※この作品はR-18です。

野良あかりとのセイカツ!!   作:真喜屋五木路

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三日目 その一 買い物デート

「うわー、凄い! この中全部お店なんですよね?」

 

家から徒歩にして約30分のショッピングモール前で、きっとこれもまた見るのが初めてなのだろう、あかりちゃんはテンション高くぴょんぴょんと跳ねていた。

駐車場込み六階建てのショッピングモールは既にお正月飾り一色に染まり、入り口には門松や白と赤の玉が付いた枝が飾られてもう既に新年を迎えたかのような華やかさだ。

 

「そういえば、年越しに年始か……おせちはどうするか置いといて、年越し蕎麦ぐらいは帰りに買っておかないとな」

「おせち……。お蕎麦……」

 

相変わらずと言うか何というか、食の話題には敏感なあかりちゃんの口からは既に涎が垂れている。

 

「あかりちゃん、右のほうから涎が出てるから」

「はっ⁉」

 

正気を取り戻し慌てて口を拭ったあかりちゃんは、ギラギラと欲望に燃えた瞳でこちらを凝視してくる。

 

「おにいさん、是非年越しそばだけでなくおせちの方も買って帰りませんか?」

「まあ、そこは余裕があったらね?」

「何を言ってるんですかっ! こういう季節ものの行事は年に一回しかないんですよ!! つまりこの機会を逃したら次に食べられるのは一年後……人生に何回も無い大事な機会の一回を永久に失っちゃうんですよ⁉」

 

両手を握りしめ熱を入れて語るあかりちゃんに、近くを歩いていた家族連れが何事かとこちらを見ている。

恐らく母親だろう人が、あらあらと微笑ましいものを見るような視線を向けてきてるのに気づき、恥ずかしくなってあかりちゃんを宥めにかかった。

 

「ちょ、ちょっと落ち着こうあかりちゃん。確かに今日買って帰るかは微妙なところだけど、別に買わないとは言ってないから」

「へ……そうなんですか?」

「うん。ああいうのは季節ものだから特定の時期しか売れなくて、しかも多くの人が買ってくれるからって割高なんだよ。だけど季節もの故にその時期を逃すと売れなくなって、売り切る為に値引きされるからその時を狙っていつも買ってるんだ」

「じゃあ、年明けに買うってことですか?」

「そうそう、別におせちは一月一日限定の物じゃないし、新年と言えばお雑煮とか他にも食べるものがあるしね」

「成程、流石おにいさんです! それだったら例えば伊達巻が20%引きになってたら、四本じゃなくて五本買えますね!!」

「……そうね」

 

いや、伊達巻五本とかどうやって消費するんだと突っ込みたかったが、あかりちゃんを見ていると恵方巻よろしく一本丸ごとぐいぐい飲み込んでいくのが容易に想像されて、突っ込むのを放棄した。

 

「ま、ともかく今日のメインはそっちじゃないし、食品の買い物は最後だから」

「そうですよね、モールと言えば上階のフロアを占めるレストラン街ですよねっ?」

「違ぇよ!?」

 

さっきからテンションが高いのはそれか。

……まあ、世のアカリ型がどういう感じなのかは知らないが、少なくとも家では既にあかりちゃん=食欲の構図が完全に出来上がっているため今更感はあるが。

 

「いや……確かに昼はそこで食べるつもりだしある意味間違っては無いけど、今日ここに来た最大の目的はそうじゃないからね?」

「わ、分かってますよ? 今日は、お買い物をしにきたんですよね」

 

目が泳いでいる気もするが、一応ちゃんと目的は覚えていたらしい。

 

「そうそう、あくまであかりちゃんの買い物がメインなんだからその事は忘れないでくれよ」

「はーい。……って、私の買い物ですか?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

 

そういえば、今更ながらあかりちゃんには買い物に行くとしか伝えていなかった気がする。

 

「あー、あかりちゃんが生活していくのに無いと困るものを買いに来たつもりだったんだけど」

「そんな……私は今のままでも困ってないですし、無いと困るものなんて……」

 

あかりちゃんは唐突に自分の買い物をすると聞かされ、慌てて遠慮するように手をぱたぱたと振る。

 

「いやいや、色々あるだろ。例えば服なんか今着てるのしかないんだし、洗濯に出したら着るものが無いだろ」

「その時は、お兄さんのシャツを借りるので大丈夫です」

「いやそれは全然大丈夫じゃないのでちゃんとした服を着てください」

 

主にこちらの理性がピンチなので。

というか、あのぶかっとしてるけどパツンパツンのあかりちゃんは思い出しただけでも下半身にクるので、出先で思い出させないで欲しい。

 

「でも……お金は大丈夫なんですか?」

「何かあった時の為にいくらか溜めてたからそれは大丈夫。それに言ったろ、あんまり遠慮するなって」

 

実際の所はもうすぐ出ると噂の新型ゲーム機&ソフト用のお金だったのだが……あかりちゃんの為と考えれば惜しくは無い。それに少し置いておけば、値崩れしてお安く手に入るかもしれないし。

しかし、やはりというかあかりちゃんはなかなか割り切ることが出来ないようで、口をムニムニさせて居心地悪そうにしている。

その遠慮を食べ物関連にも見せてほしいと少し思ってしまうのだが……まあ、それは言わないでおいてあげよう。

とはいえ自分が逆の立場でもきっと躊躇するだろうし、どう言ったものかとしばし考えを巡らせて

 

「あー、何ていうか……ほら、先行投資みたいなものだと思ってくれればいいから」

「先行投資?」

「昨日あかりちゃんは家事を手伝ってくれるって言ったろ? それで楽させてもらう分を先に払うという感じで」

 

