「はぁ、はぁ……」
絶頂のし過ぎで朦朧とする意識が輪郭を取り戻し、初めて認識したのは荒い息の音。
そして次に感じたのは自分のお腹に注がれたあったかい感触だった。
小鹿のように震える脚で何とか立ち上がると、名残惜しそうにおにいさんのおちんちんが抜け、精液が零れてきた。
「あっ……」
反射的に手を当てると、あっというまに片手に溢れんばかりの白い湖が出来る。
(まだお腹の中にもたくさん残ってるのに、こんなに出たんだ……)
今までエッチした中で、間違いなく最大の量。
この量が、おにいさんも恋人としての初エッチを楽しんでくれた結果なのだとすれば……。
そう考えるだけで凄く嬉しくて、今終わったばかりだというのにお腹の奥がキュンと切ない痛みを訴える。
(でもこれ、どうしよう)
朦朧とする意識の中でも、おにいさんに精液を全部飲むと約束したことは覚えている。それなのにこんなに溢れさせてしまっては、折角出してくれたのに申し訳ない。
しかし、かと言ってこれをもう一回膣に流し込んでもすぐにまた溢れてくるだろう。
どうしたものかと悩んでいるとふと精液の匂いが鼻について、そのまま手を鼻に寄せて匂いを嗅ぐ。
データベースには生臭い匂いがして苦じょっぱいとあったが、全くそんなことは無い。
(……むしろ、いい匂い?)
嗅いでいる内にドキドキして、頭がくらくらする様な、でもどことなく安心する様な匂い。
知識と違ってこんなにいい匂いがするのは、やっぱりおにいさんの精液だからだろうか。
(という事はもしかして味もおいしいのかな)
そうだ、精液を全部飲むと約束はしたが別に膣で飲むとは言っていない。
あくまで自分の好奇心を満たすためではなく約束を守る為、そう言い訳しながら口の中へ白濁液を流し込んだ。
(っ――!!)
瞬間、まるで甘露を口に含んだかのような多幸感があふれ出し、頭の中からおにいさんの色に染め上げられるような感覚が口腔からぴりぴりと脳を犯す。
「ちょっ! あかりちゃん?!」
と、そこでおにいさんの驚いた声が聞こえた。
「美味しくないでしょ、吐き出していいから、ほら」
どうやら私が精液を口にしたことに焦っているようで、吐いていいよと手を差し出している。
だけど私はゆっくり首を振ってからごくりと全部呑み込んだ。
「そんなことないです、凄く美味しかったですよ」
「いや、無理しなくていいから。確かにさっきは勢いで全部飲んでって言っちゃったけど別にそこまでしなくても……」
「別に無理してません、本当に美味しかったですもん」
おにいさんはえぇ……、と言った感じの顔で全く信用していなさそうな顔をする。
「何だったらおにいさんも飲んでみます?」
「いややめてください、それだけはマジで」
食い気味で断られてしまった。
が、おにいさんの下半身はそれに反して反り返り、いつでも発射する準備を整えている。
「でもおにいさんのは出す準備万全みたいですけど」
「違うそうじゃ無い。これはあかりちゃんが自分の精液を美味しそうに飲んでくれて興奮してるだけだから」
折角美味しいのだから分け合って味わいたいところだったが、それはどうやら難しそうだ。
だけど、自分で興奮してくれるのはやっぱりうれしい。
「……もう一回、しちゃいましょうか?」
おにいさんのおちんちんがピクンと首肯した。
(うぅ……今日は流石にやりすぎちゃったかな)
結局あの後お風呂の中で二回、更に布団の上でも二回の計五回もしてしまって流石に体が重い。
(でも、今日くらいはいいよね)
何せおにいさんから好きだと告白されて、その上彼女になってしまったのだ。
願うだけでもおこがましいと思っていたことが、まさか本当の事になるなんて。
「好きだ――か」
おにいさんに言われた言葉を思い返しただけで自然と頬がほころんでしまう。
そんな幸せを邪魔しようとしつこい頭の痛みがまたツキツキと自己主張を始めるが、いまならそんなもの気にもならない。
……だけど、ついに朝から続く頭の痛みはついに今日一日消えることは無かった。
自分の頭に手をのせる。
日に日に増す原因不明の頭の痛みは、間違いなく「何か」が自分をむしばんでいる証拠だ。
それが何時かは分からないが、問題が顕在化して、自分が致命的に壊れてしまうのもそう遠い話ではないのかもしれない。
これ以上壊れてしまったらどうなるのだろうか?
今よりももっと痛くなるのだろうか、それとも記憶が破損して自分が自分でなくなってしまうのだろうか、それとも……。
考えてしまうとやっぱり、怖い。
ふと、もしもおにいさんに相談したら……と考えて、すぐにその考えを鼻で笑い飛ばす。
きっともしそうしたのなら、おにいさんは何とかしようと手を尽くしてくれるだろう。
だけど今までも沢山迷惑をかけて、それでも幸せにしてもらって、それでこの上また迷惑をかけるなど、どうしてできようか。
静かに体を起こしておにいさんの方を向くと、おにいさんは油断しきった表情で規則正しい寝息を立てていた。
そうだ、今こうしておにいさんと会えておにいさんの隣にいれて、それだけで十分に幸せじゃないか。
だから、これ以上を望んではいけない。
…………でも、もし叶うのならば。
おにいさんを起こさないように、そっと頬に唇を降らせる。
「……明日も明後日も、一日でも長くおにいさんと一緒にいれますように」
――――
「遅くまでご協力ありがとうございます」
私はショッピングモールの管理人に深く一礼をして踵を返すと、それから時計を確認する。
……流石に相手が第一容疑者とはいえまだ黒と断定できるわけでもないし、今から押し掛けるようなことをしてもし間違いなどあれば、会社と同型達の名に傷をつけてしまう。
もどかしさに歯噛みをして、タブレットに映っている監視カメラから抜き出した映像をねめつける。
映っているのは件のあかり型と、その隣を歩く男の姿。
間違いなく今日の朝一番に会ったあの男だ。
昨日はあかり型に覚えがないなどと言っていたが、しっかり会っているではないか。
自分たちはあくまで一企業、公権力では無いので直接監視カメラの映像を見ることなどは出来ないとはいえ、危険な野良化したボイスロイドを確保するために低級画像解析AIを噛ませて確認することぐらいはできる。
結局映像確認の途中であかり型はロストしてしまったが、少なくとも入店時から結構な時間あの男はあかり型と行動を共にしていた。
もし今朝あの男と会ったときに注意深く周りを観察していれば、今頃あかり型の確保は終了していたかもしれないのに。
時間に駆られるようにもう一度時計を見ようとしたところで、インカムが着信を伝えて来た。上司からだ。
「どうかね?」
通話ボタンを押した瞬間に聞こえた第一声に、時間が無いんだという事を改めて理解させられる。
「申し訳ありませんが、まだ確保できておりません。ですが、当たりはつけました」
「そうか。君も知ってるだろうが時間は限られている。早急に頼むよ」
「お任せください、明日中には必ず」
しまった。
電話を切ってから、まだあの男のもとにあかり型がいると決まった訳では無かったな、と思い至る。どうやら自分も相当焦っているようだ。
とはいえどちらにしろ期限を考えれば、明日中に確保しなければ後は無いのだ。
……大丈夫。もう一つの証拠も合わせれば、あの男のもとにいる可能性は極めて高い。
「……明日中には必ず」
私は自分に言い聞かせるように、切れたインカムに向かって繰り返した。