パーティーの夜に二人でいちゃいちゃするお話になります。
ルートのネタバレがありますので、できたらシナリオクリア後に読んで頂ければと思います。
特別の証明(サノバウィッチ 椎葉紬)
「お疲れ様、はい、これ」
「ありがとう柊史くん♪ んくっ……ふぅ……」
買って来たヨングルーチョを手渡すと、紬は大きく喉を鳴らして、それを飲み始めた。
よほど喉が渇いていたのか……オレが隣に腰を下ろし、ミルクティーのフタを開ける頃には、紬は大半を飲み干していたみたいだ。
「もう一本買ってこようか?」
「ううん、もう大丈夫だから……緊張したから喉が渇いちゃって、えへへ……」
恥ずかしそうにそう言う紬の横で、オレもミルクティーを一息に飲み干す。
この季節、夜の中庭は少し肌寒い位のはずだが、今のオレ達には丁度良い涼しさだった。
「改めて3位おめでとう、紬、すごく可愛かったよ」
「あ、ありがとう柊史くん……でも、本当にワタシなんかが3位でよかったのかなぁ……」
「そう思った人が沢山いたからこそのこの順位でしょ、それに、紬が舞台に上がった時は、凄く盛り上がってたじゃないか」
「そんな事無いよ……ワタシなんかより、綾地さんの時の方が凄かったよ?」
「ま、まぁ綾地さんに関しては否定しないけど……それでも、これだけ投票されてるんだから、もっと自信持っていいと俺は思うな」
「ありがとう……柊史くんにそう言ってもらえるのは、とっても嬉しいなっ」
毎年恒例のハロウィンパーティと、今年も開催されたコスプレコンテスト。
去年は代償のせいでコスプレできなかった紬だが、今年は念願叶ってコスプレをして参加する事ができた。
その上、コンテストでは3位入賞。
普段は男子の恰好をしている事もあり、女の子らしい衣装を身に纏った紬のギャップと可愛らしさには相当な威力があった様で、男女両方からかなりの票数を集めたらしい。
……ちなみに、戸隠先輩と言う最大のライバルが卒業してしまったこともあり、綾地さんがぶっちぎりの1位だったのは別の話だ。
「でも、一つ聞いてもいい?」
「うん、何かな柊史くん?」
「衣装、どうしてそっちを選んだのかな? って」
「ふぇ?」
「いやさ、去年着れなくて悔しそうだったし……てっきりアリス服の方を着るのかなって思ってたんだけど」
てっきり、そう思い込んでいた。
だけど、紬の選んだ衣装は去年着ようとしたアリス服ではなく、小悪魔コスの方だった。
「ワタシも、すっごく悩んだんだ……だって、せっかく被服部の人たちが作ってくれた衣装だし、今年が最初で最後の着られる機会だったから……」
でもね、と小さく呟いた紬が、オレの顔を見る。
紬の表情は、何処か恥ずかしそうで、だけど嬉しさに溢れているような笑顔だった。
「柊史くん、去年の今日の事、覚えてる?」
「ん? どうしたの、いきなり」
「いいからいいから、それで、覚えてるかな?」
「忘れる訳ないよ、紬とここで二人で話して、その衣装に着替えて……」
「可愛いって言ってくれて……それで、柊史くんがこれを渡してくれたんだよ」
そう言って、紬はポケットから二つ折りの紙片を取り出す
「それって……投票用紙?」
「そうだよ、柊史くんが私の名前を書いて、渡してくれた紙」
広げた紙を、こちらに見せる紬。
そこには、去年のオレが書いた「椎葉紬」の文字がハッキリと残っていた。
「まだ、持っててくれてたんだ……それ」
「当然だよ、ワタシにとってこれは、とっても大切で、とっても意味のあるものなんだよ?」
「意味?」
「うん、だって……きっと、あの時が始まりだったんだなって、そう思うから」
小さな紙片を、まるで愛おしい物を抱き締める様にしながら、紬はそう呟く。
「ワタシが、柊史くんを好きになった瞬間は……きっと、あの時だったんだって」
「っ……」
「だから、ワタシにとって、ハロウィンパーティーと、この衣装はとっても特別な物でね、だから……」
「どうしても、この衣装でパーティーに出たかったんだっ」
月明りに照らされた紬の笑顔は、いつも以上に可愛くて。
でも何かがいつもと違っていて、神秘的な雰囲気さえ感じてしまった。
「だからね、今ワタシはすっごく幸せなんだよ、柊史くん♪」
「……うん」
