悪い言葉。
普段の昂晴の鈍感さは何処へいったのか、どうやらそれだけで察したみたい。
余裕の無い私に代わって、辺りを見回して誰も居ないことを確認してくれる。表通りから少し外れたこの帰り道は、真夜中になると人通りはほぼ無いと言っても良い。それは私も、昂晴も知っていること、だけれども。
予想通り、周囲に人の気配は無かったみたい。それを確認してから昂晴は、繋いでいない方の手をコートのポケットにゆっくりと突っ込む。
後は、指先をほんの少し動かすだけ。
「んっ……」
静まり返った真夜中の空気、そんな中でも注意していないと聞き逃してしまう位の僅かな音。
だけど逆に言えば……それはよく注意して耳を済ませば微かに、だけど確かに聞こえてしまうと言うこと。
規則正しく刻まれる、機械的な振動音。それが私の服の内側……もしかしたら、下着の内側から発せられていることまで。
いつからだったかは、思い出せない。
だけどこれは強要も無理強いもされていない。いつからか私が望んで、昂晴が受け止めてくれた関係だった。
思えば……実力と運が物を言うパティシエの世界でたった一人、張り詰めたまま生きてきた反動なのかもしれない。自分でも気づかないうちに孤独を溜め込んで、無理をして……そんな時に出会った年下だけど頼り甲斐のある恋人に寄り添っているうちに、自分の中に芽生えた感情。
隣を一緒に歩いてくれる、時には身も心も預けて安心させてくれる。最初はその位の、ごくごく小さな安心感だったはずなのに……そうして身を委ね続けるうちに、いつしかそれ以上を求めるようになっていった自分の心。
心も体も、私の全てを委ねること……支配してもらうことに対する安心感と、充足感。
ここからは、上司と部下の関係じゃない。
……かと言って、恋人同志の関係と言うだけじゃまだ少し足りない。
もっともっと秘密で、むせる程に甘くて苦い毒を分かち合う。誰にも教えられない……少しだけ歪で、だけどコレ以上無い位に強く噛み合ってしまう。
そんな、二人だけの関係。
「……それじゃあ、少し遠回りして帰りましょうか」
昂晴の声色が変わる。
いつもの態度とは少し違う。怖くはないけれど……普段の優しさとは別に、言葉の中に確かに感じる力強さ。
それは、例えるなら……飼い主が、ペットに躾をする時のような。
「……うん」
今の私にはもう、選択権は無い。
全てを彼に委ねた、ただ彼に従うこと以外許されない存在。
そんな……私が望んで選んだ不自由が、私に大きな安心感を与えてくれる。
そして、大きな期待も。
「んっ、ぁ……」
普通に歩けば大した距離じゃない道が、今は無限にも思えてしまう。
ふらつく足取りは乱れていて、さっきから少し歩いては止まってを繰り返してばかり。おぼつかない足の代わりに、彼のコートを掴む手にはどんどん力が込められていく。
何も知らない人が見たとして、良くて泥酔者と身間違われるだろうか。
もしカンの良い人が、だんだん隠せなくなってきた私の熱っぽい声に気付いたとしたら……きっと今、私が何をされているのか一発で見破ってしまうかもしれない。
そんな情けない姿を晒しているこの場所は、私達の日常に何度も登場する普通の道。
そんなありふれた普通の場所で、普通じゃないことをしてる。
その事実が、私の頭の中をさらに狂わせていた。
「大丈夫ですか?」
「……わかってる、くせ、にっ……」
切羽詰まって答えた私に対して、彼は言葉じゃなくて指先の動きで答える。
「っあ……!」
急に強くなった刺激に歯を食いしばって耐えても、漏れる声を抑えられない。
大きくなった振動音が、微かに自分の耳にすら届く程で……だけど、それをかき消す程に大きくなってしまった吐息を隠す余裕がもう、私には無い。
ふらつく足腰では体を支えていられなくて、コートの袖をギュッと握りしめる手にさらに力がこもる。殆ど寄りかかるような姿勢で、どうにか座り込まないようにするだけで精一杯。
そんな私のささやかな努力を笑うように、さらに振動が強くなる。
「ぁっ! それだっ、め……!」
ここが外だってことも、もう頭から吹っ飛んで……このまま――
「……あ、んぅ……」
寸前のところで、快楽の波はピタリと止んでしまった。
私の体に蓄積された疼きが、出口を探して体の中を駆け巡っているのがわかる。
体が暑い。大きく息を吸い込むと、その冷たさは私に少しばかりの冷静さを取り戻させてくれた。現実に引き戻された意識は同時に恥ずかしさも連れてきてしまい、私は急いで辺りを見回してみる。
