※この作品はR-18です。

ゆずソフト短編   作:つまさき立ち

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サノバウィッチより、仮屋和奏の短編です。
バイト先から柊史君と一緒に帰る、夜の帰り道のお話になります。
ストーリーのネタバレは無いはず。


はんぶんこ(サノバウィッチ 仮屋和奏)

「お待たせっ! ゴメンね柊史、待たせちゃって」

 

 『CLOSED』の看板が掛かったドアから、バイトを終えた和奏が勢いよく出て来た。

 

「大丈夫、それより戸締りの方は?」

「そっちはバッチリ、ちゃんと後片付けも終わらせてきたから」

「そっか、それじゃあ行くか、和奏」

「うんっ!」

 

 そう言ってオレが差し出した手を、和奏は自然に握り返してくれる。

 付き合い立ての頃は、お互い恥ずかしがってスムーズにできなかった事。

 けど今はもう、これがオレたちの当たり前になっていた。

 

「柊史の家で晩御飯を食べるのも、なんだか久しぶりかも」

「そう言えば……そうかも?」

「そうだよ、前にカレーをご馳走してもらったのだって、もう随分経つよ?」

「最近は和奏がちょっと忙しそうだったから、何だか誘い辛くてな」

「うっ……それは……ゴメンナサイ」

「謝って貰うような事じゃないさ」

 

 とは言え、思い返してみれば、確かにそうかもしれない。

 元々、こんな事は父さんが居ない時じゃないと、恥ずかしくて中々出来る事じゃない。

 それに、そんな日があっても、ここ暫くの和奏は……

 

「ゴメン! その日はちょっと用事があって……」

 

 ……そんな感じだったもんな。

 

「でも、一体何で? ギターの練習?」

「そうじゃないよ、もしそうなら、柊史も一緒に誘うに決まってるでしょ?」

「そりゃそうか、となると……オレには見せられない事?」

「見せられない、と言うか……ちょっと、挑戦してみたいコトがあって……」

「挑戦?」

 

 そう聞き返すと、和奏はちょっと恥ずかしそうに俯きながら、

 

「その……アタシも、彼女らしい事に挑戦してみよう、かな、って……思ってさ」

 

 そう言って、空いているオレの手にやや強引に押し付けてきたのは……紙袋?

 やや軽くて、ちょっと温かい何かが入っている……位の事しか、外からは分からない。

 

「……とりあえず、中を見ても?」

「あぁっ、それはダメ!」

 

 中を覗こうとしたオレを、慌てて和奏は制止する。

 その顔は何処か恥ずかしそうで……照れくささの感情が流れ込んで来る。

 

「えっと……中は見ないで……欲しいかな、恥ずかしいから」

「えぇ……」

 

 一体どうしろと言うのだろう。

 

「じゃあ、コレは一体……?」

「えっと……その……」

「……?」

「……クッキー」

 

 ポツリ、と恥ずかしそうに小声で漏らす。

 

「クッキーって……あの、お菓子の?」

「そう……だよ? あのお菓子の」

 

 落ち着かない視線を泳がせながら、照れくさそうに和奏はそう言った。

 

「ほ、ほら、やっぱり男の子としてはさ? 彼女の手作り料理とか……憧れるものなのかなって」

「それは……確かに、憧れるシチュエーションではあるな」

「でもホラ、アタシって料理ってあんまりした事なくて……」

 

 確かに、和奏の手料理ってまだ食べた事無かったな……思い返せば。

 

「それで、クッキーを? でも……いきなりお菓子作りは難易度高くないか?」

「うん、そうかもって思ったんだけど……オーナーが、『こういう物なら自分でも作り方を教えてあげられる』って、言ってくれたから」

「……もしかして、最近忙しそうだったのって」

「オーナーに頼んで作り方を見て貰ったり、お店の道具を借りて練習してたんだ、お店を閉めてからになるから、どうしても遅い時間になっちゃって、それで……」

「和奏……」

 

 温かい気持ちが、胸の中からこみ上げてくる。

 シュバルツ・カッツェの閉店後からと言うと、かなり遅い時間に練習していたんだろう。

 それだけ一生懸命に作ってくれているんだから……男として嬉しくないはずがない。

 

「や、やっぱりアタシらしくないかな!? と言うか、今更になってかなり恥ずかしくなってきた……うぅ……」

「まぁ……確かにらしいか、らしくないかで言えば、和奏らしくないかも」

「えぇ……そりゃそうかもだけど、でも面と向かって言われると、ちょっと傷付く……」

「あ、いやゴメン、そういう意味じゃなくって……嬉しいんだ、新しい和奏の一面を知れた事が」

 