……嬉しさのあまりに言葉が出ないなんて、本当にあるんだな。
そんな事を思いながら、肩に寄りかかる紬の頭を、オレはできる限り優しく撫でた。
「じゃあ……ワタシからも、一つ聞いてもいい?」
「ん? 何を?」
「柊史くんは、コンテストは誰に投票したの?」
「えっ?そりゃもちろん、紬にだけど……」
「えー、ホントかなぁ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、紬の目がオレの目を捕らえる。
「実は綾地さんとか、めぐるちゃんとかに入れたりしてない?」
「してないしてない」
「じゃあ……証明して欲しいな?」
「証明?」
「そうだよ、証明」
そう言って、紬は俺の手に何かを握らせてきた。
「これって……今年の投票用紙?」
「うん……学生会の人にお願いして、投票には使わないって約束で、一枚余分に貰ったんだ」
「それって……」
「うん……柊史くんからの特別の証が、今年も貰えたら……すっごく嬉しいなって思って」
さっきの紬との会話を考えれば、紬が何を求めているのかは流石のオレでもわかる。
でもオレは、その紙を握ったまま固まってしまっていた。
(……本当に、敵わないな、紬には)
同じ思い出を共有している事、お互いがそれを大切に想っている事。
そして、紬がオレとの新しい思い出を求めてくれている事。
紬から流れ込んでくる暖かい感情と、自分の心から湧き上がる嬉しさに飲まれて、オレは暫く何も考えられずに固まってしまっていた。
「……わかった、ちょっと待ってて」
ようやく我に返ったオレは、そう言ってペンを走らせようと……
した所で、ふと手が止まった。
(特別……特別の証か……)
大切な思い出の、大切な証。
紬にとってそうであるように、それはオレにとっても同じだった。
……どうにかして、それを紬に伝える方法は無いものか。
これから先、ずっと忘れられない思い出になるような……
(……あっ)
そう思った時、ふと一つ思い付いたことがあった。
ちょっと……いや、かなり恥ずかしい、恥ずかしくはあるが……
それ以上に、今は紬に伝えなきゃならない事が、あるような気がしたから。
「……はい、お待たせ」
そう言って、オレは書き終わった紙を、紬の手の中に握り込ませた。
「ありがとう、柊史く……、? あれ?」
オレから受け取った紙に書かれた文字を見て、きょとんとする紬。
……まぁ、いきなりこんな事されても、そりゃ意味不明だよな。
「えっと……書き間違いとかではなくて……何と言うか、オレなりの決意表明、と言うか……」
「決意?」
「これから先、ずっと紬の傍に居て、紬を守っていく……その、決意」
「それって……」
そう言われても、いまいちピンと来ないのだろう。
紬はキョトンとした顔のまま、手の中の紙をじっと見つめて考えるように……
「ふぇええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?!?!?」
あ、気付いた。
「し、柊史くん!? い、いきなりこんな、こんな事……」
「あー……ごめん、駄目だったかな」
「駄目じゃないよ! 嬉しい……すっごく嬉しいけど! 嬉しいけどぉ!?」
取り乱した紬は、傍らに置いてあったおもちゃの三叉槍でオレの膝を突き始めた。
それは丁度、去年のあの時、オレが投票用紙を手渡した時と同じような……
「っ! っ! っ!」
「いや痛い! やっぱりそれ痛いって紬!」
「っ! っ! っ!」
膝に伝わる軽い痛みと、オレの心に伝わって来る嬉しさと照れくささの感情。
(……これは、収まるまでには暫くかかりそうだな……)
まぁ、問題ない。
時間はこれから先、まだまだ沢山あるはずだ。
紬と一緒に、紬の隣を歩いていく時間は。
そう、これから先、ずっと……
(保科紬……語呂は悪くない……よな?)
そんな事を、呑気に考えながら。
パーティーの夜は静かに更けていくのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
高校生のイチャイチャって書くの難しいですね…
最初の構想ではアリス服を着ためぐるについても書こうかと思ったのですが、それはまた別に機会にでも書きたいなと思います