誰も居ない、物音もしない。
強いて言えば、聞こえるのはまだ収まってくれない自分の吐息だけだった。
「大丈夫ですよ」
安心して下さい、と言わんばかりの優しい声。
普段は心を落ち着かせてくれる声のはずなのに、今は背筋を冷たい指先でなぞられているような、そんな風に聞こえてしまう。
「凉音さんのそんな可愛らしい姿、他の誰かに見せたくないですからね」
「……今、そんなこと言われっ、ても……嬉しく、ない」
冷たい空気をいくら吸い込んでも、体の火照りが収まらない。
今のうちに少しでも疼きを収めたいのに……体も頭も、全然理性の言うことを聞いてくれない。
イきたい、その言葉だけがどんどん体の中で膨らんでいく。
「それに」
「ひぁっ!」
そんな風に油断し切っていた私に、唐突に襲いかかる刺激。
「あんまり一方的だと意味がないですからね、ちゃんと我慢できる程度でないと」
もう何度目かも分からない。弄んで、止めて、その繰り返し。
年下の掌の上でいいように操られて、往来の真ん中で熱くなった息を漏らして。
「だっ、たら……もう少し、休ま、せっ……」
「駄目です。その代わり、部屋まで我慢できたらご褒美をあげますから」
そうやって、少しずつ逃げ道を塞がれていって。
「それと……我慢できずにイッたら、お仕置きですよ」
耳元で囁かれた言葉は、まるで電撃みたいに私の体を震わせる。
”お仕置き”
その言葉が、私の心を侵食する。
理性や、恥ずかしさや世間体、心に絡まった糸を一本ずつ優しく丁寧に解いていって、あられもない姿の心をさらけ出させようとする。
一切の抵抗も自由も許されず。全てを支配される感覚。
……それは逆に言えば、全てを彼に委ねるということ。
その毒の味を、私は彼からもう何度も何度も教え込まれていたから。
だから。
「こう、せ……ぃ」
彼は優しいから。
きっとこのまま、私が彼の部屋まで我慢し続けることができたなら……彼は私にご褒美をくれる。
優しく抱き締めて、キスをして、砂糖のように甘くて柔らかい快楽を二人で、一晩中かけて味わうような。きっとそんな幸せな時間をくれる。
だけど……今は、今夜はそれじゃあ足りない。甘いお菓子だけじゃ満足できそうにない。
もっともっとオトナのための苦くて、濃くて、刺激的な味を、私はもう知ってしまったから。
「キス……して……」
返事は待たなかった。
震える足で目一杯に背伸びをして、彼の首に回した手でちょっと強引に顔を引き寄せる。驚いた顔ひとつしないで、彼は私の行為を受け止めてくれた。
……ほら、やっぱり優しすぎる。
だから私は、体を支えようとしてくれた彼の片手を掴んで遮った。
「そっちじゃ、なぃ……」
震える指先で掴んだその手を、彼のポケットへと誘導する。
覗き込んだ彼の瞳には、真っ赤な顔の私が写り込んでいた。
……ううん、赤いだけじゃない。情けない位に蕩た表情で、期待を込めた眼差しで。
彼にしか見せない、見せられない表情を浮かべる私がそこに居る。
「……お仕置きですよ?」
「いいっから……早、く」
余裕なんてもう、何処にも残っていなかった。
「唇、塞いで……このまま、イかせて……欲し、ぃ……」
心臓の鼓動が、一向に収まってくれない。
冷静な大人に戻った私の理性に、容赦ない後悔が襲いかかってくる。だけどそれ以上に……開放感、と言うのは少し違うかもしれないけれど。
一種の心地良さを感じてしまっている私がいることは、ごまかしようのない事実で。
「そろそろ行きましょうか」
昂晴が優しく手を引いてくれる。
さっきまであんなに遠く感じてたのに、アパートまで残り3分とかからない所まで来ていたみたい。
ほっとするような、物足りないような……そんな気持ちを抱えたまま、感覚の戻ってきた足であるき出そうとした、そんな時。
そんな私の心を見透かしたように、彼が一言
「帰ったら、たっぷりお仕置きですからね」
その一言が、再び鼓動を早める。
そして、私の歩く速度も。
夢現の夜は、まだ終わらない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
仕事や体調の関係で去年は全然書いてなかったのですが、年も代わって少し元気を取り戻したこともあり、また頑張ってみようと思った次第です。
目指せ冬コミサークル参加の目標で頑張ります。
職場とプライベートで立場が逆転する系カップルすき…すき…
続きはいい感じのシチュが思いついたら書きます。