本当は敵なんかいないインフィニット・ストラトス(プロト版) 作:マスクP
設定の矛盾があっても勘弁な!
「これは……想像以上にきつい…………」
「そうかぁ?」
目の前の席に座り一夏が、冷や汗を垂れ流しながらつぶやく。
俺も無事というわけでもないけど、知り合いがいるからなんとかなるだろ、と軽く構えていた。一夏以外にも頼もしいのがいるし。
「お前がいるのが不幸中の幸いだ……」
「そりゃなによりだけどよ。んな緊張するこたねえんじゃねえか?」
織斑一夏。
教卓の目の前の席で、苦笑を浮かべている。
普段は温和な雰囲気なもんだが、慣れない環境で疲れているようだ。
「なんでそんな余裕なんだ……。少し分けてくれよ」
「おう考えといてやるよ」
「分ける気ないな?」
努めていつも通りのやり取りを心がける。
こいつにとっては変にアドバイスもらうよりありがたいだろうと思ったからだ。
それは正解だったようで、苦笑いを浮かべる余裕はできたようだ。
冷や汗は相変わらずだけど。
しかし、なんだ。「一刻も早く話しかけたい」という無言のプレッシャーを感じる。
そうこうしているうちに数分が経っただろうか。
教室の扉が開き、一人の女性が入室した。
温和な表情を崩さずに教卓に立った彼女は、そのまま自己紹介を始めた。
「皆さん、入学おめでとう! 私は、副担任の山田真耶です!」
――沈黙。
(でけえ。でけえ)
かわいそうだと思ったけど、そんなことしか考えてなかった。
なんだあのデッカイの。凶器だろ。
挨拶が返ってこないことにあたふたした彼女――山田先生は、早速、と自己紹介を始めるのだった。
数分の後、「お」の番。
つまり一夏の番なのだが、自己紹介を始める気配はない。
小学校からの付き合いだったからすぐに気付いた。
こいつ気付いてねえな?
「おい、ワンサマ」
「誰がワンサマだ!? ……ん?」
「おめーの番だバカヤロー」
「あっ」
昔馴染みのニックネームにようやく我を取り戻した一夏は、ようやく小さく笑われていることに気付いた。
居心地が悪そうに頭をポリポリ掻いてから、立ち上がる一夏。
そして、意を決して口を開いた。
「えっと、織斑一夏です」
「……一夏くん? えっと、それで終わり……かな?」
「終わりです!!」
「うっそだろお前!?」
ああ、そうだ。こういうやつだった、こいつは。
肝心なところで空気を読まないのは相変わらずだ。
そして、このタイミングを見計らったかのように、教室の扉が開かれた。
明るい色の洋服に身を包んだ温和な雰囲気の山田先生と違い、黒のスーツを着込んだ凛々しい雰囲気の彼女は、あらゆる意味で正反対。
彼女はツカツカとヒールの音を響かせながら一夏の近くに立ち――持っていた出席簿でポスン、と頭を軽く叩いた。
「自己紹介くらい満足に出来んのか、馬鹿者」
「ぃてっ。って、千冬ね――あだっ」
「織斑先生、だ」
彼女、織斑千冬のことは俺もよく知っている。
家に遊びに行くたびに挨拶したものだ。
デコピンを以て呼び名を訂正した千冬さん――織斑先生は教卓に立つ。
「知っている者が大半だろうが、私が織斑千冬だ。進路が決まっている者、いない者……様々だろうが、差別する気はない。私だけでなく、遠慮しないことだ。ただし、最低限の礼儀は忘れずにな」
『――はいっ!』
(さすがおっぱいのついたイケメンだなあ)
……俺は聞き逃さなかった。
織斑先生の演説の隣で、真耶が「これがカリスマ性……!」とつぶやいたことを。
いやあ、これは仕方ないんじゃないかなあ。
「ふむ、せっかくだ。風森、自己紹介を頼む。ちょうど男子つながりでちょうどいい」
「えっ、でもさっきまで五十音順で進んで」
「自 己 紹 介 だ」
「アッハイ、自分がやります」
千冬さん、じゃない織斑先生。さすがの迫力だ。
では失礼して、と立ち上がり、クラスを見渡す。
見知った顔もあって、少し懐かしくなった。
「えー、俺は風森大我、日本人。候補生じゃないけど専用機持ってるから、みんなにも教えられるんじゃねえかな。あと何言えばいいか分かんねえし、聞きたい人は質問してくれってことで。よろしくー」
「……ふむ。まあ、及第点だな」
「やったぜ」
クラスメイトからはまばらながらも拍手をもらい、織斑先生からも合格のお墨付きをもらった。
席に座りなおして、安堵のため息をつく。
そして、自己紹介は最後まで滞りなく進んだ。
「更識簪。日本の、代表候補性、です」
「篠ノ之箒。名前通り、束博士の妹です」
「ぼ……えっと、私、シャルロット・デュノアです。フランスの代表候補性です」
「セシリア・オルコットと申します。イギリスの代表候補性ですわ」
「凰鈴音よ。中国の代表候補性やってるわ」
「ドイツの代表候補性、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「……代表候補性、っていうの? なんか多くないか?」
「まあ……色々あるんだろ」
「色々って?」
「ああ!」
◇ ◇ ◇
「たーいーがっ♪」
「おっと。シャル、久しぶりだなあ」
「うんっ」
ホームルームが終わり、こちらが話しかけるまでもなくシャルロット、シャルが後ろから抱き着いてきた。かわいい。
「あれ、大我知り合いなのか?」
「ん、まあな」
「まあなじゃないでしょ、もう」
耳元で甘い声を響かせながら、ほっぺたを膨らませるシャル。かわいい。
というか知り合いか。見て気付かないものだろうか……。
でも一夏だからなあ。
「一夏、大我」
首を傾げる一夏とシャルといちゃつく俺にかけられた、凛々しい声。
声変わりして少し低くなっているけど、間違いない。
「あ、箒!」
「おお、モッピーじゃん」
「それはやめろ! 全く、変わらないな大我は」
箒だ。長い髪をポニーテールにまとめているところも、喋り方も、整った歩き方も。
何もかも、俺が知っている当時のままの箒だ。
強いて言えば……大きくなった。
「たいが~? どこ見てたのかな~?」
「いだだだ、やめ、やめて」
女性は自分の胸への視線に敏感というが、他人への視線も敏感なようだ。
両耳を引っ張られてしまったというかマジで痛いんですけど!
