本当は敵なんかいないインフィニット・ストラトス(プロト版) 作:マスクP
――六時間目終わり、教室にて。
さて、代表者を決めるバトルが迫っているわけだが。
俺は問題ない。専用機もあるし、自分で言うのもなんだが経験も積んでいる。
問題は一夏だ。専用機を持っていないし、最近ISに触ったばかりで知識も経験も不足しているはずだ。
てなわけで。
「一夏、このあと空いてるか?」
「放課後? まあ部活とか入ってないし、空いてるはずだけど」
「特訓するぞ。お前このままだと何もできずにボロ負けだろうしな」
「うぐっ」
自分にあらゆるものが不足しているとは自覚していたんだろう。「そっか、そうだよなぁ」と額に手を当てて呟いた。
仕方ないことではあるんだけどな。
あとは特訓の相手だ。俺だけでもいいんだが……ここは適任がいるだろう。
「そういうことなんだけど、モッピー」
「箒だ。……ふむ、私か」
ここで箒を選んだのはいくつか理由がある。
まず、箒も専用機を持っていないこと。似た条件なら教えやすいはずだ。
それと、箒は今でも剣道をやっているはずだ。一夏は中学時代まともに運動できていなかったし、そっちの面でも助けになるだろう。
あとは……これを機会に距離を縮めてほしい。これが一番だけど、一番可能性薄いんだろうなあ。
「わかった。私でよければ」
「本当か!? よかった、箒が一緒なら助かるよー」
「う……うむ。助かるか、そうか」
うーん微笑ましい。これで一夏ももう少し意識してくれたらいいんだけど。
「セシリアはどうする?」
「いえ。仮にも対戦相手ですし、今回は遠慮しておきますわ。それに、最近ISに触ったばかりの素人に負けるつもりはありませんわよ?」
「俺は?」
「……善戦いたしますわ」
目をそらすな目を。仕方ないけど。
そういや、と思い直す。
折角同じクラスになったのに、未だに碌な会話も出来ていないやつがいる。
代表候補生の中で、一夏が唯一知っているあいつが。
「おーい、リンリン」
「……アンタ本当に変わんないわね」
鈴。俺と一夏の大事な友人。
なのだが、入学してから話しかけてくることはなかった。
一夏への想いが変わってなければ、真っ先に話しかけてもおかしくなかったはずだけど。
「なに話してたんだ?」
「リンリン、候補生だっていうから~。おはなし~」
「そっか、ありがとなのほほんさん」
鈴を中心とした輪には、のほほんさんもいた。
なんだか背の小ささも相まってつい頭を撫でてしまったが、「えへへ~」と目を細めて受け入れてくれた。
かわいい。ペットのような愛らしさがある。
だからなのか、リンリンはのほほんさんにあだ名を注意することはなかった。
俺も何されても許しそうな気がする。
「それで、リンリン。一夏には話しかけないのか?」
「その……なんか、タイミング逃しちゃって。箒と仲良さそーに話してるしー」
要するに自分より仲良さそうに話している女子がいたから、嫉妬と遠慮で話しかけられなかっただけか。
しかしその言い方だと、一夏のことは諦めていないとみた。
「ンだあ、嫉妬かぁ?」
「ち、違うわよ! でもその、あんまりがっついて引かれるのも、その……あれじゃない?」
「ふーーーーーーん」
「うざったい!」
「ぐふぅ」
鈴さん、突きはいけねえよ……俺が悪いけどよ。
◇ ◇ ◇
――放課後、格技室。
「はあっ、はあっ、はあっ」
訓練機を借りて特訓を……と思ったんだが、モッピーからの提案でまずは一夏の基礎体力、身体能力を確認することになった。
モッピーと剣道での試合によって。
……だが。
「一夏、率直に言おう」
「……はい」
「身体の鈍りが予想以上だ。……IS以前の問題だぞ」
「う……」
モッピーの言う通り、かつて剣道をしていたときのような、運動向きの身体にはなっていなかった。
中学の頃はバイト漬けだったらしいし、多少はね?
とはいえ、代表決定戦が控えている今となっては、甘いことは言っていられない。
ISだって万能とはいえ、何も身体鍛えてないやつが扱える代物ではないのだ。
まあ剣道ばかりするつもりもないけど。
「代表戦までは剣道とIS半々だなこりゃあ」
「げっ。どうにかならないか?」
「こればっかりはなあ。ま、運がなかったってこったな」
「わ、私もついているから心配するな」
「サンキューな……」
さて、今日のところはモッピーに全部任せるとして。
俺はどうしようか……。
〈トドケートドケートドケー〉
「ん。悪い、ちょっと出るぜ」
俺のスマホだ。相手は……束さん?