一方的に貰うのではなく対価と言う形ならどうだろうと思っての提案だったが、あかりちゃんはそれならと納得したようだった。

 

「なるほどー、そういう事なら分かりました。不肖ながらこのあかり、帰ってからお手伝い頑張りますので今日はよろしくお願いします」

「いやいや、そんなかしこまる話でもないからもっと気楽でいいんだけど」

 

ぺこりと礼儀正しく頭を下げるあかりちゃんをなだめながら、早速店内へと足を向けるのであった。

 

 

「はー」

 

あかりちゃんは吹き抜けのフロアを見上げながら感嘆のため息を漏らした。

確かにモール特有の吹き抜けと、その全階層を視界の先まで占める店々の列は何度来てもワクワクさせられるものがある。

暖房が適度にかかった店内は、比較的朝早くな上に平日と言うこともあってか混んでおらず、快適に見て回ることが出来そうだ。

 

「それで、先ずは何から見るんですか?」

「そうだなぁ……」

 

何から見るか決める為にフロア案内を見つけようと辺りを見渡していると、一軒の雑貨店が視界に入った。

最初に食器類は重いかもしれないとも考えたが、あかりちゃんの事だし食べ物に関連するものから見て回った方が遠慮せずちゃんと自分の意見を言ってくれるだろう。何だったら買ったものは預かってもらうか、ロッカーに入れればいい。

キョロキョロしているあかりちゃんに向かってその店を指さす。

 

「じゃあ、まずは食器とかから見て回ろうか。自分のお茶碗とか箸とかはやっぱりあった方がいいだろ?」

「それは勿論です!! それじゃあ早速行きましょう!」

 

予想通りに目を輝かせるあかりちゃんに手を引かれて商品が見える辺りまで近づくと、店頭にずらりと並んだ箸の上に『新年を新しい箸で迎えませんか』とポップが貼ってあった。

確かに今使っている箸も大分ボロボロだし、あかりちゃんが箸を見るときに自分のも一緒に見てもいいかもしれない。

 

「あ、お茶碗これにします」

 

そんな事を考えている間にも食に関する行動の早いあかりちゃんは、早速いい物でも見つけたのかてててと走って店の奥まで行って戻って来る。

 

「ってこれどんぶりじゃねーか!!」

 

戻って来たあかりちゃんが手に持っていたのは直径が30㎝はあろうかというどんぶりだった。

 

「え? でも昨日おにいさんが渡してくれたのはこれ位のサイズだったじゃないですか」

「あれは代用だから! というかアレよりはるかにでかいから!! なにより毎日こんな物一杯ご飯食べられたら流石に破産するわ!!」

「えー……」

「ほらほら、元あった所に返してきなさい」

 

捨て犬を元の所に戻すみたいにしょぼしょぼとしながら、あかりちゃんはどんぶりを返しに行った。

この様子だと最後に来た方が良かっただろうかとちょっと後悔しながらも、ちゃんとしたお茶碗を選ばせるためあかりちゃんの後に続く。

 

「ほら、ここら辺のとかいいんじゃないか?」

 

多少大きくはあるが、一般的なお茶碗の範疇に入りそうなサイズの物が置かれたコーナーを指さすと、どんぶりを戻してきたあかりちゃんが「どれですか」とのぞき込んだ。

 

「うーん……なんだか小さくないですか?」

「いや、かなり大きい方だと思うが……」

 

目の前にある茶碗群は夫婦でいうなら明らかに夫側のサイズだ。

というか正直自分が使っている物よりでかくないか、これ?

だがそんなサイズでもあかりちゃんは満足できないのか、作品の出来を確かめる陶芸家のような真剣さで手近なお茶碗を二つ取り、じーっとサイズを比べ始める。

 

「……いやいや、サイズじゃなくて柄とかで選びなよ。それくらいのサイズ差なんか誤差なんだし、最悪足りなかったらおかわりしていいから」

「はっ⁉ 成程そういう手が……」

 

あかりちゃんは今更気付いたというようにしばらく固まってから、改めてお茶碗を物色し始めた。

だが、このサイズ帯のお茶碗は男性向けを想定しているのか無骨なデザインの物ばかりだ。この中から柄で選ぶのもそれはそれで難しいか――と、一つのお茶碗が目に留まる。

それは底に二匹の小さなイルカが描かれた陶器の茶碗で、並んでいる物の中では唯一可愛げのあるデザインだった。

 

「あかりちゃん、これとかどう?」

「わぁ、可愛いです」

 

目を細めながらイルカの模様を指の腹で撫でるあかりちゃんを見て、食欲だけじゃなくてちゃんと可愛いなどという感性もあるのだなとちょっと失礼な事を考える。

 

「それじゃあ、このサメさんのでお願いします」

「分かった……ってサメ? イルカじゃなくて?」

「はい、意匠化されててしっぽの形では分かり辛いですけど、多分サメさんだと思います。イルカさんだと、尾びれがこんな風に縦じゃなくて横についてる筈ですよ」

「はー、成程そういう違いがあるのか」

 

意外な所で博学さを見せるあかりちゃんに感心していると、再びあかりちゃんは何かに気が付いたのか向こうの棚まで何かを取りに行った。

 

「おにいさん、おにいさん! 見てください!! こんな大きいスプーンとフォークが!」

「何を食べる気だそれでっ!!」

「……フカヒレとか?」

「さっき可愛いとか言ってたのにサメさん食べるのかよぉ⁉」

 

サラダなどを取り分ける為のどでかいスプーンとフォークを両手に、だらしない顔で涎を垂らすあかりちゃんを見ていると、さっきの感心もどこへやら。

やっぱりあかりちゃんは色気より食い気なようだった。

 

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