※この作品はR-18です。

野良あかりとのセイカツ!!   作:真喜屋五木路

25 / 25
??日目 

 

最初に結果を言ってしまおう。

回収課の女性――いや、ちゃんとゆかりさんと呼ぶべきか――は、あかりちゃんを回収してその自我を消し去ろうとしていた訳では無かった。

むしろその逆で完全自我を持つが故に発生する問題を治し、彼女を保護するためにやってきていたらしい。

 

理解できた範囲だけで説明するなら、どうやらあかりちゃんの頭の中では完全自我と所有者からの命令とが対立し、命令とそれに対して抵抗するというループが延々と超高速で繰り返されており、それが不調の原因だったということだ。

たしかゆかりさんの談では『例えば君たち人間でも単純な作業、それこそ一桁の足し算引き算でも、一睡もせずに何日も何日も続けてたら流石に倒れちゃう、みたいな感じかな』だっただろうか。

 

「……なんか少しずれてる気がするけど、まあゆかりさんだしな」

 

回収課としてかくあるべしと黒服の前に立っていた時のゆかりさんと、あの後何回か会って話した素に近いゆかりさんを比べると、ついクスリとしまう。

如何にも仕事が出来る女と言ったあの雰囲気は、どうやら相当頑張って作っていたものだったらしい。

なんでも、確かに回収課としてこれまで何度も仕事はこなしてきたが、完全自我を持つ個体を相手にするのは今回が初めてで、相当気負っていたとのこと。

おまけに所有者が違法なパッチを使っていたこともあかりちゃんへの負担を重いものとしており、時間的余裕が無かったということもプレッシャーだったようだ。

 

「初めからちゃんと説明していれば……」

 

そんなセリフをもう何回聞いたか分からない。

思い出すだけで、げんなりとため息をついているゆかりさんの顔が浮かぶほどだ。

まぁそれに関しては、こっちも勝手に完全自我を持つボイスロイドは修正されて、その意思を消し去られると思い込んでいたのも悪いので、ゆかりさんだけのせいではないのだが……。

 

「本っ当にごめん!」

 

ひと段落着いてから、マキさんには間違った情報を与えたことを謝られた。

とはいえマキさんの言っていたことが全く間違いという訳では無く、実際バグって人を傷つける可能性が高い個体に関してはフォーマットが行われるのもまた事実らしい。

ただ、あかりちゃんのように完全自我を持った個体は基本的に出荷(あまり好きな言い方ではないが)される前に見つかることが多く、今回みたいな形での回収はほとんど初めての事だとか。

だから仕方ないですよ、と何故か顔を真っ赤にしたゆかりさんはしきりに謝るマキさんをなだめていたが、一体何があったのだろう……。

 

兎に角自分もゆかりさんへの言動やあわや殴ってしまう寸前だった事、マキさんを突き飛ばそうとしたことを謝り……こうしてみると本当にみんな謝ってばかりだが、後を引くような結果にならなくてよかった。

 

「……いって!」

 

そろそろじっと座っているのも耐えがたくなって、立ち上がろうと机に体重をかけた所で左ひじにピリッとした痛みが走った。

……まぁ、これに関しては静止を聞かずに無理やり暴れた自分が悪いので自業自得だ。

幸いにも利き腕ではないし、そこまで問題も無かろう。

改めてカレンダーと時計を確認する。

二重丸が書き込まれているのは間違いなく今日の日付だし、時間はもう予定より一分二十秒も過ぎている。

 

……いやいや、少し落ち着け自分、もしかしたらここに来るまでの道路が込んでいるのかもしれないし、もしかしたらこの時計自体がうっかり五分くらい早い可能性だってある。

そうは思うものの、やはり落ち着かないものは落ち着かない。

気づけば早くチャイムが鳴らないかな、と檻の中の熊みたいにうろうろしていた。

それからどれほど時間が経ったろうか、時折五秒に一度しか動かない秒針を早く動けと凝視しながら歩き回っていると――

ピンポーン。

機械質なチャイムの音が聞こえたか聞こえないか、その時点ですでに玄関へ向かって駆けだしていた。

 

「あ、お久しぶりです。あかりちゃんのお兄さん」

「……あー、久しぶりです」

 

玄関のドアを開けるが、立っていたのはゆかりさんだけだ。

 

「そ、そんなにがっかりした顔しなくてもいいじゃないですか! 流石のゆかりさんも傷つきますよ⁉」

「ええと……そんなにがっかりした顔してました?」

「……はい、それはもう物っ凄いがっかり顔でした。……まぁ、あれだけあかりちゃんにお熱なのにしばらく会えてませんから、仕方ないという事で寛大なゆかりさんは許しますけど」

 

ふんす! と腰に手を当て、胸を張るゆかりさんを見ていると、とても年上には思えない。

まぁ、あくまでボイスロイドの言う年齢とは起動時の設定年齢に活動年数を足したものらしいので、実際生きた年数ではゆかりさんの方が年下なのだが。

いや、それを言い出したらあかりちゃんなんてまだ一歳未満になる訳で……。

非常にアブノーマルな感じになってしまいそうなので、これ以上考えるのはやめておこう。

 

「お兄さんにとっては非常に残念でしょうが、あくまで今日は契約内容の確認と書類へのサインだけですね。正式な引き渡しは後日という事になっています」

 