「はいさい大我ですよ」
『はいさーい! たっくん、元気してた?』
「そらもうばっちり」
そういや最近直接顔合わせてなかったな。
最後に会ったのは……入学する前か。
そんなに前でもなかった。
『ゼロくんの様子はどうかな?』
「特別言うことはなにも。変わらずって感じ」
『ISでそれならモーマンタイだね! うんうん』
束さん、元気なのはいいけどたまに出る単語が古いんだよなー。
『なんか失礼なこと考えたでしょ』
「ソナコトナイヨー」
どっかから見てるんじゃないだろうなこの人は。
底が知れない。
しかし、何の要件で電話してきたんだろうか。
近況報告だけで電話するような人でもなかったはずだ。
その疑念すらも伝わったらしく、「本題なんだけど」と話を切り替られる。
『今いっくん、なにしてるかな?』
「モ……箒と剣道してますけど」
『うーんいいねえ、青春だねえ! よかった、こっちで』
「こっち?」
『うん。専用機渡すよってこと、いっくんに電話しなくてよかったってね』
……あまりに予想外な話に、言葉が詰まる。
専用機。いつかは来ると思っていたが、こんなに早く。
一夏がISを初めて起動したのは、入学式のギリギリもギリギリ。たしか、三月くらいのことだったはずだ。
ニュースになったのがそれくらいで、実際のところは分からないが。そう離れてもいないだろう。
それなのに、このタイミングで専用機とは……。
「やけに早いですね」
『はっはっは! この天才束さんにかかればなんてことないのだー!』
「本当は?」
『ひーくんが手伝ってくれました……』
ひーくん。高山光。
束さんと並んでIS界隈における「天才」と呼称される科学者だ。
一夏の専用機だけではない、俺の〈ゼロ〉も彼と束さんの共同制作だ。
まあ一人じゃこんな早く作れないだろうとは思っていたけどね。
『まあそんなわけだから、いちおー報告ねー。正直代表戦に間に合うか分からないから、みんなには内緒にね。サプライズしたいし!』
「そっちが本命でしょうに」
『おりょ、バレちゃったかー。はーっはっはっはっゲホッゲホッ! ……じゃーねー!』
「しまらねえなあ」
最後に「えへへ」と照れ笑いしながら、電話は切れた。
――俺は知っている。
あの人たちが、不確定な要素をわざわざ口にするような人たちではないってことを。
やると言ったらやる人たちだ。
「こいつぁ……面白くなりそうだぜ」
◇ ◇ ◇
一夏との練習を終えて。
更衣室で私は一人、考えていた。
優しく教えるべきだろうか? それとも、かつて所属していた剣道部のように、厳しく教えるべきだろうか?
……一夏の家庭事情は知っている。両親が蒸発してから、篠ノ之家が可能な限り援助してきた。
だから、中学の頃一夏がアルバイト漬けだったことも、責めるつもりはない。
そう、思っていたのだが。
いざ、私より弱くなってしまった一夏を見ると……複雑な気分になる。
一夏には、常に私より上にいてほしい。かっこいい一夏でいてほしい。
分かっている、ただの我がままだ。
それが分かっているから……自己嫌悪に陥る。
「はあ……どうすればいいのだ、一体」
「好きなようにやっちゃえば?」
「っ!?」
意識の外からの声。
私としたことが、誰かが入室したことも気付かなかったようだ……不覚。
彼女――鈴は微笑みながら、ドアに背を預けて立っていた。
「来ちゃった♪ なんてね」
「鈴……」
冗談めかして笑ってはいるが、その眼には優しさが溢れている。
これを母性、というのだろうか。
「あんたも、まだ一夏のこと好きでしょ」
「いっ!?」
だから、面食らった。なんてことを言うのだ、こんな場所で……!
いや、こんな場所だからか。万が一一夏にでも聞かれたら、爆発してしまうかもしれない。
……そんなに分かりやすいだろうか、私は。
「いや、そんな、私は」
「隠さなくていいわよ。私も好きだもん」
「……鈴」
一夏の話を振られてしどろもどろになっている私と違い、鈴は堂々と言い放った。
その姿が……とても、羨ましい、と思った。
私は、言いたいことは素直に言えないから。それが例え、本人が相手じゃなくても。
「もっと素直になりなさい、箒。じゃないとあの朴念仁相手だったら苦労するわよ? …………なんて。お前が言うな、ってね」
「たしかにな」
「ちょっと、そこ否定するとこでしょ!?」
『……くすっ。あははははっ!』
素直になれない者同士が、それを弄りあっている。
それが、なんとなく面白くて……どちらともなく、笑ってしまった。
「あははっ……ふぅ。じゃ、私、戻るわね」
「あぁ。また、明日」
「ん」
ひとしきり笑いあって。鈴はひらひらと手を振ると、更衣室を出て行った。
「…………一夏」
鈴には、感謝しなくては。
おかげで、一夏への想いを確かめることができた。
やっぱり、私は。
一夏が好きだ。
伝えられるのは、いつになるのか分からないが……いつか必ず、伝えよう。
だから、それまでは。
「――待っていてくれ」