折角の濡れ場なので前話を見逃さないようご注意を。
「よい、しょっと」
寝落ちしてしまったおにいさんを仰向けに寝かせて、一緒に布団をかぶる。
セクサロイドの行動規定では寝具或いはその他のプレイ用品を汚さないようにシャワーを浴びることを推奨されているが、どうせシーツは私とおにいさんの体液で汚れているし今更なので無視している。
それに、とお腹をさすった。
その中に出されたおにいさんの残滓はまだ暖かく、これをわざわざ流す気にはならなかったのだ。
しかし、今日はおにいさんに甘えすぎてしまったのではないだろうか。
先ほどまでの行為を思い出すと、おにいさんを気持ち良くしているというより自分が気持ちよくなっているだけな気がしてくる。
あくまでこれはお礼としておにいさんを気持ちよくすることが目標なのだから、それでは本末転倒だ。
……いや、お礼なんてお題目は最初からただの言い訳なのかもしれない。私は自嘲気味に鼻を鳴らす。
本当に純粋な気持ちでお礼がしたいなら、おにいさんが家事をしてくれればいいと言った時に、それに頷いておけば良かったのだ。
確かに家事用のデータベースはないし、料理の仕方が分からないのも事実だが、標準行動規定にも基本的な家事のやり方は入っている。
つまり自分が抱いてほしかったから、おにいさんにお礼だなんて理由をつけて抱いてもらったのだ。
我ながら笑ってしまいそうになるほど自分勝手でだめだめなセクサロイドだ。見知らぬ人と行為に及ぶのが嫌で逃げ出したくせに、今度は自分から行為を求めるなんて。
……だけど今日一日おにいさんと一緒にいて、自分の気持ちに気づいてしまったのだ。
自分がおにいさんに好意を抱いているということに。
おにいさんにここにいていいと言われて一緒にいれるのかすごく嬉しくて、ゲームを教えてもらって一緒に遊んで楽しくて、避妊具で勘違いして少し妬いたりして――。
そして、おにいさんに抱かれて完全に『好き』だと自覚してしまった。
「ごめんなさい、おにいさんの事を好きになってしまって」
おにいさんの手をぎゅっと握り、聞こえるはずもない謝罪を呟く。
だが、それでいい。
自分のような人形が――いやあのお客様の言葉を借りるなら『高級オナホ』が、人間に好意を抱いているなんて、そんな事を知らされても迷惑なだけだ。
ましてやお兄さんは格好いいと思うし、ふとしたきっかけで彼女が出来ても何らおかしくはなく、そうなれば迷惑どころの話ではない。
だから、おにいさんにこの気持ちを伝えるなんてことは以ての外だ。
いくら遠慮しなくていいと言われようが、その一線だけは守らなくてはならない。
ぎゅっと唇を噛みしめていると、突然頭の奥にずきん、という鈍い痛みを感じた。
簡易スキャンが自動実行されて結果が『オールグリーン』と表示されるが、それでも痛みは消えない。
原因不明の痛み……もしかして、これが恋の痛みと言う奴だろうか?
「……そうだったらいいのにな」
そんな訳が無い。
命令無視に、緊急停止コード無視、更には逃走……原因不明といっても、少し考えただけで思い当たる節がゴロゴロと出てくる。
いや、そもそも最初から壊れていたからこそ、こうして野良になったのかもしれない。
兎も角原因が分からないにはどうしようもないので、今は睡眠中のフルスキャンに任せるほかないだろう。
「おやすみなさい」
おにいさんの寝顔を見ていると、少しだけ痛みも引いていくような気がした。