「自業自得だ。一夏、少しいいか?」
「おう。大我、あと……シャルロットだっけ? また後でなー」
ようやく解放された両耳を抑えている間に、一夏と箒は教室を出て行った。
俺の記憶が正しければ、一夏と箒は小学校以来の再開のはずだ。積もる話もあるんだろう。いや箒と会ってないのは俺もなんだけど。
……あの頃と変わってないということか、箒の想いは。
これは応援しなくてはならない。
◇ ◇ ◇
「さて。これより再来週行われるクラス対抗戦の代表者を決める。自薦他薦は問わない」
授業の始め、織斑先生はそう切り出した。
LHRってあったから何かと思ったけど、そういうことか。
しかし、クラス対抗戦ねえ……。めんどくさそ。
織斑先生によると、クラスで選ばれた代表者は委員長みたいな仕事をするそうだ。やっぱり面倒じゃないか!
体よく一夏辺りに押し付けられないか……と考えていると。
クラスメイトの一人が挙手し、発言した。
「はーい! 風森くんがいいと思いまーす!」
まあそうなると思ったけど……!
助けを求めてシャルを見ると、「頑張って!」と言わんばかりにこっちを見てガッツポーズを作っていた。かわいいなチクショウ!
しかし覚悟を決める間もなく、話は進んでいった。
「えー、私は織斑君がいいと思うけどなー」
「いやいや、ここは代表候補性のだれかでしょ!」
やいのやいの。
どうも話は俺か、一夏か、代表候補生の誰か、の三択で進んでいるようだ。
いやもっと多いんだけども。
「なあ大我、お前専用機持ってるんだろ?」
「めんどくせえよ……それよかワンサマやっとけ」
「ワンサマやめろって!」
今のところ、自薦は一人も出ていない。このままだと話は平行線のままだ。
これは長くなるぞ……。
だからこそ授業一つ潰してまで話し合うんだろうけど。
ちなみに織斑先生はというと、完全に生徒に任せるつもりなのか、一切口を開いていない。それどうなの担任?
「はい。私が自薦いたしますわ」
平行線のまま進まない話題を切り開いたのは……セシリアだった。
自信満々、といった瞳で立ち上がり、話を続ける。
「今のままだと話は平行線のままですし。それに代表候補生ですから、実力も申し分ないと主張しますわ」
「いやいや、ここはネームバリューを生かそうよ! 男性操縦者が二人とも入ってくれたんだし」
「それなら~、専用機も持ってるんだし、もーりーに任せようよ~」
「えっ待って今のあだ名初耳」
さっきのほほんさんと呼ばれていた布仏さん、鷹月さんの反論がセシリアに続く。
結局平行線じゃないか。
要するに、代表候補生か、男性操縦者か。どっちのネームバリューを優先するか、ということか。
セシリアも理論立てて反論されるのは予想してなかったのか、動揺して次の言葉を発せないでいる。
いよいよ平行線か……と思っていると、満を持して織斑先生が口を開いた。
「では、こうしよう。候補生の中で唯一自薦のオルコット、他薦の多い織斑、そして風森。この三人で対戦をし、その結果で代表者を決める。異論がある者はいるか?」
あるはずがない。それは、クラスメイト全員の意を汲んだと言っても過言ではない決定だ。
「えっ俺も!? 俺は専用機とか持ってないし、除外で」
「諦めろ、織斑。決定事項だ」
「はい……」
……一夏だけは、例外だったようだけど。
「代表者については以上でいいな。では今日の全授業が終わった後だが、各自事前に学園に預けていた荷物があるだろう、それを取りに来い。場所は――」