手の中の紙袋を大切に抱えながら、オレは和奏の手をギュっと握り返す。

 

「ありがとう、和奏」

「ま、まぁ……喜んでもらえるなら、アタシもすごく嬉しい……けど」

 

 慣れないプレゼントに落ち着かない和奏の視線は、相変わらずあっちこっちを泳いでいる。

 でも、しっかりと握り返してきたその手からは、嬉しさの感情も確かに流れ込んで来ていた。

 

「それじゃ……早速だけど、食べてみても?」

「あ、ちょっと待って!」

 

 そう言って、中を覗こうとしたオレを再び和奏が制止する。

 

「えっと……味にはちゃんと自信あるんだけど、実は仕上げをちょっとミスっちゃって……あんまり綺麗な形に焼き上がらなかったんだよね……」

 

 ……成程、ようやっと合点がいった。

 それで、さっきから中を見られる事を恥ずかしがっていたのか……

 

「だ、だからね? 柊史は目を瞑ってて! アタシが食べさせたげるから」

「えっ? それって……」

 

 いわゆる『あーん』的な?

 確かに嬉しい、嬉しいが……いくら夜も遅い時間で誰も居ないと言っても、ここは公道だ。

 普段よく使っている道でそういう事をするのは……かなり恥ずかしい。

 

「……わかった、じゃあ」

 

 そう思いつつも、オレは目を閉じて軽く口を開く。

 ……だってそうだろう、そんな些細な恥ずかしさより、嬉しさの方が上回るのは当然だ。

 何せ、可愛い彼女からの手作りのプレゼントなんだから。

 

「そ、それじゃ……そのまま目を閉じてて、いい? 絶対開けちゃダメだからね!」

 

 念押ししてくる和奏の声は、能力なんて無くても分かる程に緊張していた。

 そりゃそうか、俺だってこんなに……

 

 (……あれ?)

 

 目を瞑りながらそんな事を考えつつ、オレはふと思った。

 そもそも……あーんで目を瞑る必要ってあるか?

 ……そう思った一瞬。

 

「んっ……」

 

 目を瞑ったオレの唇に触れる、クッキーの感触。

 ……と、柔らかい唇の感触。

 

 口の中に広がる仄かなバターの甘味と、和奏の唇から感じる甘いキスの味。

 突然の事に鼓動が急上昇したオレの頭の中には、それ以外の事は何も入って来なかった。

 

 パキッ

 

 クッキーが半分に割れる音で、オレは意識を取り戻す。

 同時に、目一杯背伸びをしていた和奏の唇が、オレの唇から離れていった。

 

「えと……どうかな? 味の方は」

「……どっちの?」

「どっちって……そりゃ、クッキーの味に決まってるでしょうが!?」

 

 顔を真っ赤にした和奏から伝わる、これ以上ないって位の焦りと照れ。

 そんな和奏が可愛くて、つい意地悪をしたくなってしまう。

 

「美味しかったよ、どっちも」

「っ! ……~~~!!」

「ありがとう和奏、オレの為に」

「……なんか、柊史がいつになく余裕シャクシャクって態度で、何かムカつく」

 

 和奏は口を尖らせながら、ぼやくように呟いた。

 

「はぁ……やっぱり、慣れない事はするもんじゃないのかなぁ……?」

「これから慣れていけばいいじゃないか……所で、和奏よ」

「何さ柊史?」

「残りのクッキー、食べちゃってもいいか?」

「いやでも……これから晩御飯なのに、全部食べたらご飯食べられなくなっちゃわない?」

「大丈夫だろ、さっきみたいに半分こすれば」

「さっきみたいにって……」

 

 瞬間、和奏の顔が再び真っ赤に染まる。

 

「あ、アレはもう駄目! 思ってた以上に、かなり恥ずかしかったんだから!」

「残念だな、それじゃ……」

 

 そう言って、オレは紙袋からクッキーを取り出す。

 それを半分に割ると、片方を和奏に差し出した。

 

「……やっぱり、何か余裕ありげなのがムカつく」

 

 ぼやきながらもそれを口にくわえた和奏と一緒に、オレ達は再び歩き始める。

 すっかり日も落ちた夜道に響くのは、二人分の足音と、クッキーを砕く音だけ。

 まだ夜は少し肌寒い季節だけど、握った和奏の手は温かくて……

 

 お互い少しだけ大きくなる歩幅に、お互い気付かないフリをしながら。

 オレたちは並んで、家へと向かうのだった。




ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

背伸びをしてキスする女の子って素晴らしいと思うんですよ。
普段は活発な女の子がやるとこう乙女が爆発すると言うか、特に破壊力が素晴らしいと思うんですよ。
私が言いたい事は以上です。
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