そう言ってゆかりさんはバインダーに挟まれた書類を手渡してきた。

 

「固い言葉で書いてありますけど、要はこの間直接説明したとおりです。一応ゆかりさんの方でも確認しましたけど、特に追加事項とかもありませんね」

 

立派な厚めの紙に書かれた文言をザッと確認していくが、確かにゆかりさんの言う通りの感じだ。

一緒についていた万年筆を取り、署名欄に名前を書いて、ゆかりさんに渡す。

 

「……はい、これで正式にお兄さんはあかりちゃんのマスターです」

 

――そう、結局渦中の人であったあかりちゃんは、正式に家へ来ることが決定した。

何でも、人とのコミュニケーションを主眼に置いたボイスロイドは、まれな事とは言えその特性上どうしても完全自我を持つ個体が偶発的に生まれてしまうらしい。

現在AHS社ではそういった個体をゆかりさんのように内部で雇用しているが、それにもいずれ限界が来る。

そこで、いずれはそう言った個体に対して人間と同等、或いはそれに類する権利を与え、意志ある一個の個人として生活させたいという事らしい。

ただ、まだまだ社会的には理解を得られていないし、そう言った個体が変化の大きい実社会内でどのような影響を受けるかもまだわかっていない。

 

そこで偶然にも完全自我を持ち、外部の人間と短いながらも共に生活を送ったあかりちゃんにこのまま生活してもらう事で、実績作りと影響の調査をやりたいという事だそうだ。

尤も、現行の制度では所有者なしの固体が独立して存在することは許されていないので、こうして形だけとはいえあかりちゃんのマスターになることになったし、その手続きが終わるまで、彼女はAHS社で暮らすことになったのだが。

 

「一応言っときますけど、外部のうるさい人たちを納得させる為に、お兄さんには強いマスター権限を渡すことになってますけど、あくまでそれは保険ですから乱用はしないでくださいよ?」

「分かってるよ、そもそも出来る事ならそんなものない方がいいと思ってるしな。それともそんなに信用ないか?」

「一応ですよ一応。お兄さんなら大丈夫だとは思ってますけど、あかりちゃんはわたしにとっても、もう妹みたいなものなんですから」

 

そういえばAHS社内では、ゆかりさんがあかりちゃんの面倒を見ていたらしく、最近ではすっかり姉気分のようだ。

……いや、むしろ急速にシスコン化が進んでいる気すらする。

 

「さて、それじゃあ後は後日AHS社にあかりちゃんを引き取りに来てもらうだけなんですけど……」

 

そこでゆかりさんはいたずらっぽい笑みをニヤッと浮かべる。

 

「何かあるのか? だったら勿体ぶらずに――」

 

と、そこでドアの影から小柄な影がぴょこんと現れた。

日の光で輝く銀の三つ編みと、朱のさした白い頬。そして何より、その頭に乗った帽子は間違いなく自分が贈ったものだ。

 

「ふふふ、サプラーイズ!! どうですか? どうですか! 二人共きっと会いたくて首を長くしているだろうと思って、ゆかりさんが八方に手を尽くして連れて来たんですよ! ……ねぇ、聞いてます?」

 

ゆかりさんがドヤァ……といった感じで何か言っているが、今自分の全感覚は目の前の彼女に振り分けられていて、その内容はよくわからない。

それよりも。

さて、彼女に何と声をかけよう。

会いたかった。

楽しみにしてたよ。

ずっと待ってた。

 

……言いたいことはたくさんあるけれど、やはり最初に言うべきはこれだろう。

 

 

「お帰り、あかりちゃん」

 

その言葉に満開の笑みを咲かせたあかりちゃんが、僕の胸へ飛び込んできた。

 

「ただいまです、おにいさん!!」

 

 

―了―

 




あとがきとお知らせ











まず初めに、以前の前書きにも書きましたが思っていたより多くの方に見て貰えたのみならず、ブックマークして頂いたり、感想を頂いたりして本当にありがとうございます。二十日間ほどですが、最初から最後までお付き合いくださった方には頭が上がりません。

プロローグ投稿時点で一応すべて書き上げていたので『励みになりました』なんてことは言えませんが、それでも反応があるたびに書いて良かった、と毎回思っておりました。


さて改めて、一先ずこの物語はここで一区切りとさせていただこうと思っております
――が! 

「結局マキさんあれ何者なん?」

とか

「タイトル的にあかりちゃん主役なのはいいとして、タグにゆかりさんとマキさんついてるのに濡れ場は無いんですか⁉」

とか色々あると思います。

……はい、一応この物語の続きを書くための構想と設定は存在しているのです。一応。

という訳で、続きが欲しいというような声が多ければ続きを書く予定です。
因みに書くとなった場合は分量同じくらいの多分ゆかりさんメインで、あかりちゃん+おにいさん続投で3p展開ありもしくは、ゆかりさんオンリーメインかのどちらかになる筈です。

ただ、初めて長編&官能系を書いて技量の不足を感じるシーンも散見されたので、しばらくは文章の摂取と短、中編での練習をしたいのと、健全な長編も少し書いてみたいので、続きを書くとしても期間が大分空いてしまう事になると思います。

それでも良ければ、またこの続きで会えればと思っております。

重ね重ね、最後まで読んでいただきありがとうございました。
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